スキップしてメイン コンテンツに移動

英国政府のEUのGDPR等の国内法化に向けた新情報保護法案の公表およびICOの契約ガイダンス(案)の意見公募等保護法制強化の動向(その2)

 

 5 この法案は、2017年6月21日の英国女王の演説(Qeen’s Speech)で発表された。それは、2017年保守党宣言(2017 Conservative Manifesto)で作成された1998年法を更新する約束を実行に移すものである。法案は、ますますデジタル化された経済と社会のニーズを満たすために、英国の情報保護法を近代化している。2017年8月24日、政府は「今後の英国の個人データの交換と保護(The exchange and protection of personal data – a future partnership paper)」を発表した。これは将来の取引関係において英国にとってデータの自由な流れがなぜ不可欠であるかを説明する将来の政策方針書である。  

 6 現在、英国はEU加盟国のままであり、EU加盟国の権利と義務はすべて引き続き有効である。英国がEUを離脱するとき、”GDPR”は議会の前に現在の欧州連合(離脱)法案の下で英国の国内法に組み込まれことになろう。 

7 個人情報は、ますますインターネットや国際的な環境のもとで保存、処理、交換されている。したがって、情報保護基準が国際レベルで一貫していることが必要である。欧州評議会(Council of Europe)は、1981年5月14日に英国が署名した「個人情報の自動処理に関する条約(Council of Europe Convention for the Protection of Individuals with regard to Automatic Processing of Personal Data )(「条約第108号」)」を締結した。同条約には、欧州評議会の加盟国以外の国々へも開かれており、2017年11月1日、チュニジアは同条約の第51番目の参加国になる。欧州評議会は、「個人情報の処理に関する個人の保護に関する近代化条約(modernised Convention for the Protection of Individuals with Regard to the Processing of Personal Data)(「近代化条約第108号」)」を準備中である。  

8 したがって、英国の情報保護法は、国際的なデータ保護の取り決めと連動する必要がある。1998年法は、「EUデータ保護指令(指令95/46 / EC)」を適用した。2018年5月25日に”GDPR”が完全適用される場合、同指令は置き換えられることになる。  

 9 法案は全7編で構成されている。第1編には予備事項が含まれている。第2編には、法執行と情報サービスによる処理を除いて、”GDPR”基準をEUの能力外の分野(「適用されたGDPR」制度)にまで拡大する規定が含まれている。法案および”GDPR”は、明確かつ一貫したデータ保護体制を構築するために、英国における大部分の情報処理に実質的に同じ基準を適用している。また、”GDPR”の例外を規定するいくつかの例外規定(derogations)を明らかにする。第3編には法執行での情報処理の規定が含まれ、第4編には同様に英国の情報機関(intelligence services)による情報処理のための機能を定める。残りの部分は、第6編は英国情報保護コミッショナー(以下、「コミッショナー」という)制度の継続、第5編は法執行、その他の編は犯罪取り締り、罰則、および補足規定を定める。 

(2) EU一般データ保護規制 (GDPR)と法案の比較

 10 この法案に見られるような政府の立法意図を完全に理解するためには、”GDPR”の制定の背景をより広く理解する必要がある。  

(A) 情報保護の新たな定義と範囲 (Definitions and scope) 11 ”GDPR”は、情報保護法の範囲を定める定義のいくつかを変更する。1998年法と同様に、”GDPR”は「個人情報(personal data)」に適用される。”GDPR”の定義はより詳細であり、コンピュータのIPアドレスなどのオンライン識別子などの情報も個人情報になる可能性があることが明らかにしている。より広範な定義は、個人情報を構成するための幅広い個人識別情報を明示的に提供し、技術の変化や組織が人々に関する情報を収集する方法を反映している。また、仮名・匿名化された( pseudonymised)個人情報(例えば、キーコード化データ)は、仮名を特定の個人に帰属させることがどれほど困難であるかに応じて、”GDPR”の範囲内に収まる可能性がある。 

  1998年法は、人種、政治的意見、労働組合の会員の地位、健康、性生活および犯罪記録に関する個人情報を含む「機密データ」に関する追加のセーフガードを提供している。”GDPR”は、機密性の高い個人データを「個人情報の特別なカテゴリー」と言い及ぶ。これにより、遺伝学的データと個体を一意に識別するために処理されるバイオメトリックデータを具体的に含めるための追加的な保護手段が拡張される。刑事犯罪に関する個人情報などは含まれていないが、公的機関の管理外のこの情報の処理は、保護措置を規定する国内法によって許可されなければならない。  

(B) データ保護の原則 (Data Protection Principles) 

 13 1998年法は8つのデータ保護原則を定めており、これは主に以下の比較表に示したように”GDPR”にも引き継がれている。また”GDPR”は1998年法にない「説明責任原則」を新たに定めた。いずれにしても、わが国でも両者の比較は今後の法規制を検討するうえで参考となろう。

 なお、GDPRの諸原則欄の文言はGDPRの原文のままではない。英国議会立法事務局が比較する観点から改めてまとめたものである。

 

 

 

 

 (C) 処理の合法性(Lawfulness of processing) 

  1. GDPRの下で個人情報を処理するための合法的な基礎を得るための主な手段は、データが関係する個人の「同意」を得ることである。”GDPR”の下での「同意」は、個人の希望を自由に与え、具体的で、情報に基づいて明確に示したものでなければならない。明確に肯定的な行動が必要である。この「同意」は、無言(silence)、「あらかじめ選択されたボックス」または「非活性化から推論すること」は該当しない。この「同意」はまた他の利用規約とは別に行わねばならず、さらに「同意」を取り消すための簡単な方法も提供することが要件となる。 

 15 「同意」を与えうる人は、なぜ”GDPR”が親または保護者が情報社会サービスを使用して、若い子供たちに代わって個人データ処理に同意を与える必要があることの理由を尋ねられているかを理解できる一定のレベルを持つ必要がある。この「情報社会サービス」には、一般に商用サイトが含まれるが、この用語は、通常、遠隔地で、電子的手段により、かつサービスの受手の個々の要求で報酬のために提供されるサービスとして定義される (EU 指令 2015/1535 第1条(1)(b)参照)。 

 16 個人情報の処理を可能にする唯一の方法は、「同意」だけではない。また、契約上またはその他の法的義務がある時は、明示的な「同意」なしにデータを処理することができる。 個人情報は、公共の利益のために実行された任務の実行または管理者に与えられた公的権限の行使のために、必要な場合には同意なしに処理することができる。  

 17 1998年法と同様に、もはや公的機関に依存することはできないが、個人情報は「正当な利益」があるところでは処理しうる可能性がある。「正当な利益」としては、直接的なマーケティング目的のための処理や不正行為の防止の場合がある。ネットワークと情報のセキュリティを確保し、公的機関への公安に対する犯罪行為や脅威の報告を目的としたクライアントや従業員のデータ処理を含む、内部管理目的のための一連の事業体内での個人データの送信などである。 

 18 情報主体の明示的同意が得られない場合、個人情報および犯罪データの特別なカテゴリーに対してデータが合法的に処理される場合には、さらに限定的な制限がある。  

(D) 個人の諸権利 

 19 1998年法における個人のデータに対する権利は”GDPR”に引き継がれたが、場合によってはこれらがさらに強化され、以下の表に記載されているように追加された。GDPR第3章が当該規定を置く。なお、下記表の”GDPR”の各条文は筆者が補足した。

**************************************************************************************

Copyright © 2006-2017 芦田勝(Masaru Ashida).All rights reserved. You may display or print the content for your use only. You may not sell publish, distribute, re-transmit or otherwise provide access to the content of this document.

 

コメント

このブログの人気の投稿

米大統領令(EO: Executive Order 14110)の具体的内容と意義およびそれに基づく責任の履行を支援するためNIST「情報提供依頼文書 」の具体的内容

   筆者は、12月6日の本ブログで2023年10月30日の大統領令(EO: Executive Order 14110)(以下、「EO」という)を受けたNISTの具体的行動につき 「 NISTからこのほど公開された「 NIST SP 800-226 草案」および「差分プライバシー保証を評価するためのガイドライン草案」に対するパブリックコメントの背景と意義」 を取り上げた。  しかし、執筆後もいまいち大統領令(EO)のファクトシートも含め真の目的や商務省の規則案のとりまとめ期限など疑問点が残されていた。その内容を補完する意味で今回のブログで補筆するとともに、後段でNISTが2024年2月2日を期限として発布した「情報提供依頼文書 (Request for Information (RFI) )」の概要について解説を試みる。  また、本ブログでは、わが国では詳しく論じられていない米国「国防生産法(Defense Production Act of 1950 :DPA)」の意義と最新動向にも言及した。  なお、今回のブログの内容は12月6日の筆者ブログと重複する部分が一部あるが、 Kilpatrick Townsend & Stockton LLPの和文解説 と併せ読まれたい。 Ⅰ.大統領令 (EO: 14110) の具体的内容の解析    JD Supra, LLCの 「The highly-anticipated US Executive Order on artificial intelligence: Setting the agenda for responsible AI innovation」 を要約しつつ仮訳する。  このEOは、多くの点で AI に関するこれまでのバイデン政権の行動を超えている。 この広範囲かつ堅牢な大統領令は、AI を規制するために既存の当局を利用することを想定して、米国の行政部門および政府機関 (機関) に、①標準、②フレームワーク、③ガイドライン、④最善実践内容を開発するよう指示した (また、独立機関にも同様に奨励する)。 また政府機関は、AI の責任ある使用に関係するほぼすべての連邦法、規則、政策に対して具体的な措置を講じる必要があるとする。  EOは、AI の使用から得られる利点を認識する一方で、国家...

英国の Identity Cards Bill(国民ID カード法案)が可決成立、玉虫色の決着

  2005年5月に英国議会に上程され、英国やEU加盟国内の人権保護団体やロンドン大学等において議論を呼んでいた標記法案 (筆者注1) が上院(貴族院)、下院(庶民院) で3月29日に承認され、国王の裁可(Royal Assent)により成立した。  2010年1月以前は国民IDカードの購入は義務化されないものの、英国のパスポートの申込者は自動的に指紋や虹彩など生体認証情報 (筆者注2) を含む国民ID登録が義務化されるという玉虫色の内容で、かつ法律としての明確性を欠く面やロンドン大学等が指摘した開発・運用コストが不明確等という点もあり、今後も多くの論評が寄せられると思われるが、速報的に紹介する。 (筆者注3) 1.IDカード購入の「オプト・アウト権」  上院・下院での修正意見に基づき盛り込まれたものである。上院では5回の修正が行われ、その1つの妥協点がこのオプショナルなカード購入義務である。すなわち、法案第11編にあるとおりIDカードとパスポートの情報の連携を通じた「国民報管理方式」はすでに定められているのであるが、修正案では17歳以上の国民において2010年1月(英国の総選挙で労働党政権の存続確定時)まではパスポートの申込み時のIDカードの同時購入は任意となった。 2.2010年1月以降のカード購入の義務化  約93ポンド (筆者注4) でIDカードの購入が義務化される。また、2008年からは、オプト・アウト権の行使の有無にかかわりなく、パスポートのIC Chip (筆者注5) に格納され生体認証情報は政府の登録情報データベース (筆者注6) にも登録されることになる。 ******************************************************: (筆者注1) 最終法案の内容は、次のURLを参照。 http://www.publications.parliament.uk/pa/ld200506/ldbills/071/2006071.pdf (筆者注2) 生体認証の指紋や虹彩については、法案のスケジュール(scheduleとは,英連邦の国の法律ではごく一般的なもので、法律の一部をなす。法本文の規定を受け,それをさらに細かく規定したものである。付属規定と訳されている例がある。わが国の法案で言う「別表」的なもの)...

米国CFTCがオハイオ州の男性とその所有企業をデジタル資産取引スキームにおける1200万ドル(約16億214万円)以上の不正勧誘と不正流用を理由に民事起訴

     米国の 商品先物取引委員会(CFTC) は8月12日、オハイオ州ニューオルバニー市住の ラスナキショア・ギリ(Rathnakishore Giri) と彼が所有するオハイオ州に本拠を置く NBD Eidetic Capital, LLC および SR Private Equity, LLC に対して、オハイオ州南部地区連邦地方裁判所に 民事法執行訴訟 を起こしたと 発表 した。   同訴状 は、ギリと彼の会社が150人以上の顧客から1200万ドル以上と少なくとも10ビットコインを不正に勧誘し、またギリと彼の会社がデジタル資産取引を目的とした顧客資金を不正に流用したと主張している。  さらに訴状は、ギリの両親であるギリ・スブラマニ(Giri Subramani)とロカ・パヴァニ・ギリ(Loka Pavani Giri)を、正当な利害関係のない資金を所有している 救済被告 (注1) として起訴している。  今回のブログは、(1)本起訴の詳細、(2)CFTC/SECの投資家アラート:ビットコイン先物における資金取引の注意喚起の概要について概観する。 1. 起訴の内容  CFTCは、その継続的な訴訟において、詐欺被害にあった顧客への補償(restitution)、不正に得た利益の返還(disgorgement of ill-gotten gains)、民事上の金銭的罰則(civil monetary penalties)、恒久的な取引および登録禁止(permanent trading and registration bans)、および 「商品取引法(Commodity Exchange Act :CEA)」 および 「CFTC規則(CFTC regulations)」 のさらなる違反に対する永久的差止命令(permanent injunction)を求めている。 2.本事件の背景  訴状は、2019年3月頃から現在まで、被告が運営しているとされるさまざまなデジタル資産投資ファンドに投資するために、少なくとも150人の顧客から1200万ドル以上と10ビットコイン以上を勧誘し、受け入れた詐欺的なスキームに関与したと訴えている。同訴状によると、被告は顧客への勧誘において、利益の保証やギリのデジタル資産トレーダーとしての成功話など、多数の虚偽で誤解を招くような声...