スキップしてメイン コンテンツに移動

FCAはマネーローンダリング防止システムとその管理のさらなる失敗に対してギャランティ・トラスト・バンク(英国)リミテッドに760万ポンドの罰金を科した

 英国金融行動監視機構(FCA)は、2014年10月から2019年7月までのマネーローンダリング防止(AML)システムと管理上の深刻な脆弱性に対して、ギャランティ・トラスト・バンク(UK)リミテッド(Guaranty Trust Bank (UK) Limited、以下「GTバンク」という)(注1)に7,671,800ポンド(約12億2,720万円)の罰金を科した旨のリリースが筆者の手元に届いた。以下で、筆者なりに補足、仮訳する。

 この関連期間中、GTバンクは適切な顧客リスク評価を実施できず、多くの場合、顧客によってもたらされるマネーローンダリング・リスクを評価または文書化していなかった。

 また同銀行は、顧客取引と取引関係を必要な基準をもって監視していなかった。

 これらの弱点は、FCAを含む内部および外部の情報源によってGTバンクに繰り返し強調されたが、それにもかかわらず、GTバンクはそれらを修正するための適切な措置を講じることを怠った。

 2018年初頭から、GTバンクは新規顧客の獲得を停止した。その年の後半、GTバンクは、FCAの継続的な懸念を考慮して、ビジネスに対するより広範な自主的な制限に同意した。その制限要件は、銀行が独立した第三者によってチェックされた修復計画を完了した後に解除された2021年半ばまで有効であった。

 GTバンクの行為は、同銀行がAML管理に関連して法執行措置に直面したのはこれが初めてではなく、FCAは2013年8月に重大かつ体系的な懈怠に対してGTバンクに525,000ポンド(約8,452万円)の罰金を科したことから、特に悪質といえる。

 FCAは、個人や組織が金融機関を使用して、違法な手段で取得した資産から利益を得るのを防ぐための制限を回避するリスクを軽減するために、効果的なAML管理を実施することを企業に求めている。

 FCAの執行および市場監視担当エグゼクティブディレクターであるマーク・スチュワード(Mark Steward)氏(注2)は、次のように述べた。

Mark Steward氏

 「GTバンクは、2013年の罰金に続いて、適切なAML管理を実施するために迅速に行動すべきであったが、そうしなかった。GTバンクは、AMLの弱点に対処できる計画を策定しておらず、AMLとより広い市場を金融犯罪リスクに長期間さらした。

 「企業は、金融犯罪のリスク、特にマネーローンダリングから自社とそれに対処する人々を保護する必要がある。FCAは、金融サービスの市場が安全でクリーンであり、金融犯罪を阻止するための堅牢なシステムと管理により信頼されることを保証することを決意している。FCAは、これらの基準が満たされない場合、引き続き強い措置を講じる。」

GTバンクはFCAの調査結果に異議を唱えておらず、和解に同意しているため、30%の割引を受ける資格がある。この割引がなければ、金銭的ペナルティは1,095万9,700ポンド(約17億3,200万円)となった。

【編集者への注記】

(1)GTバンクは、アフリカと英国でさまざまな銀行サービスを提供するナイジェリアの多国籍金融サービス機関であるギャランティトラストバンクホールディングカンパニーPlc.の完全子会社であるギャランティトラストバンクナイジェリアリミテッドの完全子会社である。Guaranty Trust Bank Holding Company Plcは、ロンドンとナイジェリアの両方の証券取引所に上場している公開有限会社である。

(2)GTバンクへのFCAの最終通知原本

(3)2013年8月8日、FCAは最終通知を発行し、2008年5月19日から2010年7月19日の間に適切なAMLシステムと管理を維持できなかったとして、GTバンクに525,000ポンド(約8,292万円)の罰金を科した。

(4)2018年初頭、GTバンクは新規顧客のALM新人研修を停止させた。2018年5月、GTバンクのAMLシステムとコントロールに関する重大な欠陥を浮き彫りにした熟練者のレポートが作成された。その後、GTバンクは2018年11月13日に事業に幅広い要件を自主的に課すことに合意した。

(5)AMLシステムとコントロールの改善に続いて、GTバンクが熟練者によって検証された改善計画を完了した後、この要件は解除された。

(6)金融犯罪の削減と防止は、深刻な被害を防ぎ、金融市場でより高い基準を設定するためのFCAの3カ年戦略の重要な部分である。

*************************************************************************************

(注1) Guaranty Trust Bank (UK) Limited は、イングランドとウェールズで設立された有限会社である (05969821)。 登録事務所: 60-62 Margaret Street, London, W1W 8TF. Guaranty Trust Bank (UK) Limited は、健全性規制機構(Prudential Regulation Authority)によって認可されており、金融行為監督機構(Financial Conduct Authority)および健全性規制機構によって規制されている。 GTBank および GTBank UK は、Guaranty Trust Bank (UK) Limited の商号である。 当行は、ナイジェリアの大手金融サービスプロバイダーの 1 つである Guaranty Trust Bank Plc の英国完全子会社である。

 なお、英国の金融監督システムはわが国や米国等と異なる。すなわち、金融システム全体の安定化(マクロプルーデンス)を担うイングランド銀行内の金融政策委員会(Financial Policy Committee:FPC)、個々の金融機関の健全性の確保(ミクロプルーデンス)を担う健全性監督機構(Prudential Regulation Authority:PRA)、そして金融事業者による業務上の行為の監督を担う金融行為監督機構(Financial Conduct Authority:FCA)が設置されることとなった。この体制は、銀行・証券・保険といった業種別ではなく、健全性規制と事業者の行為規制という機能面から PRA と FCA の2つの規制当局を設けている点に着目して、二頭体制(twin-peaks system)とも言われている。なお、FPC および PRA はイングランド銀行内部の組織であるが、FCA は FSA が改称された独立の機関である。(後藤 元「イギリスにおける銀行の業務範囲規制」から一部抜粋)(筆者ブログの注4参照)

(注2) マーク・スチュワード氏は 2015 年に FCA に入局して以来、同氏 は FCA の最も複雑で注目を集め、先例となる執行事件のいくつかの実施を主導しており、主要な国際金融機関や個人に対して多くの顕著な成功を収めている。彼はまた、FCA の上場権限と英国の上場市場の監視を主導し、市場監視に対するFCA のデータ主導のアプローチを開発した。さらに、彼は FCA の詐欺防止マーケティング キャンペーン「Scamsmart」の最前線に立った。彼は、2023 年春に FCA を去った。(FCAサイトから抜粋、仮訳)

********************************************************

Copyright © 2006-2023 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.You may reproduce materials available at this site for your own personal use and for non-commercial distribution.

コメント

このブログの人気の投稿

第3巡回区連邦控訴裁判所は裁判官全員の大法廷(En Banc)での再審理を否定し、インターネット第三者マーケティングに関するペンシルベニア州の主要な盗聴事件の意見を修正

  筆者の手元に2022.10.26付けのSquire Patton Boggs (US) LLP blog 「第3巡回区はEn Bancの再審理を否定し、インターネット第三者マーケティングに関するペンシルベニア州の主要な盗聴事件の意見を修正」 が届いた。 共同筆者はパートナー Kristin Bryan氏、事務所の弁護士James M.Brennan氏である。また、本裁判の第一審は2021年6月17日、ペンシルベニア州西部地区連邦地裁であり、当時ピッツバーグ大学ロースクールの法学部学生(現在はWestin Researchの Fellowである)Anokhy Desai氏が解説している。   以下、2つのレポートを内容を補足しながら、仮訳する。   Kristin Bryan氏  James M.Brennan  10月18日、米国第3巡回区連邦控訴裁判所は、 ペンシルベニア州の 「 盗聴および電子監視管理法 (Wiretapping and Electronic Surveillance Control Act:WESCA」)18 Pa. C.S. § 5701 et seq.」 の適用に関する訴訟で、 再審理を否定 した。そして、被告(オンライン小売業者とインターネットマーケティング会社Harriet Carter Gifts, Inc.)によって「提起された問題を明確にする」ために 修正意見 を発表した。  この命令は、原告(Popa)である消費者に有利な第3巡回区の2022年8月の判決を残しており、さらなる事実認定に応じて、被告は小売業者自身のウェブサイトとの消費者の相互作用を「傍受」したとしてWESCAの下で責任を負う可能性があると主張した。  Popa v. Harriet Carter Gifts, Inc., No. 21-2203, 2022 U.S. App. LEXIS 28799 (3d Cir. Oct. 18, 2022)事件で 原告Popa は被告たる小売業者ハリエット・カーター(Harriet Carter Gifts, Inc.)のウェブサイトを訪問し、交流した。ハリエット・カーターのウェブサイトには、被告の第三者マーケティング担当者 NaviStone(オハイオ州 シンシナティのソフトウェア企業) にHTTP

「COVID-19サイバー・セキュリティ・アドバイス:FTCとFBIはサイバーセキュリティ詐欺の傾向と予防策に関するガイダンスを提供(新型コロナウイルス対応-その5)」

   さる 4 月 1 日付けで筆者の手元に LexBlog のレポート   「 FTC と FBI はサイバーセキュリティ詐欺の傾向と予防策に関するガイダンスを提供」 が届いた。  COVID-19 の発生とパンデミック化に対応して、いくつかの米国の連邦政府機関は、発生に関連する詐欺や詐欺行為の増加について警告を発表したというものである。 例えば、 FBI は最近の速報で、 COVID-19 対策のためのフィッシングメール、偽造の治療または偽機器の増加、および発生に関する情報を提供することを目的とした米国保健福祉省 (DHHS) の下部機関である疾病対策予防センター( CDC )からの偽のメールの増加について 警告 を発した。     また、連邦取引委員会 (FTC) ( 筆者注 ) は、 COVID-19 に関連する詐欺と戦うために取っている手順の 一般的な概要を発表 しただけでなく、ビジネスを標的とすることを観察した 7 種類の COVID-19 詐欺の具体的なリスト をも提供した。   今回のブログは、これらの詐欺の詳細と、 FBI と FTC からの最も一般的なリスクのいくつかから保護し、それに対処する方法に関するガイダンス内容を 仮訳 するものである。   1.       FTC のサイバーセキュリティ詐欺と脅威の最近の傾向 FTC が事業者を標的とした 7 つの COVID-19 詐欺のリストには、以下の詐欺が含まれている。   (1) 「 公衆衛生」詐欺 ( “ Public health ” scams) : この場合、攻撃者は CDC 、世界保健機関(「 WHO 」)、または社会保障番号や納税者番号などの情報を求める他の公衆衛生組織からメッセージを送信するか、受信者に特定のサイトにリンクすべくクリックするか添付文書をダウンロードするように要求する。  なお、この手の詐欺に関し Barracuda Networks, Inc. 「コロナウィルス( COVID-19 )詐欺 : 企業は新しいフィッシング攻撃を受けている(メールセキュリティ)」 が CDC や WHO を騙る詐欺の手口と予防対策について詳しく解説している。   (2) 政府小切手詐欺 (Government check scams) : この場合

ウクライナ共同捜査チームの国家当局が米国司法省との了解覚書(MoU)に署名:このMoU は、JIT 加盟国と米国の間のそれぞれの調査と起訴における調整を正式化、促進させる

  欧州司法協力機構(Eurojust) がウクライナを支援する共同捜査チーム (Ukraine joint investigation team : JIT) に参加している 7 か国の国家当局は、ウクライナで犯された疑いのある中核的な国際犯罪について、米国司法省との間で了解覚書 (以下、MoU) に署名した。この MoU は、ウクライナでの戦争に関連するそれぞれの調査において、JIT パートナー国と米国当局との間の調整を強化する。  このMoU は 3 月 3 日(金)に、7 つの JIT パートナー国の検察当局のハイレベル代表者と米国連邦司法長官メリック B. ガーランド(Merrick B. Garland)によって署名された。  筆者は 2022年9月23日のブログ 「ロシア連邦のウクライナ軍事進攻にかかる各国の制裁の内容、国際機関やEU機関の取組等から見た有効性を検証する!(その3完)」の中で国際刑事裁判所 (ICC)の主任検察官、Karim A.A. Khan QC氏 の声明内容等を紹介した。  以下で Eurojustのリリース文 を補足しながら仮訳する。 President Volodymyr Zelenskiy and ICC Prosecutor Karim A. A. Khan QC(ロイター通信から引用) 1.ウクライナでのJITメンバーと米国が覚書に署名  (ウクライナ)のICC検事総長室内の模様;MoU署名時   中央が米国ガーランド司法長官、右手がICCの主任検察官、Karim A.A. Khan QC氏  MoUの調印について、 Eurojust のラディスラフ・ハムラン(Ladislav Hamran)執行委員会・委員長 は次のように述べている。我々は野心のために団結する一方で、努力においても協調する必要がある。それこそまさに、この覚書が私たちの達成に役立つものである。JIT パートナー国と米国は、協力の恩恵を十分に享受するために、Eurojustの継続的な支援に頼ることができる。  米国司法長官のメリック B. ガーランド(Merrick B. Garland)氏は「米国が 7 つの JIT メンバー国全員と覚書に署名する最初の国になることを嬉しく思う。この歴史的な了解覚書は、ロシアのウクライナ侵攻に起