スキップしてメイン コンテンツに移動

EU-米国の個人情報移送に関する協定(「アンブレラ協定」)に見るプライバシー保護の抜本見直し(その2完)

 

(3)2015.9.8 欧州委員会「Questions and Answers on the EU-US data protection "Umbrella agreement"」のアンブレラ協定に関するQ&A

 9月8日、欧州委員会はEU・米国間のアンブレラ協定についてのQ&Aを発表した。EPICレポートをさらに具体化した内容も含まれるので、前述の説明と一部重複するが仮訳しておく。なお、EUの公式情報とのリンクは筆者が独自に行った。 

○EU・米国の「アンブレラ協定」交渉は完了した。そして、同協定はまさに仮調印段階にある。 

○EU-米国間のデータ保護に関する「アンブレラ協定」とは何か? 

 EU-USデータ保護「アンブレラ協定」は、EU-US間の法執行協力に対する包括的な高水準レベルの情報保護の枠組みを実施する目的のものである。同協定は、刑事犯罪(テロ行為を含む)の防止、捜査、取り調べや起訴の目的でEUと米国の間で交換されるすべての個人データ(たとえば名前、住所、前科等)をカバーする。

 アンブレラ協定は、両域間の個人情報の移送につき合法性と安全装置と保証を提供する。そして、それによって基本的な権利を強化し、EU-米国間の法の執行協力を容易にし、かつ信頼関係を復活させる。 

 特に、協定によりEU市民は平等的な取扱からみた利益を得る。すなわち、彼らにプライバシー違反が発生した場合、米国民と同様の裁判をうける保障権がある。この点は欧州委員会ジャン・クロード・ユンケル委員長(Jean-Claude Juncker )の政治ガイドラインで「アメリカ合衆国はそうしなければならない[...]それらが米国内にあるか否かを問わず、すべてのEU市民には米国の法廷でデータ保護権利を行使する権利があることを保証する。そのような差別を取り除くことが、大西洋を横断する関係で信託を復活させることにとって不可欠である」と述べた。 

○アンブレラ協定はどのようにして、越境的な個人データの移送をより安全なものにするか?

 この協定は、既存のEU-USと加盟国の 法執行当局間の合意内容を補完する。それは、明確かつ調和するデータ保護規則を構築し、この分野でのプライバシー保護の高水準を将来の合意に寄与する。 

 アンブレラ協定は、警察と刑事司法当局の間で交換されるとき、各人の個人データが保護されていることを保証するために、以下の保護を提供する。

①データ使用に対する明確な制限– 個人データの使用目的が刑事犯罪の防止、捜査、取調べまたは起訴する目的でのみ使用される物であり、かつ相互に互換性を持つ目的を越えて処理されてはならない。

②更なる個人情報の移送 – 米国外や非EU国または国際組織へのいかなる移送については、当初個人データを移送する国の所管官庁の事前の同意を受けなければならない。

③個人情報の保持期間-個人の個人情報は、必要または適切な期間より長く保持されてはならない。これらの保持期間は発表されるか、または一般に公開されているようにしなければならない。その期間が許容できる期間であることについての決定は、人々の権利や利害への影響を考慮しなければならない。

④本人のアクセス権アクセスと訂正権-どんな個人でも特定の状況(法の執行の前後関係を与えられる)に従い、自身の個人データにアクセスする権利がある。 – そして、それが不正確であるならばそれを訂正することを求めうる。

⑤データ保護違反が発生した場合の主体への情報提供 – 提供のメカニズムは、所管官庁と必要に応じてデータ主体にデータ保護違反の通知を確実にするように、実施されているようにされる。

⑥司法救済措置と法的拘束力-米国当局の場合には米法廷がアクセスまたは改正を拒むか、不当に彼らの個人データを明らかにする前に、EU市民には司法共済を求める権利がある。協定のこの規定は、米国の司法救済法が連邦議会で可決されるか否かによる。 

○アンブレラ協定において何の目的で、個人データは大西洋を横断して転送することができるか?(目的による制限)

 EUと米国の法執行機関の間に移送される個人データは、警察の協力と裁判所の協力のフレームワークで刑事犯(テロ行為を含む)の阻止、捜査、取調べまたは起訴目的で、共有されることができるのみである。協定は、このデータが他の非互換の目的のためにさらに処理されることはできないと明確に述べる。 

○米国が個人データを第三国または国際組織に譲渡することに決めるとしたら、どのように、アンブレラ協定は、そのデータを保護するか?(米国外の国へのさらなる移送)

 米国当局がそれを第三国へ移送する必要があるとき、アンブレラ協定は大西洋を横断して転送されるEU市民のデータを保護するために強いセーフガードを導入する。すなわち、米国当局がより遠くにそれがEUから第三国や国際組織まで受け取ったデータを転送する場合に備えて、それは当初データを米国へ動かしたEUの法執行機関から同意を最初に得なければならない。 

○司法救済とは何か?司法救済制度によりアンブレラ協定はどう変わるのか? 

  EU市民の個人データが米国の捜査当局に譲渡され、かつ彼らのデータが不正確であるかまたは不当に処理されたとき、現状は米国に住居しないEU市民は米国の裁判所(一方、米国民はEUの裁判所に保障を求めることができたのと異なり)で救済を求めることはできない。ユンケル委員長の政治ガイドラインにおいて要求されるように、アンブレラ協定はEU市民の米国民と平等の取扱いを導入する。 

 1974年の米国プライバシー法の司法救済規定の中心をEU市民まで広げる法案は、3月18日(司法救済法案)は、米国連邦議会に正式に上程された。同法案が可決されると、米国当局がアクセスまたは訂正を拒んだか、不当に彼らの個人データを明らかにする場合に備えて、それはEU市民に米国の法廷に司法救済を求める権利を与える。司法救済法案は、アンブレラ協定の締結を考慮に入れている。 

○協定は実際はどのように働くか、例示してほしい? 

 例:あるEU市民の名前が大西洋を横断する捜査において容疑者のそれと同一であったとする。彼らの個人データはEUから米国へ移されて、誤って収集され、米国の「ブラックリスト」に含まれる。その結果、これは入国ビザに対する拒絶から、逮捕といった一連の悪い結果に至ることができる。EU市民は、彼らの名前を米国当局ー必要に応じ裁判官により削除されねばならない。 かつて、間違いが発見される。ヨーロッパ市民(およびアメリカ市民)は、EUでそれらの権利がある。個人データが米国とも交換されるとき、彼らにはそれらの権利がなければならない。また、彼らのデータが不正確であると思う市民は、そこで国内法のもとに許されて、当局(たとえば自国の個人情報データ保護当局)または一人の代表に彼または彼女のために修正(correction)または訂正(rectification )を求める許可を与えることができることになる。 

 もし、修正または訂正が拒否されるか制限されるならば、個人データを処理する米国当局は否定の理由または修正または訂正の制限事由を説明している回答を原告を代理する個人またはデータ保護当局に提供しなければならない。 

○協定の締結の次のステップは何か? 

 米国の司法救済法案が、EU市民に米国の裁判による救済の権利を与えるべく可決された後においてのみ、アンブレラ協定は署名され、正式に締結される。 

 欧州理事会は、欧州委員会による提案に基づいて、協定に署名することを認める決定を採択した。契約を結んでいる決定は、欧州議会の同意を得た後に、欧州理事会によって採択される。

 ○アンブレラ協定の交渉は最初にいつ開始されたか?

 欧州議会は、2009年3月26日の決議において、市民的自由と個人のデータ保護の十分な保護を確実にするためEU-US間の合意を求めた。2009年12月、欧州理事会は欧州委員会に「データ保護に関する交渉と、必要な場合米国による法の執行目的のためのデータ共有協定のために」推奨を提案するよう促した。 

  2010年5月26日、委員会はEUと米国(IP/10/609MEMO/10/216  (筆者注4))間の個人のデータ保護合意について交渉するために、付託草案を提案した。 

 2010年12月、EU加盟国の法務相は、EUと米国(IP/10/1661 を参照)の間の交渉の開始につき承認した。同交渉は、2011年3月29日(MEMO/11/203 参照)に正式に始まった。 

2.「2015年司法救済法案( H.R.1428 - Judicial Redress Act of 2015)」

(1)法案要旨

 同法案は、自然人たる市民が当該機関によって保持される記録の不法な開示にアクセス、訂正または救済するために特定の米政府機関に対して1974年プライバシー法に基づく民事訴訟を起こすため、外国機関または地域の経済統合組織を指名する権限を司法省(DOJ)に与えるものである。 

 司法省は、国務省、財務省および国土安全保障省の賛同を得て、当該人の属する国または組織が刑事犯の防止、捜査、取調べまたは起訴するための個人情報を米国と共有するために適切なプライバシー保護を受けるならば、当該市民のためそのような民事救済の追求を続行しうる国または組織を指名することを認める。

  このDOJによる指名権は裁判や行政のレビューからは除かれる。  

 コロンビア特別区のための米国地方裁判所に対しこの法のもとに起こっているどんな主張に対する独占的な司法権でも許諾される。  

(2)同法案をめぐる議論

 あらためて本ブログで追記する。

     **********************************************************

 (筆者注4)2010年MEMO/10/216の標題は「EU-US data protection agreement negotiations: frequently asked questions 」である。

  *******************************************************
Copyright © 2006-2015 芦田勝(Masaru Ashida).All rights reserved. You may display or print the content for your use only. You may not sell publish, distribute, re-transmit or otherwise provide access to the content of this document.

コメント

このブログの人気の投稿

米大統領令(EO: Executive Order 14110)の具体的内容と意義およびそれに基づく責任の履行を支援するためNIST「情報提供依頼文書 」の具体的内容

   筆者は、12月6日の本ブログで2023年10月30日の大統領令(EO: Executive Order 14110)(以下、「EO」という)を受けたNISTの具体的行動につき 「 NISTからこのほど公開された「 NIST SP 800-226 草案」および「差分プライバシー保証を評価するためのガイドライン草案」に対するパブリックコメントの背景と意義」 を取り上げた。  しかし、執筆後もいまいち大統領令(EO)のファクトシートも含め真の目的や商務省の規則案のとりまとめ期限など疑問点が残されていた。その内容を補完する意味で今回のブログで補筆するとともに、後段でNISTが2024年2月2日を期限として発布した「情報提供依頼文書 (Request for Information (RFI) )」の概要について解説を試みる。  また、本ブログでは、わが国では詳しく論じられていない米国「国防生産法(Defense Production Act of 1950 :DPA)」の意義と最新動向にも言及した。  なお、今回のブログの内容は12月6日の筆者ブログと重複する部分が一部あるが、 Kilpatrick Townsend & Stockton LLPの和文解説 と併せ読まれたい。 Ⅰ.大統領令 (EO: 14110) の具体的内容の解析    JD Supra, LLCの 「The highly-anticipated US Executive Order on artificial intelligence: Setting the agenda for responsible AI innovation」 を要約しつつ仮訳する。  このEOは、多くの点で AI に関するこれまでのバイデン政権の行動を超えている。 この広範囲かつ堅牢な大統領令は、AI を規制するために既存の当局を利用することを想定して、米国の行政部門および政府機関 (機関) に、①標準、②フレームワーク、③ガイドライン、④最善実践内容を開発するよう指示した (また、独立機関にも同様に奨励する)。 また政府機関は、AI の責任ある使用に関係するほぼすべての連邦法、規則、政策に対して具体的な措置を講じる必要があるとする。  EOは、AI の使用から得られる利点を認識する一方で、国家...

米国CFTCがオハイオ州の男性とその所有企業をデジタル資産取引スキームにおける1200万ドル(約16億214万円)以上の不正勧誘と不正流用を理由に民事起訴

     米国の 商品先物取引委員会(CFTC) は8月12日、オハイオ州ニューオルバニー市住の ラスナキショア・ギリ(Rathnakishore Giri) と彼が所有するオハイオ州に本拠を置く NBD Eidetic Capital, LLC および SR Private Equity, LLC に対して、オハイオ州南部地区連邦地方裁判所に 民事法執行訴訟 を起こしたと 発表 した。   同訴状 は、ギリと彼の会社が150人以上の顧客から1200万ドル以上と少なくとも10ビットコインを不正に勧誘し、またギリと彼の会社がデジタル資産取引を目的とした顧客資金を不正に流用したと主張している。  さらに訴状は、ギリの両親であるギリ・スブラマニ(Giri Subramani)とロカ・パヴァニ・ギリ(Loka Pavani Giri)を、正当な利害関係のない資金を所有している 救済被告 (注1) として起訴している。  今回のブログは、(1)本起訴の詳細、(2)CFTC/SECの投資家アラート:ビットコイン先物における資金取引の注意喚起の概要について概観する。 1. 起訴の内容  CFTCは、その継続的な訴訟において、詐欺被害にあった顧客への補償(restitution)、不正に得た利益の返還(disgorgement of ill-gotten gains)、民事上の金銭的罰則(civil monetary penalties)、恒久的な取引および登録禁止(permanent trading and registration bans)、および 「商品取引法(Commodity Exchange Act :CEA)」 および 「CFTC規則(CFTC regulations)」 のさらなる違反に対する永久的差止命令(permanent injunction)を求めている。 2.本事件の背景  訴状は、2019年3月頃から現在まで、被告が運営しているとされるさまざまなデジタル資産投資ファンドに投資するために、少なくとも150人の顧客から1200万ドル以上と10ビットコイン以上を勧誘し、受け入れた詐欺的なスキームに関与したと訴えている。同訴状によると、被告は顧客への勧誘において、利益の保証やギリのデジタル資産トレーダーとしての成功話など、多数の虚偽で誤解を招くような声...

英国の Identity Cards Bill(国民ID カード法案)が可決成立、玉虫色の決着

  2005年5月に英国議会に上程され、英国やEU加盟国内の人権保護団体やロンドン大学等において議論を呼んでいた標記法案 (筆者注1) が上院(貴族院)、下院(庶民院) で3月29日に承認され、国王の裁可(Royal Assent)により成立した。  2010年1月以前は国民IDカードの購入は義務化されないものの、英国のパスポートの申込者は自動的に指紋や虹彩など生体認証情報 (筆者注2) を含む国民ID登録が義務化されるという玉虫色の内容で、かつ法律としての明確性を欠く面やロンドン大学等が指摘した開発・運用コストが不明確等という点もあり、今後も多くの論評が寄せられると思われるが、速報的に紹介する。 (筆者注3) 1.IDカード購入の「オプト・アウト権」  上院・下院での修正意見に基づき盛り込まれたものである。上院では5回の修正が行われ、その1つの妥協点がこのオプショナルなカード購入義務である。すなわち、法案第11編にあるとおりIDカードとパスポートの情報の連携を通じた「国民報管理方式」はすでに定められているのであるが、修正案では17歳以上の国民において2010年1月(英国の総選挙で労働党政権の存続確定時)まではパスポートの申込み時のIDカードの同時購入は任意となった。 2.2010年1月以降のカード購入の義務化  約93ポンド (筆者注4) でIDカードの購入が義務化される。また、2008年からは、オプト・アウト権の行使の有無にかかわりなく、パスポートのIC Chip (筆者注5) に格納され生体認証情報は政府の登録情報データベース (筆者注6) にも登録されることになる。 ******************************************************: (筆者注1) 最終法案の内容は、次のURLを参照。 http://www.publications.parliament.uk/pa/ld200506/ldbills/071/2006071.pdf (筆者注2) 生体認証の指紋や虹彩については、法案のスケジュール(scheduleとは,英連邦の国の法律ではごく一般的なもので、法律の一部をなす。法本文の規定を受け,それをさらに細かく規定したものである。付属規定と訳されている例がある。わが国の法案で言う「別表」的なもの)...