スキップしてメイン コンテンツに移動

米国史上最大規模の原油流出事故を巡る連邦規制・監督機関やEU関係機関等の対応(第3回)

  6月24日付けの本ブログ6月29日のブログで、世界的に注目されている歴史的海洋汚染事故である米国「ディープウォーター・ホライズン(Deepwater Horizon)」 の半潜水型海洋掘削装置(rig )爆発事故とその後の大規模な原油流失について連邦監督機関の対応を中心に2回にわたりとりあげた。


 今回は、EU等国際的石油掘削メジャーの監督にあたる国々の対応にも厳しさが増している状況を反映するため、さる7月7日、欧州委員会エネルギー担当委員のギュンター・エッテインガー(Günther Oettinger)氏(ドイツ)が欧州議会総会で行った「沖合い(offshore)の原油探査や採取についてリスク、責任および規制強化」と題するスピーチの内容を仮訳で紹介する。

Günther Oettinger 

1.欧州議会総会での欧州委員会エネルギー担当委員のスピーチ
 2010年7月7日、欧州議会総会で欧州委員会エネルギー担当委員ギュンター・エッテインガー(Günther Oettinger)氏は「沖合い(offshore)の原油探査や採取についてリスク、責任および規制強化」と題するスピーチを行った。欧州委員会の域内の関係大手企業へのアンケート調査の実施や加盟国の規制監督機関や法制度のあり方につき対策の考えが明示されているので、ここでその要旨を紹介する。(筆者注1)

2.要旨
・本年5月の本総会において私が初めて本件につきスピーチを行った時は、域内の沖合いの原油掘削大手企業の代表者を召集した時期であった。私は各企業の安全政策の精査に関するアンケートの回答を要請した。

 我々は来週7月14日開催の会合で、潜在的な弱点を特定するため適用すべき基準と手続の双方を見直すつもりである。私は、その翌15日に欧州議会環境委員会(European Parliament environment committee)を開催し、その結果を踏まえたエネルギー委員としての提案を行うつもりである。これと並行して関係する委員会事務局で既存の法律を詳しく調査している。

 エネルギー委員会の調査の中間結果で、沖合い採掘の安全性に関し多くの複雑な法律が関わっていることを示している。しかしながら、法律の数自体はあまり多くはない。重要なポントは以下の点である。

①これらのすべての法律は損害発生後のフォローアップと同様、リスク管理とその予防のために十分完全な形で適用できるであろうか?
 この答えは簡単ではない。これは私が最も関係が深い委員会の仲間であるクリスタリナ・ゲオルギエヴァ(Kristalina Georgieva (EU International Cooperation, Humanitarian Aid and Crisis Response Commissioner) (筆者注2)マリア・ダマナキ(Maritime affairs and fisheries Commissioner) (筆者注3)ヤネス・ポトチュニック(Janez Potočnik (Environment Commissioner) (筆者注4)と緊密に働いている理由である。

 我々の考えは、手続のすべての過程で被害の予防から対処や責任問題についてカバーできる体制にもっていくことであり、この意味で本日、私の次にスピーチするマリア・ダマナキ氏は、我々が直面している海事問題に関しメキシコ湾大事故を文字通り潜在的再生可能な海洋エネルギー(renewable ocean energy)の確保の機会としてどのように変えうるかにつき言及するであろう。

 いかなる適切な規制制度がありまた監督されていても、第一に取組むのは産業界であり個々の企業である。彼らが完全に責任を持つべきことを理解しているがゆえに安全問題は最大の関心事であらねばならない。彼らは彼らの側から100%安全第一主義政策を維持しなくてはならない。安全には抜け道はない(Safey is not negotiable)。
 運用方法と労働者の安全性に関し、我々はEUの法律が定める基準や諸原則は高いレベルを提供していることを確認した。

 企業の責任に関し、「汚染実行者が支払う」と言うのが環境賠償責任の基本原則である。全体的に見て欧州の適用法は、この種の産業活動に伴うさまざまな危険と挑戦について記述しており役に立つといえる。
 しかしながら、改善の余地があることも見出している。現行法制をより明確化し最新の内容にすることが出来よう。今後数ヶ月以内に我々は必要と判断するなら立法上のイニシアティブをとることに躊躇しないので安心していただきたい。

 また、このことは私が7月14日に加盟国の規制や監督当局のとの会合を開く理由である。ポトチュニックやダマナキ委員とともに安全性強化のための具体的措置につき論議する予定である。規制上の問題と同様に運用面の問題が議論されるであろう。規制面の問題について、私はEU基準が世界で最も厳しい体制を維持するため可能な限り最高に高いレベルに設定したいと考えている。
 同様にコントロールが有効であるという確証を得たいと思う。この点につき、私は必要なら「企業の管理者を管理する(controlling to controllers)」ための欧州の枠組み造りを提案することも辞さない。

②7月中旬に私はEUの行政機関や立法担当者とともにワシントンに出向きディープウォーター・ホライズン原油流失事故の最も最近時の対応につき論議する予定である。
 私は、このような対話が国際基準強化を確実にする上で重要であると信じる。状況の正確な調査結果を持つためにはメキシコ湾における原油流失の正確な真の原因を知る必要があることは明らかである。しかしながら一方で、正確な原因を知る予防対策(precautionary principle)が優先されるべきである。この点につき米国やEUでない国のいかなる監督機関も予防措置を実行するよう助言を受けるであろう。

③最後に、EUの安全と環境を維持するため取るべき行動につき重要な5つの点につき概観する。これは事故の予防、救済および責任と関係する。

1.迅速な対応行動
 さしあたりあらたな油田掘削につき最大の警告を発しなければならない。一般的にいわれているとおり、現在の状況下ではいかなる責任ある政府も実際あらたな掘削の許可は凍結させるであろう。このことは事実上事故原因が判明し、ディープウォーター・ホライズンによって実行される最先端の運用のための是正手段が取られるまではモラトリアムが発動することを意味する。

 各国政府は産業界がより安全性を改善のため、取りうるすべての手段を立上げ、極端な天候や地球物理学状況下で適用可能な最も高いレベルに合致する災害阻止を実行できることを確認する必要がある。緊急対策計画を見直し、もっとも良い実践結果に基づき強化しなくてはならない。許可手続において現場の重大な事故発生時に担当オペレーターが特定の操作能力についてデモンストレーションを必要とすべきである。これと同様に、企業には引き起こされた損害に対し完全に責任を持てる財務力も必要である。我々はこのことにつき特別な欧州基金やその他の適切な堅固たる付保義務にかかわらず、何が最もよい道具となりうるかを良く考えなければならない。

2.強固な認可体制を通じるだけでなく徹底した調査と管理により既存の事故予防レベルを再強化すべき
 各国の監督機関と欧州レベルの機関の分業はもはや十分でない。相乗効果を育て相互の協調効果を高め、かつ「企業の管理者を管理する(controlling to controllers)」といったあらたなモデルを必要とする。我々は産業界の安全実績と産業界を監督する公権力の警戒にとって透明性を増す必要がある。

 国民には知る権利があり、かつあらゆる許された情報にアクセスできる権利を持つ。透明性は最大の法遵守と予防措置を確実にする上で強い同盟者である。

3.既存の法令に基づく「負荷試験(stress test)」の完全実施
 遅滞なく我々は現行法令の分析と完全実施し、改善のための可能な弱点・ギャップ・改善の余地を特定するための適用基準を完全に実施しなければならない。我々の法律制度の枠組みは、最善の業界実践と明確な責任体制に対し、安全に関する最高の水準を保証することにある。

 最終的な分析結果において示される正確な弱点が何かによって、我々は既存法の改正または沖合いの掘削活動に関する特別な立法であれ、それに対応する立法案を提示することに躊躇はしない。

4.我々は欧州レベルでどのように災害をコントロールし、災害介入メカニズムで強化できるかにつき考えたい。
 これらの仕事は、現在欧州委員会のモニタリング・情報センターを介した支援を含む総合的なEU災害対応能力の一層の強化問題として進行中である。
 リスボンに本部のある「欧州海保安庁(European Maritime Safety Agency)」は、すでにそのような施設の原油流失事故において有意義な介入を行っている。他方で、査察や検証活動等の予防的責任は現在のEMSAとは完全に異なる能力が必要となる。我々はそのような能力をどこの機関がどのように開発するか、陸地での掘削と海での掘削とで分けるべきかという問題も含め十分に反映すべきと考える。

5.既存の国際または地域の安全基準の強化のため国際的な協力を行いましょう

***********************************************************************************:
(筆者注1) 筆者は7月7日のスピーチの件は 7月7日付けのブルームバーグの記事で読んでいた。念のためEUの公式リリース“Pressrelease RAPID”で確認したところ公表されており、また欧州委員会の取組みの基本姿勢が明記されていたので急遽仮訳した次第である。

(筆者注2) クリスタリナ・ゲオルギエヴァはブルガリア出身(新任)で欧州委員会の国際協力・人道援助・危機対応担当委員である。

(筆者注3) マリア・ダマナキはギリシャ出身(新任)で欧州委員会の漁業・海事担当委員である。

(筆者注4) ヤネス・ポトチュニックはスロヴェニア出身(再任)で欧州委員会の環境担当委員である。

[参照URL]
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=SPEECH/10/368&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en
http://www.bloomberg.com/news/2010-07-07/eu-energy-chief-urges-ban-on-new-offshore-drilling-until-bp-probe-finished.html

********************************************************************
Copyright © 2006-2010 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.No reduction or republication without permission


コメント

このブログの人気の投稿

米大統領令(EO: Executive Order 14110)の具体的内容と意義およびそれに基づく責任の履行を支援するためNIST「情報提供依頼文書 」の具体的内容

   筆者は、12月6日の本ブログで2023年10月30日の大統領令(EO: Executive Order 14110)(以下、「EO」という)を受けたNISTの具体的行動につき 「 NISTからこのほど公開された「 NIST SP 800-226 草案」および「差分プライバシー保証を評価するためのガイドライン草案」に対するパブリックコメントの背景と意義」 を取り上げた。  しかし、執筆後もいまいち大統領令(EO)のファクトシートも含め真の目的や商務省の規則案のとりまとめ期限など疑問点が残されていた。その内容を補完する意味で今回のブログで補筆するとともに、後段でNISTが2024年2月2日を期限として発布した「情報提供依頼文書 (Request for Information (RFI) )」の概要について解説を試みる。  また、本ブログでは、わが国では詳しく論じられていない米国「国防生産法(Defense Production Act of 1950 :DPA)」の意義と最新動向にも言及した。  なお、今回のブログの内容は12月6日の筆者ブログと重複する部分が一部あるが、 Kilpatrick Townsend & Stockton LLPの和文解説 と併せ読まれたい。 Ⅰ.大統領令 (EO: 14110) の具体的内容の解析    JD Supra, LLCの 「The highly-anticipated US Executive Order on artificial intelligence: Setting the agenda for responsible AI innovation」 を要約しつつ仮訳する。  このEOは、多くの点で AI に関するこれまでのバイデン政権の行動を超えている。 この広範囲かつ堅牢な大統領令は、AI を規制するために既存の当局を利用することを想定して、米国の行政部門および政府機関 (機関) に、①標準、②フレームワーク、③ガイドライン、④最善実践内容を開発するよう指示した (また、独立機関にも同様に奨励する)。 また政府機関は、AI の責任ある使用に関係するほぼすべての連邦法、規則、政策に対して具体的な措置を講じる必要があるとする。  EOは、AI の使用から得られる利点を認識する一方で、国家...

米国CFTCがオハイオ州の男性とその所有企業をデジタル資産取引スキームにおける1200万ドル(約16億214万円)以上の不正勧誘と不正流用を理由に民事起訴

     米国の 商品先物取引委員会(CFTC) は8月12日、オハイオ州ニューオルバニー市住の ラスナキショア・ギリ(Rathnakishore Giri) と彼が所有するオハイオ州に本拠を置く NBD Eidetic Capital, LLC および SR Private Equity, LLC に対して、オハイオ州南部地区連邦地方裁判所に 民事法執行訴訟 を起こしたと 発表 した。   同訴状 は、ギリと彼の会社が150人以上の顧客から1200万ドル以上と少なくとも10ビットコインを不正に勧誘し、またギリと彼の会社がデジタル資産取引を目的とした顧客資金を不正に流用したと主張している。  さらに訴状は、ギリの両親であるギリ・スブラマニ(Giri Subramani)とロカ・パヴァニ・ギリ(Loka Pavani Giri)を、正当な利害関係のない資金を所有している 救済被告 (注1) として起訴している。  今回のブログは、(1)本起訴の詳細、(2)CFTC/SECの投資家アラート:ビットコイン先物における資金取引の注意喚起の概要について概観する。 1. 起訴の内容  CFTCは、その継続的な訴訟において、詐欺被害にあった顧客への補償(restitution)、不正に得た利益の返還(disgorgement of ill-gotten gains)、民事上の金銭的罰則(civil monetary penalties)、恒久的な取引および登録禁止(permanent trading and registration bans)、および 「商品取引法(Commodity Exchange Act :CEA)」 および 「CFTC規則(CFTC regulations)」 のさらなる違反に対する永久的差止命令(permanent injunction)を求めている。 2.本事件の背景  訴状は、2019年3月頃から現在まで、被告が運営しているとされるさまざまなデジタル資産投資ファンドに投資するために、少なくとも150人の顧客から1200万ドル以上と10ビットコイン以上を勧誘し、受け入れた詐欺的なスキームに関与したと訴えている。同訴状によると、被告は顧客への勧誘において、利益の保証やギリのデジタル資産トレーダーとしての成功話など、多数の虚偽で誤解を招くような声...

英国の Identity Cards Bill(国民ID カード法案)が可決成立、玉虫色の決着

  2005年5月に英国議会に上程され、英国やEU加盟国内の人権保護団体やロンドン大学等において議論を呼んでいた標記法案 (筆者注1) が上院(貴族院)、下院(庶民院) で3月29日に承認され、国王の裁可(Royal Assent)により成立した。  2010年1月以前は国民IDカードの購入は義務化されないものの、英国のパスポートの申込者は自動的に指紋や虹彩など生体認証情報 (筆者注2) を含む国民ID登録が義務化されるという玉虫色の内容で、かつ法律としての明確性を欠く面やロンドン大学等が指摘した開発・運用コストが不明確等という点もあり、今後も多くの論評が寄せられると思われるが、速報的に紹介する。 (筆者注3) 1.IDカード購入の「オプト・アウト権」  上院・下院での修正意見に基づき盛り込まれたものである。上院では5回の修正が行われ、その1つの妥協点がこのオプショナルなカード購入義務である。すなわち、法案第11編にあるとおりIDカードとパスポートの情報の連携を通じた「国民報管理方式」はすでに定められているのであるが、修正案では17歳以上の国民において2010年1月(英国の総選挙で労働党政権の存続確定時)まではパスポートの申込み時のIDカードの同時購入は任意となった。 2.2010年1月以降のカード購入の義務化  約93ポンド (筆者注4) でIDカードの購入が義務化される。また、2008年からは、オプト・アウト権の行使の有無にかかわりなく、パスポートのIC Chip (筆者注5) に格納され生体認証情報は政府の登録情報データベース (筆者注6) にも登録されることになる。 ******************************************************: (筆者注1) 最終法案の内容は、次のURLを参照。 http://www.publications.parliament.uk/pa/ld200506/ldbills/071/2006071.pdf (筆者注2) 生体認証の指紋や虹彩については、法案のスケジュール(scheduleとは,英連邦の国の法律ではごく一般的なもので、法律の一部をなす。法本文の規定を受け,それをさらに細かく規定したものである。付属規定と訳されている例がある。わが国の法案で言う「別表」的なもの)...