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米国社会保障番号(SSN)の2011年6月新規付番からの無作為化および「なりすまし対策」等セキュリティ強化計画

 


 Last Updated:April 30.2024

 筆者は米国籍は持たないが、連邦社会保障庁(SSA)SSN認証局(Social Security Number Verification Service:SSNVS)から届くSSNの割当手方法の最新付番末尾番号に関する「ハイグループ・リスト」等の情報は研究材料として従来から継続して入手している。

 わが国でも2013年度から実施を計画し、2011年秋の国会で法案提出が予定されている「国民共通番号制」の議論はメディア等で取り上げられてはいるものの、国民にとっての本当の意義は何かがまだ国民が理解できる状況にないことも事実である。
(筆者注1)

 今回のブログは、このようなわが国が取組もうとしている国民共通番号制についてより正確な理解に寄与すべく、米国で1936年以降国民の生涯にわたる社会給付金の過程における労働者の所得を追跡する目的で始まった9桁の社会保障番号制度が2011年6月25日新規付番分から9桁のままでその寿命延長化を目的とする「ランダム(無作為)化」という抜本的改定を行うことから、その目的、意義および具体的な改正手順等につき国民付番制の先行事例として概観することが目的である。
(筆者注2)
.
1.社会保障庁の「社会保障番号のランダム化計画」
(1)現行制度
 1936年以来、SSNは“AAA-GG-SSSS”の3つのグループによる計9桁の数字が割り当てられてきた。また、社会保障カードの発行システムについては同カードに関するFAQを参照されたい。

A.9桁の構成内訳と付番順序
・上3桁(AAA)(エリア番号):当初のSSNの付番時の取扱った地域または州を表す。この数字は北東部から始まり、西に向けて付番されている。
・中2桁(GG)(グループ番号):“01”から“99”が連続性を持たない方法で付番される。管理上の理由から奇数と偶数に分かれて付番される。すなわち、奇数グループ(01→03→05→07→09)の順に付番し、次に偶数グループ(10→12→14→・・・・・98)がエリア内の州に割り当てられる。特別地域の“98”のすべてのシリアル番号が付番し終った後に、偶数グループ(02→04→06→08)が付番され、最後に奇数グループ(11→13→15・・・・99)が付番される。
・下4桁(SSSS):各グループ内で“0001”から“9999”までが順番に付番される。

 以上の付番結果、毎月の最新情報(現時点では2011年1月3日付け末尾付番情報:Highest Group Issued as of 01/03/11)が「ハイグループ・リスト」として公開されている。


(2)無作為化の目的と無作為化後の9桁の構成
A.SSAの説明では、次のような点が改正目的と内容といえる。

①ランダム化は各州が付番する9桁のSSNについて割り当て用にプールできる数を拡大し余裕数が高まる。

②SSNは他のツールや手続と連結したかたちで、公的機関や民間企業ともに個人のID認証手段として利用が増える一方で、社会保障番号詐欺、濫用、なりすまし詐欺も拡大している。ランダム化は、公的情報の使用における再構成をより困難にすることで個人のSSNの保護に寄与する。

③SSAは現在エリア番号として個人に割り当てている上3桁の地理的重要性を排除する。また、SSNの有効性確認目的で行っている「最終付番グループ番号リスト(4桁目、5桁目)」の重要性も排除される。さらに、ランダム化により従前は付番してこなかった「000」、「666」および「900-999」も割当に利用する。(ただし、ランダム化においてグループ番号における「000」や下4桁のシリアル番号に「0000」を割り当てることはない)

④ランダム化計画は2011年6月25日新規付番手続から開始する。

⑤現在SSNの割り当てを受けており、またSSNカードの保持者については、新番号や新カードが交付されることはない。

⑥SSNは個人1人に1つのSSNしか割り当てることはない。しかし次の場合は異なるSSNを割り当てることがある。
・同一家族構成員で連続するSSNについて問題が起きたとき。
・1人以上に対し同一SSNを割り当てたとき。
・当該個人について付番番号について宗教上または文化的な理由で使用を拒否するとき。
・当初の付番番号の使用により継続的に不利益を被る「なりすまし詐欺」の被害者であるとき。
・家庭内暴力等による嫌がらせ、虐待や生命の危険の状況にあるとき。

⑦ランダム化以降における個人名やSSNの直接的な認証方法についてSSAはさらに次の手段を用意している。
・SSAの「社会保障番号認証サービス(SSNVS)」(雇用者のみ利用可能)
・国土安全保障省(DHS)の「e-Verify サービス」
・SSAの「本人の同意に基づくSSN認証サービス(CBSV)」

⑧現在SSNの検証目的で行っている「最終付番情報(High Group List)」についてはランダム化後の更新は予定していない。2011年6月時点で凍結する予定である。

2.社会保障制度や課税面での利用目的から見たSSNの無作為化の更なる課題
 米国のSSNは長い歴史はあるものの、これだけIT技術が進んだ時代で見たとき、今回のランダム化は決して運用面やセキュリティ面やさらに長期的に見たとき、抜本的な解決策とは思えない。(実際、SSNVSサイトのFAQの項目3で長期的な割当が可能となる(・・for many years)と書かれているが、おそらく米国自身、国民IDのあり方や社会保障カードを巡る抜本的、かつ長期的な制度改革の研究は行っていると思う。)(筆者注3)
 
 なお、時間の関係でわが国が取り組もうとしている「国民共通番号制」の比較検討問題は今回は省略する。しかし、学会有志による提言書「将来を見据えた国民ID構築のための提言」の1メンバーである筆者としては、この問題の国民個人、国や地方自治体等行政機関、民間企業等多くの関係者が理解し納得できる制度的、技術的、セキュリティ面等からの議論を踏まえた意見集約が喫緊の課題であることを指摘しておく。
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(筆者注1) 1月5日現在の内閣官房サイトでは「社会保障改革」のページで政府や与党の社会保障・税に関わる番号制度に関する実務検討会の中間整理の内容が掲げられている。
具体的には「政府・与党社会保障改革検討本部」第2回会合資料3-1,3-2 ,である。
 また、2010年12月14日閣議決定では「2011年1月を目途に基本方針をとりまとめ、さらに国民的な議論を経て、同年秋以降、可能な限り早期に関連法案を国会に提出できるよう取り組むものとする」とある。

(筆者注2) 米国のSSN(社会保障番号)について一般向け解説としてはWikipedia が参考になると思って読んだが、2011年1月6日時点の内容(最終更新時期は2010年6月23日 と書かれている)では、今回取上げた「無作為化」についてはまったく言及していない。

(筆者注3) jetro ニュ-ヨークは2010年10月米国における国民IDとIDマネジメントを巡る動向の中で「SSNの問題点と解決に向けた取り組み」について次のとおり課題を整理している。
「SSNは、銀行口座残高の電話などでの問い合わせや、携帯電話やガス、電気の申し込み時の本人確認の際に使われることもある。このため、悪意ある第三者がある人のSSNを取得した場合、本人に成りすますなどの悪用が容易である。これに加え、SSNカードの偽造も問題の1つとなっていたため、2004年に成立したIntelligence Reform and Terrorism Prevention Actの項目の一部でSSNカードの再発行回数の上限が定められると共に、カードのデザインを改めて偽造を防ぐことも決定された。
また、これまでに、不法労働者の取締りの一助として、SSNカードに生体認証を組み込という法案が議会に提出されているが、これについては議論も多い。また、最近では、SSNを身分証明として使用することを制限するという法案も検討されている。」

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