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欧州委員会は中国のTikTok(抖音(どういん))はセキュリティ・リスク問題ありとして委員会スタッフに本年3月15日中に一時的にアプリのアンインストールの指示命令

 筆者の手元にチェコ個人情報保護庁(uoou.cz)から標記のニュースが届いた。

さらに調べてみるとPolitico.euやEuronews等もこの問題を取り上げている。

 要約すると、欧州委員会の従業員は、2023年3月15日までに、すべてのビジネス施設だけでなく、ビジネス・ニーズにも使用されている民間施設からも中国のTikTokアプリをアンインストールする必要がある。これは Politico.eu(注1) のサーバーによって報告された。そうしないと、翌日(2023年3月16日)の時点で欧州委員会の内部システムと情報にアクセスできなくなる。

 この問題は単なる従業員のデバイス問題にとどまらない。欧州議会の議員、理事等の活動にかかわる問題であり、さらにEUにおけるTikTok以外のプラットフォームの規制のあり方も含めた明確な施策方針、セキュリティ・リスクの具体的証明が求められる問題であることは間違いない。

 また、わが国のこの問題の取組みはどうなっているのか。わが国のユーザー数は2021年時点で1,690万人となっていると言われる中で、規制強化ははたして可能か。米国に単に追随するのか、アイルランドDPC(注2)のように独自に具体的調査を行っているのか、まだまだ混乱が続くと思われる。

 今回のブログは、現時点の最新情報を提供する。

1.Euronews「欧州委員会は、中国政府のサイバーセキュリティの懸念にもとづきTikTokの使用を委員会スタッフに315日までに一時的禁止措置命令」

 同記事を抄訳する。

 欧州委員会は、サイバーセキュリティの懸念を引用して、3月16日以降、同委員会の何千人もの従業員が中国が所有するソーシャルメディアアプリTikTokを仕事関連のデバイスで使用することを一時的に禁止した。

 この動きは、中国のテクノロジー企業が北京政府がEU本部があるブリュッセルを含む世界中の機密データの山を集めるのを助けており、その諜報機関が政治的目標に焦点を合わせているという懸念が高まっている中で起きた。

 北京を拠点とするByteDanceが所有し、パンデミック中に人気を博したビデオ共有アプリである“TikTok”特に厳しい監視の下で 大西洋の両側の立法者から、そのユーザーからのデータが中国共産党によって直接アクセスされるかもしれないと真剣に疑う。

 このTikTokプラットフォームは、国際子会社を含むすべての中国企業に国の諜報活動への「支援、支援、協力」を強制する中国の「2017年国家情報法(中华人民共和国国家情报法)」(注3)にもかかわらず、これらの主張を繰り返し否定し、その独立性を擁護した。

 EU加盟国のアイルランドのデータ保護委員会(DPC))は、2021年9月以降、TikTokの中国へのデータ転送とブロックのプライバシー法の遵守を調査を開始している。(注4)

 共産党やアイルランドの調査に言及することなく、欧州委員会は2月23日に、そのスタッフが使用する「企業のデバイス」と、そのモバイルサービスに接続できる「個人のデバイス」でのTikTokの使用を一時停止すると発表した。

 32,000人を超える正社員および契約社員が欧州委員会で働いていると推定される。

 "欧州連合の執行部は、プレス・ステートメントで「この措置は、サイバーセキュリティの脅威やサイバー攻撃に利用される可能性のある行動から委員会を保護することを目的としている。その他のソーシャルメディアプラットフォームのセキュリティ開発も、常に見直される」と述べた。

2.Politico.eu記事の要約

 Politico.eu記事によると、欧州委員会の高官がリスク情報を確認し、2月23日朝にすべての従業員がTikTokアプリを公式デバイスから削除するように命じられたと付け加えた。さらに、従業員が業務用アプリも使用している場合は、個人用の電話から仕事用アプリを削除できるというものである。

 欧州委員会の従業員への命令文書には、「欧州委員会のデータを保護し、サイバーセキュリティを強化するために、欧州委員会の理事会は、委員会のモバイル・デバイス」サービスに登録されている企業デバイスおよび個人デバイスでのTikTokアプリケーションを一時停止することを決定した」と記載されている。

 当局は、ビデオ共有アプリを「できるだけ早い機会に」アンインストールする必要があるが、遅くとも3月15日までにアンインストールする必要があり,

 3月16日以降、アプリがインストールされているデバイスは欧州委員会の企業環境と互換性がないと見なされる」と命令文は述べている。

 同委員会は、従業員のアプリの使用を停止したのはこれが初めてであると述べた。委員会の主席スポークスマン、エリック・ママー(Eric Mamer)氏と

Eric Mamer 氏

ソーニャ・ゴスポディノワ(Sonya Gospodinova)氏は、

Sonya Gospodinova 氏

 それは「慎重な」分析の結果であると述べた。しかし、彼らは、アプリケーションがEUの幹部に重大なサイバーおよびデータのリスクをもたらすという結論につながった情報の開示を拒否した。また彼らは、制限は一時的なものであり、「絶え間ない見直しと再評価の可能性」の下にあると述べた。

 欧州委員会には「自分のデバイスを持ち込む」という方針があり、ECの高官はセキュリティの観点から「ひどい措置」と表現している。欧州連合理事会や欧州議会を含む欧州連合の他の機関は、おそらく最終的には中国の申請を禁止するだろうが、特に議会はそのような政策を適用できるようになるまでにはるかに長い時間がかかるかもしれない。

 TikTokは Politico.eu への声明で、「この委員会決定は「誤解を招く」と述べた。誤解を招き、根本的な誤解に基づいていると信じているこの決定に失望している。我々は委員会に連絡を取り、記録を正し、毎月TikTokにアクセスするEU全体の1億2,500万人のデータをどのように保護するかを説明した」とTikTokの広報担当者は述べた。

 一見「無実の」TikTokアプリは、潜在的な中国のスパイ活動を恐れて、2022年12月にすべての連邦政府施設に対して米国によって禁止された。また、いくつかの州も先週、独自の制限を課した。

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(注1) ポリティコ(Politico)は、政治に特化したアメリカ合衆国のニュースメディアである。主にワシントンD.C.の議会やホワイトハウス、ロビー活動や報道機関の動向を取材し、テレビやインターネット、フリーペーパー、ラジオ、ポッドキャストなどの自社媒体を通じてコンテンツを配信している 。(Wikipedia から抜粋)

(注2)解説記事参照。

DPCサイトの解説を以下、抄訳する。

データ保護委員会 (DPC) は2021年9月14日、TikTok Technology Limited (TikTok) の GDPR 要件への準拠に関して、同国の「2018 年データ保護法」第 110 条に従って、2 つの自発的な調査を開始した。

最初の調査では、18 歳未満のユーザーのプラットフォーム設定と 13 歳未満の人物の年齢確認措置に関連する個人データの処理に関連する、GDPR の設計によるデータ保護とデフォルトの要件に対する TikTok のコンプライアンスを調査する。 18 歳未満のユーザーの個人データの処理に関して、TikTok が GDPR の透明性義務を遵守しているかどうかを調べる。

2番目の調査では、TikTokによる中国への個人データの転送と、第三国への個人データの転送に関するGDPRの要件に対するTikTokのコンプライアンスに焦点を当てる。

(注3)中国 「国家情報法」の中で(5) 国民の協力義務と権利に関する規定を以下、抜粋する。

 いかなる組織及び個人も、法に基づき国の情報活動に協力し、国の情報活動に関する秘密を守る義務を有し、国は、情報活動に協力した組織及び個人を保護する(第 7 条)。

 国の情報活動は、法に基づいて行い、人権を尊重及び保障し、個人及び組織の合法的権利利益を守らなければならない(第 8 条)。国は、国の情報活動に大きな貢献のあった個人及び組織に対し、表彰及び報奨を行う(第 9 条)。

 国の情報活動への支援・協力により財産の損失が生じた個人及び組織に対しては、国の関係規定に基づき補償を行う(第 25 条)。

国家情報機関の職員がその任務遂行において、又は国家情報機関の協力者がその協力活動において、本人又はその近親者の身の安全が脅かされたときは、国の関係部門が保護・救済のために必要な措置を講ずる(第 23 条)。

(外国の立法 (2017.8) 国立国会図書館調査及び立法考査局 海外立法情報調査室 岡村 志嘉子【中国】国家情報法の制定:2017 年 6 月 27 日、国の情報活動の基本方針、実施体制、情報機関の職権、法的責任等について定める国家情報法が制定され、同年 6 月 28 日から施行された)から抜粋。

(注4)筆者ブログでのアイルランドDPCの紹介記事。

2021.9.3 「アイルランドのデータ保護委員会はEUデータ保護会議(EDPB)の仲裁を経てWhatsappに2億2,500万ユーロ(約290億2500万円)の罰金を科す」

2022.12.7 「アイルランドのデータ保護委員会によるMeta platform に対するGDPR違反による高額の罰金処分や行政措置の最新動向とフランスCNILのデータ・スクレイピング再利用ガイダンスを読む(その1)

2022.12.7 「アイルランドのデータ保護委員会によるMeta platform に対するGDPR違反による高額の罰金処分や行政措置の最新動向とフランスCNILのデータ・スクレイピング再利用ガイダンスを読む(その2完)」

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