スキップしてメイン コンテンツに移動

わが国の医療関係者や政治家は果たして「新型インフルエンザ等対策特別措置法」や「新型インフルエンザ等対策ガイドライン」等の内容を正確に理解して行動しているのか? (新型コロナウイルス対応:その3)

 

 最近、やっとこれらの問題がTV等でも正面から取り上げられ始めた。
 筆者は、これらの立法措置やその背景にある当時のパンデミックの想定外の拡散問題、さらにはわが国の医薬品備蓄の国際比較、また、平成17年11月から平成29年9月までの間、数次にわたり改正を行ってきた内閣官房 「新型インフルエンザ等対策政府行動計画等」が十分に機能していないという問題である。同行動計画の中身は具体的には、(1) 新型インフルエンザ等対策ガイドライン(平成30年6月21日 一部改定))、② 新型インフルエンザ等発生時等における初動対処要領(平成29年8月4日一部改正)、③ 新型インフルエンザ等対応中央省庁業務継続ガイドライン(平成26年3月31日)である。 特に重要なものは新型インフルエンザ等対策ガイドラインであろう。

 そこで筆者は、その内容を中心にチェックしてみた。
そこで、見られた重要な対策の欠落例えば、新型インフルエンザ対策ガイドライン(新型インフルエンザ及び鳥インフルエンザに関する関係省庁対策会議 平成21年2月17日)の新型インフルエンザ流行時の日常生活におけるマスク使用の考え方 (新型インフルエンザ専門家会議 平成 20 年 9 月 22 日)につき「5.家庭における備蓄について: 家庭において不織布製マスクを備蓄することは、新型インフルエンザ対策と して推奨される。その他の感染予防行動や日用品の備蓄と共に行われることが 望ましい。 不織布製マスクのほとんどは諸外国で生産され、輸入されているため、新型 インフルエンザ流行前に準備しておくことが推奨される。流行期間(8 週間を想定)に応じたある程度のマスクの備蓄を推奨する。 例えば一つの目安として、不織布製マスクを、発症時の咳エチケット用に 7-10 枚(罹患期間を 7-10 日と仮定)、健康な時の外出用に 16 枚(やむを得ず週に 2 回外出すると仮定して 8 週間分)として、併せて一人あたり 20-25 枚程度備蓄 することが考えられる。」とある一方で、国家備蓄については何ら言及していない。

 以下で、その内容を概観するが、これまでの国会での議論が野党を含め政府や専門家会議委員が述べてきた内容が、これまでの反省をふまえた検討や結果と著しく乖離していることが明らかとなろう。

 また、わが国メディアの対応は、従来から肺炎の疫学的重症度の解析解説が中心である。しかし、一定の期間ごとにグローバルに発生する新たな新型インフルエンザの対応のための普遍的な法律や医療制度の向けた議論が必須な時期にあることも明らかであり、その分野の専門家会議による立法議論が急務と考える。まさに。3月5日付け朝日新聞朝刊の社説の最後にあるように政府の政策発議の内容の議論は感染症のみならず、法律、経済、社会保障などの専門家の意見等に基づく国民が理解できる丁寧な説明が必要な時期である。

 さらに、わが国に関し言及すべき点は、前回オーストラリアの国家医療備蓄の最新情報と比較して、いったいわが国の対応はどうなっているのか?
 パンデミックになってからマスク等生産者に納品を促すといった後手後手の対応ではなく、インフルエンザ・ワクチンのきわめて高い目標備蓄率(45%)がある一方で、マスクや消毒剤などが流通パイプが細くなっている間は国家また地方自治体で備蓄でカバーするといった対応がなぜ考えられないのか、一国民としてますます不安、不信感が募る毎日である。

 ところで、わが国の厚生労働省の「新型インフルエンザ専門家会議」サイトや官邸サイトの「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議(第1回)議事概要」を読んだリ、その前身である新型インフルエンザ等対策閣僚会議の下に位置づけられた「新型インフルエンザ等対策有識者会議」の委員構成や議事録等についてチェックしているメデイアはいかほどであろうか。

 筆者は両者の委員構成を比較してみた。その比較の目的は、国民の厳しいチェックの在り方についての問題意識である。例えば、新型インフルエンザ等対策有識者会議は医療・公衆衛生に関する分科会及び社会機能に関する分科会を開催し、第8回有識者会議に出された「新型インフルエンザ等対策政府行動計画(案)の概要」を読んだ。特に国民生活および国民経済の案例の確保の項目を注視されたい。本文で詳しく述べるが、例えば買い占め、緊急物資の運送等、以下のとおり一般論で終始している。

【国内発生早期】
・消費者としての適切な行動の呼びかけ、事業者に買占め・売惜しみが生じないよう要請
★指定公共機関は業務の実施のための必要な措置を開始★緊急物資の運送★生活関連物資等の価格の安定

 【国内感染期】
・消費者としての適切な行動の呼びかけ、事業者に買占め・売惜しみが生じないよう要請・★緊急物資の運送★生活関連物資等の価格の安定★物資の売渡しの要請★新型インフルエンザ等緊急事態に関する融資★権利利益の保全

また、最も国民の生命を守るための新型インフルエンザ・ワクチンの備蓄率が目標である45%を大きく下回っていることなどが有識者会議の議事録で見るしかないのが現実である。(筆者注1) 

1.「新型インフルエンザ等対策特別措置法」の内容と問題点
 内閣官房が同法の概要を掲載している。しかし、非常事態宣言の根拠となりうる同法につき、改めて詳細な検討が必要な時期にある一方で、数年おきにグローバルに発生する新型インフルエンザ」の対応としては前述した通り、類似の立法措置をとることは当然といえるが、その理解にはまず新型インフルエンザ等対策特別措置法に関する都道府県担当課長会議資料 資料2 新型インフルエンザ等対策特別措置法 について~的確な危機管理のために~(全32頁)平成24年6月26日 内閣官房新型インフルエンザ等対策室を丁寧に読むべきである。

 この資料は都道府県担当課長向けにまとめられたものであることから、筆者の限られた時間であるが比較的に重要な点を網羅していると感じた。
 同法や今後提示されて来るであろう改正法案についての論述は機会を改めたい。

2.内閣官房 「新型インフルエンザ等対策政府行動計画等」の内容と問題点
 (1) 新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の委員構成

 延べ18回にわたる新型インフルエンザ等対策有識者会議での検討がなされている一方で、その成果を広く国民に公表し、同時に関係する分野たる法律、社会政策、福祉政策、経済・財政等の専門家からの意見を求めるべきであったと考える。
 その意味で前述した通り有識者会議の顔ぶれを見ても理解できよう。
ここで、有識者会議の委員と今回組成された新型コロナ専門家会議委員の氏名、所属、専門分野を列記しておく。比較されたいが、この人選は極めて横滑りであるといえるし、3で述べる問題に関する検討すべき問題が山積しているといえる。

 この名簿比較で読者はすぐに気が付くであろうが、医療、感染症などの専門家が多いことは言うまでもないが、問題は法律家、公共政策学が各1名である点であり、さらに言えば財政、経済の専門家は皆無である。この顔ぶれで果たして新型コロナウイルス対策、具体的国家施策を総合的に検討できる諮問内容を内閣に真正面から提言できるであろうか。

 ちなみに、弁護士 中山ひとみ氏(霞ヶ関総合法律事務所所属)は元日本弁護士連合会常務理事で医療関係のかかる問題に詳しいことは言うまでもない。また、武藤香織氏(東京大学医科学研究所公共政策研究分野教授)は生殖補助医療や生体臓器移植、遺伝性疾患など、家族と縁の深い医療や医学研究の現場や政策に関する調査研究を行ってきている。

武藤香織氏

 (2) 新型インフルエンザ等対策政府行動計画の概要

3.医療・公衆衛生、電気・水道・ガス・公共交通などの社会インフラへの影響と事業継続性の確保問題
 新型インフルエンザ等対策ガイドライン(中間報告)では、以下の記述があるのみである。
そこでの本格的な検討がないがゆえに今日の消費者パニックを生み、またこの医療品不足状態が長期化した段階で医療機関だけでなく基幹インフラの事業継続につき、だれがどこまで実際の責任や運営を担うのか、疑問がさらに湧く。

4.バイオテロ対策の取り組みへの言及は皆無
  わが国内では筆者のようなサイバー犯罪の専門家でも、この問題指摘は極めて少ない。その中で厚生労働省研究班がまとめた「厚生労働省研究班 バイオテロ対応ホームページ」が炭疽 (anthrax)等につき詳しく論じている。(筆者注2)

5.その他政府や自治体が取り組むべき課題
  新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正法の内容に係る問題でも関連する問題として、消費者庁や公正取引委員会等監視機関は便乗値上げ、買い占めなどに厳格に取り組む姿勢を直ちに見せるべきである、そのことが直接的に国民や民間企業の安心感を与えるし、まさにそれらの機関の本質的任務である。
 さらに言えば、わが国では例がない公的ならびに民間「オンブズマン」の役割が重視されるべきであろう。この問題自体は政策論として大きな問題であり、機会を改める。

***********************************************************
(筆者注1) 新型インフルエンザ等対策有識者会議(第11回)資料1-6 「ワクチン、抗インフルエンザ薬等について」でわが国におけるワクチン、抗インフルエンザ薬等であるタミフル、リレンザに関する備蓄に関する詳細な解析を行っている。

(筆者注2) 厚生労働省研究班 バイオテロ対応ホームページから引用する。
 バイオテロ対応ホームページは、平成 20 年(2008 年)に医療機関向けにバイオテロ関連疾患の臨床診断や検査方法の情報を提供するためのものとして整備され、平成 26 年からは「バイオテロに使用される可能性のある病原体等の新規検出法の確立,及び細胞培養痘そうワクチンの有効性,安全性に関する研究」班(西條政幸班長:国立感染症研究所)が担当しており、国際情勢や日本のマスギャザリングのイベントを想定し、平成 28 年からは一般向けに公開しております。本ホームページではバイオテロ対策の総論、及びバイオテロ関連疾患について、ショートサマリー、バイオテロが疑われる時の対応のフローチャート、疾患の詳細について紹介しており、専門家の意見を取り入れながらアップデートを行っております。また国内には常在しないものの輸入感染症やバイオテロとして海外から持ち込まれうるその他の関連疾患についても記載しておりますので、診療にお役立ていただければ幸いです。
また、具体的には天然痘(smallpox)、野兎病(Tularemia)、ウイルス性出血熱(Virus hemorrhagic fever)、ボツリヌス症( botulism)、ペスト( plague)等である。

********************************************************
Copyright © 2006-2021 芦田勝(Masaru Ashida ).All rights reserved. You may display or print the content for your use only. You may not sell publish, distribute, re-transmit or otherwise provide access to the content of this document.

コメント

このブログの人気の投稿

ウクライナ共同捜査チームの国家当局が米国司法省との了解覚書(MoU)に署名:このMoU は、JIT 加盟国と米国の間のそれぞれの調査と起訴における調整を正式化、促進させる

  欧州司法協力機構(Eurojust) がウクライナを支援する共同捜査チーム (Ukraine joint investigation team : JIT) に参加している 7 か国の国家当局は、ウクライナで犯された疑いのある中核的な国際犯罪について、米国司法省との間で了解覚書 (以下、MoU) に署名した。この MoU は、ウクライナでの戦争に関連するそれぞれの調査において、JIT パートナー国と米国当局との間の調整を強化する。  このMoU は 3 月 3 日(金)に、7 つの JIT パートナー国の検察当局のハイレベル代表者と米国連邦司法長官メリック B. ガーランド(Merrick B. Garland)によって署名された。  筆者は 2022年9月23日のブログ 「ロシア連邦のウクライナ軍事進攻にかかる各国の制裁の内容、国際機関やEU機関の取組等から見た有効性を検証する!(その3完)」の中で国際刑事裁判所 (ICC)の主任検察官、Karim A.A. Khan QC氏 の声明内容等を紹介した。  以下で Eurojustのリリース文 を補足しながら仮訳する。 President Volodymyr Zelenskiy and ICC Prosecutor Karim A. A. Khan QC(ロイター通信から引用) 1.ウクライナでのJITメンバーと米国が覚書に署名  (ウクライナ)のICC検事総長室内の模様;MoU署名時   中央が米国ガーランド司法長官、右手がICCの主任検察官、Karim A.A. Khan QC氏  MoUの調印について、 Eurojust のラディスラフ・ハムラン(Ladislav Hamran)執行委員会・委員長 は次のように述べている。我々は野心のために団結する一方で、努力においても協調する必要がある。それこそまさに、この覚書が私たちの達成に役立つものである。JIT パートナー国と米国は、協力の恩恵を十分に享受するために、Eurojustの継続的な支援に頼ることができる。  米国司法長官のメリック B. ガーランド(Merrick B. Garland)氏は「米国が 7 つの JIT メンバー国全員と覚書に署名する最初の国になることを嬉しく思う。この歴史的な了解覚書は...

米国連邦取引委員会(FTC)が健康製品に関する新しい拡大コンプライアンスガイダンスを発行

   2022年12月20日、米国連邦取引委員会(以下、FTCという)は、以前の 1998年のガイダンスである栄養補助食品:業界向け広告ガイド(全32頁) を改定および置き換える 健康製品等コンプライアンスガイダンス の発行を 発表 した。 Libbie Canter氏 Laura Kim氏  筆者の手元に Covington & Burling LLPの解説記事 が届いた。筆者はLibbie Canter氏、Laura Kim氏他である。日頃、わが国の各種メディア、SNS、 チラシ等健康製品に関する広告があふれている一方で、わが国の広告規制は一体どうなっているかと疑うことが多い。  FTCの対応は、時宜を得たものであり、取り急ぎ補足を加え、 解説記事 を仮訳して紹介するものである。 1.改定健康製品コンプライアンスガイダンスの意義  FTCは、ガイドの基本的な内容はほとんど変更されていないと述べているが、このガイダンスは、以前のガイダンスの範囲につき栄養補助食品を超えて拡大し、食品、市販薬、デバイス、健康アプリ、診断テストなど、すべての健康関連製品に関する主張を広く含めている。今回改定されたガイダンスでは、1998年以降にFTCが提起した多数の法執行措置から引き出された「主要なコンプライアンス・ポイント」を強調し、① 広告側の主張の解釈、②立証 、 その他の広告問題 などのトピックに関連する関連する例について具体的に説明している。 (1) 広告側の主張の特定と広告の意味の解釈  改定されたガイダンスでは、まず、広告主の明示的主張と黙示的主張の違いを含め、主張の識別方法と解釈方法について説明する。改定ガイダンスでは、広告の言い回しとコンテキストが、製品が病気の治療に有益であることを暗示する可能性があることを強調しており、広告に病気への明示的な言及が含まれていない場合でも、広告主は有能で信頼できる科学的証拠で暗黙の主張を立証できる必要がある。  さらに、改定されたガイダンスでは、広告主が適格な情報を開示することが予想される場合の例が示されている(商品が人口のごく一部をターゲットにしている場合や、潜在的に深刻なリスクが含まれている場合など)。  欺瞞やだましを避けるために適格な情報が必要な場合、改定されたガイダンスには、その適格...

米ノースカロライナ州アッシュビルの被告男性(70歳)、2,200万ドルのポンジ・スキーム(いわゆる「ねずみ講」)等を画策、実施した罪で17.5年の拘禁刑や1,700万ドル以上の賠償金判決

被告 Hal H. Brown Jr. 7 月 10 日付けで米連邦司法省・ノースカロライナ西部地区連邦検事局の リリース   が筆者の手元に届いた。 その内容は「 ノースカロライナ州アッシュビル住の被告男性 (Hal H. Brown Jr., 70 歳 ) は、 2,200 万ドル ( 約 23 億 5,400 万円 ) のポンジ・スキーム (Ponzi scheme : いわゆる「ねずみ講」 ) 等を画策、実施した罪で 17.5 年の拘禁刑 や 1,700 万ドル ( 約 18 億 1,900 万円 ) 以上の賠償金 の判決 を受けた。被告は定年またはそれに近い人を含む 60 人以上の犠牲者から金をだまし取ったとする裁判結果」というものである。 筆者は同裁判の被害額の大きさだけでなく、 1) この裁判は本年 1 月 21 日に被告が有罪を認め判決が出ているのにかかわらず、今時点で再度判決が出された利用は如何、さらに、 2)Ponzi scheme や取引マネー・ローンダリング (Transactional Money Laundering) の適用条文や量刑の根拠は如何という点についても同時に調査した。 特に不正資金の洗浄運び屋犯罪 (Money Mules) の種類 ( 注 1) の相違点につき詳細などを検証した。 さらに裁判官の連邦量刑ガイドラインや具体的犯罪の適用条文等の判断根拠などについても必要な範囲で専門レポートも参照した。 これらについて詳細に解析したものは、米国のローファームの専門記事でも意外と少なく、連邦検事局のリリース自体も言及していなかった。 他方、わが国のねずみ講の規制・取締法は如何、「ネズミ講」と「マルチ商法」の差は如何についてもその根拠法も含め簡単に論じる。いうまでもないが、ネズミ講の手口構成は金融犯罪に欠くべからざるものである。高齢者を狙うのは振込詐欺だけでなく、詐欺師たちは組織的にかつ合法的な似非ビジネスを模倣して、投資をはじめ儲け話しや貴金属ビジネスなどあらゆる違法な手口を用いている。 ( 注 2) 取締強化の観点からも、わが国の法執行機関のさらなる研究と具体的取り組みを期待したい。なお、筆者は 9 年前の 2011.8.16 に...