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パリ控訴院 タンカー沈没による環境汚染で国際石油会社トタル等の有罪判決を支持(その2完)

  (2) パリ大審裁判所刑事法廷判決における法律等の解釈  裁判所は「環境法は有責者の過失責任の追及には直接または近因原因を与えたことを要しない」と考え、トタルの責任はチャーター主または積荷主としてではなく船舶の航行につき“Ship Vetting Services”の責任者としての管理責任を問うている。“Ship Vetting Services”とは、「船主の評判」、「過去の検査記録」、 「 SIRE( Ship Inspection Report Programme) 」 CDI(Chemical Disribution Institute)」 、「manning」等に代表される様々な情報をもとに、各船に評価・点数付けをする情報管理システムであり、傭船時の参考に供されるものである。(Vetting Servicesの内容につき詳しくは 「国際タンカー船主協会(intertank o)」 のサイト等で確認できる)  このヴェッティングの利用慣行は、輸送を外部委託するという主要石油メジャーの取組により準備された。メジャー自身が所有する船団を売り払い、特定の会社からタンカーを雇い入れて石油の搬送を始めたとき、船舶の安全性等にかかる情報管理システムである“vetting system”を導入した。  石油会社は調査を命じ常時アクセスできる「船舶調査報告(Ship Inspection Report)」と呼ばれるデータベースを調べた結果を記録することでタンカー等輸送追跡を維持した。この慣行は任意であり、石油会社の好意に依存する。  パリ大審裁判所の裁判官は、トタルの行為はエリカ号につき次のような情報があるにも拘らずチャーターしたこと自体が「無謀(recklessly)」であったと判断した。 ①トタルが情報管理システム(vetting system)を利用して調べた時点で、エリカは造船後23年経過していた。 ②エリカ号は3つの国の旗と8つの異なる名前をもっていた(旗の変更は船の所有権が移転していることを想定させる)。また、エリカ号は4社の査定会社により分類・査定されているが、最新の3か月前(5年間の特別調査の間)に4社の管理会社により取組まれていた。 ③エリカ号が搬送するものは極めて腐食性の高いものであった。 (3)民事責任に関する裁判所の判断  原告の大部分は...

パリ控訴院タンカー沈没による環境汚染で国際石油会社トタル等の有罪判決を支持(その1)

      Last Updated:April 1,2021  2010年3月30日、フランスの パリ控訴院(Cour d’appel de Paris) は1999年12月12日に発生した老朽タンカー「エリカ号(Erika)」の沈没とそれに伴うフランス史上最悪というブルターニュ海岸の重油汚染問題につき2008年1月16日に出された第一審のパリ大審裁判所(Tribunal de grande instance)刑事法廷の判決を支持し、エリカの依頼主である「トタル(Total.S.A.)  (筆者注1) および老朽船(25年前に建造され腐食問題等があった)の航行性・安全性認定につき十分な検査義務懈怠につきイタリア国際船級認定協会会員会社リナ(RINA)  (筆者注2) に各37万5,000ユーロ(約4,613万円)の過失・注意義務違反による「罰金刑」を言い渡した。  また、これら2社はフランスの複数の地方自治体や団体等に対する「損害賠償金」として各2億60万ユーロ(約250億円)の支払が命じられた。  さらに個人の責任に関しては、エリカ号の船主であるジュゼッペ・サバレーゼ氏(Guiseppe Savarese)と同船の技術・海運管理者であるアントニオ・ポララ氏(Antonio Pollara)に対し各7万5,000ユーロ(約9,450万円)の最高額の罰金刑が科された。  この裁判問題は、フランス・ドイツだけでなく米国のメディアやロースクール  (筆者注3) も環境法裁判問題として大きく取り上げられている。しかし、わが国では一部のブログ等で紹介されているのみである。(今回のブログ原稿執筆中にも4月3日午後5時過ぎ、オーストラリアのグレート・ケッペル島から約70km東の浅瀬で中国最大の海運グループ所有(中远集团(Cosco Group)の石炭バルク船「深能一號(Shen Neng 1)」 (筆者注4) が座礁したニュースが入ってきた。深能一號は1993年製造、全長230m、65,000トンの石炭と950トンの燃料重油を積んでおり、重油がすでに漏れ出しており、今後、船体が折れる恐れもありクイーンズランド州政府は連邦政府と対策を協議していると現地メディアが報じている)。  世界的に見てわが国の原油輸入量は最大規模である。今後のわが国の石...

日本の農林水産省は米国の食肉牛肉の安全・検査体制の問題点を本当に理解しているのか(その2完)

  3.OGI報告が指摘するFDA、 EPAおよびFSISの連携システムの不完全性に関するUSA TODAYの指摘  しかし、USA TODAYの記事は次のようなOGI報告の指摘内容と安全性神話に関する落とし穴を指摘する。 (1) 米国連邦農務省監察総監室(OGI)の監査報告(2010年3月25日付)のFSISへの指摘改善事項とFSISの回答  全文で50頁の監査報告兼改善勧告書である。その要旨にあたる“executive summary”と14項目の勧告項目に対するFSISの同意内容が7頁にわたり明記されている。今回のUSA TODAYの記事はこの報告書にもとづくものである。  なお、今回の監査はOGIの 「2009財政年度総監計画(Annual Plan Fiscal Year 2009 October 1, 2008 – September 30, 2009)」 に基づき行われた。参考までに総監計画のハイライトの重要部を抜粋すると次のとおりであるが、特にBSEを重要視している点などが顕著である。 (目標1)安全とセキュリティが農業や農務省資源とともに公衆衛生を保護すべき安全・安心な手段実現にかかる農務省の能力強化 ①農務省の食物の安全と検査が有効にプログラム目的に即したことを保証すべく監査を行う。 ②牛海綿状脳症(BSE)標本抽出計画の実施状況の監査を行う。 ③「2008年農業法」の規定に基づき、食品安全検査局が州の検査計画に関連する条項を実施したかどうか決定する監査を行う。 ④境界における農業利益の保護を継続すべく農務省のプログラムを確実に実施すべく監査する。 ⑤動物、動物性食品、植物、および植物生成の密輸入調査。 (以下略す) (2) OGIの主な指摘事項(USA TODAY記事から抜粋)  連邦規制・監督機関であるFSISは、残留化学物質の規制や適正な試験を実施しておらず、結果意的に有害な殺虫剤、動物用抗生物質および重金属を含有する牛肉を市場での販売を許容している。すなわち、残留化学物質の試験プログラムである“NRP”は商業ベースで流通する食品に含有する危険物質をモニタリングするという任務を達成しておらず、結果としてそのような食肉を食べる一般大衆の健康への懸念が増加している。  米国の牛肉の安全性検査プログラムは農務省食品検査局が運営しており、そ...

日本の農林水産省は米国の食肉牛肉の安全・検査体制の問題点を本当に理解しているのか(その1)

  Last Updated:January 27,2021  わが国の農林水産省(Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries :MAFF)が、さる4月8日に米国農務省(USDA)との間で2007年以降中断していた米国産牛肉の輸入制限問題について政府間協議を再開することにつき 合意 したことが報じられた。  農林水産省は、カナダでは2003年5月、米国では同年12月に 初の牛海綿状脳症(BSE) の発生の疑いに基づき緊急に輸入停止措置を講じたのち、米国やカナダと安全性協議のうえ2005年12月12日に米国およびカナダから日本向けに輸出される牛肉等の輸入停止措置の解除について決定を行った。 (筆者注1)  その後、「2005年12月12日、米国・カナダ産の牛肉等の輸入条件について合意した。現在、米国・カナダから輸入される牛肉等には、各政府が発行する衛生証明書が添付され、その証明書において、輸出プログラムに規定された条件を満たした旨の内容等が記載されていることが必要であり、輸出プログラムの主な条件は次のとおりとする。 (1) 全頭から特定危険部位(SRM)が除去されていること。 (2) 20か月齢以下の牛由来であること。  なお、輸出プログラムにおいて、ビーフジャーキー、ハム、ソーセージ等の牛肉加工品やひき肉は輸入可能としない。」  筆者も、これらの点は従来から理解していたし、今回の交渉再開についてもこれらの問題につき米国の食肉の安全管理体制が米国政府として保証できることが前提であると信じていた。 (筆者注2)  しかし、4月12日付けの“USA TODAY”の記事「 市場に出回る汚染牛肉(tainted beef)に関する不安増加」 を読んで大きな勘違いをしていることに気がついた。  直接的な情報源は、連邦農務省の監察総監室(OGI)が3月25日付で公表した報告書 「2010年畜牛に関する全米残留物検査プログラム結果報告(FSIS National Residue Program for Cattle)」 である。  今回のブログは、米国の牛肉内の化学物質残留物を含む食品の安全検査体制(NATIONAL RESIDUE PROGRAM:NRP)の概要を紹介するとともに、OGIが指摘した食肉の安全性管理システム...

メキシコのバハ・カリフォルニアを震源地とするマグニチュード7.2大規模地震発生

  2010年4月4日東部標準時午後7時3分、ニューヨークタイムズは次のようなメキシコ北東部で発生したマグニチュード7.2大規模地震を報じた。  この情報はわが国でもCNNやロイター通信などで簡単な速報で報じられているが、筆者は 米国地質調査所(U.S.Geological Survey:USGS) や ニューヨークタイムズ (筆者注) 等の情報を元により詳しく報じてみた。 1.地震情報の詳細(USGS) (1)マグニチュード:7.2(震度6.9) (2)発生時刻:世界協定時刻22時40分40秒(現地時間午後3時30分) (3)震源地 32.128°N, 115.303°W(バハ・カリフォルニア(メキシコ)のグアダルーペ・ビクトリア(Guadalupe Victoria)の南南西16マイル(約2.6km)でティファナ(Tijuana)東南東の約108マイル(約137km)) (4)震源の深さ 10 km (6.2 miles) (poorly constrained:弱拘束) 2.カリフォルニアやネバダ州等で報告された大地震の状況  メキシコの南東ティファナで発生した強い地震は、日曜日の午後に南カリフォルニアを震動させた。国境の町はビルが破損し、ロサンゼルスやフェニックスといったメキシコ国境のはるか北に位置し、地震には慣れた人々にも恐怖を与えた。  シャンデリアが揺れ、家が震動し、揺れがメキシコと米国を強く揺すぶったとき、1分間以上を超えて復活祭礼の拝式から出て来る人々の足の下で地球が滑るように思えた。  64歳のカールトン・ハーグレーブはアメリカ側の国境の町カレキシコ(Calexico)の自分が経営するファミリィ形式のビュッフェの入口通路に立っていたが、電話取材に対し、震え声で「ほぼ完全に破壊された、店のテーブルをひっくり返り、皿は床に飛び散った。天井はつぶれた。」 「それはすごい揺れであり大地震であった。」と、足が瓦礫、ガラス、および皿の破片をかみ砕いているような音とともに答えた。  揺れが発生したメキシコの遠隔地からのレポートはなかなか情報が入らず、震動後、メキシコのウェブサイトは2時間以上でつながらない状態であったが、その規模の地震は震源地の近くではおそらく主要な建物の損害や可能な負傷者をもたらしていると見られる。  ティファナ紙のレポーターは、建物...

英国FSAが銀行等のインサーダー取引規制のため通話内容の記録対象を携帯電話等への拡大案意見公募

    Last Updated: Feburary 28,2021   英国金融サービス庁(FSA)は、3月19日に銀行や証券会社の役職員等によるインサーダー取引等の情報悪用(市場詐欺)による不正取引を規制するための通話内容の記録保存義務対象を携帯電話会社や移動体通信に拡大する規則案をとりまとめ、2010年6月14日を期限とする意見の公募を行った。  今回のFSAの規制強化は、2009年3月に施行された「音声および電子通信内容の6か月間の記録を義務付ける規則“the taping rules”(PS 08/1)」の適用拡大を前提にしたものであるが、同規則は携帯電話やE-mailは技術的な観点から適用除外としていた。  筆者はこれらの一連のFSAの動きの背景から改めて見直してみた。英国のメディアがほとんど言及していないEUの「証券市場の情報開示に関する法令整備」の流れから正確に理解していないと今回の規制強化の意味が理解できないことが明らかとなった。  今回のブログは、このような理由から一連のEUの対応を紹介しながら、英国FSAの取組みを述べてみたい。  なお、わが国の金融庁や証券等監視委員会のこの問題に関する取組みはいかがであろうか。機会を改めて述べたい。 1.EUにおける証券市場規制に関する法令整備 (1)EUの1999年5月11日 「金融サービス行動計画(Financial Services Action Plan:FSAP」  の策定  FSAPは、もともとは1997 年の欧州市場統合の総括評価を行った欧州委員会の報告書『単一市場レビュー』の指摘を受けて金融サービス部門全分野における残存障害の除去を目指したものであり、ユーロの導入に伴い、その利益を最大限に引き出すために2002 年の現金(貨幣としてのユーロ)導入までにその実施を目指すものとされた。FSAP の戦略目標は、①単一卸売市場の完成、②小売金融サービスのためのオープンで安全な市場の構築、③EU 金融市場の継続的な安定性の確保、であった。  また、欧州委員会は、FSAP を引き継ぐ2005 年12 月5 日にEUの以降5 年間の新たな金融サービス戦略となる 「金融サービス政策白書2005-2010」(WHITE PAPER Financial Service Policy 2005-2...