C.「行政オンブズマン」事務局
カナダでは連邦法に基づく単一機関ではなく、7つの地方州単位で州政府や公的機関の監視や地域住民からの苦情を受付け、調査や和解交渉を行う議会を支援する独立「行政オンブズマン」事務局が州など地区ごとの法律に基づき設置されている。例えば、ブリティッシュコロンビア州オンブズマン(Ombudsperson)(2021年3月現在のOmbuspersonは)ジェイ・チョルク(Jay Chalke)氏(筆者18-2)で、“Ombudsperson Act[RSBC 1996]”がその権限や活動の根拠法である。プライバシー委員はこれらの「行政オンブズマン」事務局との共同的調査活動も行う。
Jay Chalke 氏
(2)ギリシャの例:
2009年5月11日、ギリシャ個人情報保護委員会(Hellenic Data Protection Authority:HDPA:Αρχή προστασίας δεδομένων προσωπικού χαρακτήρα(筆者注18-3)(委員Konstantinos Menoudakos)氏はGoogleおよびギリシャでの同サービスの関連会社である“kaupou.gr”に関し、許可条件文書を発した。
Konstantinos Menoudakos 氏
同委員会はギリシャ憲法上独立性が保証された機関 (筆者注19)で、「1997年個人情報の取扱いに係る個人の保護に関する法律(Law 2472/1997)」および2002年のEU指令(個人情報の処理と電子通信部門におけるプライバシーの保護に関する欧州議会及び理事会(2002年7月12日)の指令(2002/58/EC)」に基づき2006年に改正された「1997年法律2472の改正および電気通信分野における個人情報保護とプライバシーに関する法律(3471/2006)」に基づく保護機関である。
許可文書の内容について概要を記すが、EUの大国以上に具体的でかつ厳しい内容を含むものである。
「HDPAは、通知内容を検討し、「保護指令第29条専門調査委員会」の見方を考慮に入れた後に、特定のサービスが個人的なデータを保有や収集がギリシャの領土に合致した手段によって行われるように、処理の合法的を判断することが有効であると判断した。
その結果、HDPAはGoogle等による追加的明確化要件の承認後まで合法性の決定権を留保し、それまでは写真の収集の開始は許可しないこととした。 特に追加的に要求する事項の内容は次のとおりである。
①ギリシャ国内でのGoogleの代理権者の指名通知およびサービス提供エリアの明確化に関し、ギリシャ国内に設立した関連会社の役割の明確化を実行すること。
②サービスの特性および情報主体の権利に関する適切かつ十分な情報を提供すること。専用撮影車であることの表示のみでは情報主体に知らせる適切かつ十分な手段とはいえない
③機微個人情報が漏洩されるかもしれない地域の写真を撮ることを避けるために、実施する具体的対策に関して報告すること。
④ぼかし処理前の原画像の保有期間の十分な正当性および保有目的や保管の必要性について、これらのデータの可能な受取人のカテゴリーを決定すること。
⑤定期的なセキュリティや情報保護監査を専門的監査会社により行うこと。
Googleのギリシア内の関連会社であるKapou.Ltd.によって提供される同等のサービスに関して、当分の間、HDPAはテッサロニキ(Thessalonica)(世界遺産) 、アテネとトリカラ(Trikala)において、法律に従った義務的な通知を提出するとともに有効に個人情報を保護する対策を実施するため、通過する人々の確認できる顔、車のナンバー・プレートのぼかし処理など適切な処理を行い、同処理が完了するまではGoogleに要請したのと同様、一般公開は禁止する」
(3)英国の例:
2009年4月3日付けの英国のメディア(TimesOnline)は、バッキンガムシャー州の村でGoogleの撮影専用車が村人の人の鎖により撮影阻止が始まり、警察がその間に入ったため撮影車は村人に屈したと報道している。
英国の例では撮影車が 警官に不審車扱いにされている写真が公開されている。
ところで英国のWatchdogである英国情報保護委員事務局(Information Commissioner’s Office:ICO)はどのような意見・対応を行っているのか。
2009年3月30日および4月23日にICOが後述する英国の人権保護団体“Privacy International”の意見書に対する回答を行っている。
4月23日の要旨は次のとおりであるが一般常識論に終始しており、後記ローファームの見解と同様、リスク・アセスメントの重要性やプライバシー権の基本が理解できていないように感じたのは筆者だけではなかろう。
「ICOは、人々のプライバシーを保護するためにこれらのイメージをぼかす重要性を強調した。 Googleは、現在行っているように、すばやく削除要求と苦情に応じなければならない。 ICOは、このことが実際に実践され続けているのを確実にするために緊密に監視する。しかしながら、Googleのストリートビューが画面に掲載されることが即保護法には違反しないと考える。テレビのニュースを見て欲しい。そうすれば、人々が通りでレポーターの前を通り過ぎているのを見るであろう。これらについて本人は同意していない。
2008年7月に、ICOはストリートビューがどのように実行されるだろうかについて議論するためにGoogleに説明を求めた。 ICOは、主体者個人が不満に思う写真を報告するよう手続の重要性を強調して、Googleが人々のプライバシーへの不当な侵入を避けるために適切な安全装置を適所に置いていたことに満足した。
ICOはGoogleのストリートビューに関して多くの苦情と調査を受けた。 これらは彼らの写真がストリートビューにあることが不幸と思う人々を含んでいる。要するにICOとしては一般論ではなく、Googleが問題の多い写真の除去を適格に行っていない感じる個人によって提起された具体的問題には手を打つつもりである。」
なお、英国の大手法律事務所のサイト“OUT-LAW news”で各国の監視機関の対応記事を読んだ。感情論はいけないという指摘については、果たして法的な意味で曖昧のままでよいのか、そこでの指摘には筆者自身大いに疑問が残る。
Original Date December 7,2009
(4)ドイツの例
“Spiegel Online”の記事やドイツ連邦データ保護・情報自由化委員(Bfdi) (ペーター・シャール:Peter Schaar )氏や州(länd) データ保護・情報自由化委員 (筆者注20)のサイトでドイツのWatchdogの取組み状況を確認したが、スイスの連邦情報保護委員のような裁判所への提訴といった明確な法的規制活動は行っていないようである(連邦情報保護法(BDSG)により連邦保護委員の権限自体が連邦機関の監督であることが最大の理由であろう。後述するハンブルグ州の保護委員のコメントでも同様である)。
Peter Schaar氏
一方、ハンブルグ州のデータ保護・情報自由化委員ヨハネス・カスパー氏(Johannes Caspar) (筆者注21)は、Googleとの交渉によりおそらく世界で初めてのケースとなるであろう、顔、財産や車のナンバーの削除要求に応じる際、ぼかし修正前の「原画像データ(Rohdaten)」を削除することなどにつき合意した。 (筆者注22)

この合意について、ハンブルグ州の委員サイトでは次のとおり解説するとともに、同委員はデータ主体の自己決定権や情報開示請求権等につきドイツにおける新たな立法措置等に言及する発言も行っており、併せて紹介する。
「2009年6月17日、Googleはストリートビュー・サービスに係るハンブルグ州保護委員の要求を受け入れることに合意した。本日、同社がすでに保有する個人、財産および乗物に関する写真の「原画像データ」は永久に削除される。さらに、Googleは委員が指摘したデータ主体の削除権および市町村への書面による事前通知につき迅速に対応することとなった。
ヨハネス・カスパー委員は、今回の合意を歓迎して次のとおり語っている。
「Googleがタイミングよく以前からの論争問題に関し、原画像データの削除等我々が要求したすべての妥協案につき明確な発言を行ったことを歓迎する。我々は現時点で限定的効果しか期待できない法的手段は無視する。しかし、緊密なモニタリングを行い、時期を見て我々は適切かつタイミングを見て具体的取組み方につき検討することとなろう。Google本社のある米国の保護監督機関の反対の見解にもかかわらず、我々は適切にデータ処理が行われていないと強く信ずる。今後、Googleはサービスの中止や原画像データに関するぼかしの技術面や組織面の安全対策の記述に関する訴訟による反対手続等についての包括的文書を作成する旨保証している。
ドイツの連邦保護委員は、Googleに対しどのような法的手段が可能かとりわけ法執行力のある手段が可能かと言うぎりぎりの要求は避けた。ストリートビュー・サービスは世界的なデジタル・ネットワーク社会にとって優れた方法であるとする議論は、ドイツ連邦情報保護法(BDSG)に基づく1世紀前のホコリをかぶった道具立てであり有効性に欠ける。
将来的には自分の情報について自己決定権を保護するための効果的かつ法執行力をもつ立法措置が必要であり、そのような問題は情報保護機関が不適切な情報収集や手続について禁止命令が出せない全体として不十分な現在の法的状況に適用されるべきであり、本委員はこの立法議論にすすんで参加するつもりである。」
(5)フランスの例
フランスの公的個人情報監視Watchdogである“CNIL(La Commission nationale de l’informatique et des libertés)” (略すときの呼び方は「クニル」である)はストリートビュー・サービス開始に対し、どのように対応しているか。
2008年7月3日、CNILはフランスのストリートビュー・サービス開始の情報とその開始に当り顔やナンバープレートのぼかし措置や利用方法を特集したサイトを立上げ、プライバシーや個人情報保護法等から見た基本的問題点やぼかし処理に関し、信頼性は100%ではないとの技術的課題を簡単に解説している。
そこではフランスでのサービス開始のきっかけは「ツール・ド・フランス」参加者にコース上の「大きな曲がり角(grande boucle)」の効率的な確認情報を提供することであると説明している。
また、2009年8月3日には引続き個人からの苦情が届いていることや、最近パリ、リールやオンフルール(Honfleur)において三輪自転車による撮影が始められており、これらは車が入れない場所での撮影用に使用されているとの情報を提供している。その他、Google画面上での公開拒否手続等について説明している。
なお、スイスのような法的保護措置の可能性についてCNILサイトでの情報はなかった。
(6)国際的な人権保護団体の意見書等
英国“Privacy International”(筆者注22-2)やオーストラリア“Australian Privacy Foundation(AFP)”(筆者22-3)といった保護団体における独自の取組み内容について簡単に説明しておく。なお、米国の代表的人権擁護団体である“EPIC”や“CDT”のサイトではストリートビュー・サービスの問題を正面からとりあげていない。いつもこのような問題にはまずとびつくのにどうしたのか。
A.Privacy International
2009年3月23日付けで英国情報保護委員事務局(Information Commissioner’s Office:ICO)宛ストリートビュー・システムのぼかし技術の確実性に関する「苦情申立書」を提出している。Privacy InternationalとGoogleは2008年5月に顔やナンバープレートのぼかし技術に関する確認書簡の交換を行っており、その不実行についての説明が主たる内容である。特に英国の「2008年改訂CCTV Code of Practice(監視カメラ実施規範)」違反問題や身体的な不具合をもつ人々の人権保護等についても言及しており、わが国の検討において参考となろう。(筆者注22-4)
B.Australian Privacy Foundation(APF)
2008年8月に“APF Policy Statement re Google StreetView”を再度公表している。 ストリートビュー・サービスは同月オーストラリアで開始されたが、撮影や公開されることによる各種リスクを踏まえ、通常行われるべき「リスク・アセスメント」をGoogleは的確に行っていないとする内容で、2008年5月に行った予備政策綱領(preliminary policy statement)を正式にまとめあげている。項目のみあげておく。(APFのGoogle StreeView専用サイト参照)
「サービス開始直後であり、Googleオーストラリアの努力にもかかわらず、いくつかの具体的重要な懸念が明らかとなった。
①The Difficulty of Finding Where to Report a Problem:特定性で問題のある
箇所の指摘にかかるヘルプ画面の内容や手続きがわかりにくい。
②The Lack of a Complaints Channel:適切な苦情窓口の欠如
③The Lack of a Privacy Policy Statement(Googleのプライバシー・ステイトメントはあるがGoogle Mapについては存在しない)
④The Lack of Formal Undertakings by the Company:大企業としてのオーストラリア「競争取引および消費者保護法(TRADE PRACTICES ACT 1974)」第52条、第59条)等的確な法運用と遵守姿勢に欠ける)」 (筆者注23)
なお、オーストラリアの「連邦競争・消費者保護委員会(Australian Competition & Consumer Commission:ACCC)」は同法に基づく公的Watchdogである。 (筆者注24)
3.わが国でGoogleのストリート・ビューに適用できるプライバシー保護等に関する規制法問題
筆者自身、実際“Google マップ”の「ストリート・ビュー」で自宅の写真を調べてみた。わが家は一応一戸建てであるが、自分で歩いて町並み散歩している感覚で写真が見れる。問題となっている特定情報のぼかしの程度を見てみた。カースペースにある車(当然、中古のおんぼろ車)のナンバー・プレートや表札の文字は判読不可である。しかし、車の専門家であれば車種や年型を判断することは容易であろうし、自治会の案内図 (筆者注25)や市役所の公的地図と合わせて確認すれば個人の家の特定は可能である。
いずれにしても、Googleが地図情報とりわけ市街地ではない住宅地を対象とした概観写真サービスの意図する本当の目的は何か。単なるのぞき行為とどこが異なるのか(単なるのぞきなら映像は犯人の脳やカメラのメモリーにしか残らないが、Googleは世界中の人が見ることができるし、特に悪意をもった人間が見た時の反応は誰でも予想できよう)。
また、Googleは特に公道からの撮影で私有地に無断で入っての撮影ではない点を主張している。しかし、写真を見ると単に車内からの撮影だけでなく2.75メートルの位置から撮影している。実際はGoogle専用車の表示をつけた車で撮影を行っている。
これらの問題について、わが国ではいわゆるプライバシー法の専門家による分析を読んだ記憶がない。以下、筆者なりに問題点を整理する意味で具体的な疑問点をあげておく。なお“atwiki”でGoogleの行為の違法性を問うために法的観点から問題を整理しており読んだが、明らかに説明や分析が不足している。 (筆者注26)
(1)軽犯罪法23条1条23号
「正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見る行為」があたる。Googleの写真で見ると昼間に撮影しているせいか、さすがに風呂場内が写っているものはなかろう。しかし、後述する牧野二郎弁護士は「同法にいうのぞき見については、単純に1回ののぞき行為を問題としており、機械を設置して記憶装置に記録するという行為形態を予定していないことは明らかであり、こうした営業的なあるいは反復して閲覧可能という光学的記録が違法性において格段の違いがあることはあきらかである。」と指摘する。 (筆者注27)
(2) 刑法130条前段(住居不法侵入罪)
無断で私有地に入れば住居不法侵入罪(正当な理由がないのに、人の住居もしくは人の看守する邸宅、建造物もしくは艦船に侵入し、または要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しないこと)に該当する。しかし、公道やそれに準ずる道路から撮影しているGoogleには適用できないであろう。
住居不法侵入について、Googleは撮影上注意を払っているようである。例えば、筆者の自宅の北側道路は公道とつながった敷地延長地であり、奥の家の写真を正確に撮るためには車を乗り入れるべきであったと思うが、実際は乗り入れていない。全体的に見て住宅地のメイン通りからの撮影で、私道や敷地延長地などには乗り入れていないようである。この結果、データの精度や対象の建物に偏りがある。
さらに、Googleへの申入れに基づき削除は可能 (筆者注28)であり、筆者の近隣でも4~5軒分が完全に抜けているエリアが複数ある(推測であるが、その理由の1つとして考えられるのは「政党ポスター」であり、後日削除したのか初めから撮影しなかったのかは不明である。いずれにしても、Googleはトラブルを回避したものと思う)。
(3)憲法上のプライバシー権侵害
わが国では最高裁判決はあるものの「プライバシー権」の定義そのものが明確に確立されておらず、いまだに多くの解釈論が存在する。
この点について、弁護士の牧野二郎氏がまとまった形で整理 (筆者注28-2)しており、筆者も賛同する点が多いので一部引用・加筆する。
同氏は「多くの法律専門家も明確に説明していない「プライバシー権」と「個人情報保護権」とを峻別し、別々の法律により保護すべきであると主張している(わが国の個人情報保護法は後者の保護法であり、前者を包含するものでない点を明確化している)。
すなわち「プライバシー」とは「内心の自由を含む場所的・空間的私的領域概念」であり、茫漠たる多数の権利を包摂する最も価値の高い部分である。プライバシー権とは、こうした空間に無断で介入することを拒否し、みずからの情報を提供することの可否を決定する権利(自己決定権)を包摂するものである。(その意味で、筆者は公道からの撮影は私的領域を侵していないとするブログ(atwiki)の分析例を批判する。)
一方、「個人情報保護とは、管理されている情報の管理、利用、処分に関する基本的ルール(ガイドライン)であり、個人情報保護法とは、情報管理者規制・規律法である。」
(4)個人情報保護法の「取扱事業者」の該当問題
実際にGoogleマップでストリート・ビューを見ればすぐに気がつくと思われるが、検索したい家や建物の住所さえ分かり入力するだけで、写真は正確にリンクでき、当該家の写真(家の全体像や特に玄関周り)が瞬時に閲覧可となる(まさに、そこがGoogleの同サービスの「売り」である)。
すなわち、同法2条(個人情報の定義)1項「この法律において「個人情報」とは、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう。」および同条2項「この法律において「個人情報データベース等」とは、個人情報を含む情報の集合物であって、次に掲げるものをいう。
一 特定の個人情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したもの」
の適用問題は後述(4.(2))する東京都情報公開・個人情報保護審議会でも指摘されているとおり、Googleが取扱事業者に該当することは間違いなかろう。
(5)都道府県迷惑条例
東京都の「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」(平成16年条例第179号・平成17年4月1日施行)5条1項において、「何人も、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、人を著しくしゆう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。」と定め、卑わい行為の一形態として規制されている盗撮行為について違法性の高い「言動」にあたるとして罰則を強化(1年以下の懲役又は100万円以下の罰金)している。
筆者がGoogleの撮影で見た限りベランダや庭に干してある下着の撮影例はないようであるが、仮にあればあきらかに同条例違反に該当することとなろう。
(6)肖像権
「肖像権」とは、一般的に自己の肖像(写真、絵画、彫刻)をみだりに撮影されたり、使用公表されたりしないプライバシーを守る人格的権利である。
筆者も実際にストリート・ビューを見て気がついた点の1つであるが、家並みの写真のなかに歩いている個人が結構写っている点である。個人を特定できる程度の鮮明度があるいか否かは別として肖像権に違反する危険性はあろう。
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(筆者注18-2)ジェイ・チョルク(Jay Chalke)氏は、経営陣のリーダーシップ、公正かつ独立した調査の実施、紛争解決への最新のアプローチの使用において幅広い経歴を持っている。 2011 年から 2015 年まで、ジェイは法務省司法サービス局を率い、司法サービスの改革を実現し、司法制度全体での対話と協力を促進する責任を負った。つまりジェイ氏は、2015 年 5 月 26 日にブリティッシュ コロンビア州のオンブズパーソンに任命され、任期は 2015 年 7 月 1 日から 6 年間であった。
法務省に任命される前、ジェイ氏は、2000 年から 2011 年までブリティッシュ コロンビア州の初代公的後見人および管財人を務めた。この間、彼は、サービス提供の最新化、利害関係者との連携の改善、説明責任等公共サービスの強化のための永続的な変更の実施に尽力した。 彼はまた、成人の保護に関する条約を交渉したハーグ国際私法会議へのカナダ代表団のメンバーでもあった。(解説から抜粋、仮訳)
(筆者注18-3)ギリシャ個人情報保護委員会 (Αρχή προστασίας δεδομένων προσωπικού χαρακτήρα) は、ギリシャの国家データ保護局である。 アテネに拠点を置き、ギリシャにおけるGDPR対応、「2019年ギリシャ情報保護法」、eプライバシー指令実施法、および個人データ保護に関するその他の規定の施行を担当している。 1997 年に初めて設立され、ギリシャにおける個人データ保護の独立した保護者としての役割は、ギリシャ憲法第 9A 条で憲法上確立されている。(GDPRhubの解説を仮訳)
一連の法改正につき政府官報から抜粋、仮訳する。「2018 年 5 月 25 日以降、EU の主要なデータ保護法は規則 (EU) 2016/679 (EU一般データ保護規則または GDPR) になった。 GDPR は指令 95/46/EC (EUデータ保護指令) を廃止し、EU 加盟国全体でデータ保護法の調和が (完全ではないが) 増加させた。2019 年 8 月 29 日以降、ギリシャの主なデータ保護法は「法律 4624/2019 」となり、EU規則 2016/679 (GDPR) が施行され、指令 (EU) 2016/680 が組み込まれた。( 法律 4624/2019 は、指令 95/46/EC を組み込んだ法律 2472/1997 を廃止した。)
(筆者注19) “authority”を個人情報保護委員会と訳した理由は、そのメンバー構成を見て考えたものである。大学教授、最高裁判事と弁護士からなり代替委員も含め法執行専業機関とは思えないことによる。ギリシャの法的枠組みについては https://www.dpa.gr/en/enimerwtiko/legal_framework/personal_data 参照。
(筆者注21)ハンブルグ州の情報保護委員ヨハネス・カスパー氏の例で、ドイツの保護委員のキャリア特性を見てみる(ハンブルグ保護委員およびハンブルグ大学サイトから引用した。一般的といえるか否かは自信がない)。また同氏が決して憲法や保護法の専門家でない点が面白いし研究材料であろう。
1962年 誕生(現在47歳)
1989年 第一次司法試験合格
1992年 ゲッティゲン大学法学系で博士号取得
1994年 第二次司法試験合格
1995年~1999年 ハンブルグ大学研究部で教育担当
1996年以降 ハンブルグ大学法学部講師
1999年~2000年 航空法(Luftverkehrsrecht)専門弁護士(ハンブルグ、ベルリン)
2000年~2002年 フランクフルトのドイツ国際教育学研究所(Internationale
Pädagogische Forschung in Frankfurt a.M.)で教育法にかかる資金運用と運用部勤務
2002年~2009年 シュレスヴィッヒ・ホルシュタイン州議会の学術公務部長代行
2004年 生涯公務員資格(das Beamtenverhältnis auf Lebenszeit)の任命にもとづき行政部長に指名
2007年以降 ハンブルグ大学法学部非常勤教授(Honorarprofessor)
2009年5月~2021年 ハンブルグ州情報保護・情報自由化委員(現在2期目である)
2024年4月 現在ハンブルグ大学 教授・法学博士
(筆者注22)ドイツにおける州の保護委員は、州や自治体の機関に対する監視だけでなく、州の住民からの苦情・調査要求等に基づき民間企業に対する直接的な監視・監督ならびに改善要請が出来る。(2007年度(財)NEC C&C財団調査研究事業「オーストリア・ドイツ・エストニアにおける電子行政サービスの動向」(2007年11月)14頁参照)
(筆者注22-2)Privacy International は、英国を拠点とする登録慈善団体であり、世界中でプライバシーの権利を擁護し、促進している。 PI は 1990 年に初めて設立され、2002 年に非営利企業として登録され、2012 年に慈善団体として登録され、ロンドンに拠点を置いている。(Wikipwdiaから抜粋)
(筆者注22-3)オーストラリアプライバシー財団は、オーストラリア人のプライバシー権を保護する目的で設立されたNGO。その目的は、オーストラリア人の自由とプライバシーを脅かす新たな問題に世間の注目を集めることであり、個人情報へのアクセスを制御し、過度の侵入から解放される個人の権利を守る問題でも主導的な役割を果たす。(Wikipediaから抜粋)
(筆者注22-4)英国ICOサイトは2014年に2008年改正を踏まえた全面改正のため、CCTV Code of Practiceの公開諮問を含む改定の経緯を解説している。また、2018年には「Data Protection Act 2018」の成立にともない「In the picture: A data protection code of practice for surveillance cameras
and personal information」(全44頁)を作成している。
(筆者注23)オーストラリアの“Trade Practice Act 1974”の訳語を調べてみた。同法は公正競争と消費者保護法として極めて重要な法律であるが、わが国での訳語は「取引業務法」(jetro)「公正取引法」(jetro)「取引慣行法」(公正取引委員会、消費者庁、オーストラリア競争委員会 )等区々である。わが国の消費者庁や公正取引委員会等ともかかわる問題であり、筆者なりに法律の内容を調べてみた。
同法は,競争法規と消費者保護法規の2つの主要部分からなっており、競争・消費者委員会(Australian Competition and Consumer Commission:ACCC)(1995年11月に取引慣行委員会(Trade Practices Commission,1974年創設)と価格監視委員会(Prices Surveillance Authority,1983年創設)の2つの組織が統合されて設立された組織で,連邦法たる取引慣行法および州・準州法たる競争コードの執行面に責任を負う唯一の独立の競争当局)の法執行業務の根拠法である。
そうであるとなら表面的な名称からみると意訳になるが、あえて訳語は「競争取引および消費者保護法」と言ったほうがACCCとの関係も含め正確に理解されると思うがいかがか。(同法を具体的に見ると、競争規制規定が中心であり、消費者保護に関する部分は一部(第5章、6章)であり、内容的に見てわが国の現行法と比較すると「製造物責任法」や「特定商取引に関する法律」等の内容が近い。)
(筆者注24)オーストラリアのACCCの12月5日付ニュースで最近面白いテーマが取り上げられていた。
ACCCは、オーストラリア・アイスホッケー連盟は選手が同連盟が承認しない試合でプレーするのを阻止するというポリシー通知(同ポリシーはレフリーやコーチ陣を含むすべての選手と連盟職員に適用される。)を破棄するよう働きかける勧告通知(案)を発布したというものである。その理由は、①連盟の通知行為はライバルのホッケーリーグが効率よく競争を行う能力を減じさせ、また選手の参入障壁をつくり、アイスホッケー競争機構・管理サービス規定に関し新たな拡大解釈をもたらすこと、②同行為は個人的なリーグ経営者のリンク賃貸や競争能力を制限させるというものである。
(筆者注25) 地図情報と自治会の地図の関係について気になっていたのであるが、筆者自身散歩がてら近隣住宅地の自治会の地図の状況をWatchしてみた。すると最近手当てしたと思われる自治会会員名のみ(番地表示は残してある)とした自治会地図看板を見つけた。上からペンキで塗ってあることから急遽手当てしたものと思われる。ちなみに、わが自治会の地図はそのまま表示されている。前記のような例を集め自治会長に相談せねばと思い帰宅した。
(筆者注26) 「考えられる法的根拠」等にあげられている項目のみ参考とした。
(筆者注27) 筆者は「光学的記録の違法性」以上にストリート・ビューの場合、被写体である本人がまったく撮影の事実を知りうる機会やその「オプト・アウト」権が完全に保証されないまま、世界中に閲覧可能とする営業行為の違法性こそが「場所的・空間的私的領域」を前提とするプライバシー権上問題視すべきであると考える。
(筆者注28) Googleはサイト上で本人による「削除」の具体的方法を説明している。筆者はその説明に則して11月25日午後4時3分に削除要請を行った。即受付済メールが届き、翌26日午前9時過ぎには自宅の周りのビューは不可(画面自体黒く変わり「この画面は都合により公開を停止しています」と表示)と相成った。
この手続自体は決して難しいものではなく、Googleが対外的に説明しているとおりである。ただし、要請者から出された削除理由についてどこまで厳格に運用しているかは不明である。筆者の身元を十分承知しているがゆえの措置かもしれない。気になる読者はまず確認のうえ是非ためされてはいかがか。
(筆者注28-2) プライバシーとは場所的・空間的領域概念であり、茫漠たる多数の権利を包摂する最も価値の高い部分である。プライバシー権とは、こうした空間に無断で介入することを拒否し、みずからの情報を提供することの可否を決定する権利(自己決定権)を包摂するものである。
参考文献 「プライバシーとはなにか」弁護士 牧野二郎
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