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「米国のCARES Actを受けた学生ローンの借り手への実質的救済策の内容を検証する(その4)」


43日付けでLexBlogから2020327日、トランプ大統領はCARES Act(コロナウイルス支援・救済・経済保障法(Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security Act)」)法に署名し、同法の主要な規定の1つが連邦学生ローン:政府直接ローン(正式名称は The William D. Ford Federal Direct Loan Program,あるいは  Federal Direct Student Loan, FDSL)の借り手に実質的な救済を提供する点にある旨の解説記事Student Loan Forbearance During Coronavirus – The CARES Actが手元に届いた。(筆者注1)

米国における学生ローンの危機問題は、わが国のシンクタンク(筆者注2)でもすでに大きく取り上げられている。わが国での今後の重要課題となることは間違いない問題であり、あえて先行して本ブログでも概要を取り上げるものである。 

◆CARES Actを受けた教育省のガイダンスの概要

米国教育省は、学生、借り手および親が新型コロナウイルスを背景とする「一定期間の権利の非行使 (forbearance)」プロセスをナビゲートするのに役立つQ&Aを含むガイドをまとめた。本ガイドは、より多くの情報が利用可能になると更新され続ける。以下で、その要旨を解説する。

 (1)連邦学生ローンの支払い停止

CARES法の下では、連邦学生ローンの支払いは2020313日から2020930日まで自動的に停止する。(注:これは民間の学生ローンには適用されない。ローンが連邦か民間かについて質問がある場合は、ローン・サービサーに連絡すること) 

この間、自動口座振替は利用できない。場合によっては、ローン・サービサーは2020313日以降に行われた支払いを受け入れる。2020313日から2020930日の間に処理された支払いは、ローン・サービサーに連絡することで返金できる。 

(2) 金利を0%に設定

CARES法は、学生ローンの支払いを停止することに加えて、2020313日から2020930日まで、米国教育省が所有する連邦学生ローンの金利を自動的に0%に設定することを求めている。

連邦ローンでない学生ローン、または連邦貸し手や学生が参加した機関によって管理されているローンは対象外である。一部の一定期間の権利放棄ローンは、ダイレクト・コンソリデーションローンに統合される場合がある。ただし、2020930日以降は、未払い利息の時価総額の増加や金利の上昇などでは、統合されるリスクがある。 

(3) CARES法の追加の借入人規定

コロナウイルスの一時権利非行使期間中にローンの支払いを続けることができる借り手は、追加の借入れをするかもしれない。そのような支払いは、2020313日より前に発生した未払い利息に最初に適用され、次に元本残高(principal balance)に適用される。 

ほとんどの場合、コロナウイルスの一時非権利行使期間中に支払が一時停止された場合、1)収入に基づく返済の免除、2)公職者ローン返済免除(Public Service Loan ForgivenessPSLF(筆者注3)、および3)債務不履行ローンの復権にカウントされる。

ローン・サービサーに電話をかけるか、マニュアルで全額または一部の支払いを行うことにより、行政的一時非権利行使をオプトアウトできる。

ローンの債務不履行の場合、CARES法は連邦税還付、社会保障給付、賃金の源泉徴収を禁止している。2020313日以降に行われた源泉徴収は払い戻される

CARES法に基づき、ローン・サービサーは20208月末までに借り手に連絡して、2020930日から再度支払いを開始するよう通知する必要がある。 

(4) パンデミック期間中の現在の学生(current students)の扱い

連邦政府の仕事を伴う学生支援制度(Federal Work-Study job)利用して授業料を支払っている現在の多くの学生は、オンラインで教育を続けることができる。そのような状況では、ほとんどの機関が全額の授業料の支払いを要求しているが、一部の機関は、部屋代と食費の一部を払い戻すことに同意している。 多くの学生がこれらの費用をカバーするためにローンを使用しているため、払い戻しについては教育機関に連絡することが重要である。

 連邦ワークスタディの仕事に依存している学生のために、一部の学校では、学生が通常勤務する時間に支払われるように、または学生/従業員がリモートで勤務できるように手配している。

ほとんどすべての場合、連邦学生ローンは学生の両親の収入に基づいている。 コロナウイルスが原因で両親の収入が減少した状況では、生徒は学校の財政援助オフィスに連絡して、追加の学生援助について話し合うことを勧める。

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(筆者注1) 連邦貸与奨学金 制度を「アメリカの学生支援制度の概要 から一部引用する。

 (1) 政府保証民間ローン(正式名称は,連邦家族教育ローン(The Federal Family Education Loan Program, FFEL))  

  連邦政府の保証のついた民間金融機関教育ローンで,在学中と猶予期間中の利子補給がある もの(subsidized)とないもの(unsubsidized)がある。利子補給のあるものは所得制限があるが,ないものについては特に要件はない。最高貸与額は学年によって異なり,利子補給のあるものでは3,500ドルから8,500ドル,ないものでは3,500ドルから20,500ドルとなっている。 利子率は固定で2006年度から6.8%で,利子補給のあるものについては,2011年度までに3.4% まで段階的に引き下げられることになっている。なお上限 8.5%のキャップが設けられている。 

(2) 政府直接ローン(正式名称は The William D. Ford Federal Direct Loan Program,あるいは  Federal Direct Student Loan, FDSL  連邦政府が直接貸し手となる貸与奨学金であり,学生からみた貸与奨学金としては,上記の 政府保証民間ローン(FFEL)とまったく同一であり,貸し手が連邦政府であるということだけが異なる。両者を総称してスタッフォードローン(Stafford Loan)と呼ぶ。このように複雑 になったのは,もともと政府保証ローンだけがスタッフォードローンと呼ばれていたが,1993 年のクリントン政権で,政府直接ローンが導入されたため,両者を区別するために,政府保証 家族教育ローン(FFEL)と名称変更したためである。両者の比較については後に論じる。なお,政府直接ローン(FDSL)は,連邦直接学生ローン(Federal Direct Student Loan, FDSL と呼ばれることもある。このようにしばしば名称変更が行われたことも連邦奨学金制度が複雑化している要因のひとつである。 

(筆者注2) 例えば、以下のレポートがある。

(1)2017.2.28 大和総研「米国における学生ローンの現状と危機」

米国の家計負債は、リーマン・ショックが起こった2008年の7-9月期に最大であったが、その後、約5年間にわたって減少を続けた。しかし、2013年には再び増加に転じ、20177-9月期に約129,600億ドルと過去最大に達した。学生ローンと自動車ローンの大幅な増加が、家計負債全体を大きく押し上げているためであり、特に、学生ローンが米国の家計負債の中で唯一増加し続け、住宅ローンに次ぐ負債額に膨れ上がった。

(2) 2020.1.13 日本経済新聞記事「米学生ローン あえぐ中高年 民主予備選焦点に:返せず破産・離婚相次ぐ」

米国の家計負債は、リーマン・ショックが起こった2008年の7-9月期に最大であったが、その後、約5年間にわたって減少を続けた。しかし、2013年には再び増加に転じ、20177-9月期に約129,600億ドルと過去最大に達した。学生ローンと自動車ローンの大幅な増加が、家計負債全体を大きく押し上げているためであり、特に、学生ローンが米国の家計負債の中で唯一増加し続け、住宅ローンに次ぐ負債額に膨れ上がった。 

(筆者注3) 2007年に施行された公職者ローン返済免除プログラムは、教員・消防・公安・看護などの公職に就いた連邦学資ローン利用者が、10年間に亘り通常の返済プランに基づくローン返済を遅延なく行った場合、負債残額の返済が免除されることが定められている。しかし、同プログラム立ち上げから10年が経過した2017年秋以降、約73,500人が返済免除を申請したにもかかわらず、これまでに返済免除が認められた申請者は、1%未満の518人のみとされている。

日本学術振興会・海外学術動向ポータルサイト「【ニュース・アメリカ】米国教員連盟、公職者ローン返済免除プログラムの全般的不正管理の疑いで、教育省及び教育長官を提訴」から抜粋。 

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