スキップしてメイン コンテンツに移動

「オーストラリア連邦政府の新型コロナウイルス感染症のパンデミック対策としての福祉面等からの経済刺激策の具体的内容」





筆者の手元にオーストラリア連邦政府のスコット・モリソン首相は、新型コロナウイルスに対応すべく総額176億豪ドル(113,274億円)の福祉面からの経済刺激策を発表した旨のニュースが届いた。







一方、わが国の取組みを見ると現金給付などの直接的な家計支援を実施すべく検討に入ったと報じられている。わが国では2008年にリーマンショックで起こされた世界金融危機の時に政府は全世帯を対象に112千円(子供と高齢者は2万円)の定額給付を行った例が報じられている。

今回のブログは、オーストラリアで準備が進められている個人では社会的弱者対象、また中小企業向けの具体的施策について同記事をもとに解説を試みるものである。なお、同記事によると、240万人の年金受給者を含め、合計で650万人(オーストラリアの全人口2,499万人(20186月現在))が受給者となる見込みである。 

1.誰が弱者を対象とする刺激金を受け取るのか?

このパッケージは、5つの主要なグループを対象としている。それぞれが受け取るものは次のとおり。 

   福祉年金受給者(Welfare recipients)1人あたり750豪ドル(48,270)以上

   見習い訓練制度を持つ中小企業:賃金補助金(wage subsidies)を通じて見習い訓練で仕事を保持するために最大21,000豪ドル(1352,000)

   中小企業:キャッシュフローを支援するための2,000豪ドル(128,700)から25,000豪ドル(1609,000)

   一般的なビジネス(最大規模を除く):資産の即時償却しきい値150,000豪ドル(9654,000)に引き上げられ、投資を促進するための追加の減価償却割引

   影響を受ける企業:新しい10億豪ドル(6346,000万円)のファンドへのアクセス可とする

 2.誰が現金で750豪ドル(48270億円)を受け取るのか?

世帯または個人を対象とする唯一の支給手段は、社会福祉[生活保護]受給者への750豪ドル(48,270億円)の現金支給である。 

この受給資格者には、失業給付(Newstart)、障害者支援年金(disability support pension,)、介護者手当(carers' allowance)(筆者注1)、若年者給付金(youth allowance) (筆者注2)、退役軍人支援金の支払い、子供手当(family tax benefits,)の給付、連邦のシニア医療カード保有者(Commonwealth senior health card-holders)および高齢の年金受給者が含まれる。

240万人の年金受給者を含め、合計で650万人(オーストラリアの全人口2499万人(20186月現在))が支払いを受けると予想される。

既にこれらの支払いを受け取っている人は現金を受け取り、312月末までに適格な支払いの1つを請求し、その請求が許可された人も受け取れる。 

3.なぜその他の人はお金を得られないのか?

モリソン首相は、刺激策の焦点は企業であると述べた。個人への支払いは使われず、代わりに普通預金口座に入金されるかもしれないという懸念があった。

首相は、これらの人々への支払いを望んでいる既に福祉をしている人々にお金を与えた-仕事と多分より良い財政を持っているオーストラリア人ではなく-経済を通して循環させることにある。

「オーストラリア経済への現金注入であり、小規模企業を支援し、中規模企業を支援する」と彼は述べた。

彼はまた、すべての措置が一時的なものであることを確認した。つまり、福祉の受給者は短期の現金増額を受けるが、支給率は固定されたままである。 

4.給付金は早い時期に支払われるか?

 連邦政府は、福祉年金受給者への支払いは2020331日に開始することを約束した。

その支払いの90%以上は、4月中旬までに「行われる予定」である。

法律は3月後半に議会に導入され、これらの措置を実施し、すべての法律は可決される予定である。

連邦財務大臣のジョシュ・フリデンバーグ(Josh Frydenberg)は、176億豪ドル(113,274億円)のパッケージのうち110億豪ドル(7,0796,000万円)20206月末までに支払われると述べた。






5.企業は支払いを受けるために何をしなければならないか?

企業のキャッシュフローサポートは、428日から事業活動明細書または分割払い活動明細書の50%の支払いで届き、14日以内に払い戻しが行われる。

企業は42日から見習い訓練賃金補助金に登録することができるが、この13億ドル(8366,800万円)の措置のうち10億ドル以上は来年度まで予算化されない。 

また、税額控除を請求する企業は、次に税金が計算されるときに恩恵を受けるが、減価償却控除の恩恵は2021630日まで延長される。 

6.この費用にかかる納税者の負担はいくらか?

全体として、刺激策パッケージは176億豪ドル(113274億円)の価値がある。

中小企業への現金支払いは、パッケージの最大の構成要素であり、約80億豪ドル(51464千万円)の価値がある。

資産の即時償却と減価償却費の変更は、約40億豪ドル(2,5732,000万円)である。

福祉年金受給者への支払いは、合計で50億豪ドル(3,2165,000万円)に達する。 

7.さらなる給付額に増額の可能性はあるのか?

世界的な金融危機(Global Financial Crisis :GFC)に対応したラッド政府(筆者注3)の最初の刺激策は100億豪ドル(6,436億円)の価値があり、さらに3か月後は420億豪ドル(27,031億円)の価値があった。

モリソン首相は今週初め、コロナウイルスの経済的影響は世界的な金融危機よりも悪化する可能性があると指摘した。 

同首相は本年5月の予算により多くの支出があるかもしれないと警告したが、312日の発表に関連して、「これらの措置は仕事をすることができる措置であり、今後もイベントを監視し続けると信じている」と述べた。

また、南オーストラリア州は、建設事業に焦点を合わせた35,000万豪ドル(22526,000万円)の経済刺激策を発表した。 

各州および各準州の指導者は312日の夜に首相と会談しており、さらなる措置について議論する予定である。  

8.働くことができない人々のために他にどのような支援策があるか?

政府は、政府の疾病手当(sickness allowance)(筆者注4)と失業給付(NewStart)の待機期間を放棄している。(筆者注5)

コロナウイルスの影響を受け、医療上の理由でコロナウイルスに感染したり、実際にコロナウイルスに感染したり、仕事ができなくなったりした従業員は、現在病気の支払いと呼ばれるものにアクセスできる」とモリソン氏は述べた。 

モリソン首相は、また適格性の変更が行われないことを確認した。つまり、5,500豪ドル以上の「流動資産」に設定された病気手当の資産テストが引き続き適用されることを意味する。 

同首相は、申請者は5日間で処理されると期待できると主張した。しかし、連邦議会上院の推定に提供された最近の数字は、病気手当の申請者は通常、1ヶ月以上の処理時間に直面していることを示している。

社会サービス省のスポークスマンは、「個々の申し立てや季節的要求の複雑さにより処理時間が異なる可能性があることに注意すべきである」と述べ、経済的困難に直面している人に対する申し立てが優先されると述べた。 

同省は、コロナウイルスに関連する特別な例外に関する以下述べるガイダンスを提供した。 

・隔離のため相互義務要件を満たすことができない現在の収入サポートの受給者は、オーストラリアのサービスに電話し、14日間の主要な個人的危機免除を付与することができる。ただし、診断書などの証拠を提供する必要はない(ただし、14日間の延長要求証拠が必要)。 

・オーストラリアに住んでいるがCOVID-19が原因で研究に参加できない若年者給付金(学生)またはその他の研究関連の支払いを受ける学生は、支払いの研究活動要件を満たしていないことについて合理的な言い訳をする必要がある。この状況にある個人は、サービスオーストラリアに連絡して、状況を通知する必要がある。 

COVID-19のために働くことができない22歳未満の若者は、若年者給付金を請求し、相互義務要件の免除が認められる。 

******************************************************************

(筆者注1) 認知症介護情報ネットワーク「オーストラリアの認知症ケア動向 オーストラリアの高齢者ケアの状況」から一部抜粋する。 

「オーストラリアでは介護者支援についても積極的に取り組んでおり、在宅介護で仕事に出ら れない介護者に対して国は介護者手当(Carer Payment Carer Allowance)の仕組みを用意しているほか、レスパイトケアサービスなどを充実させている。

 (1) 介護者手当 <介護者手当(Carer Payment 16 歳以上の障害を有する人の在宅ケアを行う介護者が対象。受給額は以下の通り。ミー ンズテスト(インカムとアセットの双方)の対象。週 25 時間までは、就労につくことも 認められている。2006 年末現在で 11 万人の介護者が受給しているが、多くが 4564 の年齢層となっている(レスパイトケア中は年間 63 日まで手当てが制限される)。この 手当を受給するためには、継続的な介護が必要なことについての医師の証明と、適切な 介護が行われていることについての登録介護者の証明が必要である。

対象 2 週間当たりの最大額 単身 562.1039,347 円) 夫婦 469.5032,865 円、それぞれ)

 <介護者手当て(Carer Allowance)> 16 歳以上の障害を有す人の在宅ケアを行う介護者が対象。ミーンズテストの非対象。

 対象 2 週間当たりの大額 1 人当たり 100.607,042 円) 本レポート記載時 1豪ドル70 

(筆者注2) 海外職業訓練協会「オーストラリアの雇用労働関係布法令」(2008.12.30)から一部抜粋する。

「オーストラリアには雇用保険制度はなく、センターリンク (Centrelink) ”として知られる政府機関を通じて、失業者は直接給付金を受け取る。受給資格のある申請者は、まず全員が初期失業給付を受ける。この初期失業給付には成人向けには再出発給付金 (Newstart Allowance) 21歳以下の若者あるいは25歳以下でフルタイムの学生向けには若年者給付金 (Youth Allowance) がある」 

 (筆者注3) ケビン・マイケル・ラッド元首相(Kevin Michael Rudd)在任期間は第一期2007123日~2010624、第二期-2013627日~ 2013918日。 

(筆者注4)わが国では2020.3.6 厚生労働省・厚生労働省保険局保険課の事務連絡「新型コロナウイルス感染症に係る傷病手当金の支給について を参照されたい。 

(筆者注5) 2009.2.28 福田平治「オーストラリア政府の生活支援ボーナス(Tax bonus)」支給の実施について」参照。 

**************************************************************

 Copyright © 2006-2020 芦田勝(Masaru Ashida)All rights reserved. You may display or print the content for your use only. You may not sell publish, distribute, re-transmit or otherwise provide access to the content of this document.

 


コメント

このブログの人気の投稿

ウクライナ共同捜査チームの国家当局が米国司法省との了解覚書(MoU)に署名:このMoU は、JIT 加盟国と米国の間のそれぞれの調査と起訴における調整を正式化、促進させる

  欧州司法協力機構(Eurojust) がウクライナを支援する共同捜査チーム (Ukraine joint investigation team : JIT) に参加している 7 か国の国家当局は、ウクライナで犯された疑いのある中核的な国際犯罪について、米国司法省との間で了解覚書 (以下、MoU) に署名した。この MoU は、ウクライナでの戦争に関連するそれぞれの調査において、JIT パートナー国と米国当局との間の調整を強化する。  このMoU は 3 月 3 日(金)に、7 つの JIT パートナー国の検察当局のハイレベル代表者と米国連邦司法長官メリック B. ガーランド(Merrick B. Garland)によって署名された。  筆者は 2022年9月23日のブログ 「ロシア連邦のウクライナ軍事進攻にかかる各国の制裁の内容、国際機関やEU機関の取組等から見た有効性を検証する!(その3完)」の中で国際刑事裁判所 (ICC)の主任検察官、Karim A.A. Khan QC氏 の声明内容等を紹介した。  以下で Eurojustのリリース文 を補足しながら仮訳する。 President Volodymyr Zelenskiy and ICC Prosecutor Karim A. A. Khan QC(ロイター通信から引用) 1.ウクライナでのJITメンバーと米国が覚書に署名  (ウクライナ)のICC検事総長室内の模様;MoU署名時   中央が米国ガーランド司法長官、右手がICCの主任検察官、Karim A.A. Khan QC氏  MoUの調印について、 Eurojust のラディスラフ・ハムラン(Ladislav Hamran)執行委員会・委員長 は次のように述べている。我々は野心のために団結する一方で、努力においても協調する必要がある。それこそまさに、この覚書が私たちの達成に役立つものである。JIT パートナー国と米国は、協力の恩恵を十分に享受するために、Eurojustの継続的な支援に頼ることができる。  米国司法長官のメリック B. ガーランド(Merrick B. Garland)氏は「米国が 7 つの JIT メンバー国全員と覚書に署名する最初の国になることを嬉しく思う。この歴史的な了解覚書は、ロシアのウクライナ侵攻に起

カリフォルニア州司法長官ハビア・バセラ氏の保健福祉省長官指名と議会上院における公聴会ならびに承認採決の僅差結果

 バイデン政権の今後を占ううえで欠かせない閣僚人事に関し、新たな動きがみられた。  すなわち、 AP通信 は(https://www.wtnh.com/news/health/becerra-confirmed-to-head-up-bidens-ambitious-health-agenda/)は次のとおり報じた。  「連邦議会上院 は3月18日木曜日、カリフォルニア州司法長官のハビア・バセラ(Xavier Becerra)氏(1958生まれ)をジョー・バイデン大統領がおす保健福祉省(U.S. Department of Health and Human Services (HHS) )(https://www.hhs.gov/about/index.html)長官として承認し、政府のコロナウイルス対応と、薬剤費の削減、保険適用範囲の拡大、医療における人種格差の解消という野心的な推進において重要な位置を占めることとなった。」 Xavier Becerra 氏  バイデン大統領はカマラ副大統領(元カリフォルニア州司法長官)に引き続き、バセラ長官を連邦政府の代表機関である保健福祉省の長官に指名する本当の理由はどこにあるのか。  確かに、閣僚人事をきめるうえで、多民族国家米国の統一化、結束を強く訴える大統領の考えは、理解できる。しかし、大統領の本音はそれだけではあるまい。長期民主党政権の維持野ための人事の若返り、世界的に見た知名度、行政手腕などの要素を踏まえれの判断かもしれない。  ところで、筆者は歴代のカリフィルニア州の司法長官とはメールのやり取りしており、両氏の今回の就任は”Congratulation”と言いたいだけでなく、わが国の対米戦略を考えるうえで両氏との率直な意見交換も行いたいという気持ちがある。  他方、筆者が強く興味があるのは、今回の人事の例にみられるとおり、民主、共和党が党員数が僅差な議会運営の難しさである。  その意味で、今回の議会上院公聴会でのバセラ氏の陳述内容、また反対議員の発言内容等につき直接確認したと考えていた。  これらの情報を探るうえで重要な公式動画情報源は上院の場合は”Floor Webcast”、下院では”House Live”である。 (注1)  また、米国ではこれらの情報は”youtube ”でも確認できるが

英国の Identity Cards Bill(国民ID カード法案)が可決成立、玉虫色の決着

  2005年5月に英国議会に上程され、英国やEU加盟国内の人権保護団体やロンドン大学等において議論を呼んでいた標記法案 (筆者注1) が上院(貴族院)、下院(庶民院) で3月29日に承認され、国王の裁可(Royal Assent)により成立した。  2010年1月以前は国民IDカードの購入は義務化されないものの、英国のパスポートの申込者は自動的に指紋や虹彩など生体認証情報 (筆者注2) を含む国民ID登録が義務化されるという玉虫色の内容で、かつ法律としての明確性を欠く面やロンドン大学等が指摘した開発・運用コストが不明確等という点もあり、今後も多くの論評が寄せられると思われるが、速報的に紹介する。 (筆者注3) 1.IDカード購入の「オプト・アウト権」  上院・下院での修正意見に基づき盛り込まれたものである。上院では5回の修正が行われ、その1つの妥協点がこのオプショナルなカード購入義務である。すなわち、法案第11編にあるとおりIDカードとパスポートの情報の連携を通じた「国民報管理方式」はすでに定められているのであるが、修正案では17歳以上の国民において2010年1月(英国の総選挙で労働党政権の存続確定時)まではパスポートの申込み時のIDカードの同時購入は任意となった。 2.2010年1月以降のカード購入の義務化  約93ポンド (筆者注4) でIDカードの購入が義務化される。また、2008年からは、オプト・アウト権の行使の有無にかかわりなく、パスポートのIC Chip (筆者注5) に格納され生体認証情報は政府の登録情報データベース (筆者注6) にも登録されることになる。 ******************************************************: (筆者注1) 最終法案の内容は、次のURLを参照。 http://www.publications.parliament.uk/pa/ld200506/ldbills/071/2006071.pdf (筆者注2) 生体認証の指紋や虹彩については、法案のスケジュール(scheduleとは,英連邦の国の法律ではごく一般的なもので、法律の一部をなす。法本文の規定を受け,それをさらに細かく規定したものである。付属規定と訳されている例がある。わが国の法案で言う「別表」的なもの)に具体的