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ACCC 「トヨタ、マツダ、スズキが深刻な安全リスクから新しいエアバッグ安全リコールに参加」の新たな意義を見る

 

 オーストラリアのタカタ製エアバッグのリコールについては、従来からわが国メディアでも以下のような記事が取り上げられている。

(1)  2017年7月24日記事

 オーストラリア競争・消費者委員会(ACCC)は24日、タカタ<7312.T>製エアバッグのリコール(回収・無償修理)について調査していると明らかにした。

 同国の警察はこれより先、シドニーで今月、自動車が衝突して運転していた男性が死亡した事故について、欠陥エアバッグが原因だったとの見方を示していた。これがタカタ製であれば、同社製の欠陥エアバッグによる世界で18人目の死亡例となる。ACCCによると、オーストラリアでは2009年以降、230万台以上がリコール対象となっている。以下略す。

(2)  2018年2月28日記事 

 オーストラリア当局は、欠陥のあるタカタ製エアバッグを全てリコール(無料の回収・交換)させる。豪競争消費者委員会(ACCC)が28日にウェブサイトに掲載した資料によると、国内の自動車の約7台に2台が強制的なリコールの対象となる。

 自動車メーカー各社は、2020年末までにエアバッグの交換を完了する必要がある。既に自主的なリコールの対象だった車両のほかに、新たに130万台に今回の措置が適用される。

 オーストラリアでは09年以降、欠陥のあるタカタ製エアバッグを搭載した車両が約270万台リコールされている。同国ではタカタのエアバッグが原因とされる事故で死亡1件、重傷1件が報告されている。以下略す。 

 以上読んでわかるとおり、これら記事では自動車メーカー名が明確に表に出てこない。これらの記事はAPやブルームバーグ等欧米の主要メディアの翻訳版であるが、その理由は何かという筆者の疑問への答えはいかなる点であろうか。

 その意味で今回のACCの発表とその背景にある自動車業界の安全性問題の根の深さが理解できよう。以下で、ACCCのリリース文仮訳を行うとともに、その新たな意義を検証する。 

1.ACCC(オーストラリア競争・消費者保護委員会)のトヨタ、マツダ、スズキ車のユーザー向け警告

 1月10日、人気のトヨタ・スターレットを含む1996年から1999年の間に製造された18,000台以上の車両の自主回収を発表し、影響を受ける車両の買い戻しを申し出た。これらの車両には、潜在的に致死につながるタカタNADI 5-ATエアバッグが装着されている。

 ACCCのスティーブン・リッジウェイ(Stephen Ridgeway)委員長代行は次のとおり述べた。「これらのエアバッグは、事故で誤って展開し、高速で車両のキャビンに部品や金属片を推進することによって、車内の人々を傷つけたり、死に至る可能性がある。これらエアバッグは、クラッシュ時に完全に膨張していない場合もあり、ドライバーを期待どおりにその保護ができなかった。

 影響を受けるトヨタ、マツダ、スズキの車両の所有者は、直ちに車両の運転を停止し、緊急の無料検査を手配するためにメーカーに連絡することを勧める。オーストラリアの安全当局は現在、オーストラリアでこれらのエアバッグの不配備の疑いに関する4件の事件の報告を受けている。これらの事件は、BMW車の死亡と重傷、トヨタ車の死亡と重傷をもたらした。

 ドライバーはこれらの警告を真剣に受け止める必要がある。これらのエアバッグは、死亡または重傷につながる深刻な安全リスクを引き起こす可能性がある。自ら命を危険にさらさないでほしい。そして、あなたの車が影響を受ける場合、他の輸送手段を検討してほしい」 

 各消費者は、下表で車両の車両識別番号(Vehicle Identification Number)を確認するか、ACCCのオーストラリア安全規制局 (Product Safety Australia website) (筆者注1)にアクセスして、自分の車がこのリコールに含まれているかどうかを確認する必要がある。自分の車が影響を受けているかどうかを確認するために助けを必要とする人は、助けを求めて各メーカーのホットラインを鳴らすべきである。

 具体的には、トヨタは、交換用エアバッグが利用可能になるまで、車両を買い戻すか、長期的な代替車のレンタルを提供するサービスを提供している。 また、マツダとスズキは、影響を受ける車をオーナーから買い戻すことを申し出ている。

 トヨタ、マツダ、スズキによる本日の自主回収は、2019年11月以降、アウディ、BMW、フォード車にかかる約17,000台の自主回収に続くものである。ACCCの支援を受けたインフラ・運輸・都市・地域開発省は、ホンダと三菱の自主回収を完了しようとしている。これらのリコールはまもなく開始される見込みである。 

 アウディ、BMW、フォードはすでにリコールを開始しており、緊急的に顧客に連絡している。影響を受けるアウディ、BMW、またはフォードの車両にアクセスしていて、まだ連絡を取っていない場合は、メーカーに緊急の無料検査を手配してほしい。 

 さらに、アウディ、フォード、ホンダ、マツダ、三菱、スズキ、トヨタは、この安全問題の結果、クリスマス休日期間中に大きな困難を経験している消費者に対して、緊急の短期支援を検討することに合意した。この苦難の支援を求める消費者は、自動車メーカーの本社に連絡することができる(下記の連絡先詳細)。BMWのオーナーは直接BMWに連絡して、車両を点検用に手配要求することができる。

 今回の消費者向けの詳細については、タカタNADI 5-ATエアバッグのリコールを参照されたい。 

2.今回の一連の緊急措置の背景と重要な問題点

 これらの車両には、8つのメーカーにわたる約78,000台のオーストラリア車に搭載されたタカタNADI(非アジドドライバーインフレータ)タイプの5-ATエアバッグが搭載されている。これらの車のかなりの数はまだ登録され、国内の道路上で走行している可能性が高い。

 今回問題となる「NADI 5-ATエアバッグ」は、既存のタカタ製エアバッグの強制リコールの下で幅広いメーカーから多数の新しい車でリコールされたエアバッグとは異なる。

 以前にwww.ismyairbagsafe.com.auをチェックして、エアバッグがエアバッグのリコールの強制の影響を受けているかどうかを確認したドライバーでも、再度オーストラリア安全規制局のウェブサイトも確認する必要がある。 

 タカタの承継会社であるジョイソン・セーフティ・システムズ(JSS) (筆者注2)は、世界的に供給されている特定のインフレータ(エアバッグインフレータ:自動車のエアバッグ用のガス発生装置)安全リスクを確認している。

 2019年12月3日に米国道路交通安全局(NHTSA)に機器の欠陥報告書が提出され、2020年初めに米国で影響を受ける車両のリコールが見込まれている。

 また、2019年11月のBMWリコール直後、豪インフラ交通省はすべての自動車メーカーに連絡を取り、オーストラリアの他のどの車両が影響を受ける可能性があるかを判断した。

 

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(筆者注1) Joyson Safety Systems(JSS)は米国ミシガン州アーバーンヒルズにグローバル本社を置き、25か国の98ロケーションから主に自動車用部品、システム、 及び技術を提供しており、また5万人を超える従業員によりグローバルにネットワークを展開している。

JSSは中国上海に本社を置くNingbo Joyson Electronic Corporation(SHA:600699、「Joyson Electronics」)の子会社である。

 (筆者注2) 2017年11月、均勝(寧波均勝電子(ジョイソン・エレクトロニクス;Ningbo Joyson Electronic))は、傘下の米子会社である自動車部品大手、キー・セイフティー・システムズ(KSS)を通じて、相安定化硝酸アンモニウムを使用したエアバッグに関する事業を除くタカタ株式会社を買収すると発表した。買収金額は、約1,750億円(15.88億米ドル)と公表されている。

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