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米国史上最大規模の原油流出事故を巡る連邦規制・監督機関やEU関係機関等の対応(第5回)(その2完)

 (2) 6月26日、アラバマ南部地区連邦地方裁判所に対するBP社とCorexitの製造メーカーであるNalcoに対し、2人のガルフコースト住民や資産所有者によるBPが多量に使用した原油化学処理剤(chemical dispersant)Corexit9500に関するはじめての吐き気(nausea)、めまい(dizziness)、息切れ(shortness of breath)等直接的身体疾患を理由に基づくクラス・アクション請求


・原告はGlynis H. Wright(19歳) と Janille Turner(19歳) の2人であり、事件番号「1:2010cv00397」である。

・原告側弁護士事務所はアラバマ州都モントゴメリーの大手法律事務所である「ビーズリー・アレン・ロー・ファーム(Beasley, Allen, Crow, Methvin, Portis & Miles, P.C.)」である。
なお、本事件の起訴状につき筆者なりに調べてみたが、見出しえなかった。しかし、同事務所のサイトでは簡単に見つけられた。同裁判所の電子有料検索サイトである“PECER”によることも考えたが時間と手間を惜しんだ。起訴状原本の検索方法としては、弁護担当のロー・ファームのウェブサイトに当たるのが一番近道であるという良い経験であった。

・訴因(causes of action)の内容は次のとおりである。
第一訴因は「過失(negligence)および危険性の放置(wantoness)」
第二訴因は「私的生活妨害(private nuisance)」(筆者注4)
第三訴因は「過去および現在継続する不法侵害(trespass)」(筆者注5)
本件では原告は“trespass to land”に 関しては「違法な土地リースまた恐喝的リース」および「原告の身体や合法的に占有する財産への有害な化学物質の分散剤の被曝(exposure)」である。
第四訴因は「過去および現在継続する暴行(Battery)」(筆者注6)

3.6月8日、ルイジアナ東部地区連邦地方裁判所に対するBP社の株主によるBP社や同社「安全性・倫理・環境保全委員会」等に対するクラス・アクション
・原告代表は、Lore GreenfieldとAlan R. Higgsの2人である。
・事件番号:「10-cv-1683」(告訴状原本は本件に関するlexisnexisの解説記事からリンク可)

・本訴訟の意義と内容(nature of the action)
本訴訟はクラス・アクションであり固有の手続が必要となる。その一例が“nature of the action” である。連邦民事訴訟規則第23条はクラス・アクション固有のルールを定めている。(筆者注7)
・わが国ではクラス・アクションの起訴状自体を直接読むケースが少ないので参考までに概要を紹介する。

1.本クラス・アクションは、2008年2月27日から2010年5月12日の間(クラス期間)、BP社の普通株式(BP sahares)および「米国預託証券(American Depository Receipts:ADR)」(筆者注8)の全購入・取得者を代表して被告の連邦証券法の違反に基づく包括的損害の回復をもとめるものである。
2.各ADRは6つのBP社株からなる。
3.本訴は、被告の安全性や運営の完全性とりわけ深海での原油掘削の取組みについての説明により誤った情報を得たBP社株やADRの購入した投資家を含む。
4.クラス期間を通じて証券取引委員会(SEC)、鉱物資源管理局(Minerals Management Service:MMS)」に記録された資料およびその他の公的文書によると、被告はBP社について(a)メキシコ湾での原油探査や生産につき安全かつ信頼性がある方法を用い、(b)深海掘削技術を持ち、(c)深海掘削にかかる周知の流失などリスクその知識、手続を持つと述べてきた。
5.本起訴状の申立にかかわらず、被告はBP社の事業運営はとりわけ原油流失やその結果の関するリスクに関し不適切かつ安全性に欠くことを認識していた。

・被告:
BP社、BP explorastion & production inc.、CEOのAnthony B. Hayward、CFOのBryone E.Grote、探査・生産担当執行役員のAndy G. Inglis、BP社の「安全性・倫理・環境保全委員会(BP environmental assurance committee of the board :SEEAC)のメンバーであるCarl-Henrie Svanberg、Paul M.Anderson、Anthony Burgmans、Cynhia B.Carroll、William Castell、Erroll B.Davis、Tom Mckillop、およびBP社の日々の運営監視担当役員であり、連邦議会で証言したH.Lamar Mckay等である。

 特にBP社の「安全性・倫理・環境保全委員会(BP environmental assurance committee of the board :SEEAC)の現メンバー全員(非常勤役員)が被告となっている点で世界的企業における名目だけでない対外的責任の重さが理解できよう。
また、その法的責任を問う根拠として起訴状ではBP社の「2009年度年次報告書(BP annual Report and Accounts 2009)」の中の“Board performance and biographies”の2頁目に記載されている「BP社のガバナンス概要図(BP governance framework)」を起訴状に転記している。このことからもSEEACの責任を重要視していることは間違いない。

・クラス・アクションの対象となる申立内容
A.BP社の米国における刑事事件における安全面の過失
今回の申立内容は、本年4月20日に発生した爆発事故やその後の原油流失だけでなく2005年テキサス市で発生、15人が死亡(170人が負傷し、10億ドル以上の救済費用)した事故や2006年アラスカ州プルドー湾(Prudhoe Bay)の操作パイプラインからの流失事故等、過去のBP社の掘削施設等における原油流失、火災、爆発事故等についても対象としている。

B.BP社の業務運営の安全性に関する誤った一般イメージ

C.BP社の沖合いの原油掘削に関するリスクの無視
噴出防止バルブの安全性等に関する懸念の無視、掘削にあたり十分なセメンチング(cementing)やパイプ保護のためのケーシング(casing)の無視 (筆者注9)

D.被告CEOやCOO等のBP災害発生後の被害拡大の容認

E.市場に対する詐欺的情報提供
「2008年度BP社の戦略成果発表」「2008年度年次報告」および「BP社行動規範」等における株式市場を故意に(scienter)騙す行為を行ったことは「1934年証券取引法」に違反する行為である。

F.BP社の株主やADR購入者に対する損失の原因発生責任
その結果、事故発生時に60ドルしていたBP社の株価は7月初めには約30ドルと約半分に下がり株主やニューヨーク証券取引所やロンドン証券取引所の普通株主やADR購入者に多大な損失を生じさせた。

・本訴の原告代表の届出締め切りは、2010年7月20日である。
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(筆者注4) 米国法に詳しくニューヨーク州弁護士でもある平野晋中央大学教授の説明「アメリカ不法行為法の研究」は次のとおりである。「ニューサンス」(nuisance)の典型事例は、隣地の被告の運営する家畜飼育場からの悪臭や、空気や水の汚染により、近隣の土地に居住する原告が権利侵害を受けたと主張するものである。損害賠償を請求するのみならず、当該活動の差止を求めるインジャンクション請求が伴う場合も多い。すなわち「 ニューサンス」とは、近隣の土地使用および享受に於ける利益へのアンリーズナブル(理不尽)な侵害である。

(筆者注5) 不法侵害(trespass)は、①trespass to land(土地への不法侵害)は、土地の「占有権」(possession)の排他性を保護法益とすると、②「動産」(trespass to chattels)即ちpersonal property(人的財産・動産))の侵害の両者を含む概念である。前述の平野論文参照。

(筆者注6) 人を殴り、または唾を吐き掛けた場合のような、他人への違法な接触を対象とする類型が、「battery」(暴行)である。前述の平野論文参照。

(筆者注7) 連邦民事訴訟/規則第23条の仮訳を日弁連の消費者問題対策委員会が2007年6月にまとめた「アメリカ合衆国クラスアクション調査報告書」「資料1」として、弁護士の大高友一氏が仮訳されている。

(筆者注8) “ADR”とは「外国企業・外国政府あるいは米国企業の外国法人子会社などが発行する有価証券に対する所有権を示す、米ドル建て記名式譲渡可能預り証書」である。ADRの預かり対象は、通常は米ドル以外の通貨建ての株式であるが、制度的にはあらゆる種類の外国有価証券でも可能である。」野村證券「証券用語解説集」から抜粋。
 
(筆者注9)「 セメンチング」や「ケーシング」の石油や天然ガス掘削における安全性や生産性向上面での重要性について、東京大学エネルギー・資産フロンテアセンター長縄成実氏「最新の坑井掘削技術(その11)」(石油開発時報No.158(2008年8月号))が素人にも分かりやすく解説されている。

[参照URL]
[石油分散剤の有毒ガス化の危険性]に関するもの
https://www.nite.go.jp/nbrc/industry/other/bioreme2009/knowledge/accident/accident_3.html

[メキシコ湾の牡蠣業者による損害賠償請求(クラス・アクション)]
https://www.noaa.gov/explainers/deepwater-horizon-oil-spill-settlements-where-money-went
[原油化学処理剤Corexit9500に関するはじめての吐き気、めまい、息切れ等直接的身体疾患を理由に基づくクラス・アクション]
http://www.beasleyallen.com/newsfiles/07%2026%202010%20-%20Wright%20Complaint.pdf (告訴状の原本)

[BP社の株主等によるクラス・アクションの解説レポート]

BP Oil Spill Lawsuits and Legal Issues | Nolo

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