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最高裁大法廷は旧優性保護法の下で不妊手術の強制は憲法第13条及び第14条第1項違反を理由に国に賠償命令を命じるとともに下級裁判所における改正前の民法の解釈巡る除斥期間の解釈を憲法違反と判示(その2完)

 (2)ここでカナダのケベック州民法典における消滅時効(Extinctive prescription)の定義を見ておく。

「時効は、行使されていない権利を消滅させる手段、または訴訟の不受理を主張する手段である。」(ケベック州民法典(CIVIL CODE OF QUÉBEC)第 2921 条)499頁以下を以下で、引用)

TITLE THREE

EXTINCTIVE PRESCRIPTION

2921. Extinctive prescription is a means of extinguishing a right owing to its non-use or of pleading a peremptory exception to an action.

2922. The period for extinctive prescription is 10 years, except as otherwise determined by law.

2923. Actions to enforce immovable real rights are prescribed by 10 years.
However, an action to retain or obtain possession of an immovable may be brought only within one year of the disturbance or dispossession.

2924. A right resulting from a judgment is prescribed by 10 years if it is not exercised.

2925. An action to enforce a personal right or movable real right is prescribed by three years, if the prescriptive period is not otherwise determined.

2926. Where the right of action arises from moral, bodily or material injury appearing progressively or tardily, the period runs from the day the injury appears for the first time.

2926.1. An action for damages for bodily injury resulting from an act which could constitute a criminal offence is prescribed by 10 years from the date the person who is a victim becomes aware that the injury suffered is attributable to that act. Nevertheless, such an action cannot be prescribed if the injury results from violent behaviour suffered during childhood, sexual violence or spousal violence. Conversion therapy, as
defined by section 1 of the Act to protect persons from conversion therapy provided to change their sexual orientation, gender identity or gender expression (chapter P-42.2), constitutes violent behaviour suffered during childhood within the meaning of this article.
However, an action against an heir, a legatee by particular title or a successor of the author of the act or against the liquidator of the author’s succession must, under pain of forfeiture, be instituted within three years after the author’s death, unless the defendant is sued for the defendant’s own fault or as a principal. Likewise,an action brought for injury suffered by the person who is a victim must, under pain of forfeiture, be instituted within three years after the death of the person who is a victim.

2927. The prescriptive period for an action in nullity of contract runs from the day the person invoking the cause of nullity becomes aware of such cause or, in the case of violence or fear, from the day it ceases.

2928. An application by a surviving spouse to have the compensatory allowance determined is prescribed by one year from the death of his spouse.

2929. An action for defamation is prescribed by one year from the day on which the defamed person learned of the defamation.

2930. Notwithstanding any provision to the contrary, where an action is based on the obligation to make  reparation for bodily injury caused to another, the requirement that notice be given prior to bringing the action or that the action be instituted within a period that is less than that provided for in this Book, cannot defeat a prescriptive period provided for in this Book.

2931. In the case of a contract of successive performance, prescription runs with respect to payments due,even though the parties continue to perform one or another of their obligations under the contract.

2932. The prescriptive period for an action to reduce an obligation that is performed successively runs
from the day the obligation becomes due, whether the obligation arises from a contract, the law or a judgment.

2933. No holder may be released by prescription from the prestation attached to his detention; however, its extent may be prescribed, as may the arrears.

カナダ民法典の消滅時効につき、ケベック州Lambert Avocats team弁護士サイトから抜粋、仮訳する)

 消滅時効は、民事責任の観点からあなたの権利を認めてもらう上で、我われにとって最も重要なものである。

 確かに、このタイプの消滅時効期間は、法律で定められた期限内に訴訟権を行使しないという単純な事実によって訴訟権を消滅させる効果がある。したがって、所定の期間が経過したら訴訟を起こすことを決定した場合、不受理の申し立てに反対する可能性がある。たとえば、時効が経過した後に訴訟を起こした場合、裁判所は、救済の可能性はあるものの、訴訟の権利は時効があるとみなされるため、それにアクセスできないことを認める場合がある。したがって、これらの期限を理解し、権利を行使するときに不愉快な思いをしないようにすることが重要である。

 一般的に、身体の完全性に対する権利などの個人的権利を主張する場合、期間は3年に短縮される。これは、精神的損害および物質的損害に関しても有効である。

 ただし、過失を犯してから数年後に損害が発生することもある。たとえば、ケベック州控訴裁判所で審理されたある事件では、土地測量士が土地の境界を定める際に誤りを犯した。しかし、損害が発生したのは契約終了後 7 年経ってからであった。その後、裁判所は、民事責任の場合、3 年間の時効期間は、過失、損害、因果関係という 3 つの必須要素が満たされた時点から始まるとの判決7/3(21)を下した。したがって、過失が行われた時点を考慮する必要はなく、具体的に損害が最初に生じた時点を考慮する必要があるとした。

 損害が徐々に進行する場合も、同じ原則が適用される。その場合は、損害が発生したとする名誉権(right to reputation)の主張に関しては、法律は、被害者が自分に対する名誉毀損を知った瞬間から 1 年間の期間を定めている。テレビ番組で放送された人種差別的発言を扱った控訴裁判所の判決では、発言の重大性に関わらず、期限は同じであると裁判所は指摘した。 

 受けた損害が刑事的に非難されるべき行為の結果である場合、議会は法的措置を取るためのより寛大な時間枠を設けている。したがって、被害者は、受けた犯罪行為と顕在化した損害との因果関係を知った瞬間から 10 年間、訴訟を起こすことができる。性的暴行行為によって引き起こされた損害の場合も、消滅期限はない

 また、民事訴訟における立証責任は刑事事件と同じではなく、民事裁判では前者が優先されることも考慮する必要がある。つまり、犯罪行為が実際に行われたことをしたがって,ある事実についてどちらが立証責任を負っているかは,訴訟において極めて重要な意味を持ち、蓋然性のバランス (balance of probabilities)によって証明するだけで済む。(注6)

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(注6)立証責任を簡単に定義づけるとすると,立証責任を負っている当事者が当該事実の存在または不存在について証明する負担を負っており,仮にその証明に失敗すれば,その事実の存在または不存在は認められないという不利益を被ることを指す。

証明の程度は,英国法下では,民事訴訟においては「balance of probabilities」(ちなみに,刑事訴訟では「beyond reasonable doubt」とされ,検察官がより重い立証責任を負っている)において判断されると言われ,50%以上あり得ると証明できれば,事実が認定されると説明されている。日本法も類似の観念を採用している。

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