スキップしてメイン コンテンツに移動

カリフォルニア州連邦地裁はYahoo!の「暫定クラス・アクション」の棄却申立てを一部認め、一部却下

 

 Last Updated:April 30,2024

 わが国では、米国の民事訴訟における集団訴訟(クラス・アクション)につき実務的な観点から本格的に論じたものが意外と少ない。 (筆者注1) 筆者も決して専門家とはいえないが、米国の大手ローファームであるCovingt on & Burling LLPの8月14日付けブログを読んで、この際、多少踏み込んだ説明を行うべく米国のクラスアクションに関する民事手続法関係サイトを調べてみた。 (筆者注2) 

 その結果、特に「連邦民事訴訟規則(Federal Rules of Civil Proceduret)」第23条(d)および(e)(1)(A)等に定める「暫定クラス・アクション(Putative Class Action )」の正確な定義を述べた解説サイトが意外と少なく、また読者層の反応も薄いと感じた(筆者注3) 。一般的に言えばクラスアクションの要件を厳格に訴訟指揮すべ観点から裁判所による適切な命令や被告との示談、却下、和解を許可することがその内容といえるが、この運用は連邦裁判所により運用が一律的でなく、今回取り上げるような裁判所の解釈が話題になる背景と考える。特に筆者が問題視したのは、同裁判所(裁判官はカリフォルニア州北部地区連邦地裁判事 District Judge Lucy Haeran. Koh(46歳) (筆者注4)(筆者注5)がYahhoo!の実務慣行における連邦の人権保護関連法に対する解釈を行った点に注目した。

Lucy Haeran. Koh 氏

  なお、本件で見るとおり、クラスアクションが起こされこととなった場合、被告は本訴に入る前に、防衛的裁判手続きを取ることはいうまでもないし、クラスアクション自体を起こすことが法律上禁止されている米国法があることも理解しておく必要がある。 (筆者注6) 

1.本裁判の論点の概要

 推定段階にあるクラスアクション事件「In re Yahoo Mail Litig.」における原告の申し立て内容は次のとおりであった。

 ”Yahoo!Mail”の ユーザーと非ユーザー間のやり取りのなかに含まれる情報につき”Yahoo!”が従来から慣行として行っている「傍受(intercept)」、「検査(scanning)」、「解析(analyzing)」、「収集」、「保存」行為は連邦法である「通信傍受法(Wiretap Act)」 (筆者注7) 「保管された通信に関する法律(Stored Communications Act)」の(注5参照)、「カリフォルニア州プライバシー権侵害法(California Invasion Privacy Act):(刑法である)」、 「カリフォルニア州憲法(California Constitution )」に違反すると申し立てた。また同時に原告はこれらの法律違反に基づき、非ユーザーによる推定クラスアクション原告は「差止め救済(injunction relief)」、「宣言的救済(declaratory relief)」、「法定損害賠償(statutory damages)」 (筆者注8)およびYahoo!が得た「不正利益引渡請求(disgorgement)」を求めた。 

2.同裁判所は、これら各法律につき、順次、次の決定を行った。

(1)連邦通信傍受法(18 U.S.C.§ 2511(1)(a))の適用について

 被告Yahoo!は原告の申し立ての却下をもとめ、現在広く一般的な主張すなわち、通信傍受法は本事件においてEmailにアクセスや検査した時点において、問題となったEmailは保存中で、通過しておらず、傍受は行いようがなかった。この点につき、被告がこの立場を補強すべ裁判手続き上とりたてた証拠を認めなかったとして、この主張は時期尚早であるとして認めなかった。その結果、裁判所は告訴状にいうアクセスした時点でEmailが通過中であったとして事実に関する原告の主張を認めた。

 次にYahoo!は傍受法違反に関する告訴を破棄させるべく2番目の主張である「ユーザーの同意」を持ち出した。すなわち、Yahoo!は全Yahoo!Mailのユーザーが同意する”Global Communications Additional Terms of Service(ATOS))”により、傍受や検査に付き同意を得ていると主張した。裁判所は、ASOS文言を改めて検証した結果、メール内容を公開することにつき.同意文言の明確性が得られているとして、原告の請求を棄却した。 

(2)「保管された通信に関する法律」の適用について

 同裁判所は、同法についての原告の主張すなわち、Yahoo!はYahoo! Mailユーザーと非ユーザー間のメール内容を検査し、その内容を不適切に第三者に開示したという次の申し立てを検討した。

 Yahoo!は、原告の主張はどの情報が被告などの間で共有されたかの具体的内容や誰との間で共有されたか、またいかなる目的で共有されたかという「公訴棄却を申し出に対抗するには、告訴内容は裁判所が真実と受け入れる十分な事実を含み、少なくともその告訴が「もっともらしい(plausibly)こと」を暗示させる側面的に支援させるものでなければならない」という連邦最高裁の解釈判例である「Bell Atlantic Corp.対Twombly事件」 (筆者注9)が求める事実関係の特異性を欠くと主張した。同裁判所はYahoo!の主張および棄却申し立てを拒否し、一方原告のYahoo!が第三者とEmailの内容を共有して事実を証拠だてる参照証拠は却下の申し立てを乗り切るの十分であると判示した。 

(3)カリフォルニア州プラバシー権侵害法について

 カリフォルニア州プラバシー権侵害法に基づく棄却を指示するYahoo!の主張は、前述の通信傍受法に関する主張の繰り返しであった。前述と同様の理由から同裁判所はYahoo!の棄却申し立てを拒否した。 

(4)カリフォルニア州憲法について

 最後に、裁判所は憲法改正を要するとする原告の要求を破棄した。その際、裁判所はカリフォルニア州憲法がプライバシーの侵害権を確立するために「高いバー」を設定することに言及した。そして一般的に、プライバシーの利益とEmailに関するプライバシーの期待はカリフォルニア法において十分に確立していると言うものであった。

 このように、プライバシーの侵害による訴因を申し立てるためには、原告は傍受されたEmailの内容が「機密情報(confidential)」でありかつ「機微情報」である旨申し当てなければならないが、実際はそうではなかった。裁判所は、これらEmailは私的なモノであったとする不十分な主張証拠だけでは被告の申し立て却下させるにははるかに及ばないと判示した。

     *************************************************************************************************

(筆者注1)わが国で全体像が見える資料としては、消費者庁「集団的消費者被害回復制度等に関する研究会」第4回(平成21年2月20日)資料 2-1~9「 アメリカにおけるクラス・アクションについて 」が平易かつ詳しい。 なお、2021年2月28日現在「集団的消費者被害回復制度等に関する研究会・報告書」しか閲覧はできない。

なお、消費者庁サイトで「会議・研究会」の資料は2014年以前は閲覧できない、

(筆者注2) 米国の民事訴訟手続に関する法源や関連先URLに付き基本的な解説がコーネル大学ロースクール・サイト”Civil Procedure :An Overview”にある。わが国でも米国訴訟手続きに関する解説書は広く出版されているが、同サイトは基本となる点を理解するうえで必ず目を通しておくべきであろう。

 なお、わが国の民事訴訟手続きとの比較に置いて米国の裁判手続き上特筆すべき点をあげておく。 

(1)米国では連邦裁判所は「連邦民事訴訟規則」および「連邦証拠規則(Federal Rules of Evidence)」に従い、他方、州裁判所は自州の民事訴訟規則および証拠規則に従う。

(2)連邦裁判所手続きの法源(2009.5.14 筆者ブログなども参照)

① 「裁判準則法(the Rules of Decision Act:28 U.S.C.§1652)」:同法は、州の法(laws)が、合衆国憲法、条約または連邦の制定法に異なる定めがない限り、連邦の裁判所において適用されることを定めている。すなわち、連邦裁判所が州籍相違事件において実体法を生成させることを禁じている

②「連邦最高裁判所規則制定権(授権)法(Rules Enabling Act of 1934:28 U.S.C.2072):同法は連邦裁判所のために実務と手続に関する一般的規則である。規則により実体的権利を縮小、拡大または変更してはならないという重大な制約を課している。 

 なお、クラスアクションは州籍相違事件としての問題が多々発生する。この事態については、駿河台大学・太田幸夫教授「アメリカ法における近時の実体・手続識別論」が詳しく論じており、本ブログでも一部引用した。 

(筆者注3) 「暫定クラスアクション(putative class action)」の説明として、弁護士・ニューヨーク州弁護士 宇野 伸太郎氏の解説「クラスアクション承認基準を厳格化する米国連邦最高裁判決と日本への示唆」から一部抜粋する。 

■クラスアクションの承認

 クラスアクションは裁判所から「承認」(certification)されて初めて正式なクラスアクションとなる(それ以前は暫定的なクラスアクション(putative class action)として手続が進められる)。

 連邦民事訴訟規則23条は、3種類のクラスアクションを定め、それぞれが成立するための要件を定めている。まず、23条(a)は3種類のクラスアクションに共通する要件として、

(1) 提案されているクラス構成員が十分に多数であり(多数性)、

(2) クラス構成員が共通の事実問題又は法律問題を有し(争点の共通性)、

(3) クラス代表者がそのクラスに典型的な請求又は防御を有し(代表者の請求・防御の典型性)、

(4) クラス代表者が公平適切にクラスを代表できる(代表の適切性)

 ことを定めている。

 なお、より米国の詳しい解説としてはJustice Matters Action Center”What Is Putative Class Action”等が参考になる。

(筆者注4) コオ判事は、160年にわたるカリフォルニア州北部地区連邦地裁における歴史において初代のアジア系アメリカ人の裁判官であり、また、最初の女性の韓国系アメリカ人の合衆国憲法第3章(Article Ⅲ)にもとづく裁判官であり、2人目の韓国系アメリカ人の連邦地裁判事である。米国メデイアが注目している女性判事である。

 なお、同判事の両親は韓国からの移民であり、母親は脱北者(탈북자)で元韓国の単科大学教授である。(ニューヨークタイムズのブログ解説等) 

(筆者注5) わが国で憲法Article Ⅲ判事の関する政治的プロセスなどは、ほとんど解説らしきもものはない。裏話を解説しているリーガルガイド・サイト「第Ⅲ章連邦地裁判事にあるために必要とされるステップ」を参考として引用しておく。 

(筆者注6) 例えば、連邦裁判所の場合、被告が連邦政府や州政府やその官吏であったり、被告の団体規模が100人以下の場合はクラスアクション自体を起こすことはできない。  

(筆者注7) スノウデン事件や国家安全保障、国際テロの発生など通信傍受法めぐる議会など改正の動きは著しい。 

(筆者注8) 「法定損害賠償」とは、私法上の損害賠償の一種であり、与えられた損害の程度に応じて賠償額を算定するのではなく、制定法の範囲内で規定するものをいう。 

(筆者注9)  Bell Atlantic Corp.対Twombly事件」2007年5月21日判決(550 U.S. 544(2007) の先例としての意義につき、2010年8月28日の 筆者ブログ「米国「スケアウェア詐欺」に見る国際詐欺グループ起訴と国際犯罪の起訴・裁判の難しさ(その1)」の(筆者注9)で次のとおり解説引用している。

*同判決は、連邦民事訴訟規則(the Federal Rules of Civil Procedure)12条(b)(6)に関し、連邦最高裁は約50年間普及してきた「訴えの却下の申立(motion to dismiss)」の解釈につき一連の判決でその解釈基準を変更した。(以下、略す)

   ******************************************************************************
Copyright © 2006-2014 芦田勝(Masaru Ashida).All rights reserved. You may display or print the content for your use only. 
You may not sell publish, distribute, re-transmit or otherwise provide access to the content of this document.

コメント

このブログの人気の投稿

ウクライナ共同捜査チームの国家当局が米国司法省との了解覚書(MoU)に署名:このMoU は、JIT 加盟国と米国の間のそれぞれの調査と起訴における調整を正式化、促進させる

  欧州司法協力機構(Eurojust) がウクライナを支援する共同捜査チーム (Ukraine joint investigation team : JIT) に参加している 7 か国の国家当局は、ウクライナで犯された疑いのある中核的な国際犯罪について、米国司法省との間で了解覚書 (以下、MoU) に署名した。この MoU は、ウクライナでの戦争に関連するそれぞれの調査において、JIT パートナー国と米国当局との間の調整を強化する。  このMoU は 3 月 3 日(金)に、7 つの JIT パートナー国の検察当局のハイレベル代表者と米国連邦司法長官メリック B. ガーランド(Merrick B. Garland)によって署名された。  筆者は 2022年9月23日のブログ 「ロシア連邦のウクライナ軍事進攻にかかる各国の制裁の内容、国際機関やEU機関の取組等から見た有効性を検証する!(その3完)」の中で国際刑事裁判所 (ICC)の主任検察官、Karim A.A. Khan QC氏 の声明内容等を紹介した。  以下で Eurojustのリリース文 を補足しながら仮訳する。 President Volodymyr Zelenskiy and ICC Prosecutor Karim A. A. Khan QC(ロイター通信から引用) 1.ウクライナでのJITメンバーと米国が覚書に署名  (ウクライナ)のICC検事総長室内の模様;MoU署名時   中央が米国ガーランド司法長官、右手がICCの主任検察官、Karim A.A. Khan QC氏  MoUの調印について、 Eurojust のラディスラフ・ハムラン(Ladislav Hamran)執行委員会・委員長 は次のように述べている。我々は野心のために団結する一方で、努力においても協調する必要がある。それこそまさに、この覚書が私たちの達成に役立つものである。JIT パートナー国と米国は、協力の恩恵を十分に享受するために、Eurojustの継続的な支援に頼ることができる。  米国司法長官のメリック B. ガーランド(Merrick B. Garland)氏は「米国が 7 つの JIT メンバー国全員と覚書に署名する最初の国になることを嬉しく思う。この歴史的な了解覚書は...

米国連邦取引委員会(FTC)が健康製品に関する新しい拡大コンプライアンスガイダンスを発行

   2022年12月20日、米国連邦取引委員会(以下、FTCという)は、以前の 1998年のガイダンスである栄養補助食品:業界向け広告ガイド(全32頁) を改定および置き換える 健康製品等コンプライアンスガイダンス の発行を 発表 した。 Libbie Canter氏 Laura Kim氏  筆者の手元に Covington & Burling LLPの解説記事 が届いた。筆者はLibbie Canter氏、Laura Kim氏他である。日頃、わが国の各種メディア、SNS、 チラシ等健康製品に関する広告があふれている一方で、わが国の広告規制は一体どうなっているかと疑うことが多い。  FTCの対応は、時宜を得たものであり、取り急ぎ補足を加え、 解説記事 を仮訳して紹介するものである。 1.改定健康製品コンプライアンスガイダンスの意義  FTCは、ガイドの基本的な内容はほとんど変更されていないと述べているが、このガイダンスは、以前のガイダンスの範囲につき栄養補助食品を超えて拡大し、食品、市販薬、デバイス、健康アプリ、診断テストなど、すべての健康関連製品に関する主張を広く含めている。今回改定されたガイダンスでは、1998年以降にFTCが提起した多数の法執行措置から引き出された「主要なコンプライアンス・ポイント」を強調し、① 広告側の主張の解釈、②立証 、 その他の広告問題 などのトピックに関連する関連する例について具体的に説明している。 (1) 広告側の主張の特定と広告の意味の解釈  改定されたガイダンスでは、まず、広告主の明示的主張と黙示的主張の違いを含め、主張の識別方法と解釈方法について説明する。改定ガイダンスでは、広告の言い回しとコンテキストが、製品が病気の治療に有益であることを暗示する可能性があることを強調しており、広告に病気への明示的な言及が含まれていない場合でも、広告主は有能で信頼できる科学的証拠で暗黙の主張を立証できる必要がある。  さらに、改定されたガイダンスでは、広告主が適格な情報を開示することが予想される場合の例が示されている(商品が人口のごく一部をターゲットにしている場合や、潜在的に深刻なリスクが含まれている場合など)。  欺瞞やだましを避けるために適格な情報が必要な場合、改定されたガイダンスには、その適格...

米ノースカロライナ州アッシュビルの被告男性(70歳)、2,200万ドルのポンジ・スキーム(いわゆる「ねずみ講」)等を画策、実施した罪で17.5年の拘禁刑や1,700万ドル以上の賠償金判決

被告 Hal H. Brown Jr. 7 月 10 日付けで米連邦司法省・ノースカロライナ西部地区連邦検事局の リリース   が筆者の手元に届いた。 その内容は「 ノースカロライナ州アッシュビル住の被告男性 (Hal H. Brown Jr., 70 歳 ) は、 2,200 万ドル ( 約 23 億 5,400 万円 ) のポンジ・スキーム (Ponzi scheme : いわゆる「ねずみ講」 ) 等を画策、実施した罪で 17.5 年の拘禁刑 や 1,700 万ドル ( 約 18 億 1,900 万円 ) 以上の賠償金 の判決 を受けた。被告は定年またはそれに近い人を含む 60 人以上の犠牲者から金をだまし取ったとする裁判結果」というものである。 筆者は同裁判の被害額の大きさだけでなく、 1) この裁判は本年 1 月 21 日に被告が有罪を認め判決が出ているのにかかわらず、今時点で再度判決が出された利用は如何、さらに、 2)Ponzi scheme や取引マネー・ローンダリング (Transactional Money Laundering) の適用条文や量刑の根拠は如何という点についても同時に調査した。 特に不正資金の洗浄運び屋犯罪 (Money Mules) の種類 ( 注 1) の相違点につき詳細などを検証した。 さらに裁判官の連邦量刑ガイドラインや具体的犯罪の適用条文等の判断根拠などについても必要な範囲で専門レポートも参照した。 これらについて詳細に解析したものは、米国のローファームの専門記事でも意外と少なく、連邦検事局のリリース自体も言及していなかった。 他方、わが国のねずみ講の規制・取締法は如何、「ネズミ講」と「マルチ商法」の差は如何についてもその根拠法も含め簡単に論じる。いうまでもないが、ネズミ講の手口構成は金融犯罪に欠くべからざるものである。高齢者を狙うのは振込詐欺だけでなく、詐欺師たちは組織的にかつ合法的な似非ビジネスを模倣して、投資をはじめ儲け話しや貴金属ビジネスなどあらゆる違法な手口を用いている。 ( 注 2) 取締強化の観点からも、わが国の法執行機関のさらなる研究と具体的取り組みを期待したい。なお、筆者は 9 年前の 2011.8.16 に...