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米国の2020年大統領選挙の予備選や本選における全面的な不在者投票や郵送投票の導入の是非問題点を問う(米国大統領選挙の重要課題―その1)


 527日の朝日新聞の記事「トランプ氏『郵便投票は不正につながる』」を読まれた読者の中でおそらくトランプ大統領は何を問題視しているかを理解できた人は朝日新聞の特派員等(サンフランシスコ支局長:尾形聡彦;ワシントン:岡田耕司)も含め、何人いるであろうか、筆者も同様であった。
 しかし、529日、筆者の手元に米国大手保守系Think Tankの1つであるヘリテージ・ファンデーション(HeritageFoundation)(筆者1)からきわめて興味深いレポート「Why the Push for an All-by-Mail ElectionIs Unwise—And Unnecessary」が届いた。

この記事のwriterはヘリテージ・ファンデーションの上級法務研究員・選挙法改革イニシアティブ部部長であるハンス・ヴァン・スパカフスキー(Hans von Spakovsky)である。このレポートはワシントンポストやCNNyoutube(筆者注2) 等でも大きく取り上げられている。

Hans von Spakovsky 氏





実は、この問題は2016年の大統領選挙時にロシアのサイバー攻撃やハッカーに関し、「アメリカ中央情報局(CIA)は、アメリカ大統領選で共和党候補ドナルド・トランプ氏が勝利するように、ロシアがサイバー攻撃を仕掛けたという分析結果をまとめたとワシントンポストが129日に報じた件に始まる。
大統領選期間中に民主党全国委員会(DNC)や民主党候補ヒラリー・クリントン氏の選挙陣営が不利になるような情報がハッキングされ、再三にわたって内部告発サイト「ウィキリークス」を通じてメールが暴露された。情報筋は、この暴露は、アメリカ人の政府に対する信頼を失わせる意図でロシア側が仕掛けたものだと指摘してきた。(以下、略す)(2016.12.10 ハフィントンポスト日本語版から抜粋)などと深くかかわってくる問題である。

また、連邦議会の共和党議員やこれに与するシンクタンクは、2016年カリフォルニア州で成立した2016California Voter's Choice Actは明らかに違法な法であると、513日、連邦議会下院議員(CA-42)のケン・カルバート(Ken Calvert)は、下院「議会運営委員会」ランキングメンバーであるロドニー・デイビス( Rodney Davis)委員が発行した「カリフォルニアでの投票による収穫の政治兵器化」の報告に応じて、声明発表した。

Rodney Davis氏





わが国ではほとんど取り上げられていないが、この問題はまさに現下の重大問題であり、共和党と民主党の対立だけでなく州と連邦政府間等、米国を二分する大問題となっているのである。


 この問題につき、わが国では平易かつ正確な解説が少ない米国大統領選挙について、筆者なりの改めて関係ブログなどをあたってみたが、もっと正確かつ平易な説明といえるのは、シアトル最大の日本語情報サイト“junglecity2020年アメリカ合衆国大統領選挙 仕組みと日程をざっくり解説」であったが、本ブログでは筆者独自に作成した図解をもって引用することとした。さらに、このサイトを詳しく読むと、これまでの選挙制度の見直しの経緯は別としても本来の米国憲法が目指してきた「国民の投票権を含む平等、民主主義」が本当に実現されているか、大いなる疑問がわいてきたが、この疑問について米国大使館サイトで答えてくれる論文に巡り合った。(筆者注3)
 
 一方で、同時にわが国では国民投票法改正論議すなわちインターネット上の広告規制やネット上の自由な発言の規制問題が国会「衆議院憲法審査会」 (筆者注4)の中心問題となっている。

 筆者としては、この問題の重要性からみて複数回に分けて連載し、わが国でもいずれ同様の検討がなされるうえでの投票制度の基本的問題すなわち単に投票率を向上させるだけでなく、ディサビリティのある人や高齢者などが等しく投票に参加できるためにはどのような制度や投票システムが必要かなどの問題について予備研究レポートとして取り上げるものである。

なお、連載の予定テーマとしては、第1回目である今回、2回目は投票システム改革の例として、カリフォルニア州サンタクその動ララ郡選挙管理計画(日本語版)等や郵便投票制度を所管する連邦選挙支援委員会その動向を検証、3回目はスパカフスキー氏が本年412日に公表している「COVID-19 Must Not Push U.S. to Dangerous Online Voting」の内容および米国商務省・国立標準技術研究所(NIST)UOCAVA Voting Systems(海外在住者および軍人の投票)に係るオンライン投票の脅威問題のこれまでの検討経緯、4はあまりにも複雑な米国の選挙制度の改革論議の中身、5回目はやや論点が離れるが、わが国が本年9月から10月にかけ実施する「令和2年国勢調査」の電子調査の在り方問題について論じてみたいと考えている。(筆者注5)

1.「2020年大統領選挙の全面郵送方式の導入はあまりにも危険かつ不当な方法である( Why All-Mail Elections Are Too Risky and Unwarranted)
  極力、原文に即して仮訳する。なお、このレポートも含め、わが国の読者は米国の連邦や州・郡・自治領等の選挙制度やシステムの複雑さに戸惑うことが多かろう。したがって、筆者の責任で必要な範囲で補足注やリンクを行った。

連邦議会および多くの州で、113日の大統領選挙の本選および全州での予備選挙(予備選挙と党員集会の2種類があり、州等により異なる)で全面的な郵送投票選挙を強制するよう求めることは、賢明ではなく、かつ不必要である

不在者または郵送による投票用紙は、選挙管理官等の監督および監視の範囲外で投票されるため、このような1世紀以上に渡るアメリカの選挙の重要な特徴である「秘密投票」(筆者注6)の投票用紙制度を破棄することは賢明ではない。投票用紙は、盗まれたり、改ざんされたり、強制されたりする可能性があり、投票用紙は有権者の脅迫と不適切な圧力につながりうる。

また、郵便システムによって誤って送付されたり、配達されなかったりするという誤りに起因する伴う脆弱性や気まぐれを見落とさないようにすべきである。

最後に付け加えると、有権者の不在者投票を受け取るために結果に利害関係を持つ候補者、キャンペーン・ワーカー、党員、政治コンサルタントによる合法化した州での「意図的投票獲得システム(ballot harvesting”いわゆる“vote harvesting) (筆者7)は、選挙詐欺や有権者の違法な「援助」の可能性を劇的に高める。

今回の2020年大統領選挙は西アフリカのエボラ流行の真ん中にある2014年のリベリアでのように、はるかに厄介な条件下で成功裏に行われたため、“vote harvesting”は不要である。

食料品店、薬局、その他の小売店に行くことができるのと同じ安全プロトコルをすべて使用して、私たちが近隣の投票所で同じことを行えない理由はない。

1998年、フロリダ州で不在者投票詐欺に関連する一連の事件が発生した際、同州の法執行部(Florida Department of Law Enforcement) (筆者注8)は州選挙における永続的な詐欺に関する報告を発表し、不在者投票を「選挙詐欺に従事している人々」の「選択の道具」と呼んだ。

この決定は、1997年のマイアミ・デイド郡での市長選挙が含まれるが、2012年の同郡の大陪審が「広範囲にわたる不在者投票詐欺はなかった」と呼んだために覆された。

これらの事案は古代史的であると思われる場合は、Heritage Foundationの「選挙詐欺データベース」に記載されている最近の事例を参照されたい。このデータベースには、全国の約1,300件の選挙詐欺の事例が含まれている。

また、これには、アラバマ州ゴードン市長が、16票で勝利した選挙で不在者投票詐欺で有罪判決を受け、2019年に解任されたことが含まれる。

さらに、もう1つの最近のケース:ノースカロライナでの2018年の議会選挙レースである。有権者から不在者投票用紙を収集していた政治コンサルタントによる不法な投票獲得、および変更、変更、または場合によっては選挙管理人に配布されなかった投票用紙が原因で、それは覆された。

このように、不在者投票プロセスの脆弱性とそれが選挙を確保するためにもたらす危険をまだ疑っているか?次に、インディアナ州イーストシカゴにある民主党の市長の予備選挙を見てみよう。これは、不在者投票が関与する「蔓延する」および「大量の、広範囲にわたる」詐欺のため、2004年にインディアナ州最高裁判所によって覆されました。

これには、「投票プロセスに関する知識が不足している、または知識が不足している人、弱者、貧しい人、および英語のスキルが限られている人」を含む、初めての有権者を捕食することが含まれる。

これらのケースでは、投票用紙は有権者の代わりに選挙運動員によって記入された。人々は特定の方法で投票するよう圧力をかけられたか、彼らの投票に対して支払われた。実際は、市内に住んでいない、または空き地が住所として登録されている個人も、不在者投票用紙を使用して違法に(しかも簡単に)投票した。

我々の選挙の管理、および非常に貴重な商品である投票用紙を米国郵政公社に引き渡すことについてはどう思うか?何人の読者があなたの住所に誤って配達された誰かにメールを送ったことがあるか?または、あなたの住所にかつて住んでいた人にメールが届いたか?

連邦選挙支援委員会は、州から情報を収集し、不在者または郵送による投票を含むすべての全国選挙の後に議会に報告を提出する。

2016年には、ドナルド・トランプとヒラリー・クリントンを分離する票の数字の差よりも多くの郵送投票(650万)が誤って送信されたか、それに関し不明のままであった(unaccounted)

「不明(unaccounted)」とは、州当局は有権者への配達のために要求された不在者投票用紙を郵政公社に引き渡したが、それについて別の言葉を聞いたことがないことを意味する。
そのため、選挙管理担当者は何が起こったのか、投票用紙が適切に配布されたか、有権者が結局投票しないことを決定したのか、又は投票者が返送したときに封筒が紛失したかどうかを知りえなかった。

ウィスコンシン州では、今年47日の予備選挙の後、郵便処理施設を含め、何千人もの不在者投票用紙が見つかり、配達されなかったかまたは不明のままであった。

一方、この春、投票所で30万人のウィスコンシン州民が投票所で「直接投票」した。

州選挙管理委員会は、推奨されるすべての安全プロトコルについて投票所で働く人々を訓練した。そして、投票所での社会的な距離から使い捨てのペンや投票用紙の使用、投票場所を含むすべての注意深い衛生管理まで、すべてを実装するために投票所が慎重に設定された。

選挙の成功に関する最近発表された医学研究の表題はそれをすべて語っている。「202047日ウィスコンシン州予備選挙において新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染拡大で検出可能な急拡大はなかった」そして3月の議会は、同州がCOVID-19のために選挙を安全に管理するために負担する追加費用に資金を供給するために4億ドル(約432億円)を充当した。

同様に、韓国は本年415日に全国選挙を行い、選挙投票からの感染は報告されておらず、2,900万票が投じられた。

米国では多くの州がすでに経済を再開しており、他の州も間もなくそれに続くであろう。
投票所に行くことができない人は、病気または身体障害者のため、または海外で私たちの国に奉仕しているため、不在者投票用紙が必要ですが、投票する唯一の方法ではない。このCOVID-19の大流行の真っ只中でさえ、私たちは安全かつ確実に選挙を実行できるのである。

2.2020417日 ハンス・ヴァン・スパカフスキー氏「COVID-19 Must NotPush U.S. to Dangerous Online Voting」の概要
 前記第1項で引用したレポートの目的は、インターネット投票に評価について具体的に論じ、また引用している論点の根拠としている範囲がより広い。併せて、引用、仮訳する。なお、ここであえて論じないが、このレポートは引用するレポート等の原典へのリンクがほとんどない。筆者の責任でリンクを張った。

【重要なポイント】
    オンライン投票は実行可能または受け入れ可能なソリューションではなく、検討のテーブルについてはならない。
    現在、安心、安全で、かつ信頼できるインターネット上で投票する方法はない。
我々はこの困難な時期を乗り切るでしょう。そして、我々の選挙がすべての有権者に信頼できる安全な投票用紙を投じる機会を提供することを前進させることが重要である。
COVID-19等エピデミックの時代に選挙を行う最善の方法は何か? 最も簡単で明白な答えは、一見、電子メール、ファックス、ブロックチェーン、スマートフォンアプリを介してインターネット上で投票することであると見えるかもしれない。

これは確かに我々が社会的に距離を置くように我々のインターネット依存の生活に合致しているように見えるが、オンライン投票は現時点で実行可能または受け入れ可能な解決策ではなく、直ちに検討のテーブルの上にあってはならないのである。

すなわち、インターネット上で投票用紙を投じる方法は、現在において、安心、安全、かつ信頼できるものではない。オンライン投票は、ハッキング、ウイルス、トロイの木馬、その他の種類のマルウェアを通じて、操作または変更、記録、スパイ、削除、または不正に行うことができる。さらに大きな危険性は、このような攻撃が成功し、完全に検出されずに行われ、選挙プロセスの完全性を妨げてしまう可能性があるということである。

コンピュータセキュリティの専門家は、オンライン投票は公の選挙に使用するにはあまりにも安全でないと主張している。2011年、国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology)は、「有権者のパーソナルコンピュータ上のマルウェアは、有権者の投票の秘密や完全性を損なう可能性のある深刻な脅威を引き起こす。さらに、米国は安全な電子有権者認証のための公共インフラを欠いている」と警告した。(筆者注9)

同報告書は、プライバシーに対する実質的な課題とオンライン投票の完全性を克服することはできなかったので、安全なオンライン投票を実現不可能にしていると結論づけた。(筆者注10)

その5年後20165月、国土安全保障省の当局者は、大規模なオンライン投票は「有権者の機密性、説明責任、投票の安全に対する期待を脅かすことによって、選挙制度に大きなリスクを導入する」と述べ、この警告を繰り返した。また、「悪意のあるアクターが投票結果を操作する道」も提供するだろう、と彼らは警告した。

さらに2年後、全米アカデミー(科学アカデミー、工学アカデミー、医学アカデミー(National Academies of Science,Engineering, and Medicine)は状況の改善を見つけ出しえなかった。「既知の技術は、インターネット上で送信されたマークされた投票用紙の秘密性、セキュリティ、検証可能性を保証することはできません」と、そのレポートは結論付けた。

オンライン投票の導入支持者は、我々は定期的にオンラインバンキングやショッピングを行うので、我々はオンラインで投票する必要があると主張することがよくある。しかし、オンラインバンキングとショッピングの歴史は、オンライン投票がどれほど危険であるかを証明するだけである。毎年数十億ドルは、これらのシステムを保護するために投資された巨額にもかかわらず、オンライン盗難、サイバー詐欺、悪意のあるハッキングにより失われる。金融機関は、予想されるレベルの詐欺をビジネスのコストに組み込むことができるが、選挙ではできない。一定の割合の詐欺に悩まされた選挙結果を受け入れることはできないといえる。

さらに、不正な銀行手数料が発生した場合、消費者は銀行やクレジットカードの明細書を通じてそれを見つける機会がある。誰かがあなたの口座からお金を取り出したかどうか、またはあなたが注文または受け取ったことがないアイテムに対して請求されたかどうかを知ることができる。

しかし、有権者が秘密投票がインターネット上で送信された後に正しく投じられ、正しく記録されたことを確認するための信頼できるメカニズムはない。逆に、選挙当局は投票が変更されたかどうかを尋ねるために有権者と再び確認することはできない。オンライン投票が特に検出不能なハッキングに対して脆弱であるのはこの理由である。投票が転送中または投票者の自宅のコンピュータ上の検出不能なマルウェアを通じて破損している場合、知る方法はない。

最後に、犯罪者やボットが不正な票を投じないように、インターネット上で有権者を認証する信頼できる方法を提供することは不可能ではないにしても極めて困難である。

我々はこの困難な時期を乗り越え、すべての有権者に信頼できる安全な投票を行う機会を提供するために、我々の選挙が前進することが重要である。投票に関する他の多くのポリシーには同意しないかもしれませんが、オンライン投票は答えではないという点は同意できる。

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(筆者注1)Wikipedia で見ると「アメリカ合衆国ワシントンD.C.に本部を置く保守系シンクタンク。企業の自由、小さな政府、個人の自由、伝統的な米国の価値観、国防の強化などを掲げ、米国政府の政策決定に大きな影響力を持つ。ヘリテージ財団の活動はこれまでのシンクタンクの概念を変化させた。・・・」とある。また、トランプ政権とヘリテージ・ファンデーションとの関係については、日本国際問題研究所(JIIA) 研究員である宮田 智之「第6 トランプ時代の保守系シンクタンク」は、わが国のメディアではほとんど論じられていない独自の調査結果に基づき書かれており、ぜひ読まれたい。

(筆者注2) 最近youtubeでもスパカフスキー氏が頻繁に出てくる。筆者が見た例でも528日にアップされた以下のyoutubeを見た。特筆すべき点はこの動画に対する市民の反応であり、この3日間で閲覧数が428, いいねボタンが36である。今回の大統領選挙の動向や世論への影響は極めて大きかろう。


(筆者注3) 米国大使館サイトで国務省出版物の日本語仮訳版が公開されている。米国の選挙制度の問題点を的確に論じている。その最後の部分を以下で引用する。
「財産要件も人頭税も廃止されたし、有色人種、女性、18歳以上の市民に参政権が付与されて、投票権を求める戦いで、やっと勝利を収めた、と考える人がいるかもしれない。しかし、しばしば指摘したように、民主主義とは常に進化するプロセスであり、民主主義国家における個人の権利の定義も時間の経過とともに変わる。1820年代と21世紀の初めでは、米国市民の投票の仕方にも大きな違いがある。しかもこれは、民主主義の味方の英雄が選挙権の拡大を求め、反民主主義的な悪魔がそれを狭めようという、そんな単純な話ではない。

米国の歴史を通じて、いわゆる賢者たちは、衆愚政治を恐れてきた。これは、建国世代の人々の著作に広く見られるテーマである。今日でも、それが形を変えたものを、選挙プロセスの「浄化」を求める人々の間に見受けることができる。例えば、選挙登録を簡素化することは、制度の中に腐敗を招きかねないとして、しばしば非難される。読み書き能力の基準を緩和し、英語を話すことも、読むこともできない市民にも投票権を拡大することは、一部の人々には民主主義の勝利として歓迎されている。しかし、いろいろな論争に関する知識がほとんどない人々は扇動に乗せられやすいと心配して、これを非難する人もいる。

しかも、依然として奇妙な現実が存在する。選挙権の拡大にあれほど努力したにもかかわらず、米国の大統領選をはじめ各種選挙での投票率は、先進諸国の中でも最低の水準にとどまっている。例えば、2000年大統領選で投票したのは、有権者の50%に満たなかった。投票率が常に85%以上を維持していた19世紀後半から、ここまで数字が落ち込んだ理由については、学者によって意見がまちまちである。一部の歴史学者は、国民の日常生活の中で、政党の重要性が低くなったことを、投票率低下の理由に挙げる。あるいは資金が豊富な利益団体の肥大化がもたらした、テレビや新聞の広告を中心とする選挙戦に、人々が関心を失った結果とみる学者もいる。投票に行かなかった人々にその理由を尋ねると、さまざまな回答が返ってくる。自分が1票を投じたからと大勢に影響がないと思う人もいれば、自分に影響する争点はなかったと考えた人もいた。そして単に、関心がないという人もいた。これは、普通選挙を求める国内の長い歴史的な運動のことを考えると、嘆かわしい言葉ではある。

技術上、手続き上の問題も残っている。2000年大統領選では、フロリダ州の選挙管理人が、5万枚もの投票済みの票を廃棄してしまった。その主たる原因は、投票用紙の穴の開け方がまずかった有権者が大勢いて、誰に投票したのかはっきりしなくなったことにあった。この時、大統領選全体の行方は、フロリダ州の数百票にかかっていた。選挙人団という古めかしい制度を使っていたためである。民主党も共和党も、手続きの有効性に異議を申し立てるため、すぐに裁判所に提訴した。連邦最高裁は、最終的に、フロリダ州の票を、ひいては選挙の勝利を、ジョージ・W・ブッシュ側に与えたのである。

この2000年大統領選で選挙人団は、一般投票の得票数で過半数を取れなかった大統領を誕生させた。これは初めてのケースではなかった。米国民は選挙人団の仕組みを熟知している。この制度は、米国の民主主義の中で、必ずしも、最も効率がいいとか合理的だとは言えぬ側面の1つであり、直接、大統領選出を任せられるほど、国民が信用されていなかった時代の遺物である。しかし、選挙人団制度は、連邦制度の中で小さな州の地位を確保するという意味で、今日でも貴重であり、実際問題としては、これが改められる可能性はほとんどない。

2000年大統領選での投票集計の問題は、いくつかの非常に重要な問題をあいまいにした。民主党も共和党も、票の公正な集計を望んでいた。両党はともに、合法的に投票され、投票用紙に(きちんと穴が開いていなくても)パンチした跡がついた票は、すべて集計することを求めたが、それを決めるための技術的な判断基準について意見が違っていた。メディアの中には、フロリダ州は問題の処理にあたり、少数派グループの有権者を差別している、と大きく報道したところもあった。だが、最終的に無効とされた票の大多数は、中流階級の年配の白人有権者が投じた、というのが事実だった。しかも、そのほとんどの人は、投票用紙のパンチの仕方が、よく分からなかったのである。当時も今も、これが数万に及ぶ票を無効にするための策略だった、などと言い出す人は1人もいない。また、実際に集計が始まる時まで、この投・開票システムが完璧でないことに気がついた者は、誰もいなかった。そしてフロリダ州は、このような大失敗が二度と起きないようにするため、州議会の次の会期に選挙システムの改革を行った。

このような選挙、つまり、一般投票で最多の票を得た候補者が敗北するというような選挙は、米国ではまれである。そして、米国民がジョージ・W・ブッシュを勝利者として問題なく受け入れたことは、国民が米国の選挙制度の正常な機能に信頼を寄せていることの証しの1つである。この間、街頭で暴動が起きることもなかったし、バリケードが張られることもなかった。民主党のアル・ゴア大統領候補は、票の集計方法に関する連邦最高裁の決定を受け入れた。

しかし多くの国民は、2000年選の接戦ぶりによって、各人の1票が重要であることを再認識させられた。5つか6つの州で、得票率がわずか数%変動するだけで、選挙結果が逆になる可能性もあるのだ。こうしたことから、将来の米国国民は、「被統治者の同意」という概念のまさに根幹にあるこの重要な権利を、以前ほど、当たり前とは思わなくなるだろう。

(筆者注4) 国民投票法改正案20187月に議論されたままであった。その目的は、2016年に改正された公職選挙法の内容を、憲法改正の手続きに関する国民投票にも適用するというもの。
具体的には、
・駅や商業施設などへの共通投票所の設置
・期日前投票の理由に「天災又は悪天候により投票所に到達することが困難であること」を追加
・投票所に同伴できる子供の範囲を「幼児」から「児童、生徒その他の18歳未満の者」に拡大
などの7項目である。

(筆者注5) 筆者の国政調査員は今回で3 回目である。特筆すべきは前回2017年から導入されたオンライン調査の結果である。市町村のオンライン調査におけるインターネット回答世帯数及び回答率を見てもわかるとおり、40%近い回答率である。一方、筆者のこれまでの経験で見るとおり、調査員は担当エリアの1軒1軒を訪問しながら、昼間はほとんど不在の家に投函、オンライン回答への協力要請を残暑の中で行うのである。気が遠くなる作業で書面の回収郵送による回収率は極めて低いのである、
 これに関し、筆者は英国の統計局(ONS)の国勢調査の効率化等状況を見てきた。英国では現在調査票による伝統的な調査が行われているが、次回2021年に実施する国勢調査において、行政記録情報のさらなる活用促進を行うことを掲げている。特に英国では、個人や企業の情報を紐づける統一のIDが存在しない。このため、英国における国勢調査への行政記録情報活用に向けた新たな試みや課題は、現時点では複数の行政記録情報を個人や企業のIDをキーとしてリンクすることが難しいわが国でも役立つものと考えられる。(2017.4 .18 NTT DATA 経営研究所「国勢調査をとりまく新たな動き~英国における行政記録情報の活用に向けた検討~」を読んだ。そこでは、英国における「行政記録情報を活用した国勢調査」に関する詳しい解説が行われている)。

 (筆者注6) 米国の「秘密投票(secret ballot)」の意義は憲法に保障された投票権の行使内容の秘密性保護である。なお、“secret ballot”につき、別の定義がある。オーストラリア式投票としても知られている。候補者名の印刷されている投票用紙に、印をつけて投票する方式である。オーストラリアでは、世界に先立って、この投票方法を導入した。ヴィクトリア、南オーストラリアが、1856年に両院の選挙で初めてこの方法を採用した。その後、1858年にタスマニアが両院で、ニューサウスウエールズでは下院で、さらに1859年にはクィーンズランドの下院で、1877年には西オーストラリア立法評議会で次々に導入された。連邦の議員選挙では、初めから全ての選挙でこの秘密投票方式が行われている。

(筆者注7) Ballot Harvesting または“Vote harvesting”の訳語は、我が国ではまだ定訳語はない。:アメリカ合衆国連邦下院管理委員会ランキングメンバー:ロドニー・デイビス氏のレポート「カリフォルニア州での投票の政治的兵器化」の冒頭で以下の通り定義している。
「投票ハーベスト」とは、文書化された一連の厳密な保管なしにまたは適切な州の監視なしで、個人が無制限の数の郵便または不在者投票を収集、返却することを許可する選挙慣行である」
したがって、本ブログでは「意図的投票獲得システム」という訳語を暫定的に用いた。

(筆者注8) フロリダ州の法執行機関(Florida Department of Law EnforcementFDLE)とはいかなる機関であろうか。直接FDLEにアクセスを試みたが不可であった。Wikipedia仮訳する。

フロリダ州法執行機関(FDLE)は、フロリダ州内にある州全体の捜査法執行機関である。FDLEは、8つの理事会、評議会、委員会を正式に調整する。 FDLEの義務、責任および手続きは、フロリダ州法令集943章、およびフロリダ行政法典第11章により義務付けられている。 FDLEは、総督、検事総長、最高財務責任者、農業局長で構成されるフロリダ州内閣に報告する委員会(執行理事)が率いる。 同委員会は州知事と内閣によって彼の地位に任命され、フロリダ議会上院によって承認される。
FDLEの本部は州都タラハシーにあり、全州には約2,000人の従業員がいる。 FDLEは、7つの地域オペレーションセンター、12の現地事務所、7つの犯罪研究所を維持している。

(筆者注9) NIST報告(71)の結論部分を引用、仮訳する。
この論文は、リモート電子投票システムの望ましいセキュリティ特性、個人所有のデバイスからのインターネット上の投票の脅威、およびそれらの脅威の一部を軽減することができる可能性のある現在および新しい技術を特定した。現在のコンピュータセキュリティと投票技術の機能に基づいて、次の3つの問題は、リモート電子投票システムが直面する重大な課題のままである。
第一に、個人所有のデバイスからの遠隔電子不在者投票は、有権者や有権者のパーソナルコンピュータに対する様々な潜在的な攻撃に直面している。有権者のパーソナルコンピュータは選挙当局の管理下にないので、投票の秘密や完全性を侵害したり、有権者の認証資格情報を盗んだりする可能性のあるソフトウェア攻撃から保護することは非常に困難である。これらは、今日のインターネット上ですでに一般的な深刻な脅威である。第二に、リモート電子投票者認証は困難な問題である。現在のテクノロジーでは、高度にセキュリティ保護された投票者認証方法のソリューションが提供されているが、展開が困難またはコストがかかる可能性がある。個人所有のコンピュータは、共通アクセス・ カードまたは個人 ID 検証カードを使用した暗号化認証に必要なスマート・ カード・ リーダーを使用するなど、これらの方法とのインターフェイスを使用できない場合がある。第三に、遠隔電子不在者投票システムが投票所システムに同等のレベルの監査性を提供できることは明らかではない。リモート電子投票システムサーバーやパーソナルコンピュータ上でソフトウェアを検証および検証することは困難であるため、リモート電子投票システムの監査可能な状態を確保することは、現在または提案された技術が実行可能な解決策を提供していないため、依然として困難な問題である。
この報告書で特定された現在および新興の技術の多くは、積極的な研究開発を行っている分野である。パイロット プロジェクトでは、ヘリオス投票システム(筆者注9) などの投票固有の暗号プロトコルを使用する場合も含め、奨励されるべきである。これらの分野の新たな動向と発展は、引き続き研究され、監視されるべきである。

(筆者注10) “NISTActivities on UOCAVA Voting”は、2008年からこれまでの研究経緯を解説している。興味のある読者は原本にあたられたい。

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(筆者注3) 米国大使館サイトで国務省出版物の日本語仮訳版が公開5/31されている。米国の選挙制度の問題点を的確に論じている。その最後の部分を以下で引用する。
「財産要件も人頭税も廃止されたし、有色人種、女性、18歳以上の市民に参政権が付与されて、投票権を求める戦いで、やっと勝利を収めた、と考える人がいるかもしれない。しかし、しばしば指摘したように、民主主義とは常に進化するプロセスであり、民主主義国家における個人の権利の定義も時間の経過とともに変わる。1820年代と21世紀の初めでは、米国市民の投票の仕方にも大きな違いがある。しかもこれは、民主主義の味方の英雄が選挙権の拡大を求め、反民主主義的な悪魔がそれを狭めようという、そんな単純な話ではない。

米国の歴史を通じて、いわゆる賢者たちは、衆愚政治を恐れてきた。これは、建国世代の人々の著作に広く見られるテーマである。今日でも、それが形を変えたものを、選挙プロセスの「浄化」を求める人々の間に見受けることができる。例えば、選挙登録を簡素化することは、制度の中に腐敗を招きかねないとして、しばしば非難される。読み書き能力の基準を緩和し、英語を話すことも、読むこともできない市民にも投票権を拡大することは、一部の人々には民主主義の勝利として歓迎されている。しかし、いろいろな論争に関する知識がほとんどない人々は扇動に乗せられやすいと心配して、これを非難する人もいる。

しかも、依然として奇妙な現実が存在する。選挙権の拡大にあれほど努力したにもかかわらず、米国の大統領選をはじめ各種選挙での投票率は、先進諸国の中でも最低の水準にとどまっている。例えば、2000年大統領選で投票したのは、有権者の50%に満たなかった。投票率が常に85%以上を維持していた19世紀後半から、ここまで数字が落ち込んだ理由については、学者によって意見がまちまちである。一部の歴史学者は、国民の日常生活の中で、政党の重要性が低くなったことを、投票率低下の理由に挙げる。あるいは資金が豊富な利益団体の肥大化がもたらした、テレビや新聞の広告を中心とする選挙戦に、人々が関心を失った結果とみる学者もいる。投票に行かなかった人々にその理由を尋ねると、さまざまな回答が返ってくる。自分が1票を投じたからと大勢に影響がないと思う人もいれば、自分に影響する争点はなかったと考えた人もいた。そして単に、関心がないという人もいた。これは、普通選挙を求める国内の長い歴史的な運動のことを考えると、嘆かわしい言葉ではある。

技術上、手続き上の問題も残っている。2000年大統領選では、フロリダ州の選挙管理人が、5万枚もの投票済みの票を廃棄してしまった。その主たる原因は、投票用紙の穴の開け方がまずかった有権者が大勢いて、誰に投票したのかはっきりしなくなったことにあった。この時、大統領選全体の行方は、フロリダ州の数百票にかかっていた。選挙人団という古めかしい制度を使っていたためである。民主党も共和党も、手続きの有効性に異議を申し立てるため、すぐに裁判所に提訴した。連邦最高裁は、最終的に、フロリダ州の票を、ひいては選挙の勝利を、ジョージ・W・ブッシュ側に与えたのである。

この2000年大統領選で選挙人団は、一般投票の得票数で過半数を取れなかった大統領を誕生させた。これは初めてのケースではなかった。米国民は選挙人団の仕組みを熟知している。この制度は、米国の民主主義の中で、必ずしも、最も効率がいいとか合理的だとは言えぬ側面の1つであり、直接、大統領選出を任せられるほど、国民が信用されていなかった時代の遺物である。しかし、選挙人団制度は、連邦制度の中で小さな州の地位を確保するという意味で、今日でも貴重であり、実際問題としては、これが改められる可能性はほとんどない。

2000年大統領選での投票集計の問題は、いくつかの非常に重要な問題をあいまいにした。民主党も共和党も、票の公正な集計を望んでいた。両党はともに、合法的に投票され、投票用紙に(きちんと穴が開いていなくても)パンチした跡がついた票は、すべて集計することを求めたが、それを決めるための技術的な判断基準について意見が違っていた。メディアの中には、フロリダ州は問題の処理にあたり、少数派グループの有権者を差別している、と大きく報道したところもあった。だが、最終的に無効とされた票の大多数は、中流階級の年配の白人有権者が投じた、というのが事実だった。しかも、そのほとんどの人は、投票用紙のパンチの仕方が、よく分からなかったのである。当時も今も、これが数万に及ぶ票を無効にするための策略だった、などと言い出す人は1人もいない。また、実際に集計が始まる時まで、この投・開票システムが完璧でないことに気がついた者は、誰もいなかった。そしてフロリダ州は、このような大失敗が二度と起きないようにするため、州議会の次の会期に選挙システムの改革を行った。

このような選挙、つまり、一般投票で最多の票を得た候補者が敗北するというような選挙は、米国ではまれである。そして、米国民がジョージ・W・ブッシュを勝利者として問題なく受け入れたことは、国民が米国の選挙制度の正常な機能に信頼を寄せていることの証しの1つである。この間、街頭で暴動が起きることもなかったし、バリケードが張られることもなかった。民主党のアル・ゴア大統領候補は、票の集計方法に関する連邦最高裁の決定を受け入れた。

しかし多くの国民は、2000年選の接戦ぶりによって、各人の1票が重要であることを再認識させられた。5つか6つの州で、得票率がわずか数%変動するだけで、選挙結果が逆になる可能性もあるのだ。こうしたことから、将来の米国国民は、「被統治者の同意」という概念のまさに根幹にあるこの重要な権利を、以前ほど、当たり前とは思わなくなるだろう。

(筆者注4) 国民投票法改正案5/30(31)20187月に議論されたままであった。その目的は、2016年に改正された公職選挙法の内容を、憲法改正の手続きに関する国民投票にも適用するというもの。
具体的には、
・駅や商業施設などへの共通投票所の設置
・期日前投票の理由に「天災又は悪天候により投票所に到達することが困難であること」を追加
・投票所に同伴できる子供の範囲を「幼児」から「児童、生徒その他の18歳未満の者」に拡大
などの7項目である。

(筆者注5) 筆者の国政調査員は今回で3 回目である。特筆すべきは前回2017年から導入されたオンライン調査の結果5/30である。市町村のオンライン調査におけるインターネット回答世帯数及び回答率を見てもわかるとおり、40%近い回答率である。一方、筆者のこれまでの経験で見るとおり、調査員は担当エリアの1軒1軒を訪問しながら、昼間はほとんど不在の家に投函、オンライン回答への協力要請を残暑の中で行うのである。気が遠くなる作業で書面の回収郵送による回収率は極めて低いのである、
 これに関し、筆者は英国の統計局(ONS)の国勢調査の効率化等状況を見てきた。英国では現在調査票による伝統的な調査が行われているが、次回2021年に実施する国勢調査において、行政記録情報のさらなる活用促進を行うことを掲げている。特に英国では、個人や企業の情報を紐づける統一のIDが存在しない。このため、英国における国勢調査への行政記録情報活用に向けた新たな試みや課題は、現時点では複数の行政記録情報を個人や企業のIDをキーとしてリンクすることが難しいわが国でも役立つものと考えられる。(2017.4 .18 NTT DATA 経営研究所「国勢調査をとりまく新たな動き~英国における行政記録情報の活用に向けた検討~」5/31を読んだ。そこでは、英国における「行政記録情報を活用した国勢調査」に関する詳しい解説が行われている)。

 (筆者注6) 米国の「秘密投票(secret ballot)」の意義は憲法に保障された投票権の行使内容の秘密性保護である。なお、“secret ballot”につき、別の定義がある。オーストラリア式投票としても知られている。候補者名の印刷されている投票用紙に、印をつけて投票する方式である。オーストラリアでは、世界に先立って、この投票方法を導入した。ヴィクトリア、南オーストラリアが、1856年に両院の選挙で初めてこの方法を採用した。その後、1858年にタスマニアが両院で、ニューサウスウエールズでは下院で、さらに1859年にはクィーンズランドの下院で、1877年には西オーストラリア立法評議会で次々に導入された。連邦の議員選挙では、初めから全ての選挙でこの秘密投票方式が行われている。

(筆者注7) Ballot Harvesting または“Vote harvesting”の訳語は、我が国ではまだ定訳語はない。:アメリカ合衆国連邦下院管理委員会ランキングメンバー:ロドニー・デイビス氏のレポート「カリフォルニア州での投票の政治的兵器化」5/30(29)の冒頭で以下の通り定義している。
「投票ハーベスト」とは、文書化された一連の厳密な保管なしにまたは適切な州の監視なしで、個人が無制限の数の郵便または不在者投票を収集、返却することを許可する選挙慣行である」
したがって、本ブログでは「意図的投票獲得システム」という訳語を暫定的に用いた。

(筆者注8) フロリダ州の法執行機関(Florida Department of Law EnforcementFDLE)とはいかなる機関であろうか。直接FDLEにアクセスを試みたが不可であった。Wikipedia仮訳する。

フロリダ州法執行機関(FDLE)は、フロリダ州内にある州全体の捜査法執行機関である。FDLEは、8つの理事会、評議会、委員会を正式に調整する。 FDLEの義務、責任および手続きは、フロリダ州法令集5/30(49)943章、およびフロリダ行政法典第11章により義務付けられている。 FDLEは、総督、検事総長、最高財務責任者、農業局長で構成されるフロリダ州内閣に報告する委員会(執行理事)が率いる。 同委員会は州知事と内閣によって彼の地位に任命され、フロリダ議会上院によって承認される。
FDLEの本部は州都タラハシーにあり、全州には約2,000人の従業員がいる。 FDLEは、7つの地域オペレーションセンター、12の現地事務所、7つの犯罪研究所を維持している。

(筆者注9) NIST報告(71)5/30(43)の結論部分を引用、仮訳する。
この論文は、リモート電子投票システムの望ましいセキュリティ特性、個人所有のデバイスからのインターネット上の投票の脅威、およびそれらの脅威の一部を軽減することができる可能性のある現在および新しい技術を特定した。現在のコンピュータセキュリティと投票技術の機能に基づいて、次の3つの問題は、リモート電子投票システムが直面する重大な課題のままである。
第一に、個人所有のデバイスからの遠隔電子不在者投票は、有権者や有権者のパーソナルコンピュータに対する様々な潜在的な攻撃に直面している。有権者のパーソナルコンピュータは選挙当局の管理下にないので、投票の秘密や完全性を侵害したり、有権者の認証資格情報を盗んだりする可能性のあるソフトウェア攻撃から保護することは非常に困難である。これらは、今日のインターネット上ですでに一般的な深刻な脅威である。第二に、リモート電子投票者認証は困難な問題である。現在のテクノロジーでは、高度にセキュリティ保護された投票者認証方法のソリューションが提供されているが、展開が困難またはコストがかかる可能性がある。個人所有のコンピュータは、共通アクセス・ カードまたは個人 ID 検証カードを使用した暗号化認証に必要なスマート・ カード・ リーダーを使用するなど、これらの方法とのインターフェイスを使用できない場合がある。第三に、遠隔電子不在者投票システムが投票所システムに同等のレベルの監査性を提供できることは明らかではない。リモート電子投票システムサーバーやパーソナルコンピュータ上でソフトウェアを検証および検証することは困難であるため、リモート電子投票システムの監査可能な状態を確保することは、現在または提案された技術が実行可能な解決策を提供していないため、依然として困難な問題である。
この報告書で特定された現在および新興の技術の多くは、積極的な研究開発を行っている分野である。パイロット プロジェクトでは、ヘリオス投票システム(筆者注9) などの投票固有の暗号プロトコルを使用する場合も含め、奨励されるべきである。これらの分野の新たな動向と発展は、引き続き研究され、監視されるべきである。

(筆者注10) NIST Activities on UOCAVA Voting5/30は、2008年からこれまでの研究経緯を解説している。興味のある読者は原本にあたられたい。

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