スキップしてメイン コンテンツに移動

日本の農林水産省は米国の食肉牛肉の安全・検査体制の問題点を本当に理解しているのか(その2完)

 3.OGI報告が指摘するFDA、 EPAおよびFSISの連携システムの不完全性に関するUSA TODAYの指摘

 しかし、USA TODAYの記事は次のようなOGI報告の指摘内容と安全性神話に関する落とし穴を指摘する。

(1) 米国連邦農務省監察総監室(OGI)の監査報告(2010年3月25日付)のFSISへの指摘改善事項とFSISの回答

 全文で50頁の監査報告兼改善勧告書である。その要旨にあたる“executive summary”と14項目の勧告項目に対するFSISの同意内容が7頁にわたり明記されている。今回のUSA TODAYの記事はこの報告書にもとづくものである。

 なお、今回の監査はOGIの「2009財政年度総監計画(Annual Plan Fiscal Year 2009 October 1, 2008 – September 30, 2009)」に基づき行われた。参考までに総監計画のハイライトの重要部を抜粋すると次のとおりであるが、特にBSEを重要視している点などが顕著である。

(目標1)安全とセキュリティが農業や農務省資源とともに公衆衛生を保護すべき安全・安心な手段実現にかかる農務省の能力強化
①農務省の食物の安全と検査が有効にプログラム目的に即したことを保証すべく監査を行う。
②牛海綿状脳症(BSE)標本抽出計画の実施状況の監査を行う。
③「2008年農業法」の規定に基づき、食品安全検査局が州の検査計画に関連する条項を実施したかどうか決定する監査を行う。
④境界における農業利益の保護を継続すべく農務省のプログラムを確実に実施すべく監査する。
⑤動物、動物性食品、植物、および植物生成の密輸入調査。
(以下略す)

(2) OGIの主な指摘事項(USA TODAY記事から抜粋)
 連邦規制・監督機関であるFSISは、残留化学物質の規制や適正な試験を実施しておらず、結果意的に有害な殺虫剤、動物用抗生物質および重金属を含有する牛肉を市場での販売を許容している。すなわち、残留化学物質の試験プログラムである“NRP”は商業ベースで流通する食品に含有する危険物質をモニタリングするという任務を達成しておらず、結果としてそのような食肉を食べる一般大衆の健康への懸念が増加している。

 米国の牛肉の安全性検査プログラムは農務省食品検査局が運営しており、その検査はサルモネラ菌や大腸菌(E.coil)といった菌などの危険なものがないかといった検査に適合した形で行われている。

 しかし、その他の検査プログラムは環境保護庁(EPA)や食品安全検査局(FDA)からの支援で行われているが、EPAは殺虫剤や他の汚染物質の人体への許容レベルを設定し、またFDAは抗生物質や他の薬剤に係る許容レベルを設定する。

 すなわち、OGIはFSISにとってEPAやFDAの規制設定基準は十分に補完していないと結論付け、OGIはFSISに対し報告書第1節においてこれらの現行のNRPの再構築にかかる7項目の改善勧告を行った(FSIS, FDA, and EPA Need to Reestablish the National Residue Program)(報告書11~27頁参照)

 これに対し、FSISは3月2日付けで各改善勧告に対し回答(FOOD SAFETY AND INSPECTION SERVICE RESPONSE TO AUDIT REPORT)を提出した(報告書44頁以下)。
 その内容は、FSISは連邦保健福祉省食品安全検査局(HHS/FDA)とEPAの執行幹部や上級職員との会合において、3つの政府機関の間の了解覚書(MOU)の内容に即した内容のガイドラインの確立を計画的に試みるというものである。すなわち、 FSISはNational Residue ProgramにおけるFDA、およびEPAに対するFSISの取組みに関する1984MOUを見直して、改訂・更新を行う。 FSIS内部の決裁の後に、FSISは彼らのコメントとともにFDAとEPAとこれらの改正内容を共有する。 見直しされたガイドライン文書は協力的な定期的検査に関する文言を含むものとなる。

 すなわち、取扱量が大量である牛肉の検査において、危険度が高い殺虫剤や抗生物質と同一視することは結果において危険を封じ込める点で無力化してしまう。
 例えば、2008年メキシコの牛肉検査当局は銅の含有量が基準以上のため米国産の牛肉の出荷を拒否した。しかし、米国では安全基準となるものがなく、FSISは牛肉の製造業者が拒否された牛肉を他へ転売するのを阻止するうえで根拠がなかった。

 また農作物から流れ出た殺虫剤が牛の飲み水となるなど封じ込めは不十分である抗生物質や他の汚染物質が、しばしは農耕における化学物質の使用とリンクする。OGIは、例えば牧場主は薬を投与した牛のミルクを子牛にあてるため子牛はより高濃度の残留抗生物質がある。抗生物質の濫用は病気に対する耐性菌を作り出す原因となる。

 これらにつき、全米肉牛生産者・牛肉協会(the National Cattlemen's Beef Association:NCBA)のスポークスマンは牛肉生産者は残留殺虫剤や抗生物質の安全性については産業界や政府機関と協力して厳格な安全対策をうっていると述べている。

 しかし、連邦議会下院ルイス・スローター議員(Louise Slaughter)(ニューヨーク選出:民主党)は、今回のOGI報告は家畜に対する抗生物質の使用に関しいくつかの明確な制限を設けるよう議会による迅速な行動が必要であることを指し示しており、同議員が提案する7つのタイプの抗生物質を牧場で無差別に飼料に使用することの規制法案につき100人以上の議会の共同上程者(co-sponsors)がいると述べている。

(3)食肉の化学的残留物・薬品により潜在的に発症するであろう人体への副作用
OGI報告は、次のようなリストを紹介している。
①フルニキシン(flunixin)(筆者注3):便潜血(fecal blood)、胃潰瘍(gastrointestinal ulcers)および腎臓壊死(renal necrosis)

②ペニシリン(penicillin):生命に危害を及ぼすであろうアレルギー反応、神経障害(nerve damage)、結腸の重度炎症(severe inflammation of the colon)、唇、舌または顔の腫れ、出血、下痢(diarrhea)

③砒素(arsenic):非悪性の皮膚病、皮膚病、内臓悪性腫瘍(internal malignancy)、血管系疾患(vascular diseases)、高血圧(hypertension)

④銅(copper):溶血(血球破壊)(hemolysis)、黄疸(jaundice)、脂質プロファイル(lipid profile)の変化、酸化的ストレス(oxidative stress)、腎機能障害や死(renal dysfunction and death)

⑤イベルメクチン:寄生虫用剤(ivermectin):神経または神経細胞の中毒
*********************************************************************
(筆者注3) 「フルニキシン」は牛、豚の細菌性肺炎における解熱および消炎、馬における運動器疾患に伴う炎症および痺痛の緩和、症痛時の鎮痛剤(は非ステロイド性抗炎症薬)
平成21年3月23日付けで、衛生審議会食品衛生分科会 農薬・動物用医薬品部会報告は「平成21年2月2日付け厚生労働省発食安第0202009号をもって諮問された食品衛生法(昭和22年法律第233号)第11条第1項の規定に基づくフルニキシンに係る食品規格(食品中の動物用医薬品の残留基準)の設定について、当部会で審議を行った結果をとおり取りまとめ報告している。

[参照URL]
http://www.usatoday.com/news/washington/2010-04-12-tainted-meat_N.htm?csp=DailyBriefing(USA TDAYの記事)
http://www.asahi.com/politics/update/0408/TKY201004080334.html(日米BSEの協議再開の記事)

https://www.usda.gov/sites/default/files/24601-08-KC.pdf (連邦農務省の監察総監室(OGI)報告書)

https://www.americanmeat.jp/trd/safety/index.html#beef
(米国食肉輸出連合会の「米国における食肉の安全性管理システム」の解説)

***********************************************************************************

Copyright © 2006-2010 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.No reduction or republication without permission.


コメント

このブログの人気の投稿

ウクライナ共同捜査チームの国家当局が米国司法省との了解覚書(MoU)に署名:このMoU は、JIT 加盟国と米国の間のそれぞれの調査と起訴における調整を正式化、促進させる

  欧州司法協力機構(Eurojust) がウクライナを支援する共同捜査チーム (Ukraine joint investigation team : JIT) に参加している 7 か国の国家当局は、ウクライナで犯された疑いのある中核的な国際犯罪について、米国司法省との間で了解覚書 (以下、MoU) に署名した。この MoU は、ウクライナでの戦争に関連するそれぞれの調査において、JIT パートナー国と米国当局との間の調整を強化する。  このMoU は 3 月 3 日(金)に、7 つの JIT パートナー国の検察当局のハイレベル代表者と米国連邦司法長官メリック B. ガーランド(Merrick B. Garland)によって署名された。  筆者は 2022年9月23日のブログ 「ロシア連邦のウクライナ軍事進攻にかかる各国の制裁の内容、国際機関やEU機関の取組等から見た有効性を検証する!(その3完)」の中で国際刑事裁判所 (ICC)の主任検察官、Karim A.A. Khan QC氏 の声明内容等を紹介した。  以下で Eurojustのリリース文 を補足しながら仮訳する。 President Volodymyr Zelenskiy and ICC Prosecutor Karim A. A. Khan QC(ロイター通信から引用) 1.ウクライナでのJITメンバーと米国が覚書に署名  (ウクライナ)のICC検事総長室内の模様;MoU署名時   中央が米国ガーランド司法長官、右手がICCの主任検察官、Karim A.A. Khan QC氏  MoUの調印について、 Eurojust のラディスラフ・ハムラン(Ladislav Hamran)執行委員会・委員長 は次のように述べている。我々は野心のために団結する一方で、努力においても協調する必要がある。それこそまさに、この覚書が私たちの達成に役立つものである。JIT パートナー国と米国は、協力の恩恵を十分に享受するために、Eurojustの継続的な支援に頼ることができる。  米国司法長官のメリック B. ガーランド(Merrick B. Garland)氏は「米国が 7 つの JIT メンバー国全員と覚書に署名する最初の国になることを嬉しく思う。この歴史的な了解覚書は...

米国連邦取引委員会(FTC)が健康製品に関する新しい拡大コンプライアンスガイダンスを発行

   2022年12月20日、米国連邦取引委員会(以下、FTCという)は、以前の 1998年のガイダンスである栄養補助食品:業界向け広告ガイド(全32頁) を改定および置き換える 健康製品等コンプライアンスガイダンス の発行を 発表 した。 Libbie Canter氏 Laura Kim氏  筆者の手元に Covington & Burling LLPの解説記事 が届いた。筆者はLibbie Canter氏、Laura Kim氏他である。日頃、わが国の各種メディア、SNS、 チラシ等健康製品に関する広告があふれている一方で、わが国の広告規制は一体どうなっているかと疑うことが多い。  FTCの対応は、時宜を得たものであり、取り急ぎ補足を加え、 解説記事 を仮訳して紹介するものである。 1.改定健康製品コンプライアンスガイダンスの意義  FTCは、ガイドの基本的な内容はほとんど変更されていないと述べているが、このガイダンスは、以前のガイダンスの範囲につき栄養補助食品を超えて拡大し、食品、市販薬、デバイス、健康アプリ、診断テストなど、すべての健康関連製品に関する主張を広く含めている。今回改定されたガイダンスでは、1998年以降にFTCが提起した多数の法執行措置から引き出された「主要なコンプライアンス・ポイント」を強調し、① 広告側の主張の解釈、②立証 、 その他の広告問題 などのトピックに関連する関連する例について具体的に説明している。 (1) 広告側の主張の特定と広告の意味の解釈  改定されたガイダンスでは、まず、広告主の明示的主張と黙示的主張の違いを含め、主張の識別方法と解釈方法について説明する。改定ガイダンスでは、広告の言い回しとコンテキストが、製品が病気の治療に有益であることを暗示する可能性があることを強調しており、広告に病気への明示的な言及が含まれていない場合でも、広告主は有能で信頼できる科学的証拠で暗黙の主張を立証できる必要がある。  さらに、改定されたガイダンスでは、広告主が適格な情報を開示することが予想される場合の例が示されている(商品が人口のごく一部をターゲットにしている場合や、潜在的に深刻なリスクが含まれている場合など)。  欺瞞やだましを避けるために適格な情報が必要な場合、改定されたガイダンスには、その適格...

米ノースカロライナ州アッシュビルの被告男性(70歳)、2,200万ドルのポンジ・スキーム(いわゆる「ねずみ講」)等を画策、実施した罪で17.5年の拘禁刑や1,700万ドル以上の賠償金判決

被告 Hal H. Brown Jr. 7 月 10 日付けで米連邦司法省・ノースカロライナ西部地区連邦検事局の リリース   が筆者の手元に届いた。 その内容は「 ノースカロライナ州アッシュビル住の被告男性 (Hal H. Brown Jr., 70 歳 ) は、 2,200 万ドル ( 約 23 億 5,400 万円 ) のポンジ・スキーム (Ponzi scheme : いわゆる「ねずみ講」 ) 等を画策、実施した罪で 17.5 年の拘禁刑 や 1,700 万ドル ( 約 18 億 1,900 万円 ) 以上の賠償金 の判決 を受けた。被告は定年またはそれに近い人を含む 60 人以上の犠牲者から金をだまし取ったとする裁判結果」というものである。 筆者は同裁判の被害額の大きさだけでなく、 1) この裁判は本年 1 月 21 日に被告が有罪を認め判決が出ているのにかかわらず、今時点で再度判決が出された利用は如何、さらに、 2)Ponzi scheme や取引マネー・ローンダリング (Transactional Money Laundering) の適用条文や量刑の根拠は如何という点についても同時に調査した。 特に不正資金の洗浄運び屋犯罪 (Money Mules) の種類 ( 注 1) の相違点につき詳細などを検証した。 さらに裁判官の連邦量刑ガイドラインや具体的犯罪の適用条文等の判断根拠などについても必要な範囲で専門レポートも参照した。 これらについて詳細に解析したものは、米国のローファームの専門記事でも意外と少なく、連邦検事局のリリース自体も言及していなかった。 他方、わが国のねずみ講の規制・取締法は如何、「ネズミ講」と「マルチ商法」の差は如何についてもその根拠法も含め簡単に論じる。いうまでもないが、ネズミ講の手口構成は金融犯罪に欠くべからざるものである。高齢者を狙うのは振込詐欺だけでなく、詐欺師たちは組織的にかつ合法的な似非ビジネスを模倣して、投資をはじめ儲け話しや貴金属ビジネスなどあらゆる違法な手口を用いている。 ( 注 2) 取締強化の観点からも、わが国の法執行機関のさらなる研究と具体的取り組みを期待したい。なお、筆者は 9 年前の 2011.8.16 に...