スキップしてメイン コンテンツに移動

米国における最大手前払式携帯電話プロバイダーの誤解を招く広告と連邦取引委員会との民事告訴和解

 


 米国ではその利便性等からプリペイド方式の携帯電話の利用が一般的である。 (注1) 1月28日、連邦取引委員会(FTC)は加入者数が約2,500万人という米国市場の最大手携帯電話会社である”TracFone Wireless”(以下”TracFone”という) (注2)に対し、2009年以降、顧客に月額約45ドルで「通話、テキストやデータ量等につき無制限利用権」をうたう様々なブランド名(Straight Talk Wireless ;Net10 Wireless ;Simple Mobile ;Telcel America )を用いた広告を行う一方で、契約者は一定期間経過後は通信スピードの大幅な減速等を実施するとともに、場合によってはサービス提供の停止をうかがわせる一方的音声メッセージを送りつける等の違法な事実の調査結果に基づき、告訴を行った旨リリースした。

 FTCのカリフォルニア北部地区連邦地裁あて告訴状(complaint to TracFone)
 (注3)は、これらの誇大広告文言やサービス約款(policy)違反について、最終的に”TracFone”は利用権の各種制約に関する開示説明を行わず、モバイル携帯データ・サービスにつき無制限の利用権をうたう欺瞞的な広告を行ったことをもってFTC法(Federal Trade Commission Act)第5条(Unfair or Deceptive Acts or Practices)違反を理由としてあげている。 (注4)
 今回、同委員会が賛成5-0で裁決した和解内容は、(1)TracFoneに同データサービスにつき明確かつ明らかなかたちで通信スピードや品質に制約を説明するよう求めた。さらに(2)サービス面で影響を受けた顧客の損害を補填すべく4千万ドル(約42億8千万円)の基金を設置するというもので、同時にFTCは被害者の損害額還元プログラムに関する専門サイトを設置した旨告知した。
 また、FTCとの和解においてTracFoneは、(3)FTC命令の施行の1年後に、彼らは和解内容を遵守する報告書を提出すること、(4)同報告はTracFoneの製品(サービス)を詳述すること、(5)どのようにFTCとの和解内容に従っているかについて明示すること、(6)同報告は、今後10年間毎年FTCに送付すること等厳しい内容である。 他方で、英語力に自信がある読者は前記各ブランド・サイトを丁寧に読んでほしい。そこで浮かび上がる疑問点はいうまでもなく、各社とも今回のFTCの処分内容・法令遵守の理解ができていないと思われる点である。筆者の理解する範囲では、FTCのTracFone告訴の内容のコア部分はなお遵守されていないと思う。

 今回のFTCのプリペイド携帯電話会社に対する告訴は2014年10月28日の”AT&T Mobility LLC”に対する告訴(FTC Says AT&T Has Misled Millions of Consumers with ‘Unlimited’ Data Promises)に続くものである。
 (注5)
 筆者が、この問題を取り上げた背景には、わが国でも同様の問題を抱えるサービス・ベンダーがありうるし、この問題は単に一部のプロバイダーに限られないと信じているからである。同時に、過当競争下にあるわが国のモバイルサービス会社等の監督・規制機関は、現状どのような取組を行っているか、正確にフォローする意味でも参考とすべく本ブログをまとめた。

1.FTCの告訴の背景となる違法な広告行為の内容
(1)告訴状によると、TracFoneはそのブランド名を用いてテレビ、ラジオ広告、印刷物、店内ディスプレイその他のメディアを介し「無制限利用権」プランを市場に出した。これらのブランド広告はスペイン語を話す消費者層等に積極的に行った。
 この広告文言とは反対に、TracFoneは消費者の利用開始30日後等一定の期間経過後または大量に使用した後、60%時として90%という大幅なアクセススピードを落としたり(ストリーミング・ビデオ (注6)等オンラインの利用スピード)、完全にデータ送信を遮断するというものであった。
 すなわち、FTCの調査結果によると、TracFoneは制限時の送信制限を変更し一般的に見て1~3ギガバイトを利用したときにスピードの低下が生じた。また、4~5ギガバイトで利用した時はサービスそのものが停止した。

 また、これらの制限はネットワークの混乱を回避するという単に技術的な理由によるものではなく、むしろTracFoneの内部文書によると、同社のデータ処理方針は無制限のサービスを提供することで生じる高いコストを減じる目的で行うことが明記されている。
 2013年9月から始まったTranFoneの顧客による無制限の使用規制を無理やりに抑えるビジネス実務を始めた。しかし、その内容について顧客への説明は明確でなくかつ曖昧な文言であり、多くの場合、極めて小さな文字表示でありまた顧客が見逃して当然といえるパッケージやユーザーカードの裏面等への表示であった。

(2)FTCの他のプリペイド携帯電話サービス・プロバイダーに対する警告内容
 FTCのリリース文は次のような警告を載せている。
①モバイル製品やサービスは「new(ish)」をうたっても、適用する「真実の広告の原則(Truth -in-advertising principle) 」 (注7)に基づくものでなくてはならない。かつ、その主たる教義の1つはFTCは消費者の見方を代表するという点である。すなわち、明らかな例をあげると本当な意味で「制限」であるものを無制限と表現するのは賢明でない。


②FTCは次のような欺瞞広告に対し、次のような警告を鳴らし続ける。
欺瞞的な広告を阻止するため情報の公開が必要である限りこれらの事実の公開は明確かつ目立つ形を取る。
 事業者が引き続き無制限利用権をうたうのなら消費者が見逃さすような小さな文字表示は避けねばならない。具体的にこれら企業が取るべき留意事項についてはFTCのスタッフガイドが作成した解説サイト(How to Make Effective Disclosures in Digital Advertising)等を正しく理解すべきである。


③類似の最近係属している類似の裁判と同様にTracFone還付手続きは係属中のクラスアクションと調整がなされることになろう。これらの裁判はFTCの法執行行為としては個別のものであるが、消費者の利益のため手続きの効率化の観点から関係機関と協働して動くつもりである。

(3)今回の和解に基づき消費者が請求請求するための手続き、内容等
 ”Straight Talk”、”Net10、"Simple Mobile"、"Telcal America"が契約上で取り交わしたが、実際提供されなかったことを事由に利用料金の還付(refund)を求めることを可とする。2015年1月以前に各社と利用契約を結んだ消費者は還付請求手続きのために専門サイト(Straight Talk, Net10, Simple Mobile, and Telcel America Refunds)にアクセスすることになる。この還付は実際にアクセススピードが遅くなったり、利用できなく場合に認められる。すなわち、この点が明らかでない消費者の場合は、改めて還付請求権の手続きを行う必要がある。

2.和解内容の補足
 前述の説明のほか、FTCとTracFoneとの和解内容は次のとおりである。
①TracFoneのFTCに対する報告は今後10年間継続しなくてはならない。
②このレポートは、次の10年の間毎年送られなければなりません。
③TracFoneは、特定の顧客アカウントや個人的な記録を作成しなければならない。
④FTCの命令受信後14日以内に、TracFoneは文書作成や廃棄等により多くのようなもののために、FTCから示されるいかなる要求文書にも応じなければならない。

**********************************************************************************************************
(注1)米国のプリペイド携帯電話の普及の実態については2011.8.1「圧倒的に安い米国のプリペイド式携帯電話」を参照されたい。また、docomo USA Wirelessの広告サイトを見てほしい。「使い放題」をうたっているがFTCの警告の対象ともいえよう。

(注2) TracFoneが米国最大の携帯電話会社グループになった経緯は、当然のごとく吸収、合併を重ねてきたことはいうまでもない。

(注3)告訴内容は、恒久的差止めおよびその他衡平法上の救済(complaint for permanent injunction and other equitable relief)である。

(注4) FTCは連邦政府による消費者被害の公的救済public remedy)の所管機関である。詳しくは、神戸大学大学院法学研究科講師 古谷貴之「米国における原状回復、ディスゴージメント、及び民事制裁金制度-SEC及びFTCの場合」等を参照されたい。

(注5) TFCのAT&Tに対する告訴の内容はFTCサイトで解説されている。ただし、FTCとST&T Mobile LLCの間の和解等の問題は現時点では未解決である。

(注6)
 「 ストリーミングは、従来のダウンロード再生と違い、まずメタファイルをユーザーのパソコンにダウンロードし、音声・動画ファイルをダウンロードしながら同時に再生するため、再生までの待ち時間がほとんどありません。 再生時間の長い大容量の音声・動画ファイルでも、ユーザーに負担をかけません。」 (php javascript room) から一部抜粋。

(注7) FTCがいう”truth -in -advertising principles”の具体的内容とは、例えばモバイル・アプリ開発業者に対するガイドラインを2012年9月5日に公布している。


*****************************************************************************************************************

Copyright © 2006-2015 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.You may reproduce materials available at this site for your own personal use and for non-commercial distribution.

コメント

このブログの人気の投稿

米大統領令(EO: Executive Order 14110)の具体的内容と意義およびそれに基づく責任の履行を支援するためNIST「情報提供依頼文書 」の具体的内容

   筆者は、12月6日の本ブログで2023年10月30日の大統領令(EO: Executive Order 14110)(以下、「EO」という)を受けたNISTの具体的行動につき 「 NISTからこのほど公開された「 NIST SP 800-226 草案」および「差分プライバシー保証を評価するためのガイドライン草案」に対するパブリックコメントの背景と意義」 を取り上げた。  しかし、執筆後もいまいち大統領令(EO)のファクトシートも含め真の目的や商務省の規則案のとりまとめ期限など疑問点が残されていた。その内容を補完する意味で今回のブログで補筆するとともに、後段でNISTが2024年2月2日を期限として発布した「情報提供依頼文書 (Request for Information (RFI) )」の概要について解説を試みる。  また、本ブログでは、わが国では詳しく論じられていない米国「国防生産法(Defense Production Act of 1950 :DPA)」の意義と最新動向にも言及した。  なお、今回のブログの内容は12月6日の筆者ブログと重複する部分が一部あるが、 Kilpatrick Townsend & Stockton LLPの和文解説 と併せ読まれたい。 Ⅰ.大統領令 (EO: 14110) の具体的内容の解析    JD Supra, LLCの 「The highly-anticipated US Executive Order on artificial intelligence: Setting the agenda for responsible AI innovation」 を要約しつつ仮訳する。  このEOは、多くの点で AI に関するこれまでのバイデン政権の行動を超えている。 この広範囲かつ堅牢な大統領令は、AI を規制するために既存の当局を利用することを想定して、米国の行政部門および政府機関 (機関) に、①標準、②フレームワーク、③ガイドライン、④最善実践内容を開発するよう指示した (また、独立機関にも同様に奨励する)。 また政府機関は、AI の責任ある使用に関係するほぼすべての連邦法、規則、政策に対して具体的な措置を講じる必要があるとする。  EOは、AI の使用から得られる利点を認識する一方で、国家...

米国CFTCがオハイオ州の男性とその所有企業をデジタル資産取引スキームにおける1200万ドル(約16億214万円)以上の不正勧誘と不正流用を理由に民事起訴

     米国の 商品先物取引委員会(CFTC) は8月12日、オハイオ州ニューオルバニー市住の ラスナキショア・ギリ(Rathnakishore Giri) と彼が所有するオハイオ州に本拠を置く NBD Eidetic Capital, LLC および SR Private Equity, LLC に対して、オハイオ州南部地区連邦地方裁判所に 民事法執行訴訟 を起こしたと 発表 した。   同訴状 は、ギリと彼の会社が150人以上の顧客から1200万ドル以上と少なくとも10ビットコインを不正に勧誘し、またギリと彼の会社がデジタル資産取引を目的とした顧客資金を不正に流用したと主張している。  さらに訴状は、ギリの両親であるギリ・スブラマニ(Giri Subramani)とロカ・パヴァニ・ギリ(Loka Pavani Giri)を、正当な利害関係のない資金を所有している 救済被告 (注1) として起訴している。  今回のブログは、(1)本起訴の詳細、(2)CFTC/SECの投資家アラート:ビットコイン先物における資金取引の注意喚起の概要について概観する。 1. 起訴の内容  CFTCは、その継続的な訴訟において、詐欺被害にあった顧客への補償(restitution)、不正に得た利益の返還(disgorgement of ill-gotten gains)、民事上の金銭的罰則(civil monetary penalties)、恒久的な取引および登録禁止(permanent trading and registration bans)、および 「商品取引法(Commodity Exchange Act :CEA)」 および 「CFTC規則(CFTC regulations)」 のさらなる違反に対する永久的差止命令(permanent injunction)を求めている。 2.本事件の背景  訴状は、2019年3月頃から現在まで、被告が運営しているとされるさまざまなデジタル資産投資ファンドに投資するために、少なくとも150人の顧客から1200万ドル以上と10ビットコイン以上を勧誘し、受け入れた詐欺的なスキームに関与したと訴えている。同訴状によると、被告は顧客への勧誘において、利益の保証やギリのデジタル資産トレーダーとしての成功話など、多数の虚偽で誤解を招くような声...

英国の Identity Cards Bill(国民ID カード法案)が可決成立、玉虫色の決着

  2005年5月に英国議会に上程され、英国やEU加盟国内の人権保護団体やロンドン大学等において議論を呼んでいた標記法案 (筆者注1) が上院(貴族院)、下院(庶民院) で3月29日に承認され、国王の裁可(Royal Assent)により成立した。  2010年1月以前は国民IDカードの購入は義務化されないものの、英国のパスポートの申込者は自動的に指紋や虹彩など生体認証情報 (筆者注2) を含む国民ID登録が義務化されるという玉虫色の内容で、かつ法律としての明確性を欠く面やロンドン大学等が指摘した開発・運用コストが不明確等という点もあり、今後も多くの論評が寄せられると思われるが、速報的に紹介する。 (筆者注3) 1.IDカード購入の「オプト・アウト権」  上院・下院での修正意見に基づき盛り込まれたものである。上院では5回の修正が行われ、その1つの妥協点がこのオプショナルなカード購入義務である。すなわち、法案第11編にあるとおりIDカードとパスポートの情報の連携を通じた「国民報管理方式」はすでに定められているのであるが、修正案では17歳以上の国民において2010年1月(英国の総選挙で労働党政権の存続確定時)まではパスポートの申込み時のIDカードの同時購入は任意となった。 2.2010年1月以降のカード購入の義務化  約93ポンド (筆者注4) でIDカードの購入が義務化される。また、2008年からは、オプト・アウト権の行使の有無にかかわりなく、パスポートのIC Chip (筆者注5) に格納され生体認証情報は政府の登録情報データベース (筆者注6) にも登録されることになる。 ******************************************************: (筆者注1) 最終法案の内容は、次のURLを参照。 http://www.publications.parliament.uk/pa/ld200506/ldbills/071/2006071.pdf (筆者注2) 生体認証の指紋や虹彩については、法案のスケジュール(scheduleとは,英連邦の国の法律ではごく一般的なもので、法律の一部をなす。法本文の規定を受け,それをさらに細かく規定したものである。付属規定と訳されている例がある。わが国の法案で言う「別表」的なもの)...