スキップしてメイン コンテンツに移動

CJEUの判決 はGDPRはデータ主体のアクセス要求に応じて、カテゴリだけでなく、データ受信者IDの開示を要求した

  欧州連合の一般データ保護規則(GDPR)の下では、個々のデータ主体は、データ主体の個人情報に関する情報を共有することをデータ管理者に要求する権利を有する。これには、データ主体の個人データが開示された「受信者または受信者のカテゴリー」を知る権利が含まれる。これまで、データ管理者は、特定の受信者を名前で開示するのではなく、受信者のカテゴリーのみを開示することをデフォルトで行っていた。しかし、それはCJEU判決により変わろうとしている。

 今回のブログは、Bradley Arant Boult Cummings LLPのレポート(著者はBenjamin William Perry氏 & Rachel M. LaBruyere氏)などに基づき欧州司法裁判所判決の重要論点を論じる。

Benjamin William Perry氏

Rachel M. LaBruyere氏

1.要旨

 2023年1月12日、欧州連合司法裁判所(CJEU)は、データ主体のアクセス要求に応じて、データ管理者は受信者のカテゴリ-だけでなく、受信者を具体的に特定する必要があるとの判決を下した。この判決は、GDPRの第13条(データ主体のアクセス権)に基づくデータ主体のアクセス要求に特に対処したが、この決定は、GDPR第15条に基づく収集時点での必要な開示にも重要な影響を及ぼす。

2.事件の背景・経緯

 この事件は、オーストリアの個人であるRW氏が、オーストリアの郵便サービスプロバイダーであるÖsterreichische Post AG(以下、OPという)(注1)にデータ主体アクセス要求を提出し、データの受信者の身元を求めたときに始まった。GDPRの第15条に従い、データ主体は「個人データが開示された、または開示される予定の受信者または受信者のカテゴリ-を要求することができる。RWへの回答の中で、OPは、マーケティング目的でRWの個人情報を取引パートナーと共有しているが、特定の受信者を特定することを拒否したと述べた。

 原告RWは受信者の身元を求めて訴訟を起こしたが、GDPRが「個人データが転送される特定の受信者を名前で特定することなく、受信者のカテゴリのみをデータ主体に通知するオプションを管理者に与える」という理由で、訴訟は当初却下された。RWはこの決定をオーストリア最高裁判所(Oberster Gerichtshof)に上訴し、TFEU第267条(注2)にもとづき最高裁判所は予備判決のためにCJEUにこの質問を付託した。

CJEUはGDPRの広範な解釈を採用した

 広範囲にわたる影響を伴う決定において、CJEUは、管理者がデータ主体アクセス要求に応じてデータ主体にデータ受信者の特定のIDを明らかにする必要があると裁定した。受信者のカテゴリを明らかにするだけで十分であり、受信者の特定の身元を明らかにすることが不可能な場合のみである。その決定を支持するために、CJEUは、GDPRの全体的な目標に照らして、アクセス権にはすべての個人データ処理における透明性が必要であることを強調した。CJEUは、データ主体がGDPRに基づくデータ主体の権利(修正、消去、処理の制限の権利など)を行使するためには、受信者の身元へのアクセスが必要であると指摘した。

3.CJEU判決から導き出された結論

 この判決は、データ主体のアクセス要求と収集のポイント開示の両方に関して重要な意味を持つ。

①データ主体のアクセス要求 –少なくとも、このCJEUの決定では、管理者はデータ主体のアクセス要求に応じてデータ受信者の特定のIDを開示する必要がある。管理者が特定のIDを共有することは不可能であると判断した場合(特に、すべての受信者のIDをまだ知らないため)、管理者(コントローラー)は不可能であると判断した理由を明確に文書化する必要がある。GDPRの第14.5条(b)(第三者からデータが収集された場合の開示の提供)の文脈で、欧州データ保護委員会(EDPB)は次のように述べている。不可能の程度は問わない。」また、EDPBは、データ主体のアクセス要求に関して同様の態度をとる可能性がある。

②収集時点での開示–管理者は、データ主体のアクセス要求に応じて特定の受信者IDを開示することに加えて、EUのデータ主体全般に対する収集時点の開示を再検討することを検討する必要がある。GDPRの第15条(データ主体のアクセス権)と同様に、第13条(収集時点の開示)には、「個人データの受信者または受信者のカテゴリーがある場合は」の開示を要求する文言がある。CJEUはまだその理由を収集の開示のポイントに拡張していないが、管理者がデータ受信者のIDをすでに知っている場合は、収集の時点でそれらのIDの開示も検討する必要があると判示した。

 念のため、データ主体のアクセス要求は、要求が明らかに根拠のないものであるか過剰であるかの「しきい値照会」の対象であるため、GDPRで要求される透明性には制限がないわけではない。また、管理者は、特定の受信者の身元が不可能な場合、特にCJEUの見解では、身元がまだわかっていない場合、特定の受信者の身元を開示する必要はない。

 不可能性に関するEDPBの調査結果に照らして、不可能性の決定は控えめに使用する必要がある(使用する場合は徹底的に文書化する必要がある)。結局のところ、訴訟や規制当局の調査を防御するためのコストは、これらの要求に対応するための管理コストを小さくするため、企業は可能な限り合理的なデータ主体のアクセス要求を尊重することで誤りを犯すことに適合する。

*************************************************************************

(注1) ÖsterreichischePostは、オーストリアの郵便サービスを担当する会社である。この会社は、旧国営PTTエージェンシーPost- und Telegraphenverwaltungの郵便会社部門から分離した後、1999年に設立された。ウィーン証券取引所に上場している。(Wikipedia から抜粋、仮訳)

(注2) 特定の事件を審理する欧州連合(EU)加盟国の裁判所は、欧州共同体設立条約(Treaty establishing the European Community: TEC)第 234 条および欧州連合の機能に関する条約(Treaty on the Functioning of the European Union: TFEU)第 267 条に基づき、EU の法律や規則の解釈または有効性について CJEU に予備判決(preliminary ruling)を照会・請求することができる。この照会制度は、上記の垂直的な控訴制度と対照をなす水平的な協力体制であり、EU 全域にわたって法・規則の統一的な適用を促進・担保するものである。日本弁理士会「欧州連合司法裁判所への予備判決の照会制度」から抜粋。)

 なお、TFEU第267条を、以下、仮訳する。

欧州連合の司法裁判所は、以下に関する予備的判決を下す管轄権を有するものとする。

( a )条約の解釈;

( b )連合の機関、団体、事務所または機関の行為の有効性と解釈;

そのような質問が加盟国の裁判所または法廷で提起された場合、その裁判所または裁判所は, 質問の決定が判決を下すために必要であると考える場合、裁判所に判決を下すよう要請する。

国内法に基づく司法的救済がない決定に反対する加盟国の裁判所または法廷で係争中の訴訟でそのような質問が提起された場合, その裁判所または法廷は、問題を裁判所に提起するものとする。

拘留者に関して加盟国の裁判所または法廷で係争中の訴訟でそのような質問が提起された場合, 欧州連合の司法裁判所は、最小限の遅延で行動するものとする。

***************************************************************************:

Copyright © 2006-2023 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.You may reproduce materials available at this site for your own personal use and for non-commercial distribution.

コメント

このブログの人気の投稿

米大統領令(EO: Executive Order 14110)の具体的内容と意義およびそれに基づく責任の履行を支援するためNIST「情報提供依頼文書 」の具体的内容

   筆者は、12月6日の本ブログで2023年10月30日の大統領令(EO: Executive Order 14110)(以下、「EO」という)を受けたNISTの具体的行動につき 「 NISTからこのほど公開された「 NIST SP 800-226 草案」および「差分プライバシー保証を評価するためのガイドライン草案」に対するパブリックコメントの背景と意義」 を取り上げた。  しかし、執筆後もいまいち大統領令(EO)のファクトシートも含め真の目的や商務省の規則案のとりまとめ期限など疑問点が残されていた。その内容を補完する意味で今回のブログで補筆するとともに、後段でNISTが2024年2月2日を期限として発布した「情報提供依頼文書 (Request for Information (RFI) )」の概要について解説を試みる。  また、本ブログでは、わが国では詳しく論じられていない米国「国防生産法(Defense Production Act of 1950 :DPA)」の意義と最新動向にも言及した。  なお、今回のブログの内容は12月6日の筆者ブログと重複する部分が一部あるが、 Kilpatrick Townsend & Stockton LLPの和文解説 と併せ読まれたい。 Ⅰ.大統領令 (EO: 14110) の具体的内容の解析    JD Supra, LLCの 「The highly-anticipated US Executive Order on artificial intelligence: Setting the agenda for responsible AI innovation」 を要約しつつ仮訳する。  このEOは、多くの点で AI に関するこれまでのバイデン政権の行動を超えている。 この広範囲かつ堅牢な大統領令は、AI を規制するために既存の当局を利用することを想定して、米国の行政部門および政府機関 (機関) に、①標準、②フレームワーク、③ガイドライン、④最善実践内容を開発するよう指示した (また、独立機関にも同様に奨励する)。 また政府機関は、AI の責任ある使用に関係するほぼすべての連邦法、規則、政策に対して具体的な措置を講じる必要があるとする。  EOは、AI の使用から得られる利点を認識する一方で、国家...

米国CFTCがオハイオ州の男性とその所有企業をデジタル資産取引スキームにおける1200万ドル(約16億214万円)以上の不正勧誘と不正流用を理由に民事起訴

     米国の 商品先物取引委員会(CFTC) は8月12日、オハイオ州ニューオルバニー市住の ラスナキショア・ギリ(Rathnakishore Giri) と彼が所有するオハイオ州に本拠を置く NBD Eidetic Capital, LLC および SR Private Equity, LLC に対して、オハイオ州南部地区連邦地方裁判所に 民事法執行訴訟 を起こしたと 発表 した。   同訴状 は、ギリと彼の会社が150人以上の顧客から1200万ドル以上と少なくとも10ビットコインを不正に勧誘し、またギリと彼の会社がデジタル資産取引を目的とした顧客資金を不正に流用したと主張している。  さらに訴状は、ギリの両親であるギリ・スブラマニ(Giri Subramani)とロカ・パヴァニ・ギリ(Loka Pavani Giri)を、正当な利害関係のない資金を所有している 救済被告 (注1) として起訴している。  今回のブログは、(1)本起訴の詳細、(2)CFTC/SECの投資家アラート:ビットコイン先物における資金取引の注意喚起の概要について概観する。 1. 起訴の内容  CFTCは、その継続的な訴訟において、詐欺被害にあった顧客への補償(restitution)、不正に得た利益の返還(disgorgement of ill-gotten gains)、民事上の金銭的罰則(civil monetary penalties)、恒久的な取引および登録禁止(permanent trading and registration bans)、および 「商品取引法(Commodity Exchange Act :CEA)」 および 「CFTC規則(CFTC regulations)」 のさらなる違反に対する永久的差止命令(permanent injunction)を求めている。 2.本事件の背景  訴状は、2019年3月頃から現在まで、被告が運営しているとされるさまざまなデジタル資産投資ファンドに投資するために、少なくとも150人の顧客から1200万ドル以上と10ビットコイン以上を勧誘し、受け入れた詐欺的なスキームに関与したと訴えている。同訴状によると、被告は顧客への勧誘において、利益の保証やギリのデジタル資産トレーダーとしての成功話など、多数の虚偽で誤解を招くような声...

英国の Identity Cards Bill(国民ID カード法案)が可決成立、玉虫色の決着

  2005年5月に英国議会に上程され、英国やEU加盟国内の人権保護団体やロンドン大学等において議論を呼んでいた標記法案 (筆者注1) が上院(貴族院)、下院(庶民院) で3月29日に承認され、国王の裁可(Royal Assent)により成立した。  2010年1月以前は国民IDカードの購入は義務化されないものの、英国のパスポートの申込者は自動的に指紋や虹彩など生体認証情報 (筆者注2) を含む国民ID登録が義務化されるという玉虫色の内容で、かつ法律としての明確性を欠く面やロンドン大学等が指摘した開発・運用コストが不明確等という点もあり、今後も多くの論評が寄せられると思われるが、速報的に紹介する。 (筆者注3) 1.IDカード購入の「オプト・アウト権」  上院・下院での修正意見に基づき盛り込まれたものである。上院では5回の修正が行われ、その1つの妥協点がこのオプショナルなカード購入義務である。すなわち、法案第11編にあるとおりIDカードとパスポートの情報の連携を通じた「国民報管理方式」はすでに定められているのであるが、修正案では17歳以上の国民において2010年1月(英国の総選挙で労働党政権の存続確定時)まではパスポートの申込み時のIDカードの同時購入は任意となった。 2.2010年1月以降のカード購入の義務化  約93ポンド (筆者注4) でIDカードの購入が義務化される。また、2008年からは、オプト・アウト権の行使の有無にかかわりなく、パスポートのIC Chip (筆者注5) に格納され生体認証情報は政府の登録情報データベース (筆者注6) にも登録されることになる。 ******************************************************: (筆者注1) 最終法案の内容は、次のURLを参照。 http://www.publications.parliament.uk/pa/ld200506/ldbills/071/2006071.pdf (筆者注2) 生体認証の指紋や虹彩については、法案のスケジュール(scheduleとは,英連邦の国の法律ではごく一般的なもので、法律の一部をなす。法本文の規定を受け,それをさらに細かく規定したものである。付属規定と訳されている例がある。わが国の法案で言う「別表」的なもの)...