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4月, 2006の投稿を表示しています

英国における電子政府政策は非民主的であるとの批判と通信事業者からの反論

  Last Updated:March 12, 2021  英国のロンドン大学の情報システム学部教授のイアン・エンジェル教授(Professor Ian Engell) (筆者注1) は、英国が現在取り組んでいる電子政府のあり方について次のような批判を行っている。なお、同教授の専門分野は、組織化された国家によるIT政策、すなわち①戦略的情報システム、②コンピュータとリスク(発生の機会と危険度の両面から見た)問題、とりわけすべての「 社会技術システム(socio-technical systems:STS) 」 (筆者注2) および急激な国際的なインフラの拡散に伴う組織のセキュリティへの脅威等である。 Professor Ian Engell  一方、大手通信事業者であるNortelヨーロッパは政府システムと民間システム互換性(アクセスの効率性が優先する)を重視すべき点を強調している。ここで議論されているのは、本年3月30日に成立した「国民IDカード法案」の問題( 筆者注3) と共通性があることである。協調されている点は、技術万能でないIT社会のあり方であり、またIT社会における民と官のシステムの相互運用性の是非の問題であり、自ずからわが国の電子政府について取り組む上で配慮すべき意見として紹介する。 1.同教授の意見  英国の電子政府は機能面で見れば5つ星であるかもしれないが、わが国の国民の20%にとっては機能面では盲人と同じである。公務員の教育によってコンピュータ処理のレベルが自動的に向上し、特に公的サービスをオンライン化することで対面サービス職員を削減できるとする考えは、明らかにおろかな考えである。  経済性を重視したこの舵取りは、行政窓口で国民と接する立場にある公務員の労働権を奪うことになる。今、政府が押し進めているのは技術的に窓口事務が円滑に行えない担当職員を解雇して人件費削減を行おうとしているが、それは民主的ではなく、まったく反対の政策である。 2.英国の電気通信事業者であるNortelヨーロッパ(Nortel European)の代表者であるピーター・ケリー(Peter Kelly)の反論  政府のe-Governmentを通じ、新パスポート(Epassport)やNHS Direct online(24時間年中無休で医療に関する質問、医療百科事

米国REAL ID ACT に基づくカード標準化とSSNのプライバシー保護強化立法の動き

  Last Updated:March 12,2021  米国は従来、EU各国と異なり国家レベルの法律に基づく身分証明書の考え方を強く否定してきた。1936年に収入を記録し、それに応じた社会保障給付が受けられ、雇用者が従業員に関するそれらの事務を管理するための識別キーとしてSSN(社会保障番号)カードが発行されたのがSSNの始まりである。このような限定された目的が、その後連邦や州の機関へ利用が拡大し、1970年代の急速なコンピュータ処理化と相俟って9桁の数字がまさに個人識別番号として、明確な利用制限等についての法律的根拠を持たないまま拡大したのである。その後も不法就労、低所得者医療扶助、福祉詐欺の防止、婚姻許可、死亡証明等多くの公共・行政分野への広がりを見せている。  これと平行して、民間部門の利用制限は連邦法による利用制限がなかったことから、コンピュータ技術を活用した膨大な個人情報の収集をもとにデータ・ブローカー(実態は信用情報業者の場合がほとんどである)による検索・照合サービスのキーとしての利用が進んだのである。   しかし、一方でSSNなどの個人情報を違法に入手し、偽名、偽造文書の作成、金融取引の悪用等なりすまし詐欺(Identity Theft)被害の問題が大きな社会問題となってきつつあった。このような中、2001年9月11日国際テロ事件が起き、改めて市民・非市民の区別の明確化(移民問題)、出生証明や雇用管理におけるSSNの管理システムの強化が図られることとなり、SSNとなりすまし対策に関する法案もこの数年間で連邦議会に毎回のように提案されており、他方で州ベースではSSNの利用制限立法が多くなってきている点も見逃せない。 (筆者注1)  このような中で、2005年1月26日下院議会F .James Sensenbrenner Jr.氏は、 「REAL ID Act of 2005(H.R.418)」 法案を上程した。   F .James Sensenbrenner Jr.氏 法案H.R.418の連邦議会の法案管理サイト(Congress. Gov.) (https://www.congress.gov/bill/109th-congress/house-bill/418)や 法案追跡サイト(Govtrack) (https://www.govt

米連邦議会上院委員会が本人の事前同意なしの通話記録の入手行為禁止法案を採択

  Last Updated(青字部): March 12,2021  米国の第109回連邦議会はpretexting行為の禁止をめぐる法案が上院・下院で合わせて5本上程されるという状況にあり、3月上旬の下院委員会での採択に続き、上院委員会で法案が審議、可決された。  3月31日に連邦議会上院の「商業・科学・運輸委員会(The Commerce , Science and Transportation Committee)」は、本人の文書よる事前の同意なしの「pretexting」行為(通話記録の入手、使用および販売行為)を禁止する法案「Consumer Telephone Records Protection Act of 2006(S.2178)」を採択した。 (筆者注1)  この「pretexting」行為は、米国では金融制度改革法である「1999年グラム・リーチ・ブライリー法」 (筆者注2) において金融機関の取引個人情報保護についてのみ定められていたものを、固定電話や携帯電話等における通話記録にまで拡大したもので、ジョージ・アレン上院議員(バージニア州選出:民主党)やテッド・スチーブンス上院商務委員会委員長が中心となって立法化に取り組んでいたものである。  主な内容は次のとおりである。 (1)第109回議会に上程された法案(S. 2389: Protecting Consumer Phone Records Act)の修正法案で、①固定電話(wireline)、②携帯、③Voipサービス提供者等の音声通信事業者に対し、本人の書面による同意・許可なしに第三者が通話記録を入手した場合、顧客に通知義務を課すものである。これに関し、同法案はグラム・リーチ・ブライリー法の場合と同様、連邦通信委員会(FCC)に通話記録に関する新規則の制定を命じる。 (2)データ・ブローカーに対し、FCCが従前行っていた事前調査通知の省略を認め、FCCが罰金を科す手続きを効率化する。 (3)罰則の内容は、違法に通信記録を入手又は販売する行為等に対し民事訴訟を認め、1記録当り11,000ドル(約127万6千円)、最大1,100万ドル(約12億7,600万円)の罰金を定める。 (4)FCC自体に、継続的違反者に対し、各違反行為につき3万ドル(約348万円)、最大300万ドル(約3億4,8

英国の Identity Cards Bill(国民ID カード法案)が可決成立、玉虫色の決着

  2005年5月に英国議会に上程され、英国やEU加盟国内の人権保護団体やロンドン大学等において議論を呼んでいた標記法案 (筆者注1) が上院(貴族院)、下院(庶民院) で3月29日に承認され、国王の裁可(Royal Assent)により成立した。  2010年1月以前は国民IDカードの購入は義務化されないものの、英国のパスポートの申込者は自動的に指紋や虹彩など生体認証情報 (筆者注2) を含む国民ID登録が義務化されるという玉虫色の内容で、かつ法律としての明確性を欠く面やロンドン大学等が指摘した開発・運用コストが不明確等という点もあり、今後も多くの論評が寄せられると思われるが、速報的に紹介する。 (筆者注3) 1.IDカード購入の「オプト・アウト権」  上院・下院での修正意見に基づき盛り込まれたものである。上院では5回の修正が行われ、その1つの妥協点がこのオプショナルなカード購入義務である。すなわち、法案第11編にあるとおりIDカードとパスポートの情報の連携を通じた「国民報管理方式」はすでに定められているのであるが、修正案では17歳以上の国民において2010年1月(英国の総選挙で労働党政権の存続確定時)まではパスポートの申込み時のIDカードの同時購入は任意となった。 2.2010年1月以降のカード購入の義務化  約93ポンド (筆者注4) でIDカードの購入が義務化される。また、2008年からは、オプト・アウト権の行使の有無にかかわりなく、パスポートのIC Chip (筆者注5) に格納され生体認証情報は政府の登録情報データベース (筆者注6) にも登録されることになる。 ******************************************************: (筆者注1) 最終法案の内容は、次のURLを参照。 http://www.publications.parliament.uk/pa/ld200506/ldbills/071/2006071.pdf (筆者注2) 生体認証の指紋や虹彩については、法案のスケジュール(scheduleとは,英連邦の国の法律ではごく一般的なもので、法律の一部をなす。法本文の規定を受け,それをさらに細かく規定したものである。付属規定と訳されている例がある。わが国の法案で言う「別表」的なもの)に具体的