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最高裁大法廷は旧優性保護法の下で不妊手術の強制は憲法第13条及び第14条第1項違反を理由に国に賠償命令を命じるとともに下級裁判所における改正前の民法の解釈巡る除斥期間の解釈を憲法違反と判示

 








 令和6年(2024年)7月3日、最高裁判所大法廷(裁判長:戸倉三郎長官)は旧優性保護法(Eugenic Protection Law)の下で不妊手術を強制した(forced sterilisation)のは憲法第13条及び第14条第1項に明らかに違反するとして、国に賠償命令を命じるとともに、違法な旧法を放置してきた国会議員の責任を明確化し、さらに下級裁判所における改正前の民法の解釈巡る「除斥期間」(注1)の解釈を憲法違反と判示した。

 筆者は、この判決の意義を改めて内外メデイアの英字紹介レポートの解説を期待したが、JIJI.com、Nikkei Japan、Japan Timesなどいずれも一長一短な内容であった。また、併せてピッツバーグ大学ロースクールやBBCの英字ニュースを改めて読んでみたが、それらも同様であった。

 この判決については後日、専門家による詳細な解説が行われることは間違いないが、筆者なりに画期的な内容を持つ本判決の主要な論点整理を行う。

 なお、わが国民法の根拠法といえるドイツ民法第5章の消滅時効の規定の訳文(2015年3月)があり、原文を参照のうえ併せ引用した。

1.最高裁判決の重要ポイント

最高裁判所 戸倉三郎 長官

(1)最高裁判所は7月3日、即日判決文を公表した。判決文全文参照されたい。(裁判長裁判官 戸倉三郎 裁判官 深山卓也 裁判官 三浦 守 裁判官 草野耕一 裁判官 宇賀克也(注2) 裁判官 林 道晴 裁判官 岡村和美 裁判官 安浪亮介 裁判官 渡 惠理子 裁判官 岡 正晶 裁判官 堺 徹 裁判官 今崎幸彦 裁判官 尾島 明 裁判官 宮川美津子 裁判官 石兼公博)

 主文部を抜粋、以下で引用する。

1. 優生保護法中のいわゆる優生規定(同法3条1項1号から3号まで、10条及び13条2項)は、憲法13条及び14条1項に違反する。

2. 上記優生規定に係る国会議員の立法行為は、国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受ける。(注3)

3. 不法行為によって発生した損害賠償請求権が民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)724条後段の除斥期間の経過により消滅したものとすることが著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができない場合には、裁判所は、除斥期間の主張が信義則に反し又は権利の濫用として許されないと判断することができる。

4. 同条後段の除斥期間の主張をすることが信義則に反し権利の濫用として許されないとされた事例。

(2)今回の最高裁判決の対象となる5件の訴訟は札幌仙台東京大阪神戸の各地裁に起こされた。一審はいずれも除斥期間を適用し、原告の請求を棄却。二審はいずれも旧法を違憲とした上で、札幌、東京、大阪の3高裁4件が除斥期間の適用を制限して国に賠償を命じた一方で、仙台高裁は訴えを退けていた。

(この点、7月3日の読売新聞の1面記事はやや不正確)(下線部は筆者が引いた)

(3) 従来の最高裁(1989年)や下級審における除斥期間に関する最高裁判決の違憲判断の主文要旨を改めて整理する。

 除斥期間の適用について、①立法という国権行為が憲法上保障された権利を違法に侵害することが明白である場合は法律関係の安定という除斥期間の趣旨が妥当しない面があること、②長期間にわたり国家の政策として多数の障害のある者等を差別して不妊手術という重大な人権侵害を行った国の責任は極めて重大であること、③被害者らが損害賠償請求権を行使するのは極めて困難であったこと、④国会は、1996年に旧優生保護法を母体保護法へと改正した後、適切に立法裁量権を行使して速やかに補償の措置を講じることが強く期待されていたにもかかわらず、長期間にわたり補償の措置をとらなかった上、2019年4月に成立した「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」(以下「一時金支給法」という。)は国の損害賠償責任を前提とするものではなかったこと等を理由として、旧優生保護法による被害に除斥期間を適用することは、著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができないと判断したものである。(日本弁護士連合会サイト「旧優生保護法国賠訴訟の最高裁判所大法廷判決を受けて、被害の全面的回復及び一時金支給法の改正を求める会長声明」を抜粋)

(3) パン・ホー・リウ(Pan Ho Liu)氏 | 香港大学法学部、中国/香港Pan Ho Liu | HKU Faculty of Law, CN/HK

2024年7月4日ピッツバーグ大学ロースクールJURIST「日本の最高裁、強制不妊手術法は違憲と判断(Japan top court finds forced sterilisation law unconstitutional)」の仮訳の併記と筆者が一部追記

 日本の最高裁は、現在は1996年に廃止されている優生保護法(Eugenic Protection Law)が違憲であると判断し、強制不妊手術の被害者に賠償するよう日本政府に命じた。この判決は、東京、仙台、札幌、大阪の4高裁の判決に対する統一判決だった。判決の中で、日本の最高裁は、優生保護法とその後の手続きは「個人の尊厳と人格の尊重の理念に著しく反する」ため、日本国憲法第13条および第14条第1項に違反すると裁定した。

The Supreme Court of Japan ordered the Japanese government to compensate victims of forced sterilization after holding that the now-defunct Eugenic Protection Law was unconstitutional. The decision was a unified decision on five different appeals from Tokyo, Sendai, Sapporo, and Osaka. In its ruling, the Japanese Supreme Court held that the Eugenic Protection Law and its subsequent procedures were “significantly against the idea of respect for individual dignity and personality” and thus in violation of Article 13  and 14, paragraph 1 of the Japanese Constitution.

 最高裁は国が主張した賠償請求権の20年の時効(除斥期間)を批判し、時効は「正義と公平の理念」に反すると判断した。優生保護法を批判する下級裁判所の判決が多数あったにもかかわらず、時効により下級裁判所は賠償金の支払を命じ得なかった。

The Supreme Court also criticised a 20-year statute of limitations(extinctive prescription) on the right to bring compensation claims by ruling that the statute of limitations goes against “the idea of justice and fairness.” The statute of limitations prevented the lower courts from awarding compensation despite many lower court rulings criticising the Eugenic Protection Law.

 最高裁の判決に先立ち、全国優生保護法被害者弁護団の共同代表でもある被害者の弁護士、新里宏二氏は最高裁に対し「生存中の名誉回復と救済のため、迅速な判決を下してほしい」と訴えた。同弁護士は「手術で人間の尊厳が奪われた」ため「憲法違反と判断されるのは当然だ」と述べた。被害者の一人、80歳の北三郎(仮名)氏は「最後まで闘いたい。国に謝罪してほしいという思いを抱えたまま死にたくない」と断言した。

Prior to the Supreme Court’s judgment, a victim’s lawyer, Koji Niisato, who is also the co-chair of the National Eugenic Protection Law Victims’ Lawyers Group, called on the Supreme Court to make “a swift decision to be made in order to restore their honor and provide relief while they’re still alive.” The lawyer cited how “the surgery took away their human dignity” and thus “it’s only natural that it will be ruled a violation of the Constitution.” One of the victims, 80-year-old Kita Saburo, affirmed that “I want to fight to the end. I don’t want to die with the desire for the country to apologize.”

優生保護法は戦後の日本の人口爆発に対処するため1948年に制定された。この法律は、優生保護法第1条に概説されている「劣等な子孫の増加を防止する」ために、日本政府が遺伝性の身体的または精神的障害を持つ人々を不妊にするために優生保護法は戦後である1948年に制定され、1996年まで半世紀近くにわたって存続した。政府の報告によると、約25,000人が不妊手術を受け、そのうち16,500件の手術が同意なしに行われた。

The Eugenic Protection Law was enacted in 1948 to combat Japan's postwar population explosion. The law allowed the Japanese government to sterilize people with hereditary physical or mental disabilities in order to "prevent the increase of inferior offspring" as outlined in Article 1 of the Eugenic Protection Law, and remained in place for nearly half a century until 1996. According to government reports, approximately 25,000 people were sterilized, with 16,500 of those surgeries being performed without consent.

2019年、日本の国会は、旧優生保護法(最終更新:平成二十五年法律第八十四号1996年「母体保護法」(昭和二十三年法律第百五十六号)(注4)に改正・改称)に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給に関する法律を制定し、優生保護法に基づいて不妊手術を受けた被害者1人につき320万円の一時金を支給した。2019年の法律の前文で、国会は優生保護法の被害者とそもそもこの法律が可決されたことに対して「心からお詫び申し上げます」と述べた。

In 2019, the National Diet of Japan enacted the Law on the Payment of Lump Sum Payments To Those Who Have Undergone Eugenic Surgery, etc., Based on the Former Eugenic Protection Law, which offered a lump sum of 3.2 million Japanese yen to every sterilised victim of the Eugenic Protection Law. In the 2019 law’s preamble, the Diet offered “deepest and most sincere apologies.” to the victims of the Eugenic Protection Law and for the passage of the law in the first place.

(4)2024.7.3 BBC news の和訳「日本の最高裁、強制不妊手術は違憲と判断 」

 同記事の英文の原文は法律記事として必ずも正確な内容とは言えない。原文を見直し、追記するとともに英文読者宛て和英文を併記した。

 日本の最高裁判所は、7月3日、1950年代から1990年代にかけて1万6500人の障害者(知的障害、遺伝性の視覚・聴覚障害等)が強制的に不妊手術を受けた。廃止された優生保護法を憲法第13条および第14条第1項に違反すると裁定した。

On July 3, the Supreme Court of Japan ruled that the since-abolished Eugenic Protection Law, which forced 16,500 people with disabilities (such as intellectual disabilities and hereditary visual and hearing impairments) to be sterilized between the 1950s and 1990s, violated Articles 13 and 14, paragraph 1 of the Constitution.

 すなわち、最高裁は旧法でいう「障害者の出生を防止するという目的は、当時の社会的状況を勘案しての正当とは言えず、障害者を差別的に扱い、不妊手術によって生殖能力の喪失という重大な犠牲を強いた」として個人の尊厳や人格の尊重をうたう憲法第13条および法の下での平等を定めた憲法第14条第1項に違反すると判示した。

The Supreme Court ruled that the old law's "purpose of preventing the birth of disabled people could not be considered legitimate given the social situation at the time, and it discriminated against disabled people and forced them to make the grave sacrifice of losing their reproductive ability through sterilization," and that it violated Article 13 of the Constitution, which proclaims respect for the dignity and personality of the individual, and Article 14, Paragraph 1, which stipulates equality under the law.

 さらに、このような違法性が明白な法律を成立させたことは国家賠償上、違法であると判断した、国の責任は極めて重大であるとともに、国は1996年に旧優性保護法が廃止された後も不妊手術を適法であると主張、補償しなかったと批判した。訴訟が除斥期間経過後に起こされたということのみで国が賠償責任を逃れることは著しく正義・公平の理念に反するもので、国が除斥期間の適用を主張することは権利の濫用にあたると結論付けた。

Furthermore, the court ruled that passing such a clearly illegal law was illegal in terms of state compensation, and criticized the government for its extremely grave responsibility, insisting that sterilization was legal and failing to provide compensation even after the old Dominant Sex Protection Law was abolished in 1996. The court concluded that for the state to avoid liability for compensation simply because the lawsuit was filed after the statute of limitations had passed is a gross violation of the principles of justice and fairness, and that the state's insistence on the application of the statute of limitations is an abuse of rights.

 また、最高裁判所は2022年から2023年の間、札幌、仙台、東京、大阪高裁で言い渡された計5件の訴訟に関与した11人の被害者に損害賠償を支払うよう政府に命じた。

The Supreme Court also ordered the government to pay damages to 11 victims, who were involved in five cases that were heard on appeal.

 今回の7月3日の画期的な最高裁判決は、補償と謝罪を求めてきた被害者による数十年にわたる正義・公平を求める闘いに終止符を打つものとなった。

The landmark Supreme Court ruling on July 3rd brings to an end a decades-long fight for justice and fairness by victims who have sought compensation and an apology.

 長年のこれら訴訟の後、2019年4月の法律により生存する被害者に1人当たり320万円の一時金による損害賠償が認められたが、一部の被害者はより高い補償額を求めて闘い続けていた。最高裁判所に持ち込まれた4件の訴訟では、高裁が命じた賠償額1650万円を不服として国が上告していた。5件目の訴訟では、2人の女性原告が、下級裁判所が時効を理由に請求棄却したことに対し不服として控訴していた。

After years of litigation, an April 2019 law awarded surviving victims a lump sum of 3.2 million yen each, but some victims continued to fight for higher compensation. In four cases that reached the Supreme Court, the state had appealed against a high court's award of 16.5 million yen in compensation. In the fifth case, two female plaintiffs had appealed a lower court's dismissal of their claims on statute of limitations grounds.

 1948年に制定された第2次世界大戦後の法律に基づき、約2万5000人が、遺伝性の障害を持つ人々を中心に、「劣等」とみなされる子供を産まないように手術を受けた。日本政府は、不妊手術のうち1万6500件が同意なしに行われたことを認めた。

Under a post-World War Two law enacted in 1948, some 25,000 people - many of whom had inheritable disabilities - underwent surgeries to prevent them from having children deemed "inferior".

Japan's government acknowledged that 16,500 of the sterilisation operations were performed without consent.

 当局は、残りの8500人は手術に同意したと主張しているが、弁護士らは、当時彼らが直面した圧力により、手術を「事実上強制された」と述べている。

Although authorities claim the 8,500 other people consented to the procedures, lawyers have said they were "de facto forced" into surgery because of the pressure they faced at the time.

 2023年6月19日に発表された国会あて報告書(注5)によると、一部被害者はわずか9歳だった。

Victims were as young as nine years old, according to a parliamentary report published in June last year.

この法律は1996年に廃止された。

The law was repealed in 1996.

2.2020年4月1日の改正民法施行と除斥期間の問題点

 改正民法では、不法行為による損害賠償請求権(慰謝料請求権)の除斥期間はなくなり、消滅時効に統一された。

具体的には、その損害及び加害者を知ったときから5年、または、その不法行為の時から20年の時効期間である。

 「不法行為の時から二十年間行使しないとき。」も、改正民法では時効期間で統一された(改正民法724条2号)。旧法民法724条では、「除斥期間」(除斥期間は、一定の時間の経過により権利が消滅するという点で消滅時効と似ているが、以下の点で異なる。

 ①中断・停止(改正民法では完成猶予・更新)の制度がないこと。

 ②当事者が援用しなくても権利消滅の効果が発生すること。

 ③起算点が権利の発生時点であること。

 ④効果が遡及しないこと。

と解釈されていたので、不法行為時から20年経つと問答無用で権利が消えてしまった。(1989年最高裁は判例として「除斥期間」を定着させていた)

これに対し、2020年4月1日施行の改正民法では、20年の時効期間内に、時効の更新や完成猶予(旧法でいう「中断」や「停止」)もありうることになり、権利行使の機会をより確保できることとなった。

 (不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)

724(改正前民法) 不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。

改正民法724

不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

1 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。

2 不法行為の時から20年間行使しないとき。

改正民法724条の2

人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第1号の規定の適用については、同号中「3年間」とあるのは、「5年間」とする。

3.消滅時効に関するドイツやカナダの民法規定の概観

(1)わが国の民法は言うまでもなくドイツ民法の総則を引用している。参考までドイツ法務消費者保護省サイトのドイツ民法・消滅時効の関係条文の訳文(2015年3月国立国会図書館調査及び立法考査局 山口 和人 (専門調査員 行政法務調査室主任)「基本情報シリーズ⑲ドイツ民法Ⅰ (総則)を抜粋、引用する。(青字は筆者の追記部)

ドイツ民法 5 章 消滅時効

第 5 章 消滅時効

第 1 節 消滅時効の対象及び期間

194  消滅時効の対象

⑴ 他人に対してある行為をすること、又はしないことを求める権利(請求権)は、消滅時効[Verjährung]に服する。

ただし、次の場合は消滅時効に服さない

  1. 時効の対象とならない犯罪から生じる請求権(筆者がドイツ民法に基づき追加)

2.家族関係から生じる請求権は、それが将来に向けて家族関係に応じた状態の創設又は血族関係の解明のための遺伝学上の調査に対する同意に向けられている限りにおいて消滅時効に服さない。

195  通常の消滅時効期間(Regelmäßige Verjährungsfrist)

通常の消滅時効期間は、3 年とする。

196 条 土地に関する権利の消滅時効期間(Verjährungsfrist bei Rechten an einem Grundstück)

土地に関する所有権の移転及び土地に関する権利の設定、移転若しくは取消し又はこれらの権利の内容の変更に対する請求権並びに反対給付に対する請求権は、10 年で消滅時効が完成する。

197  30 年の消滅時効期間(Dreißigjährige Verjährungsfrist)

⑴ 次に掲げる請求権は、別段の定めがない限り、30 年で消滅時効が完成する。

  1. 故意による生命、身体、健康、自由又は性的自己決定の侵害に基づく損害賠償請求権
  2. 所有権その他の物権、第 2018 条、第 2130 条及び第 2362 条の規定に基づく引渡請求権並びに引渡請求権の主張に資する請求権
  3. 確定判決をもって確認された請求権
  4. 執行可能な和解又は執行可能な証書に基づく請求権
  5. 破産手続において行われた確定により執行可能となった請求権
  6. 強制執行の費用の償還に対する請求権

⑵ 前項第 3 号から第 5 号までの請求権が、将来弁済期が到来する規則的に反復される給付を内容としているときは、30 年の消滅時効期間に代えて通常の消滅時効期間を適用する。

198  権利承継者の場合の消滅時効(Verjährung bei Rechtsnachfolge)

物上請求権の対象となっている物が、権利の承継により第三者の占有に帰したときは、前権利者の占有期間に経過した消滅時効期間は、権利の承継者のために効力を有する。

199  通常の消滅時効期間の始期(Beginn der regelmäßigen Verjährungsfrist und Verjährungshöchstfristen)

⑴ 通常の消滅時効期間は、別段の始期が定められていない限り、次に掲げることがいずれも生じた時が属する年の終了とともに開始する。

  1. 請求権が成立したこと。
  2. 債権者が請求権の根拠となる事情及び債務者が誰であるかについて知っていたか又は重大な過失なく知りうべきであったこと。

⑵ 生命、身体、健康又は自由の侵害に基づく損害賠償請求権は、請求権の成立及びそのことに関する知又は重大な過失による不知にかかわらず、犯行、義務違反又は損害を生じさせたその他の事象から 30 年で消滅時効が完成する。

⑶ その他の損害賠償請求権は、次に掲げる期間の満了により消滅時効が完成する。

  1. 知識又は重大な過失による不知にかかわらず、請求権の成立の時から 10 年
  2. 請求権の成立及びそのことに関する知又は重大な過失による不知にかかわらず、犯行、義務違反又は損害を生じさせたその他の事象から 30 年

消滅時効の完成には、先に満了した期間を基準とする。

(3a) 相続開始に基づくか、又はその主張が死因処分を知ることを要件とする請求権は、知又は重大な過失による不知にかかわらず、請求権の成立から 30 年で消滅時効が完成する。

⑷ 第 2 項から前項までに規定する請求権以外の請求権は、知識又は重大な過失による不知にかかわらず、請求権の成立の時から 10 年で消滅時効が完成する。

⑸ 請求権が不作為に対するものであるときは、違反行為をもって請求権の成立に代える。

200  その他の消滅時効期間の始期(Beginn anderer Verjährungsfristen)

通常の消滅時効期間に服さない請求権の消滅時効期間は、別段の消滅時効期間の始期の定めがない限り、請求権の成立とともに開始する。前条第 5 項の規定は、この条に準用する。

201  確定した請求権の消滅時効期間の始期(Beginn der Verjährungsfrist von festgestellten Ansprüchen)

第 197 条第 1 項第 3 号から第 6 号に掲げる種類の請求権の消滅時効は、裁判の確定力(Rechtskraft der Entscheidung)、執行名義の作成(Errichtung des vollstreckbaren Titels)又は破産手続における確定とともに開始するが、請求権の成立前には開始しない。第 199 条第 5 項が適宜適用される。(筆者がドイツ民法に基づき追加))

202  消滅時効に関する合意の不許容(Unzulässigkeit von Vereinbarungen über die Verjährung)

⑴ 消滅時効は、故意による責任の場合に、法律行為により、あらかじめその完成をより容易にすることはできない。

⑵ 消滅時効は、法律行為により、法律上の消滅時効開始から 30 年の消滅時効期間を超えて、その完成をより困難にすることはできない。

2 節 消滅時効の停止、消滅時効完成の阻止及び消滅時効の新たな開始(Hemmung, Ablaufhemmung und Neubeginn der Verjährung)

  203  交渉の場合の消滅時効の停止(Hemmung der Verjährung bei Verhandlungen)

債務者と債権者との間で、請求権又はその根拠となる事情についての交渉が未確定であるときは、一方又は他方の当事者が交渉の継続を拒絶するまで、消滅時効は停止する。消滅時効は、最も早い場合で、停止の終了の 3 月後に完成する。

204  権利追求による消滅時効の停止(Hemmung der Verjährung durch Rechtsverfolgung)

⑴ 消滅時効は、次に掲げる行為により停止する。

  1. 給付の訴え(Klage auf Leistung)、請求権の確認の訴え(auf Feststellung des Anspruchs)又は執行文付与の判決(Vollstreckungsurteils,)を求める訴えの提起

       1a.(削除)

  1. 未成年者の扶養に関する簡易手続における申立ての送達
  2. 督促手続における督促通知、又は欧州の督促手続導入に関する 2006 年 12 月 12 日の欧州議会及び理事会の規則(EC)1896/2006 号による欧州督促手続における支払命令の送達
  3. 州の法務行政機関により設置され若しくは承認された調停所に対する調停申立ての公示の指示、又は各当事者が、合意の試みを一致して行っているときは、紛争解決を行うその他の調停所に対する調停申立ての公示の指示。申立て後まもなく公示がなされたときは、消滅時効の停止は、申立て提起時に開始する。
  4. 訴訟における請求権の相殺の主張
  5. 訴訟告知の送達

  6a. モデル手続

  係が請求権の基礎となっている限りにおいて、モデル手続において規定されている請求権のためこの手続を利用する

  旨の申出の送達であって、モデル手続の確定判決による終結後 3 月以内に申出において掲げられた請求権の給付の訴

  え又は確認の訴えが提起されたとき。

  1. 独立した証明手続実施の申立ての送達
  2. 合意された鑑定手続の開始(Beginn eines vereinbarten Begutachtungsverfahrens,)
  3. 仮差押命令(Erlass eines Arrests)、仮処分若しくは仮命令の申立て(einstweiligen Verfügung oder einer einstweiligen Anordnung)の送達、又は、申立てが送達されない場合における、申立ての提起であって、仮差押命令、仮処分若しくは仮命令が債権者に対する言渡し若しくは送達から 1 月以内に債務者に送達されたとき。
  4. 破産手続(Insolvenzverfahren)又は水路法上の分配における請求権の申出(die Anmeldung des Anspruchs im Insolvenzverfahren oder im Schifffahrtsrechtlichen Verteilungsverfahren)仲裁裁判手続の開始(den Beginn des schiedsrichterlichen Verfahrens,)
  1. 訴えの許容性が官庁の事前の決定に依存しているときの、官庁に対する申立ての提起であって、申請処理後 3 月以内に訴えが提起されること。この規定は、裁判所又は第 4 号にいう調停所に提起されるべき申立てであってその許容性がある官庁の事前の決定に依存しているときに準用する。
  2. 上級裁判所が管轄裁判所を決定すべき場合における上級裁判所に対する申立てであって、申請の処理後 3 月以内に訴えが提起され、又はこれに対して裁判所の管轄の決定を下さなければならない申立てが提起されたとき。
  3. 訴訟費用扶助又は手続費用扶助の最初の申立ての公示の指示。申立て後まもなく公示が行われたときは、消滅時効の停止は、申立て提起時に開始する。

⑵ 前項の規定による消滅時効の停止は、確定力ある裁判又は実施された手続のその他の終結の 6 月後に終了する。手続が、当事者がこれを行わないことにより停止に至ったときは、当事者、裁判所又はその他手続に関与した機関の最後の手続行為をもって手続の終結に代える。当事者の一方が、手続を更に行ったときは、新たに消滅時効の停止が開始する。

⑶ 第 1 項第 6a 号、第 9 号、第 12 号及び第 13 号には、第 206 条、第 210 条及び第 211 条の規定を準用する。

205  給付拒絶権の場合の消滅時効の停止

債務者が債権者との合意に基づき、一時的に給付を拒絶する権利を有する間は、消滅時効は停止する。

206  不可抗力の場合の消滅時効の停止(Hemmung der Verjährung bei höherer Gewalt)

債権者が、消滅時効期間の最後の 6 月以内の期間に、不可抗力により権利の追求を妨げられているときは、消滅時効は停止する。

208  性的自己決定の侵害による請求権の場合の消滅時効の停止(Hemmung der Verjährung bei Ansprüchen wegen Verletzung der sexuellen Selbstbestimmung)

性的自己決定の侵害による請求権の消滅時効は、債権者が満 21 歳になるまで停止する。性的自己決定の侵害による請求権の債権者が、消滅時効の開始時に債務者と家内共同体において生活しているときも、消滅時効は、家内共同体の終了まで停止する。

209  停止の効力(Wirkung der Hemmung)

消滅時効が停止している期間は、消滅時効期間に算入しない。

210 条 完全行為能力者でない者の場合の消滅時効完成の停止(Ablaufhemmung bei nicht voll Geschäftsfähigen)

⑴ 行為無能力者又は制限行為能力者が、法定代理人を有しないときは、その者のために又はその者に対して進行する消滅時効は、その者が無制限の行為能力者となり又は代理の不在が除去された時点の後 6 月間の満了前には完成しない。

⑵ 前項の規定は、行為能力を制限された者が、訴訟能力を有するときは、適用しない。

211  相続財産の場合における消滅時効完成の停止

遺産に属する請求権又は遺産に対する請求権の消滅時効は、相続が相続人により承認された時点、遺産に関する破産手続が開始された時点、又は、請求権を代理人により若しくは代理人に対して行使することができる時点の後 6 月間の満了前には、完成しない。消滅時効期間が 6月に満たないときは、消滅時効のために定められた期間をもって 6 月間に代える。

212  消滅時効の新たな開始(Neubeginn der Verjährung)

⑴ 消滅時効は、次に掲げるいずれかの場合に新たに開始する。

  1. 債務者が、債権者に対し、一部弁済(Abschlagszahlung)、利息の支払(Zinszahlung)、担保の提供(Sicherheitsleistung)又はその他の方法で請求権を承認したとき。
  2. 裁判所又は官庁により強制執行が行われ、又はその申立てがなされたとき。

⑵ 強制執行による消滅時効の新たな開始は、強制執行が、債権者の申立てにより又は法律上の要件の欠如のため取り消されたときは、なかったものとみなす。

⑶ 強制執行の実施の申立てによる消滅時効の新たな開始は、第2項に従って申立てが許容されないとき、申立てが強制執行の場合に取り下げられたとき、又は実行された強制執行が、前項の規定により取り消されたときは、なかったものとみなす。

213  他の請求権の場合の消滅時効の停止、完成の停止及び新たな開始(Hemmung, Ablaufhemmung und erneuter Beginn der Verjährung bei anderen Ansprüchen)

消滅時効の停止、消滅時効完成の停止及び消滅時効の新たな開始は、同じ原因から選択的に請求権と並び又はこれに代えて存在する請求権についても適用する。

3 節 消滅時効の法的効果(Rechtsfolgen der Verjährung)

214 条 消滅時効の効力

⑴ 消滅時効の完成後は、債務者は、給付を拒絶する権利を有する。

⑵ 消滅時効の完成した請求権の満足のため給付した物は、消滅時効の完成を知らずに給付したときであっても、その返還を請求することはできない。債務者による契約に従った承認又は担保の提供についても同様とする。

215  消滅時効完成後の相殺(Aufrechnung)及び留置権(Zurückbehaltungsrecht)

請求権が最初の相殺の時点又は給付が拒絶された時点で消滅時効が完成していなかったときは、相殺又は留置権の行使を妨げない。

216  担保付請求権の場合の消滅時効の効力(Wirkung der Verjährung bei gesicherten Ansprüchen)

⑴ 抵当権、船舶抵当権又は質権が存在する請求権の消滅時効は、債権者が、担保権が設定された対象から請求権の満足を得ようとすることを妨げない。

⑵ 請求権の担保のため、ある権利が創出されたときは、請求権の消滅時効を理由として返還を請求することはできない。所有権が留保された場合において、担保された請求権について消滅時効が完成したときであっても、契約を解除することができる。

⑶ 前 2 項の規定は、利息請求権その他の反復される給付に対する請求権の消滅時効には適用しない。

217  従たる給付の消滅時効(Verjährung von Nebenleistungen)

主たる請求権とともに、これに依存する付随的給付も、その請求権に適用される特別の消滅時効が未だ完成していないときであっても、消滅時効が完成する。

218 条 解除の無効(Unwirksamkeit des Rücktritts)

⑴ 給付が行われないこと又は契約に従って行われないことを理由とする解除は、給付に対する請求権又は履行の追完に対する請求権に消滅時効が完成しており、かつ、債務者がこれを援用したときは、効力を有しない。債務者が、第 275 条第 1 項から第 3 項、第 439 条第 3 項又は第 635 条第 3 項の規定により、給付を行う必要がなく、給付に対する請求権又は履行の追完に対する請求権について消滅時効が完成していたこととなるときも同様である。この項の規定は、第 216 条第 2 項第 2 文の規定の適用を妨げない。

⑵ 第 214 条第 2 項の規定は、前項の場合に準用する。

第 219 条から第 225 条まで(削除)

(2)ここでカナダのケベック州民法典における消滅時効(Extinctive prescription)の定義を見ておく。

「時効は、行使されていない権利を消滅させる手段、または訴訟の不受理を主張する手段である。」(ケベック州民法典(CIVIL CODE OF QUÉBEC)第 2921 条)499頁以下を以下で、引用)

TITLE THREE

EXTINCTIVE PRESCRIPTION

2921. Extinctive prescription is a means of extinguishing a right owing to its non-use or of pleading a peremptory exception to an action.

2922. The period for extinctive prescription is 10 years, except as otherwise determined by law.

2923. Actions to enforce immovable real rights are prescribed by 10 years.
However, an action to retain or obtain possession of an immovable may be brought only within one year of the disturbance or dispossession.

2924. A right resulting from a judgment is prescribed by 10 years if it is not exercised.

2925. An action to enforce a personal right or movable real right is prescribed by three years, if the prescriptive period is not otherwise determined.

2926. Where the right of action arises from moral, bodily or material injury appearing progressively or tardily, the period runs from the day the injury appears for the first time.

2926.1. An action for damages for bodily injury resulting from an act which could constitute a criminal offence is prescribed by 10 years from the date the person who is a victim becomes aware that the injury suffered is attributable to that act. Nevertheless, such an action cannot be prescribed if the injury results from violent behaviour suffered during childhood, sexual violence or spousal violence. Conversion therapy, as
defined by section 1 of the Act to protect persons from conversion therapy provided to change their sexual orientation, gender identity or gender expression (chapter P-42.2), constitutes violent behaviour suffered during childhood within the meaning of this article.
However, an action against an heir, a legatee by particular title or a successor of the author of the act or against the liquidator of the author’s succession must, under pain of forfeiture, be instituted within three years after the author’s death, unless the defendant is sued for the defendant’s own fault or as a principal. Likewise,an action brought for injury suffered by the person who is a victim must, under pain of forfeiture, be instituted within three years after the death of the person who is a victim.

2927. The prescriptive period for an action in nullity of contract runs from the day the person invoking the cause of nullity becomes aware of such cause or, in the case of violence or fear, from the day it ceases.

2928. An application by a surviving spouse to have the compensatory allowance determined is prescribed by one year from the death of his spouse.

2929. An action for defamation is prescribed by one year from the day on which the defamed person learned of the defamation.

2930. Notwithstanding any provision to the contrary, where an action is based on the obligation to make  reparation for bodily injury caused to another, the requirement that notice be given prior to bringing the action or that the action be instituted within a period that is less than that provided for in this Book, cannot defeat a prescriptive period provided for in this Book.

2931. In the case of a contract of successive performance, prescription runs with respect to payments due,even though the parties continue to perform one or another of their obligations under the contract.

2932. The prescriptive period for an action to reduce an obligation that is performed successively runs
from the day the obligation becomes due, whether the obligation arises from a contract, the law or a judgment.

2933. No holder may be released by prescription from the prestation attached to his detention; however, its extent may be prescribed, as may the arrears.

カナダ民法典の消滅時効につき、ケベック州Lambert Avocats team弁護士サイトから抜粋、仮訳する)

 消滅時効は、民事責任の観点からあなたの権利を認めてもらう上で、我われにとって最も重要なものである。

 確かに、このタイプの消滅時効期間は、法律で定められた期限内に訴訟権を行使しないという単純な事実によって訴訟権を消滅させる効果がある。したがって、所定の期間が経過したら訴訟を起こすことを決定した場合、不受理の申し立てに反対する可能性がある。たとえば、時効が経過した後に訴訟を起こした場合、裁判所は、救済の可能性はあるものの、訴訟の権利は時効があるとみなされるため、それにアクセスできないことを認める場合がある。したがって、これらの期限を理解し、権利を行使するときに不愉快な思いをしないようにすることが重要である。

 一般的に、身体の完全性に対する権利などの個人的権利を主張する場合、期間は3年に短縮される。これは、精神的損害および物質的損害に関しても有効である。

 ただし、過失を犯してから数年後に損害が発生することもある。たとえば、ケベック州控訴裁判所で審理されたある事件では、土地測量士が土地の境界を定める際に誤りを犯した。しかし、損害が発生したのは契約終了後 7 年経ってからであった。その後、裁判所は、民事責任の場合、3 年間の時効期間は、過失、損害、因果関係という 3 つの必須要素が満たされた時点から始まるとの判決7/3(21)を下した。したがって、過失が行われた時点を考慮する必要はなく、具体的に損害が最初に生じた時点を考慮する必要があるとした。

 損害が徐々に進行する場合も、同じ原則が適用される。その場合は、損害が発生したとする名誉権(right to reputation)の主張に関しては、法律は、被害者が自分に対する名誉毀損を知った瞬間から 1 年間の期間を定めている。テレビ番組で放送された人種差別的発言を扱った控訴裁判所の判決では、発言の重大性に関わらず、期限は同じであると裁判所は指摘した。 

 受けた損害が刑事的に非難されるべき行為の結果である場合、議会は法的措置を取るためのより寛大な時間枠を設けている。したがって、被害者は、受けた犯罪行為と顕在化した損害との因果関係を知った瞬間から 10 年間、訴訟を起こすことができる。性的暴行行為によって引き起こされた損害の場合も、消滅期限はない

 また、民事訴訟における立証責任は刑事事件と同じではなく、民事裁判では前者が優先されることも考慮する必要がある。つまり、犯罪行為が実際に行われたことをしたがって,ある事実についてどちらが立証責任を負っているかは,訴訟において極めて重要な意味を持ち、蓋然性のバランス (balance of probabilities)によって証明するだけで済む。(注6)

*********************************************************:

(注1)「除斥期間」の英訳ははたしてどうか。消滅時効であれば“extinctive prescription”であろう。

ちなみに、わが国民法の英訳例(法務省)で第724条を見ておく。

(Extinctive Prescription of Claim for Compensation for Loss or Damage Caused by Tort)

Article 724:

In the following cases, the claim for compensation for loss or damage caused by tort is extinguished by prescription:

(i)the right is not exercised within three years from the time when the victim or legal representative thereof comes to know the damage and the identity of the perpetrator; or

(ii)the right is not exercised within 20 years from the time of the tortious act.

(注2) 裁判官 宇賀克也氏の意見は、次のとおりである。反対意見や小数意見ではない。

1 私は、本件規定が憲法13条及び14条1項の規定に違反すると解する点、改正前民法724条後段について、期間の経過により請求権が消滅したと判断するには当事者の主張がなければならないと解すべきであり、また、その主張が信義則に反し又は権利濫用として許されない場合があり、本件はまさにかかる場合に当たるので平成元年判決等を変更すべきとする点については、多数意見に賛成である。

(注3) 国家賠償法(昭和二十二年法律第百二十五号)第1条第1項

第一条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

(注4) 「母体保護法(Maternal Health Act)」は、母性の生命健康を保護することを目的とし、不妊手術と人工妊娠中絶について定める。平成8年(1996年)に、優生保護法から、優生思想に基づく規定が削除され、名称が改められた。旧優生保護法は、「不良な子孫の出生を防止する」ことを1つの目的とし、本人、配偶者または4親等内の血族が遺伝性疾患やハンセン病等の場合に、不妊手術と人工妊娠中絶を認めていた。不妊手術は優生手術と呼ばれ、遺伝性疾患等の遺伝を防止するために優生手術が公益上必要であると優生保護審査会が決定したときには、本人の同意なしに不妊手術を強制できるものとしていた。同法に基づいて、1万6,000件以上の強制不妊手術が行われた。

(注5) 令和5年6月19日(月)、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律第21条に基づく調査報告書」が、衆参両院の議長に提出されました。本調査報告書は、平成31年4月に成立した「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」第21条の規定に基づく調査報告書として衆議院及び参議院が共同して取りまとめたもので、第1編「旧優生保護法の立法過程」、第2編「優生手術の実施状況等」、第3編「諸外国における優生学・優生運動の歴史と断種等施策」の3編構成となっています。

国立国会図書館では、衆参両院の厚生労働委員長からの協力要請に基づき、調査及び立法考査局社会労働調査室課が中心となり、主に第3編「諸外国における優生学・優生運動の歴史と断種等施策」の原案を作成しました(国立国会図書館「旧優生保護法一時金支給法第21条に基づく調査報告書」から抜粋、引用)

(注6)立証責任を簡単に定義づけるとすると,立証責任を負っている当事者が当該事実の存在または不存在について証明する負担を負っており,仮にその証明に失敗すれば,その事実の存在または不存在は認められないという不利益を被ることを指す。

証明の程度は,英国法下では,民事訴訟においては「balance of probabilities」(ちなみに,刑事訴訟では「beyond reasonable doubt」とされ,検察官がより重い立証責任を負っている)において判断されると言われ,50%以上あり得ると証明できれば,事実が認定されると説明されている。日本法も類似の観念を採用している。

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