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SECは、米国ビットコイン採掘会社を投資家をだますねずみ講ビジネスとして告発

 

 12月1日、米国取引委員会(SEC)は、仮想通貨であるビットコインの採掘会社2社とその創設者(ホメロ・ジョシュア・ガルサ)を、投資家からだまし取るために仮想通貨による急速な金持化のえさを使った「ネズミ講スキーム(Ponzi scheme)」を実行したとして、12月1日に告発した旨報じた 

 わが国でも11月25日、金融庁はビットコイン等仮想通貨の利用者保護に観点から業者規制新法をつくる方針を固めたと報じた。ビットコインのバーチャル通貨としての評価などをめぐる関係機関、専門家の議論(注1)を始めてはいるが、ITサイトでも関係業者の喧騒はけたたましい。冷静な取り組みを期待しつつ、米国のベンチャービジネスの失敗例の最新情報を提供するものである。特に、注目すべきは今回のSECの告訴だけでなく、被告ガルサや被告会社に対する訴追はFBIの刑事告訴や民事訴訟(クラスアクション)が提起されるとともに、ミシシッピー電力から電気料金未納額30万ドル(約3,700万円)の請求訴訟などが起こされている点である。 

 わが国では高齢者を狙い撃ちにした「特殊詐欺」問題が大きな社会問題となっている。一方で若者をターゲットとした、ビットコイン・ビジネスについても、早い段階での警告(注2)が必要と考え、本ブログをまとめた。

 ○SECのプレスリリース文の仮訳 

(1)背景と経緯

 証券取引委員会(SEC)は、仮想通貨であるビットコインの採掘会社2社とその創設者を、投資家からだまし取るために仮想通貨による急速な金持化のえさを使ったネズミ講スキーム(Ponzi scheme)を実行したとして、12月1日に告発した。 

 コネチカット州で連邦裁判所に提出したSECの告訴状によると、ビットコインまたは他の仮想通貨のための「採掘(mining)」は、その仮想通貨で一群の業務を確かめる複雑な方程式を解こうとするコンピュータの能力を適用することを意味する。これら方程式を解く最初のコンピュータまたはコンピュータの収集は、その仮想通貨の新しい単位を与えられる。  

 SECは、ホメロ・ジョシュア・ガルサ(Homero Joshua Garza) (注3) がデジタル・ビットコイン採掘事業に係る株式を提供するとしてガルサのコネチカットに拠点を置く会社”GAW Miners” (注4)と”ZenMiner”を通して詐欺を犯したと主張した。実際は、”GAW Miners”と”ZenMiner”はそれが行うと約束した採掘のためにコンピュータが十分な計算能力を有しなかったので、大部分の投資家は絶対にありえない計算能力の株式の支払い(投資)を行った。一部の投資家に払われる収益は、売上から発生する収益から他の投資家にまわした。(筆者追記:いわゆる「ねずみ講スキーム」である)。 

 SECのボストン地域局の部長であるポールG.レバンソン(Paul G.Levenson)は「我々の告訴文にあるとおり、ガルサとそこで覆い隠される彼の会社のビジネスは、技術的洗練さと業界用語であったが、そのコア部分は詐欺であった。彼らは本来所有しないものを売って、また売っていたものを誤って伝えて、投資家1人に払うためにもう1人の投資家から資金を盗んだ」と述べた。  

(2)SECの告訴理由:

・2014年8月から2014年12月まで、ガルサと彼の会社は、彼らが”Hashlet”と呼んだデジタル・採掘契約書で2,000万ドルの相当の意味された詐称株式(purported shares)を販売した。 

・10,000人以上の投資家は、”Hashlets”を購入した。そして、その際、詐称株は常に利益をもたらし、また決して陳腐化しないと宣伝された。  

・”Hashlets”は採掘ハードウェアの物的な製品または部分として”GAW Miners”の販売資料に細かに表されていたが、その約束された契約は投資家に話によれば、”GAW Miners”が所有・運営すると述べた計算能力の株式をコントロールする権利を与えたものであった。  

・投資家は、現実には”GAW Miners”がいかなる採掘活動にも、ほとんどあるいはまったく計算能力を向けなかったとき、彼らがビットコイン採掘活動によって得られる収益に参加すると思っているために惑わされた。

 ・ガルサと彼の会社は彼らが所有したよりはるかに多くの計算能力を売り込み販売したので、彼らは投資家に彼らが限られた採掘活動に関してしていたどんな実際の利益よりも大きい毎日の利益の借りが生じた。 

・したがって、投資家はガルサと彼の会社が他の投資家から得た資金から、単に「収益」の自説(mantra)の中で、時間とともに徐々に返済された。 

・大部分のHashlet投資家は彼らの投資の全額を決して取り戻しえなかった。そして、少数の人しか利益を上げられなかった。

(3)告訴の結論

 今回のSECの告訴は、不当利得(ill-gotten gains)の返還プラス判決前の利益吐き出しと刑罰ならびに恒久差止救済措置(permanent injunctive relief)を求めたものである。

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(注1) わが国のビットコインをめぐる専門家や関係者の議論は、はっきりいって緒についたばかりと言える。たとえば、2015年11月16日の金融審議会「決済業務等の高度化に関するワーキング・グループ」(第4回)議事次第および参考人発言・論点整理などを見ておく必要がある。

・資料2加納参考人(日本価値記録事業者協会 代表理事)説明資料

・資料3廣末参考人(ビットバンク(株) 代表取締役CEO)説明資料

・資料4討議資料(3)(「仮想通貨」に関する論点マル1)金融庁 

 なお、筆者が会員である「法とコンピュータ学会」 誌No.33(2015年7月号)「特集」 情報通信プラットホームをめぐる法と政策/暗号通貨の諸問題(ビットコインを題材に)」は、2014年11月8日開催の学会研究会での報告に基づくもので、ビットコインの法と政策に関する貴重なレポートが掲載されており、わが国の本ブログや今後の暗号通貨問題を理解する上で参考とすべき文献といえる。また、2015年11月16日の同学会も暗号通貨問題を引き続き研究している。

(注2) 米国におけるビットコインの警告内容は、SECや消費者金融保護局等をはじめ具体的である。詳細な翻訳は略すが、解説サイトのみリストアップする。他方、わが国の消費者庁の解説サイトのURLを引用しておく。この日米比較により、消費者保護の観点からいずれが有効な啓蒙サイトといえるかの判断は読者に任せる。 

1)米国:SECの投資家教育・擁護局(Office of Investor Education and Advocacy)「Investor Alert「Ponzi schemes Using virtual Currencies 」バーチャル通貨によるねずみ講スキームに関する警告サイト  

2)2014.8.11 米国・連邦消費者金融保護局(CFPB)サイト「CFPB Warns Consumers About Bitcoin:CFPB Now Accepting Complaints on Virtual Currency Products and Services」

3)2014年4月28日わが国の消費者庁の消費者向け情報提供「ビットコインを始めとするインターネット上の仮想通貨の利用について」 

(注3) ホメロ・ジョシュア・ガルサ(30歳)は若き企業家として注目を集める一方で根っからの詐欺師である。 

 バーモント州、デラウェアー州やマサチューセッツ州において1ダースの事業に手を染めている。初めは2004年にワイヤレスISP会社”GAW Wiress ”を立ち上げた。しかし、その顧客約1,000人はそのサービスが十二分に受けられないなど多くのトラブルを抱えている。その一方で、その後、ガルサはビットコイン・ベンチャー・ビジネスに傾注し、顧客や規制当局の警告を無視し続けたことが、今回のFTCの告訴の背景にある。(StoptheCap記事「Owner of Vermont Wireless ISP May Have Fled the Country to Avoid SEC Investigation」から一部引用。上記写真も同記事から引用)。 

(注4) 2015.4.22 Cryptcoinnews「GAW Miners Facing Lawsuit from Customers & Former Fans」

 2015年4月22日の記事によるとミシシッピー電力から電気料金未納30万ドル(約3,700万円)の支払訴訟を受けている。ビットコイン情報専門サイトCNN.LA記事「GAW Miners Facing Lawsuit from Customers & Former Fans」から引用。

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