1月3日、筆者の手元にオーストラリア競争・消費者委員会(ACCC)から警告ニュースが届いた。
筆者が特に注目したのは、従来取り組んできたACCC詐欺ウォッチ・サイトに加え、新たな予算措置を前提に新しい国立詐欺防止センター(new National Anti-Scams Centre :NASC)を設置すること、またオーストラリアの場合、詐欺被害者に関する精神的苦痛を支援するための相談、危機サポート・サイトであるビヨンド・ブルー・リミテッド(Beyond Blue Limited等の丁寧な紹介をあげている点である。
筆者なりに関係サイトの内容を補足的に引用、仮訳した。
1.ACCCの警告内容
最近時、オーストラリアの求職者は詐欺師に注意するよう促されており、オーストラリア競争・消費者委員会(ACCC)のScamwatchの新しい集計数字は、オーストラリア人が2022年中に採用詐欺被害で870万ドル(約7億6560万円)以上を失ったことを明らかにしている。(注1)
ACCCのScamwatchは、特に若者に、仕事に応募する際に個人情報を保護し、ソーシャル・メディア・プラットフォームやWhatsapp(注2)などのメッセージング・サービスを通じて行われる求人採用に注意するように警告している。
ACCC副委員長のデリア・リカード(Delia Rickard)は次のとおり述べた。「何千人もの若いオーストラリア人が学校や大学等を卒業し、将来のキャリアと新年に仕事を探す意向に大きな期待を寄せている。残念ながら、彼らは詐欺師の標的にされている。
Delia Rickard氏
若者は特に詐欺に脆弱であり、25歳から44歳のオーストラリア人が就職詐欺による最大の損失を報告していることを我々は知っている。
あなたが就職活動をしていて、大きな金銭的報酬のためにほとんど努力を必要としない仕事を提供された場合、それはおそらく詐欺である。これには、ウェブサイトやアプリのボタンを繰り返しクリックして、製品を購入したり、レビューを送信したりすることが含まれる場合がある。」
2021年、ACCCのScamwatchに対し行われた求人詐欺報告は3,194件以上あり、被害者の多くは、すぐにお金を稼ぐという約束文言に誘惑されたものであった。
詐欺師は、保証された収入と引き換えに金銭の支払いを要求することがよくある。彼らは、有名な企業やオンライン・ショッピング・プラットフォームに代わって正規な採用情報をしているふりをし、有名な人材紹介会社になりすます。
さらに、リカード氏は「2022年の最後の数か月で、採用詐欺に関連する報告と損失が大幅に増加した。人々が新年に仕事を探すにつれて、これらの詐欺師が引き続き取り組みを強化することを懸念している。
多くのオーストラリア人が競争の激しい雇用市場を最大限に活用しようとしているため、求職者に、あまりにも良すぎて真実ではないと思われる機会に注意するよう促している。仕事を確保するために安易に支払いや先行投資をしないでほしい。詐欺に遭ったと思われる場合は、直ちに銀行または金融機関に連絡されたい。」と語る。
2.詐欺被害を回避するためのACCCのアドバイス
①金銭を支払うまたは個人情報を提供する前にまずいったん行為を停止する。
②お金や個人情報を採用機関に提供する前に熟慮する時間をかけて考えてみてほしい。メッセージや電話が偽物である可能性があるかどうかを自問されたい。
③個人情報保護:何かがおかしいと感じた場合は迅速に行動すべきである。銀行に連絡して、詐欺の事実をACCC詐欺ウォッチに報告されたい。
3.採用詐欺から身を守る諸原則
①特にオンライン、電子メール、または電話でしか会ったことがない場合は、知らない人に送金したり、個人情報、クレジットカード、オンライン銀行、または暗号通貨アカウントの詳細を提供したりしないこと。
②銀行振込、PayID(注3)、またはビットコインなどの暗号資産による前払いを要求する取り決めへの対応は避けるべきである。この方法で送金されたお金を後日回収することはまず不可能である。
③面接や、あなたの経験、適合性、参照についての具体的話し合いなしに役割が提供されている場合は、まずは詐欺ではないかを疑ってほしい。
④ WhatsApp、Signal(注4)、Telegram(注5)などの暗号化されたメッセージプラットフォームを介してあなたに連絡する採用担当者には注意されたい。これらのプラットフォームは、詐欺師によって一般的に使用されている。
⑤あなたは誰と連絡を取り扱っているのかを知るべきである。採用担当者とポジションを提供する企業または個人を調査すべきである。まず独立したインターネット検索から供給された電話番号を介して人材紹介会社に連絡すべきである。
⑥迅速に行動するように圧力をうのみにしないこと。正当な申し出では、すぐに決定する必要はない。オファーが真実であるには良すぎるように聞こえる場合は、おそらく詐欺である。
⑦信頼できるプラットフォームやウェブサイトに表示されているという理由だけで、求人広告の正当性を信用しないでほしい、詐欺師も偽の広告を投稿する。もし詐欺師に出くわした場合は、ACCCのプラットフォームまたは法執行機関に報告されたい。
⑧他人の採用情報にかかる支払いや報酬を受け取らないでください。
⑨他人に代わって送金したり、購入したり、荷物を受け取ったりしないでください。あなたはマネーローンダリングのような刑事犯罪を犯しているまたは加担している可能性がある。
⑩あなたの個人情報を保護します。合法的な人材紹介会社にのみに情報を提供し、そのプライバシーポリシーを理解できることを確認されたい。住所や生年月日など、履歴書に入れる個人情報の量に注意されたい。
⑪オンライン・アカウントのパスワードを定期的に更新し、強力なパスワードまたはパス・フレーズを使用することを忘れないでほしい。
4.新しい国立詐欺防止センターの設置等の具体的詐欺対策の動向
ACCCのScamwatchは、他の政府機関、法執行機関、民間部門と協力して、情報を共有し、詐欺を阻止し、消費者を擁護し、コミュニティの意識を高め続けている。
(1)2022年10月の予算では、ACCCは政府からシード・ファンディング(注6)を受け取り、詐欺との戦いでコミュニティを支援するための新しい国立詐欺防止センター(注7)の範囲と計画を行った。
(2)サイバー犯罪を経験し、オンラインでお金を失った場合は、ReportCyberを介して警察に報告できる。
(3)詐欺師の連絡先に個人情報を提供した場合,ICARED(リンクは外部)に連絡する。
(4)オーストラリア人は、お金を失ったかどうかに関係なく、詐欺を報告し、Scamwatchのウェブサイト scamwatch.gov.au で助けを得る方法について詳しく知ることを勧める。
(5)詐欺ウォッチをフォローするTwitter(ツイッター:(リンクは外部)またはレーダー・アラート・Emailに加入すべきである。
また、詐欺に関する精神的苦痛を支援するための危機サポートについては、13 11 14のLifelineに連絡するか、午後7時から深夜までオンラインチャットでサポートにアクセスされたい(www.lifeline.org.au(リンクは外部) さらに、不安とうつ病のサポートを提供する 1300 22 4636 またはビヨンド・ブルー(注8)はオンラインでチャットwww.beyondblue.org.au(リンクは外部)参照。
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(注1) NASCの新設に関し、オーストラリア銀行協会サイトの解説を引用、仮訳する。
2022 年 11 月 7 日の詐欺啓発週間の初日に、スティーブン ジョーンズ下院議員財務担当閣外大臣(Stephen Jones MP Assistant Treasurer and Minister for Financial Services)は、新しい全国詐欺対策センターへの資金提供を発表した。
スティーブン・ジョーンズ氏「2022年11月7日は重要な日である。これは反詐欺週間、全国詐欺啓発週間であり、ACCC が伝統的に詐欺の問題に対する意識を高め、消費者が自分自身を守るために必要なすべての措置を講じるように努めてきた週である。Delia ACCC委員長 が指摘しているとおり、過去 2 年間で詐欺が爆発的に増加している。それはパンデミックで再度回復した。
過去 12 か月間で、詐欺行為による損失は 20 億ドル(約1760億円)に相当し、今後 12 か月でその数は 2 倍の 40 億ドルになると予想される。オーストラリアの世帯が莫大な生活費の増加によって困難な状況にあるとき、金融および経済犯罪によって 20 億ドルを失うことは誰にも耐えられない。
より多くの対策を実行する必要がある。私たちはこれを単独で行うことはできないが、政府間、政府内、政府と民間部門の間の協力が、詐欺の惨劇と戦うために絶対に不可欠であることを知っている。 そのため、本日、詐欺防止ポリシーの第一歩を踏み出すことを発表できることを嬉しく思う。我々連邦、議会はACCCを通じて全国的な詐欺防止センターを設立し、経済全体を移動している詐欺に対してリアルタイムで調整された迅速な対応ができるようにする。
(注2) WhatsApp Messengerまたは単にWhatsAppは、メタ・プラットフォームズが所有するアメリカのフリーウェア、クロスプラットフォームの集中型メッセージングおよびVoIP(VoIP)サービスである。
ユーザーはテキストメッセージや音声メッセージを送信したり、音声通話やビデオ通話を行ったり、画像、ドキュメント、ユーザーの場所、その他のコンテンツを共有したりすることができる。WhatsAppのクライアントアプリケーションはモバイルデバイス上で動作するが、デスクトップアプリを使用している間、ユーザーのモバイルデバイスがインターネットに接続されたままであれば、デスクトップコンピュータからもアクセスできる。このサービスに登録するには、各ユーザーが標準的な携帯電話番号を提供する必要がある。(Wikipedia から抜粋)
(注3)Pay IDとは、ネットショップ作成サービス「BASE」で作られたショップで利用することができる、ショッピングサービス。現在、ショップでの購入を手早く簡単に楽しむための「Pay ID決済」とお気に入りのショップや商品の最新情報をすぐに通知してくれてネットショッピングを楽しめる「Pay IDアプリ」を提供している。
(注4) Signalは、非営利のSignal Foundationとその子会社であるSignal Messenger LLCによって開発されたクロスプラットフォームの集中型暗号化インスタントメッセージングサービスである。ユーザーは、ファイル、音声メモ、画像、ビデオを含む1対1およびグループメッセージを送信できる。また、1 対 1 およびグループの音声通話やビデオ通話にも使用できる。Signalは、標準の携帯電話番号を識別子として使用し、エンドツーエンドの暗号化で他のSignalユーザーへのすべての通信を保護する。
Signalのソフトウェアは無料でオープンソースである。(Wikipediaから抜粋、仮訳 )
(注5) Telegram Messengerは、グローバルにアクセス可能なフリーミアム、クロスプラットフォーム、暗号化されたクラウドベースの集中型インスタントメッセージング(IM)サービス。このアプリケーションは、一般に秘密のチャットやビデオ通話として知られているオプションのエンドツーエンド暗号化チャット、VoIP、ファイル共有、およびその他のいくつかの機能も提供する。2013年8月14日にiOS向けに、2013年10月20日にAndroid向けにリリースされた。Telegramのサーバーは世界中に分散しており、世界のさまざまな地域に5つのデータセンターがあり、運用センターはアラブ首長国連邦のドバイにある。Android、iOS、Windows、macOS、およびLinux用の公式アプリを含む、デスクトップおよびモバイルプラットフォーム用のさまざまなクライアントアプリを利用できる(ただし、登録にはiOSまたはAndroidデバイスと有効な電話番号が必要)(Wikipediaから一部抜粋、仮訳)
(注6) シード・ファンディングは、スタートアップの初期段階の資金調達。このタイプの資金調達は、通常、市場調査、製品開発、ビジネスモデルの検証など、事業開発の初期段階に資金を提供するために使用される。あなたのビジネススタートアップは、あなたが創設者、家族、友人、エンジェル投資家、またはベンチャーキャピタリストである場合、あなたのような多くの場所からのシード資金を必要とするかもしれない。
初期段階のスタートアップは証明されていないことが多く、失敗する可能性が高いため、シード資金調達は通常、リスクの高い投資である。ただし、シード投資家は通常、会社が成功した場合、より高い投資収益率を受け取る。(marketing91.comから一部抜粋、仮訳)
(注7) 2022年10月、連邦政府は、国立詐欺防止センター(National Anti-Scams Centre (NASC))の設立のためにACCCにシード・ファンデイングを割り当てることを発表した。ACCCの委員長Gina Cass-Gottlieb氏は次のとおり述べた。
Gina Cass-Gottlieb氏
「ACCCは、予算からのシード資金を使用して他の機関と協力し、全国的な詐欺防止センターの設立に備える。この資金提供により、さまざまな機関が協力して、詐欺師との戦いでコミュニティをサポートする最善の方法を計画することができる。詐欺対策センター(NASC)は、詐欺を防ぐ方法と、詐欺が襲われたときに何をすべきかについてのアドバイスのための消費者の1つの連絡先を提供するように設計されている。我々は、詐欺の危険からコミュニティをよりよく守り、対応するために、この重要な作業の青写真に貢献することを楽しみにしている。」(ACCCサイトから抜粋、仮訳)
(注8) ビヨンド・ブルー(Beyond Blue)は20年間、オーストラリアの人々にサポートとサービスを提供してきた。我々はオーストラリアで最も有名で訪問されたメンタルヘルス組織であり、不安、うつ病、自殺の影響を受けた人々を支援することに焦点を当てている。(ガバナンス体制参照)
ビヨンド・ブルー・リミテッド(Beyond Blue Limited、以下、「ビヨンド・ブルー」という)は、オーストラリアの公開会社(public company)であり、保証によって制限されている。ビヨンド・ブルーのメンバーは、オーストラリア連邦とオーストラリアの各州および準州である。(組織の詳細参照)

ビヨンド・ブルー・リミテッドの憲章は、オーストラリアのコミュニティにおけるうつ病、不安神経症および関連障害の有病率と影響を軽減し、政府、サービスプロバイダー、ビジネスおよびコミュニティセクターを含むオーストラリアのコミュニティが協力してうつ病、不安神経症および関連障害に対処する能力を高めることを目的として、ビヨンド・ブルーを設立した。
ビヨンド・ブルーは、1997年所得税評価法(Cth)の下で健康増進慈善団体として分類され、控除可能な寄付受取人として承認されており、特定の税制上の優遇措置の対象となる。またビヨンド・ブルーは、ビヨンド・ブルーうつ病研究補助基金信託(信託)の受託者も務めている。信託目的は、うつ病、不安神経症および関連する状態に関連する研究を委託し、実施することである。
ビヨンド・ブルーの取締役は、ビヨンド・ブルーと信託の業績に可能な限り最高の基準を設定することを目指している。そのために、取締役会は、ビヨンド・ブルーのガバナンスに関する方針と内部規則を定めたガバナンス憲章を採択した。(About Beyond Blueから抜粋、仮訳)
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