スキップしてメイン コンテンツに移動

EUデータ保護指令第29条専門家会議(Article 29 Working Party)が「一般データ保護規則(GDPR)に関する新たなガイドライン草案」を公表(その2完)

 

 Last Updated :february 6,2019

2.行動ターゲット広告、プロファイリング、自動化された意思決定に関する主要なWP29のGDPRの解釈ガイダンス 草案 

 2017年10月24日、米国ローファームPrivacy & Security Matters「Key GDPR Guidance on Behavioral Advertising, Profiling and Automated Decision-Making」の解説文仮訳する。 

 間もなくより透明性の高いかつ非常に強力な権限を持った「欧州データ保護委員会(European Data Protection Board (”EDPB”)」になる「EU指令第29条専門家会議(WP29:欧州委員会の諮問グループ)」は、EU加盟国のデータ保護当局が「一般データ保護規則(GDPR)」の様々な要求要件をどのように解釈するのかを組織、団体等が理解する助けとなるガイダンスを作成した。すなわち、”WP29”は最近、これらの活動を行うすべての組織・団体にとって重要となる「自動化された意思決定とプロファイリングに関するガイダンス草案」を発行した。このガイダンスの草案は、2017年11月28日までのコメントのために公開されている。本記事は、このガイドラインの特に興味深い点を要約している (ここでは「採択済のガイドライン」セクションに列記された項目までスクロールしている) 。

 (1)まず、GDPRに基づく「自動化された意思決定」とは何か?また「プロファイリング」とは何か? 

  「自動化され意思決定」はGDPRには明示的に定義されていないが、WP29ガイダンスが確認しているとおり、それはあなたが考えるもの、すなわち人間の意思決定者からの実質的なインプットなしに技術的手段を使用して個人についての決定を行うことをいう。例えば、クレジットカード会社は、アルゴリズムを適用し、イエスまたはノーの決定を生成するソフトウェア・アプリケーションを介してクレジットカードの申込を受付・実行することができる。自動化された意思決定は、当該申込人のプロファイルに基づいている可能性があるが、必ずしもそうである必要はない。  

  GDPR第4条(4)項は、プロファイリングを「自然人に関するある一定の個人的な側面を評価するために、特に、自然人の業務実績、経済状況、健康、個人的嗜好、興味、信頼、行動、所在又は移動に関連する側面の分析又は予測をするためになされる、個人データの利用から成る個人データのあらゆる形態の自動的な処理をいう」と定義する。 

  プロファイリングは、典型的にはウェブサイトやアプリで使用される非常に一般的な広告「行動ターゲッテイング広告(behavioral advertising)」と関連する。これは、たとえば、背部痛の治療法をオンラインで検索していたとき、突然、人間工学的なデスクチェアの広告が表示される事実上すべてのあなたが訪問したウェブサイト、お気に入りのソーシャルメディアのニュースフィード、天気予報、交通アプリなどが出てくる.。このプロファイリングには、必然的に「自動化された意思決定」が必要である。  

 ”GDPR”は、自動化された意思決定またはプロファイリングを一切禁止するものではないことを認識することが重要である。代わりに、GDPR第22条(1)項は、データ主体に少数の例外を除いて( 彼または彼女に法的効果をもたらすか、同様に彼または彼女に同様に重大な影響を及ぼすプロファイリングを含む、自動化された処理のみに基づく決定の対象とならない権利を与える。その人の法的地位または権利に影響を与える自動化された意思決定、またはその影響において「同様に重要な」意思決定のみが禁止されている。つまり、ダイレクト・マーケティングのためにプロファイリングに意義を唱える別個の権利がある。この点は詳しくは後述する)。

 一部の企業は、「法的効果」の資質を金銭的に言えば、インターネットを動かすプロファイリング/広告エコシステムの一部である企業に幅広い寛容度を与えると解釈していた。しかし、”WP29”ガイダンス草案はその考えに冷たい水を投じた。 

  ”WP29”は、データ処理が誰かに重大な影響を及ぼすためには、処理の効果は、注目に値するほど十分に大きくなければならない。言い換えれば、「意思決定」は、関係する個人の状況、行動または選択に大きく影響する可能性を持たなければならない。最も極端な場合、その決定は個人の排除または差別につながる可能性がある。この点が17/EN WP251、10頁で強調され追加された。  

 したがって、重要な疑問は、意思決定(プロファイリングを含む)が、関係する個人の状況、行動または選択に大きく影響する可能性があるかどうかである。そして、この点がガイダンス草案が行動ターゲテイング指向の広告業界にとって非常に興味深いものである背景である。

 多くの典型的なケースでは、単純化された人口統計プロファイル「ブリュッセル地域の女性」に基づく主流のオンラインファッション店の広告など、ターゲットを絞った広告は個人のプライバシーに大きな影響を与えない。 

 しかし、具体的ケースにおいては特性に応じて、次のようなことが起こる可能性がある(17/EN WP 251, p. 11頁)点でガイダンスに追加された。 

① プロファイリング・プロセスの押しつけがましさ 

② 関係者の期待と希望 

③ 広告が配信される方法 

④ 対象となるデータ主体が有する特定の脆弱性 

 言い換えれば、主観的要因は、制限されていないプロファイリング活動を制限されたカテゴリに移動することができる。”WP29”は、私たちの大部分が経験しているウェブ上の広告によって「ストーカー」されているという過度といえるプロファイリングが、プロファイリングと自動化された意思決定の完全な制限を引き起こすことを暗示しているようである。それが事実”WP29”の意図であれば、そのガイダンスの最終版で事例をより明確に述べるほうがよいであろう。  

 さらに、最後の箇条書きを詳述するために、 対象とされている人物の識別可能な特徴によって 、プロファイリングが限定的なカテゴリーに持ち込まれる可能性がある。  

 個人にほとんど影響を及ぼさない処理でも、実際にはマイノリティ・グループや脆弱性を持った大人(筆者注5)のような特定の社会グループの人々に実際に大きな影響を与える可能性がある。例えば、定期的にオンライン・ギャンブルの広告を表示する財政難の人は、これらのオファーにサインアップし、潜在的にさらなる債務を負う可能性がある。 

 では、いったいこれはどういう意味か?「行動ターゲッテイング広告(behavioral advertising)がGDPR 第 22条(1)の「同様に大きな影響」を引き起こした場合、広告(および関連するプロファイリング)は、次の要件に基づきプロファイリングと自動化された意思決定が行われている場合にのみ実行できる。  

① データ主体ととデータ管理者の間の契約の締結または履行の実行に必要性があること 。 

② EU加盟国の法律がデータ主体の権利と自由と正当な利益を保護するための適切な措置を定めていること。 

③ データ主体の明示的同意に基づいていること。 

 これらの条件のいずれも、一般に宣伝(契約を実行しない)に使用され、当該国の法律の下で特別な配慮を得ることはほとんどなく、「背後にある」ことに根ざしている行動ターゲッテイング広告の文脈では、プロファイルを作成して広告を展開する企業に対し厳格な同意を得させることができる。  

 オンライン広告業界が”WP29”に対しコメントを提供しているかどうか、そしてガイダンスが結果として変化するかどうかを確認することは興味深いであろう。その一方で、WP29ガイダンス草案は、プロファイリングまたは他の形態の自動化された意思決定を使用するすべての企業にとって必須のものといえる。 

************************************************************

 (筆者注5) 欧米でいう「脆弱な大人(vulnerable adult)」とはいかなる概念を指すのか。以下の筆者が訳した説明文を参照されたい。

「脆弱な大人」は、最も基本的な(中間レベルまたは典型的なレベルとは異なる)絶対的に人間生活を過ごすスキルを欠いている人である。脆弱な大人は、これらのスキルを適切に学んだり、適切に維持することができず、また、家族、友人、知人、その他の援助者を完全に雇用することができない大人である。 脆弱性として分類されるためには、より典型的な大人の直接の助けなしに、成人の状況を成人自身の個別の行動によって変更または改善できないようでなければならない。援助が提供されなければ、脆弱な大人は、ある程度の重要なレベルで、自分自身のリスクが示されなければならない。

*****************************************************************

Copyright © 2006-2019 芦田勝(Masaru Ashida).All rights reserved. You may display or print the content for your use only. You may not sell publish, distribute, re-transmit or otherwise provide access to the content of this document.

 

コメント

このブログの人気の投稿

ウクライナ共同捜査チームの国家当局が米国司法省との了解覚書(MoU)に署名:このMoU は、JIT 加盟国と米国の間のそれぞれの調査と起訴における調整を正式化、促進させる

  欧州司法協力機構(Eurojust) がウクライナを支援する共同捜査チーム (Ukraine joint investigation team : JIT) に参加している 7 か国の国家当局は、ウクライナで犯された疑いのある中核的な国際犯罪について、米国司法省との間で了解覚書 (以下、MoU) に署名した。この MoU は、ウクライナでの戦争に関連するそれぞれの調査において、JIT パートナー国と米国当局との間の調整を強化する。  このMoU は 3 月 3 日(金)に、7 つの JIT パートナー国の検察当局のハイレベル代表者と米国連邦司法長官メリック B. ガーランド(Merrick B. Garland)によって署名された。  筆者は 2022年9月23日のブログ 「ロシア連邦のウクライナ軍事進攻にかかる各国の制裁の内容、国際機関やEU機関の取組等から見た有効性を検証する!(その3完)」の中で国際刑事裁判所 (ICC)の主任検察官、Karim A.A. Khan QC氏 の声明内容等を紹介した。  以下で Eurojustのリリース文 を補足しながら仮訳する。 President Volodymyr Zelenskiy and ICC Prosecutor Karim A. A. Khan QC(ロイター通信から引用) 1.ウクライナでのJITメンバーと米国が覚書に署名  (ウクライナ)のICC検事総長室内の模様;MoU署名時   中央が米国ガーランド司法長官、右手がICCの主任検察官、Karim A.A. Khan QC氏  MoUの調印について、 Eurojust のラディスラフ・ハムラン(Ladislav Hamran)執行委員会・委員長 は次のように述べている。我々は野心のために団結する一方で、努力においても協調する必要がある。それこそまさに、この覚書が私たちの達成に役立つものである。JIT パートナー国と米国は、協力の恩恵を十分に享受するために、Eurojustの継続的な支援に頼ることができる。  米国司法長官のメリック B. ガーランド(Merrick B. Garland)氏は「米国が 7 つの JIT メンバー国全員と覚書に署名する最初の国になることを嬉しく思う。この歴史的な了解覚書は...

米国連邦取引委員会(FTC)が健康製品に関する新しい拡大コンプライアンスガイダンスを発行

   2022年12月20日、米国連邦取引委員会(以下、FTCという)は、以前の 1998年のガイダンスである栄養補助食品:業界向け広告ガイド(全32頁) を改定および置き換える 健康製品等コンプライアンスガイダンス の発行を 発表 した。 Libbie Canter氏 Laura Kim氏  筆者の手元に Covington & Burling LLPの解説記事 が届いた。筆者はLibbie Canter氏、Laura Kim氏他である。日頃、わが国の各種メディア、SNS、 チラシ等健康製品に関する広告があふれている一方で、わが国の広告規制は一体どうなっているかと疑うことが多い。  FTCの対応は、時宜を得たものであり、取り急ぎ補足を加え、 解説記事 を仮訳して紹介するものである。 1.改定健康製品コンプライアンスガイダンスの意義  FTCは、ガイドの基本的な内容はほとんど変更されていないと述べているが、このガイダンスは、以前のガイダンスの範囲につき栄養補助食品を超えて拡大し、食品、市販薬、デバイス、健康アプリ、診断テストなど、すべての健康関連製品に関する主張を広く含めている。今回改定されたガイダンスでは、1998年以降にFTCが提起した多数の法執行措置から引き出された「主要なコンプライアンス・ポイント」を強調し、① 広告側の主張の解釈、②立証 、 その他の広告問題 などのトピックに関連する関連する例について具体的に説明している。 (1) 広告側の主張の特定と広告の意味の解釈  改定されたガイダンスでは、まず、広告主の明示的主張と黙示的主張の違いを含め、主張の識別方法と解釈方法について説明する。改定ガイダンスでは、広告の言い回しとコンテキストが、製品が病気の治療に有益であることを暗示する可能性があることを強調しており、広告に病気への明示的な言及が含まれていない場合でも、広告主は有能で信頼できる科学的証拠で暗黙の主張を立証できる必要がある。  さらに、改定されたガイダンスでは、広告主が適格な情報を開示することが予想される場合の例が示されている(商品が人口のごく一部をターゲットにしている場合や、潜在的に深刻なリスクが含まれている場合など)。  欺瞞やだましを避けるために適格な情報が必要な場合、改定されたガイダンスには、その適格...

英国のデータ保護法案:提案された改正案の概要(その2完)

   [Part Ⅱ]  英国データ保護法案:主要条項の検討 この記事 では、パートⅠにもとづき、法案の特定の重要な条項をさらに深く掘り下げる。 (1) 匿名化と「個人データ」:範囲の確認  この法案は、情報が「識別可能な生存する個人」に関連しているため、主に2つのケースで「個人データ」を構成することを提案している。 (A)生存する個人が処理時に合理的な手段によって管理者または処理者によって識別可能である場合。 (B)管理者または処理者が、(a)処理の結果として他の人が情報を取得する、または取得する可能性が高いことを知っている、または知るべきである場合。 (b)生きている個人は、処理時に合理的な手段によってその人によって識別可能であるか、またはその可能性が高い。  特に、この法案は、処理時にデータが個人データであるかどうかの合理性と評価を非常に重視しており、特にデータを匿名化しようとする際に、組織・事業体にとって有用であることが証明される可能性がある。EU GDPRは、注目度の高いケースを通じて開発された識別可能性と匿名化のための高い「しきい値」を設定している(詳細については、2016年CJEUのBreyerの決定に関するこのレイサム・アンド・ワトキンス法律事務所の ブログ記事“Anonymous or Not: Court of Justice Issues Ruling on IP Addresses” (筆者注7) を参照されたい)。法案の提案は、英国政府が専門家諮問結果「データ:新しい方向」(諮問書)で取った立場、すなわち政府が「匿名化のために信じられないほど高い基準を設定することを避けるつもりである」という立場と一致している。(専門家への諮問の詳細については、このレイサム・アンド・ワトキンス法律事務所の ブログ記事“UK Data Protection Reform: Examining the Road Ahead” を参照されたい。 【筆者補足説明】 1.わが国では本格的に論じられていない問題として匿名化、仮名化などとプライバシー強化にかかる技術面からの検証である。2021.11.17  BRISTOWS法律事務所「データの匿名化:ICOの改訂ガイダンスに関する考慮事項」 が簡潔にまとめているので、主要部を抜粋、仮訳する。 ...