2005年5月に英国議会に上程され、英国やEU加盟国内の人権保護団体やロンドン大学等において議論を呼んでいた標記法案(筆者注1)が上院(貴族院)、下院(庶民院) で3月29日に承認され、国王の裁可(Royal Assent)により成立した。
2010年1月以前は国民IDカードの購入は義務化されないものの、英国のパスポートの申込者は自動的に指紋や虹彩など生体認証情報(筆者注2)を含む国民ID登録が義務化されるという玉虫色の内容で、かつ法律としての明確性を欠く面やロンドン大学等が指摘した開発・運用コストが不明確等という点もあり、今後も多くの論評が寄せられると思われるが、速報的に紹介する。(筆者注3)
1.IDカード購入の「オプト・アウト権」
上院・下院での修正意見に基づき盛り込まれたものである。上院では5回の修正が行われ、その1つの妥協点がこのオプショナルなカード購入義務である。すなわち、法案第11編にあるとおりIDカードとパスポートの情報の連携を通じた「国民報管理方式」はすでに定められているのであるが、修正案では17歳以上の国民において2010年1月(英国の総選挙で労働党政権の存続確定時)まではパスポートの申込み時のIDカードの同時購入は任意となった。
2.2010年1月以降のカード購入の義務化
約93ポンド(筆者注4)でIDカードの購入が義務化される。また、2008年からは、オプト・アウト権の行使の有無にかかわりなく、パスポートのIC Chip(筆者注5)に格納され生体認証情報は政府の登録情報データベース(筆者注6)にも登録されることになる。
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(筆者注1)最終法案の内容は、次のURLを参照。
http://www.publications.parliament.uk/pa/ld200506/ldbills/071/2006071.pdf
(筆者注2)生体認証の指紋や虹彩については、法案のスケジュール(scheduleとは,英連邦の国の法律ではごく一般的なもので、法律の一部をなす。法本文の規定を受け,それをさらに細かく規定したものである。付属規定と訳されている例がある。わが国の法案で言う「別表」的なもの)に具体的に明記されている。
(筆者注3)国民IDカード法案やその他の国のIDカード制度についてTimelineやQ&A方式でBBCが詳しく解説している。
Timeline:https://www.bbc.com/news/10164331
Q&A:http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/politics/8708054.stm
(筆者注4)93ポンドはあくまで議会で担当大臣(内務省)が答弁したもので、パスポートとIDカードを同時に購入したときの費用であり、個別購入費用については、なお流動的である。
(筆者注5)英国は、すでにわが国や欧米主要国と同様に「ePassports」の発行を始めている。現時点での生体認証方式は「顔認証( facial recognition)」であるが、各国とも国民IDカードとの整合性を取りつつ指紋や虹彩認証の導入のタイミングを計っているのが現実である。
(筆者注6)IDカードとePassportsにおけるデータベースの管理業務(the national identity register(NIR))は、新たな機関である「The Identity and Passport Service(IPS)」が2006年4月1日からを行う。
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