スキップしてメイン コンテンツに移動

EU加盟国における電子政府の税申告・納付・還付システムの取組の最新動向

  

Last Updated :October 8,2022

 わが国では2000年11月29日に「高度情報化通信ネットワーク社会形成基本法」が成立し、電子政府の取組みの要請・期待が高まるなかで、以降、毎年「E-Japan 重点計画」が策定され、最近では「IT政策パッケージ2005」「重点改革」が決定されている。(筆者注1)一言で「電子政府」、「電子自治体」といっても範囲が広すぎて国民には理解できない点が多かろう。これはEU加盟国でも例外ではない。しかし、少なくとも電子政府に関する「政府の専用ウェブサイト」を比較してみると、行政(国や地方自治体等)が提供する市民生活に密着したサービス機能一覧や説明の平易さ等に差があるといいえよう(筆者注2)
 全体的な比較は改めて行うこととして、今回は最近公表されたEU加盟国6カ国の個人向けeTaxationの特徴について紹介する。(筆者注3)

 なお、IDABC は 2005年から2009年の間に実施した欧州電子政府サービスの行政、企業、市民へ相互運用可能な提供 の略である 。それは、ヨーロッパの市民や企業への国境を越えた公共部門のサービスの提供を奨励し、支援し、ヨーロッパの行政間の効率性と協力を促進するものであった 。IDABCは、その目的を達成するために、勧告を発行し、ソリューションを開発し、欧州の行政機関が電子的に通信できるサービスを提供しながら、欧州の企業や市民に近代的な公共サービスを提供していた。しかし、IDABCの活動はガイドラインの作成にとどまらず、相互運用性をサポートするためのインフラの計画と実装も伴う。(EU IDABCプロジェクトから抜粋、仮訳)

1.スェーデン
 2005年に、210万人以上の市民が国税庁(the National Tax Board)が用意した所得税(income tax)の電子納税申告を利用した。この数字は2004年比で約2倍である。スェーデの納税者は国税庁から送信されてくるあらかじめファイル化・計算された電子納税申告書を受け取る(このときに、「soft electronic ID(国税庁が指定した暗証番号とパスワード)」が必要であるが、電話やSMS(ショート・メッセージ・サービス)でも確認可能である。インターネットで申告する時に納税者は、この国税庁が定めたsoft IDまたは電子IDを使う。210万人の利用に伴い国税庁は経費節減額を約275万ユーロ(約4億700万円)と見込んでいる。国税庁は今後5年間でさらに電子申告件数とそれに伴う経費節減が増加すると期待している。
(詳細URL:http://ec.europa.eu/idabc/4296)
なお、同国の個人所得税等についての概要のURL:
http://ec.europa.eu/youreurope/nav/en/citizens/working/taxation/se/index_en.html

2.ベルギー
 同国は国税システムのプログラムの近代化と統合に現在まで約1,250万ユーロ(約18億5,000万円)を費やしてきている。このプログラムは税管理のあらゆる分野すなわち、①税計算、②申告、③登録、④徴収、⑤早期払い、⑥クレーム処理に関するものである。主な目的は以下の通りである。
(1)膨大な納税者情報の統合を通じてサービスの改善、すなわち手続の簡素化、処理時間の短縮、納税センターのマニュアル処理を排除する。
(2)徴税機関の官吏の税務会計処理を簡素化し、内部事務処理の効率化が可能となる。
(3)近代的なIT環境を取り込んで維持コストを削減する。
今日まで、ベルギー政府は異なる納税システムにより所得税、法人税、付加価値税(VAT)等を別管理してきた。このため納税者は申告時に納税に必要な基本情報につどついて異なる様式に記載しなければならなかった。単一データベースへの再構築により、納税者は複数の納税申告に際し、たった1度の登録で済むことになる。
(詳細URL:http://ec.europa.eu/idabc/4060)
なお、同国の個人所得税等についての概要のURL:http://ec.europa.eu/youreurope/nav/en/citizens/working/taxation/be/index_en.html

3.フランス
 フランスは2006年でオンライン申告の稼動2年目となる。第一段階では電子申告は税当局により完成され、納税者は単にその内容をチェックし、署名後、税当局に返送するのみであった。オンライン納税者は特定の月に申告利用することが認められ、その場合に毎月の銀行の引落し命令(bank order)または直接引落し(口座引落し)(direct debit)により納付する場合、20ユーロ(約2,960円)の税額免除が行われるというという特典が認められた。
 申告の的確性とオンライン納税を行うため、フランス市民は「電子的承認(electronic certificate)」を行わねばならないが、がすでに100万人のユーザーがその適用を受けている。その他、2006年の目玉はすべての公的な納税様式のためサーバーを立ち上げることにある。行政が定める様式の3分の2のは2006年末までにはオンライン化が進み、2008年までには100%切り替わる予定である。
 フランスでは電子申告の原則が急速に拡がっており、2005年には370万人が利用し、2006年中にはその数は1,000万人に上ると予想されている。
(詳細URL:http://ec.europa.eu/idabc/5460)

4.ポルトガル
 会社やその他法人に対し年税のインターネットによる進行の要請に引続き、同国の政府は個人の所得表の電子的提出を促進する各種手段を採用した。これらの新たな手段は納税にかかるエラーの早期発見でありこれは納税者の申告内容について可能なミスを修正しひいては税返還の遅延回避を実現するものである。
このサービスの基幹システムはすでに稼動しており、残りのシステムもまもなく稼動予定である。さらに、新たに「オンライン・ヘルプデスク」や電子様式にかかるガイドラインの見直し、納税者に申告提出の状況を知らせる「eTax alert」サービス、納税者との間の通信のセキュリティ対策としてパスワードの導入などが含まれる。
2005年中に、170万の申告がインターネット経由で行われ、その数字は2004年比増である。
(詳細URL:http://ec.europa.eu/idabc/5373)
なお、同国の個人所得税等についての概要のURL:
http://ec.europa.eu/youreurope/nav/en/citizens/working/taxation/pt/index_en.html#1329_2

5.アイルランド
 アイルランド歳入委員会事務局(Ireland‘s Office of the Revenue Commissioners)は2005 年の早い時期に、SMSによる新たな納税照会サービスを開始した。これは納税者からの携帯電話による、①税額控除(tax credits)、②テキスト(text)形式による納税様式やパンフレットの請求である。呼び出し手は、個人ID番号と必要なサービスコードを入力するのみでよい。
 納税徴収機関もまた、税額控除の進捗状況の確認のためテキストメッセージ形式を使用することが出来る。この新SMSサービスが始まって最初の2週間の間に同事務局は電話での件数と同じ約8,000件の請求を受け付けた。
同サービスの立ち上げの成功は、「モバイル政府(m-government)」の未開発部分への可能性を確認出来たことになる。最近の調査では、アイルランド国民の回答者の48%が電子メールの送信やウェブサイトを都度開けることよりもSMSによる情報の請求を熱望しており、15歳から25歳に年代層でみるとその数字は61%になる。
(詳細URL:http://ec.europa.eu/idabc/3996/)
なお、同国の個人所得税等についての概要のURL:
http://ec.europa.eu/youreurope/nav/en/citizens/working/taxation/ie/index_en.html

6.ハンガリー
 2006年3月以来、「e-tax提出」「義務的申告(duty return)」は、同国の「ハンガリ電子政府センター」で運用が行われている。同プロジェクトの開発費用は、750万ユーロ(約11億1,000万円)以上であるが、これにより同国の納税の大部分並びに月間・四半期ごとの税申告が電子的に行えるようになった。同国では広い範囲の納税者が法的に毎月、納税申告を行わねばならず、2006年3月には、約5,000の異なる事業所で働く200万人がこのシステムに登録した。2007年には義務的なこの電子的提出件数は120万人の雇用者に広がり、ユーザー・データベースがさらに増えると予想されている。
(詳細URL:http://ec.europa.eu/idabc/5603)
******************************************************************************:
(筆者注1)わが国のIT戦略の全体的な取組のサイトのURLは次の通り。
国家IT戦略 | e-Govポータル

 なお、はたして筆者が「IT政策パッケージ2005」「重点改革」の内容を見ようとするといずれもリンクできない。たった16年前のサイト情報がなぜリンク不可になるのか。国民の知る権利はどうなっているのか。同様の事例は他にもあると思う。

(筆者注2)一例として英国の電子政府サイト(Directgov)とわが国の電子政府サイトのURLを記しておく。実際の使い勝手で比較していただきたい。
1.英国:http://www.direct.gov.uk/Homepage/fs/en
大分類として4つに区分される。(1)調べたいテーマ別(教育・学習、不動産売買や地域社会とのかかわり、貯蓄・金融サービスや納税・還付手続等の問題、旅行や輸出入手続、犯罪阻止・被害者としての裁判手続、雇用、健康管理や医療問題、レジャーや趣味・リクリエーション、人権やプライバシー保護等の社会問題)、(2)人々が関心を寄せるテーマ(両親と子供、家族、ハンディのある人々、50歳代、海外での仕事等)、(3)地域行政機関からサービスの受け方(中古本の再生、粗大対策ごみ、違法駐車の罰金対策)、(4)トピック(若者の技術研修支援、地域の医療サービスの受け方)。またこれらとは別に、①(事業者向け起業情報・政府電子入札等)、②スコットランド、北アイルランド等自治政府、③中央政府、④地方自治政府へのリンクが可能となっている。
また、各テーマの中身を一部見ておく。今回取り上げる「税」のコーナーを見てみよう。「金融問題、税及び給付金(benefits)」から入り、さらに「税金」は所得税の申告納税手続きのイロハから始まり申告書の作成方法(オンライン)、納税申告用ソフトウェアの使い方、支払い方法等についての説明がある。
2.日本(電子政府の総合窓口):http://www.e-gov.go.jp/index.html
個人向けサービスの「納税」や企業・事業者向けに「税」の項目があるが、ここでは「e-Tax(国税電子申告・納税システム)(URL:http://www.e-tax.nta.go.jp/gaiyou/gaiyou1.html)」、「eLTax(地方税ポータルシステム)(URL:http://www.eltax.jp/outline/index.html)」、「ペイジー(国庫金電子納税システム)
(URL:http://www.boj.or.jp/type/exp/kokko_denshi/kokko_a.htm)について、まったく触れられていない。一般市民に総合窓口のページ検索でこれらの内容まで行き着く作業を求めるのか。

(筆者注3)電子政府の現状を正確に理解するうえで最も大事な点は、目的・範囲の明確化ならびに開示原則の徹底であろう。無駄な予算の支出はどこの国でも許されないし、行き過ぎたかたちは国家による国民の監視強化につながる。その意味で、民間の機関であるが「better Europe practices(beep)」が電子政府の取り組みの評価を客観的かつ丁寧に行っている。政府発表の記事だけでない客観性が求められるのは世界共通であろう。なお、beepは電子政府について、4つの主要目的のもとにさらにキー・ファクターを整理したマップを作成している。機会を見てbeep独自の各国の電子政府の評価について 詳しく紹介するが、同マップにも極めて基本的かつ重要な視点が整理されて盛り込まれている。ぜひ読んでいただきたい。
Better eEurope Practices -- BEEP - Information Policy (i-policy.org)

〔参照URL〕
http://ec.europa.eu/idabc/jsps/documents/dsp_showPrinterDocument.jsp?docID=5965&lg=en
*****************************************************************************::
Copyrights (c)2006 芦田勝(Masaru Ashida) All rights Reserved.

コメント

このブログの人気の投稿

米大統領令(EO: Executive Order 14110)の具体的内容と意義およびそれに基づく責任の履行を支援するためNIST「情報提供依頼文書 」の具体的内容

   筆者は、12月6日の本ブログで2023年10月30日の大統領令(EO: Executive Order 14110)(以下、「EO」という)を受けたNISTの具体的行動につき 「 NISTからこのほど公開された「 NIST SP 800-226 草案」および「差分プライバシー保証を評価するためのガイドライン草案」に対するパブリックコメントの背景と意義」 を取り上げた。  しかし、執筆後もいまいち大統領令(EO)のファクトシートも含め真の目的や商務省の規則案のとりまとめ期限など疑問点が残されていた。その内容を補完する意味で今回のブログで補筆するとともに、後段でNISTが2024年2月2日を期限として発布した「情報提供依頼文書 (Request for Information (RFI) )」の概要について解説を試みる。  また、本ブログでは、わが国では詳しく論じられていない米国「国防生産法(Defense Production Act of 1950 :DPA)」の意義と最新動向にも言及した。  なお、今回のブログの内容は12月6日の筆者ブログと重複する部分が一部あるが、 Kilpatrick Townsend & Stockton LLPの和文解説 と併せ読まれたい。 Ⅰ.大統領令 (EO: 14110) の具体的内容の解析    JD Supra, LLCの 「The highly-anticipated US Executive Order on artificial intelligence: Setting the agenda for responsible AI innovation」 を要約しつつ仮訳する。  このEOは、多くの点で AI に関するこれまでのバイデン政権の行動を超えている。 この広範囲かつ堅牢な大統領令は、AI を規制するために既存の当局を利用することを想定して、米国の行政部門および政府機関 (機関) に、①標準、②フレームワーク、③ガイドライン、④最善実践内容を開発するよう指示した (また、独立機関にも同様に奨励する)。 また政府機関は、AI の責任ある使用に関係するほぼすべての連邦法、規則、政策に対して具体的な措置を講じる必要があるとする。  EOは、AI の使用から得られる利点を認識する一方で、国家...

米国CFTCがオハイオ州の男性とその所有企業をデジタル資産取引スキームにおける1200万ドル(約16億214万円)以上の不正勧誘と不正流用を理由に民事起訴

     米国の 商品先物取引委員会(CFTC) は8月12日、オハイオ州ニューオルバニー市住の ラスナキショア・ギリ(Rathnakishore Giri) と彼が所有するオハイオ州に本拠を置く NBD Eidetic Capital, LLC および SR Private Equity, LLC に対して、オハイオ州南部地区連邦地方裁判所に 民事法執行訴訟 を起こしたと 発表 した。   同訴状 は、ギリと彼の会社が150人以上の顧客から1200万ドル以上と少なくとも10ビットコインを不正に勧誘し、またギリと彼の会社がデジタル資産取引を目的とした顧客資金を不正に流用したと主張している。  さらに訴状は、ギリの両親であるギリ・スブラマニ(Giri Subramani)とロカ・パヴァニ・ギリ(Loka Pavani Giri)を、正当な利害関係のない資金を所有している 救済被告 (注1) として起訴している。  今回のブログは、(1)本起訴の詳細、(2)CFTC/SECの投資家アラート:ビットコイン先物における資金取引の注意喚起の概要について概観する。 1. 起訴の内容  CFTCは、その継続的な訴訟において、詐欺被害にあった顧客への補償(restitution)、不正に得た利益の返還(disgorgement of ill-gotten gains)、民事上の金銭的罰則(civil monetary penalties)、恒久的な取引および登録禁止(permanent trading and registration bans)、および 「商品取引法(Commodity Exchange Act :CEA)」 および 「CFTC規則(CFTC regulations)」 のさらなる違反に対する永久的差止命令(permanent injunction)を求めている。 2.本事件の背景  訴状は、2019年3月頃から現在まで、被告が運営しているとされるさまざまなデジタル資産投資ファンドに投資するために、少なくとも150人の顧客から1200万ドル以上と10ビットコイン以上を勧誘し、受け入れた詐欺的なスキームに関与したと訴えている。同訴状によると、被告は顧客への勧誘において、利益の保証やギリのデジタル資産トレーダーとしての成功話など、多数の虚偽で誤解を招くような声...

英国の Identity Cards Bill(国民ID カード法案)が可決成立、玉虫色の決着

  2005年5月に英国議会に上程され、英国やEU加盟国内の人権保護団体やロンドン大学等において議論を呼んでいた標記法案 (筆者注1) が上院(貴族院)、下院(庶民院) で3月29日に承認され、国王の裁可(Royal Assent)により成立した。  2010年1月以前は国民IDカードの購入は義務化されないものの、英国のパスポートの申込者は自動的に指紋や虹彩など生体認証情報 (筆者注2) を含む国民ID登録が義務化されるという玉虫色の内容で、かつ法律としての明確性を欠く面やロンドン大学等が指摘した開発・運用コストが不明確等という点もあり、今後も多くの論評が寄せられると思われるが、速報的に紹介する。 (筆者注3) 1.IDカード購入の「オプト・アウト権」  上院・下院での修正意見に基づき盛り込まれたものである。上院では5回の修正が行われ、その1つの妥協点がこのオプショナルなカード購入義務である。すなわち、法案第11編にあるとおりIDカードとパスポートの情報の連携を通じた「国民報管理方式」はすでに定められているのであるが、修正案では17歳以上の国民において2010年1月(英国の総選挙で労働党政権の存続確定時)まではパスポートの申込み時のIDカードの同時購入は任意となった。 2.2010年1月以降のカード購入の義務化  約93ポンド (筆者注4) でIDカードの購入が義務化される。また、2008年からは、オプト・アウト権の行使の有無にかかわりなく、パスポートのIC Chip (筆者注5) に格納され生体認証情報は政府の登録情報データベース (筆者注6) にも登録されることになる。 ******************************************************: (筆者注1) 最終法案の内容は、次のURLを参照。 http://www.publications.parliament.uk/pa/ld200506/ldbills/071/2006071.pdf (筆者注2) 生体認証の指紋や虹彩については、法案のスケジュール(scheduleとは,英連邦の国の法律ではごく一般的なもので、法律の一部をなす。法本文の規定を受け,それをさらに細かく規定したものである。付属規定と訳されている例がある。わが国の法案で言う「別表」的なもの)...