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英国FSAが銀行等のインサーダー取引規制のため通話内容の記録対象を携帯電話等への拡大案意見公募

  

Last Updated: Feburary 28,2021

 英国金融サービス庁(FSA)は、3月19日に銀行や証券会社の役職員等によるインサーダー取引等の情報悪用(市場詐欺)による不正取引を規制するための通話内容の記録保存義務対象を携帯電話会社や移動体通信に拡大する規則案をとりまとめ、2010年6月14日を期限とする意見の公募を行った。

 今回のFSAの規制強化は、2009年3月に施行された「音声および電子通信内容の6か月間の記録を義務付ける規則“the taping rules”(PS 08/1)」の適用拡大を前提にしたものであるが、同規則は携帯電話やE-mailは技術的な観点から適用除外としていた。

 筆者はこれらの一連のFSAの動きの背景から改めて見直してみた。英国のメディアがほとんど言及していないEUの「証券市場の情報開示に関する法令整備」の流れから正確に理解していないと今回の規制強化の意味が理解できないことが明らかとなった。

 今回のブログは、このような理由から一連のEUの対応を紹介しながら、英国FSAの取組みを述べてみたい。

 なお、わが国の金融庁や証券等監視委員会のこの問題に関する取組みはいかがであろうか。機会を改めて述べたい。

1.EUにおける証券市場規制に関する法令整備
(1)EUの1999年5月11日「金融サービス行動計画(Financial Services Action Plan:FSAP」 の策定
 FSAPは、もともとは1997 年の欧州市場統合の総括評価を行った欧州委員会の報告書『単一市場レビュー』の指摘を受けて金融サービス部門全分野における残存障害の除去を目指したものであり、ユーロの導入に伴い、その利益を最大限に引き出すために2002 年の現金(貨幣としてのユーロ)導入までにその実施を目指すものとされた。FSAP の戦略目標は、①単一卸売市場の完成、②小売金融サービスのためのオープンで安全な市場の構築、③EU 金融市場の継続的な安定性の確保、であった。
 また、欧州委員会は、FSAP を引き継ぐ2005 年12 月5 日にEUの以降5 年間の新たな金融サービス戦略となる「金融サービス政策白書2005-2010」(WHITE PAPER Financial Service Policy 2005-2010)を発表した。(筆者注)

 同白書(全16頁)において新たな金融サービス戦略の狙いは次のとおりまとめられている。
①金融サービスのダイナミックな統合(Dynamic Consolidation of Financial Services)
②よりよい規制に向けて(Better Regulation)
・開放的で透明な諮問(Open and transparent consultation)
・効果の査定(Impact assessments)
・措置の履行と法施行(Implementation and enforcement)
・事後評価(Ex-post evaluation)
・単一化、成文化、明瞭化(Simplification, codification and clarification)
・金融サービスの利用者:情報の入力、教育、是正(Users of financial services: input, education and redress)
・他の政策分野との交流の一段の強化(Further reinforcing the interaction with other policy areas)
③EC の規制および監督機構の権限の確保(Ensuring the right EC regulatory and supervisory structures)
④2005年から2010年の現在進行中および将来に向けた立法活動(Ongoing and Future Legislative Activities (2005-2010)

(3)2002年7月19日「国際会計基準(IAS)採用に関する規則(EC regulation on R the application of international accounting standards(EC regulation No 1606/2002)」を採択 

(4)2003年1月28日「インサイダー取引および市場詐害行為(market abuse)の規制に関する指令(Directive on insider dealing and market manipulation (market abuse)( Directive 2003/6/EC)」を採択。2005年7月1日施行。

(5)2003年11月4日「目論見書指令(Directive on the prospectus to be published when securities are offered to the public or admitted to trading
and amending Directive 2001/34/EC)( Directive 2003/71/EC)」
を採択。
EU域内企業の証券公募や上場内容の開示に関する指令である。

(6)2004年12月15日「上場証券の発行者についての情報の透明性に関する指令(Directive on the harmonisation of transparency requirements in relation to information about issuers whose securities are admitted to trading on a regulated market and amending Directive 2001/34/EC (Directive 2004/109/EC) 」を採択。
上場企業の定期的な開示に係る指令である。

2.英国の対応
(1)2005年3月22日、FSAは前記1(4)のMarket Abuse 指令(インサイダー取引および市場詐害行為(market abuse)の規制に関する指令( Directive 2003/6/EC))を受けた国内法化規則の最終規則策定とそのガイダンスを公表した。
 同規則の具体的な内容は次のとおりである。

A.インサイダー・リストの作成
 証券発行者およびそのアドバイザーは内部情報にアクセスできる人に関し次のリスト情報の保持が義務付けられた。
①管理者の取扱の公開:発行者にかわり管理責任を負うもの(マネージャー)は発行者の株式取引および関係する全金融派生取引の詳細につき開示が義務化される。(従来のデレクターの開示に的を絞ったもので旧来の英国のインサイダー規制運用の拡大となる)。

②疑わしい取引の報告:取引の取りまとめ会社は、市場詐害行為が行われたと合理的な疑いうるときはFSAに報告を行わねばならない。

③調査結果の開示:証券市場調査会社は、調査源データおよびその方法ならびに調査に影響する利害の対立につき情報の開示が義務化された。

B.新制度の下でのEU指令(2003/6/EC)に基づき、範囲と適用に関し次の変更が生じた。
①インサーダー情報による詐害行為:同指令は犯罪行為の定義において「明確、非公開かつ金融商品の価格に重大な影響を与える」情報としており、これを準用した。なお旧規定にある詐欺行為の定義中「一般に利用可能でない関連情報(relevant information not generally avoilable:RINGA)」については、従来の規制範囲を狭めることを避けるため存続した。

②市場操作(market manipulation):従来の情報誤用および市場のゆがみの犯罪定義に替えて「市場操作」と言う指令で特定した定義を導入した。

③インサイダー情報の開示:証券発行者は旧来のリスト規則の第8章に定める義務に替えて可能な限り早期に内部インサイド情報を開示しなくてはならない。

(2) 2008年3月3日、FSAの「電話通話録音およびその他電子通信記録の義務化規則PS 08/1 (当局の政策の具体化声明policy statement)」の制定
 新規則により2009年3月から株式、債券や金融派生商品に関する顧客との取引の結果について会社は通話内容や電子的通信内容をすべて記録することが義務化された。なお、taping rulesの改正に対応しFSAは「融業者による勧誘・販売、取引、顧客資産の管理等について定めた業務行為規約(Conduct of Business Sourcebook)の11.7の次に11.8を追加した。

 なお、携帯電話の通話記録の保存は技術的な理由から除外されたが18か月以内に見直すこととされた。また、一任勘定の投資マネージャーについては通話内容や電子記録の義務化は除外された。

(3) FSAは2009年12月に例外規定の見直しに関し技術提供会社、関係業界団体、経済コンサルタントと技術面や費用面の協議を踏まえ携帯電話の通話内容の記録に拡大することの実現可能性につき検討を行った。

(4)2010年3月19日、FSAは「通話内容の記録保存義務対象を携帯電話会社や移動体通信に拡大する規則案( Taping: Removing the mobile phone exemption)」をとりまとめ、2010年6月14日を期限とする意見の公募を行った。
 FSAは、今回の範囲拡大は会社が業務上の使用目的で交付した携帯電話等の通信内容が対象であり、私用に関するためプライバシー法に基づき記録し得ない私用通話については記録しないよう企業に適切な措置を取るよう働きかけるような案となっている。
 また、同規則の実施については1年の経過期間を設ける予定である。

(筆者注) 日本証券経済研究所 大橋 善晃 「EU の新たな金融サービス政策」から抜粋した上で公開資料原本に基づき訳語の見直し、補筆を行った。

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【追加注】Feburary 28.2021更新

2012 年金融サービス法(Financial Services Act 2012)2010 年に発足したキャメロン新政権は、金融行政の枠組みを再編することを決定し、FSA に代わり、3 つの機関、つまり、金融行為監督機構(Financial Conduct Authority、以下「FCA」という)、健全性監督機構(Prudential Regulation Authority、以下「PRA」という)および金融監督政策委員会(Financial Policy Committee、以下「FPC」という)を発足させた。FPC は、イングランド銀行傘下にあり、金融安定の責任を負う。これらの監督体制の変更は 2012 年金融サービス法(Financial Services Act 2012)により行われ、2013 年 4 月 1 日に新たな枠組みが成立した。この監督体制は「ツイン・ピークス(Twin Peaks)・モデル」とよばれている。

有限責任監査法人トーマツ「主 要 国 ・ 地 域 の 運 用 業 規 制 に 関 す る調 査 研 究 に つ い て の 報 告 書」84頁から抜粋、引用した。なお、84頁の図は原典であるFCA Business Plan 2013/14の38頁とあるが、正しくは58頁である。

 

さらに、筆者が気になった点は、FCAを金融行為規制機構(わが国の金融庁)、金融行為監督機構とする訳語である。

FCAサイトは、次のような説明を行っている。FCAは、(1)消費者が公正な取引を得られるように適切な保護、(2) 市場の完全性の強化、(3)消費者保護のための競争の推進 の3本柱で説明している。このような点から見て筆者はFCAの訳語はかなり意訳ではあるが、「消費保護・競争促進および金融市場完全化監督機構」という訳語を行った。

また、この金融監督制度改革に伴い、FCAウェブサイトの引き継ぎに関する解説を以下、引用する。

金融サービス庁(FSA)のウェブサイトは、金融行動庁(FCA)プルデンシャル規制当局(PRA)が設立されたため2013年以来更新されていない。2019年5月、FSAのウェブサイトは継続停止となったが、一部のリンクはリダイレクトされた。

FSA コンテンツは、国立 Web アーカイブfsa.gov.uk サイトからアクセスできる。FSA メニューから、検索バーを使用するのではなく、直接ドキュメントを検索されたい。ほとんどの出版物は「FSAライブラリ」にある。

[参照URL]
http://www.fsa.gov.uk/pubs/cp/cp10_07.pdf(2010年3月19日付けFSAのコンサルテング・ペーパー:CP10/7)

http://www.fsa.gov.uk/pubs/cp/cp10_07_newsletter.pdf(CP10/7のニュース・リリース)
http://europa.eu/legislation_summaries/internal_market/single_market_services/financial_services_general_framework/l24210_en.htm(FSAP)
(EU「インサイダー取引および市場詐害行為の規制に関する指令( Directive 2003/6/EC)」)

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