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Googleのストリートビューをめぐる海外Watchdog の対応とわが国の法的課題 (その4完)

 4.わが国の国や地方自治体の取組み事例

(1)国の対応

経済産業省がGoogleに対し数回にわたる改善要求を行っている旨のメディア報道(産経新聞)もあるが、筆者自身その根拠が確認できないため無視する。

次に首相官邸サイト「犯罪対策閣僚会議」が2008年12月22日にまとめた「犯罪に強い社会の実現のための行動計画2008 ―『世界一安全な国、日本」の復活を目指して』―」8頁以下を見ておく。

第1 身近な犯罪に強い社会の構築

2 犯罪に強いまちづくりの推進

「③ 道路周辺の映像を表示するサービスに係る防犯対策等の検討:実在する道路周辺の映像をインターネット上で立体的に表示するサービスについて、防犯上の問題点等を検討し、問題点がある場合は、対策について検討する。」

これだけである。なんともコメントのしようがない。

(2)東京都「情報公開・個人情報保護審議会」の「ストリート・ビュー問題」の審議内容

 委員の顔ぶれを見れば中央官庁の審議会とあまり変わらなく、そこでの議論内容はわが国のプライバシー問題や人権問題および消費者保護等に関する専門的議論と解しえよう。(ただし、筆者もそうであるが、一部委員はこの問題が議題となって初めて同サービスについて改めて勉強したことや、わが国の関係する法律から見た違法性については具体的な議論はまったく行われていない点は問題である。法律専門家が中心の会議の割には常識論に終始しており、スイスやカナダの保護委員会による企業告訴など司法活動等に比べインパクトが極めて弱い(欧米の大企業は完全に無視するであろう)。わが国の審議会方式の限界が見える。)

2008年11月と2009年2月の2回にわたり審議している。また、第39回会合ではグーグル株式会社執行役員広報部長の舟橋義人氏とポリシーカウンセルの藤田一夫氏を招いての審議が行われている。

[第38回会合]:平成2008年11月25日(火)開催。第39回会合での第38回審議に関する事務局報告等に基づき、筆者の責任で審議内容を要約する。

①基本的な問題

・サービス提供の目的として、利便性や娯楽性が挙げられているが、日本のような住宅事情や生活環境では公道から撮影されたものであったとしても、プライバシー侵害を引き起こしやすい。
・本人が知らないうちに、そのような映像がインターネットに公開されることの必要性が、サービス提供の目的と比較衡量した場合に、不十分である。(公開の社会的な公益性が明確ではない。)
・個人情報保護法との関係が整理されても、肖像権の侵害などプライバシー侵害については、民事の損害賠償の問題として個々に判断されることになる。
・グーグル社は、「私道からの撮影は行わない」「削除の申し出があれば画像削除する」などの対応は行っている。
・「規制か企業の自由か」と対立的に捉えるのではなく、社会的な合意形成が望ま

れる。そのためには、利便性とプライバシー保護との比較衡量に立った、企業の自主的なプライバシーヘの配慮が求められる。

②プライバシー配慮の具体策

「撮影の事前通知・公表を行ってはどうか」「インターネット公開の時点での事前通知・公表を行ってはどうか」「撮影カメラ位置の高さ(2.5メートル)を再検討してはどうか」「商業地、観光地と住居専用地域の線引きはできないか」などの意見が出された。

③海外の動向

「諸外国の状況」については、「諸外国でも活発に議論されているが、フランスやカナダだけでなく、ドイツのある州は違法宣言をした結果Googleが撤退した例やオプトインを条件に認めるべきとする意見等各国とも意見が二分している。(筆者注29)

④「個人情報保護法の問題」

 「個人情報保護法についても結論は出ておらず、直ちに保護法違反といえる状況にはない」との意見や「個人の顔や表札等が明瞭に判別できる画像については、意図的に取得され、かつ恒常的にインターネットで公開されており、本人や知人には識別できるので、個人情報保護法(第2条第1項)で定義する個人情報に該当するとみてよいのではないかという意見が出された。
 「自宅や生活状況の画像について」は、公道からストリートの映像を撮影しているだけで、個々の家の名称を示しているわけではないので個人情報に該当するかどうかの判断は非常に難しいが、その映像のなかに個々の家が含まれており、それがデータベース化されて、住所録や苗字の入った地図と照合すると容易に特定の個人の自宅や生活状況が検索できるので、個人情報保護法で定義する個人情報に該当するとみてよいのではないかという意見が出された。


⑤「地域安全の問題」

 後述する町田市議会の意見書にもあるとおり「犯罪等に悪用されるのではないかという懸念がある」との意見が出された。

(3)2008年8月の地方自治法99条に基づく町田市議会決議「地域安全に関する意見書」

議員提出議案第19号
(平成20年)
地域安全に関する意見書平成20年10月9日原案可決
(多数可決)


 意見書の一部を抜粋する。市民の問題意識が反映されていると感じた。
 「画像撮影に際し、被写体となる地域や個人への事前告知も撮影告知も公開許可願いもなくインターネット上に公開された。画像には、民家やその家庭の私物、車、敷地内の様子、通行人や自宅内にいる人の姿等が写し込み、自動でぼかすとされた人の顔が判別出来るものや、車のナンバー、表札の文字が読み取れるものが少なくない。空き巣や振り込め詐欺等の犯罪に悪用される危険性、児童生徒の通学路や教育施設等に防犯上の不安を生むとする声もある。
 問題のある画像については利用者から申し出れば削除に応じているが、そもそもインターネットを利用しない人に対し、自宅等が世界に公開されている現状が十分に行き渡っていないという現状もある。」

5.筆者の総括(conclusion)
 これからはGoogleの撮影活動そのものが市民のビューの被写体になる?。
 筆者自身改めてGoogleの行動に関する情報を集めてみた。その1例を紹介する。英国でストリート・ビューの特殊撮影車が警察官から不審車として尋問されている写真である。
 欧米では市民や人権擁護団体であるウォッチャーの目は厳しいし社会的影響力も大きい。従来から身についた人権意識や正義感かも知れないが、要注意である。独立的権限を持つ公的機関や行政監督機関である“Watchdog”だけでなく、英国のように組織化されていない市民の監視や実力行使により、Googleの撮影活動自体がつぶされる日が日本でも来るかも知れない。
 また、わが国ではあまり論じられていないが、スイス保護委員の訴状が指摘しているとおり、「他人にそこにいること自体を知られたくない」もしくは「他人が知ることで更なる危険が起こりうる」場所(sensibler Umgebung)があるはずである。例えば女性の保護家、刑務所、老人ホーム(ケアサービス機関を含む)、学校、社会福祉事務所(ハローワーク等)、裁判所、病院、弁護士事務所など機微性の高い場所での匿名性を保証していかなければならないものである。
 このように限定される範囲は数え上げればかなり多いはずであり、Googleが解決すべき課題は多い。

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(筆者注29)筆者が問題視したいのは、立法政策・戦略論議をすべき審議会での説明で唯一海外の状況を説明すべき研究者の説明があまりにも情報不足(または意図的に焦点をぼかしているのか不明であるが)なことである(いずれの研究者も筆者は面識があるだけに残念である)。今回のブログと議事録を比較していただければその点は明らかであろう。筆者は欧米の議会証言(testimony)を読む機会が多いが、そこでの責任は極めて重く、その反面、議員やメディアへの影響も明らかである。

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