スキップしてメイン コンテンツに移動

EU情報保護指令第29条専門調査委員会がEU情報保護一般規則草案に対する詳細意見書を採択

 


 標記委員会(Artle 29 Working Party)(注1)は、2012年3月23日、去る1月25日に発表された1995年の個人情報保護指令(Directive 95/46/EC of the European Parliament and of the Council of 24 October 1995 on the protection of individuals with regard to the processing of personal data and on the free movement of such data)に取って代わる「欧州個人情報保護規則草案(Proposal for a Regulation of the European Parliament and the Council on the protection of individuals with regard to the processing of personal data and on the free movement of such data (General Data Protection Regulation):COM(2012) 11)」および「欧州個人情報保護指令改定案(Proposal for a directive of the European Parliament and the Council. on the protection of individuals with regard to the processing of personal data by competent authorities for the purposes of prevention, investigation, detection or prosecution of criminal offences or the execution of criminal penalties, and the free movement of such data:COM(2012) 10)」に対する詳細意見書「Opinion 01/2012 on the data protection reform proposals」を採択した。

 また、Artle 29 Working Partyは2012年10月5日に「EU情報保護一般規則草案」につき更なる意見書(Opinion 08/2012 providing further input on the data protection reform discussions 」(全45頁)を採択、公表した。

 筆者は2012年5月に本ブログの原稿を下書きしていたが、多忙なこともあり、棚上げにしていた。このほど、欧州議会、欧州委員会、Article 29 Working Partyを巻き込んだ米国NSAや英国のGCHQといった情報機関の日頃の活動、とりわけ米国とEU加盟国間の個人情報の移送にかかる監視問題をブログでまとめたことなどをきっかけとして、急遽本ブログをまとめることにした。(したがって、今回まとめていない詳細項目や前述の2012年10月の追加意見書等については、改めて紹介することにしたい)


1.「欧州個人情報保護規則草案」に対するWorking Partyの意見書
(1)内容の要旨
 アイルランドの大手ローファーム“A&L Goodbody”(注2)および“Hunton & Williams LLP”(注3)の解説記事が簡潔に要点をまとめており、抜粋・引用のうえ筆者が適宜補足した。
  
A.全体的な意見
 規則案のプライバシー保護に関し次のように積極的に取り組んでいる点を評価する。ただし、規則案の個々の事項・内容については、より明確化や見直しの余地がある。
EU市民(個人)にとっての意義:事業者の個人情報の取扱いのより透明性、データへのアクセス権、利用への反対権ならびにデータの携帯性に関する保護を強化し、またデータの削除権(right to be forgotten)や各国の保護コミッショナー(DPA)や裁判所を介した補償権行使の機会を強化した。

 データ・コントローラー(data controllers)にとっての意義:プライバシー・インパクト・アセスメント(プライバシー影響度評価)を通じ、加盟国事業者における情報保護担当役員(Data Protection Officer)の任命、データ漏えい通知義務および国際的な個人情報の移送に関する保護面からの予防的取組みにより、より一貫性を強化した。
 データ処理者(data processors)にとっての意義:当該処理がクラウド・サービス・プロバイダーのようなプロセッサーがコントローラーの指示の範囲を超えるような特別な処理を行うときのコントローラーの責任を明確・義務化する。
情報保護コミッショナー(DPAs)にとっての意義:課徴金(administrative fines)を含む独立性と権限強化を定め、かつ立法的措置に関する諮問を受ける責務が与えられる。

B.規則案に関する具体的な改善,修正意見
 “Working Party”(以下、「WP」という)規則案に関し、いくつかの明確化すべき点を提起する。例えば、データ主体は第一義的に居住地の裁判管轄権を持つDPAまたは該当地のデータ処理者やデータ・コントローラー宛に権利や司法手続きに関する苦情を申し出る必要があるが、現在の規則案ではこれらのデータ主体の権利の行使手続等につき混乱や不確実性が生じる可能がある。
  
 また、規則案はDPAsが本規則に定める状況下で課徴金を課すことよりも、いつ課徴金を課すかを決定する裁量権を持つ余地を持たねばならないことを推奨する。
 しかし、WPはそのような場合に2段階の通知手続きを導入するデータ漏えい通知義務(data breach notification duty)を定めることを勧奨する。データ・コントローラーによる情報漏えい違反の通知はそれが明らかになってから24時間以内に行うべきであり、24時間以内に明確に提供できなかった情報漏えいに関しては更なる機会で行うとするものである。このことは、時宜を得た漏えい違反通知の実現に結びつく。
  
 また、漏えい通知義務はデータ主体にとって影響が小さくまた不必要にDPAsの責務を負うような場合は除くべきである。
  
 個人情報の第三国への移送(data transfer)(注4)についてのデータ主体の同意等、法的根拠の逸脱措置は、「モデル契約」、「第三国への国際データ移転のための拘束的企業準則(BCRs)」および「セーフハーバー」等、その他のより適切なデータ移送メカニズムにより保証されるべく限定的に解すべきである。
  
 “right to be forgotten”は、第三者の所有下にある場合、データ・コントローラーがすでに存在しない場合など特にインターネット環境下では狭く考える必要がある。
  
 WPはデータ主体の自由権に関し重大な影響を持つものである「プロファイリング手法」として、「ウェブ解析ツール」、「ユーザ行動の調査目的の追跡」、「モバイル端末のアプリ・ソフトによる動機の創作」や「ソーシャル・ネットワークによる個人プロファイルの創作」を包含すべきであると考える。
  
 個人の情報保護の権利に影響がある中小企業の経営負担を減少させるための例外措置に関し、WPは情報の性格や範囲を考慮すべくより適切な代替手段の閾値(しきいち:threshhold)の使用の配慮を勧奨する。
  
 WPは、規則案の第4編(EUの予算関連(Budgetary Implication))で“Recitals”(注5)につき解釈注釈の「第24項」につき次の野通りの修正を勧奨する。すなわち、第24項は個人情報の定義に関し、「ID番号(identification numbers)、位置データ(location data)、オンライン識別子(online identifiers)その他特別な識別要素はあらゆる状況下の個人情報として考えられることが必要とされない」とするがこのような定義は、例えば「IPアドレス」や「クッキーID」という個人情報の概念を過度に制限的に解釈するものといえる。WPとしてはこのような場合は「IPアドレス」や「クッキーID」は個人情報であると具体的に明記すべきと勧奨する。
  
 第27項に関し、WPは多国籍企業(EU加盟国内の企業が所有すると否とにかかわらず)の主たる設立場所につき異なる事業部門に分かれて運営している場合を含みより明確な定義を行うべきと考える。
  
 さらに、第20項では「EU加盟国内に所在しないコントローラーによる情報処理活動ならびにデータ主体の行動のモニタリングを行うべく商品やサービスの提供にともなうデータ処理に適用する」と規定する。WPはこの「商品やサービスの提供」や「データ主体の行動モニタリング」につきより明確な定義が必要であると考える。
  
 DPAsには、特にはじめての規則違反や小規模な意図せざる不履行に関し、罰金を課す独自の権限を持たせるべきである。
  
(2)WPの個別の問題指摘
 A.「 COM(2012) 11」に関し、前述した事項を含む28の個別意見をまとめている。
  主な項目を挙げる。

・The Principle of Public access to information
・Exceptions introduced for public authorities
・Minors
Right to be forgotten
Direct marketing
Profiling
Data breach notification
With regard to the role and functioning of DPAs
Jurisdiction and competence of DPAs(one-stop- shop)
EDPB(European Data Protection Board) institutional structure
International transfers
Disclosure not authorised by EU law
Right to liability and compensation
Fines
Judicial remedies
B. 「 COM(2012) 10」に関し、前述した事項を含む9の個別意見をまとめている。
 主な項目を挙げる。
Choice of instrument
Consistency
Scope of application
Data processing principles
Data subject rights
Data controller oboligations
International transfers
Power of DPAs and co-operation
  
2.以下は省略する。


**********************************************************************************************
(注1) 「EU情報保護指令第29条専門調査委員会」はEUの全加盟国の個人情報保護コミッショナーの代表からなる委員、欧州個人情報保護監察局(European Data Protection Supervisor:EDPS)および欧州委員会委員で構成されるEU機関。

(注2) 2012年4月17日に掲載した2012年3月23日の委員会の採択意見のまとめに関する同ローファームの第一次紹介レポート、また2012年10月5日のWPの追加意見書に関する解説リリースを参照。

(注3) Article 29 Working Party Opines on Proposed EU Data Protection Law Reform Package Posted on March 30

(注4) 第三国への国際的なデータ移転のための「拘束的企業準則」は、WPが策定している。http://www.caa.go.jp/seikatsu/kojin/H21report3a.pdf参照。

(注5) “Recitals”は“Whereas Clause”とも呼ばれ、Whereasで始まるいくつかの文章で、法令案の起草にいたった経緯・当事者の詳しい説明、当事者のこの契約における希望・契約の目的等を記すものであるが、概して精神条項的な規定も多い。
   
*******************************************************************************************************

Copyright © 2006-2013 芦田勝(Masaru Ashida).All rights reserved. You may display or print the content for your use only.
You may not sell publish, distribute, re-transmit or otherwise provide access to the content of this document.

コメント

このブログの人気の投稿

ウクライナ共同捜査チームの国家当局が米国司法省との了解覚書(MoU)に署名:このMoU は、JIT 加盟国と米国の間のそれぞれの調査と起訴における調整を正式化、促進させる

  欧州司法協力機構(Eurojust) がウクライナを支援する共同捜査チーム (Ukraine joint investigation team : JIT) に参加している 7 か国の国家当局は、ウクライナで犯された疑いのある中核的な国際犯罪について、米国司法省との間で了解覚書 (以下、MoU) に署名した。この MoU は、ウクライナでの戦争に関連するそれぞれの調査において、JIT パートナー国と米国当局との間の調整を強化する。  このMoU は 3 月 3 日(金)に、7 つの JIT パートナー国の検察当局のハイレベル代表者と米国連邦司法長官メリック B. ガーランド(Merrick B. Garland)によって署名された。  筆者は 2022年9月23日のブログ 「ロシア連邦のウクライナ軍事進攻にかかる各国の制裁の内容、国際機関やEU機関の取組等から見た有効性を検証する!(その3完)」の中で国際刑事裁判所 (ICC)の主任検察官、Karim A.A. Khan QC氏 の声明内容等を紹介した。  以下で Eurojustのリリース文 を補足しながら仮訳する。 President Volodymyr Zelenskiy and ICC Prosecutor Karim A. A. Khan QC(ロイター通信から引用) 1.ウクライナでのJITメンバーと米国が覚書に署名  (ウクライナ)のICC検事総長室内の模様;MoU署名時   中央が米国ガーランド司法長官、右手がICCの主任検察官、Karim A.A. Khan QC氏  MoUの調印について、 Eurojust のラディスラフ・ハムラン(Ladislav Hamran)執行委員会・委員長 は次のように述べている。我々は野心のために団結する一方で、努力においても協調する必要がある。それこそまさに、この覚書が私たちの達成に役立つものである。JIT パートナー国と米国は、協力の恩恵を十分に享受するために、Eurojustの継続的な支援に頼ることができる。  米国司法長官のメリック B. ガーランド(Merrick B. Garland)氏は「米国が 7 つの JIT メンバー国全員と覚書に署名する最初の国になることを嬉しく思う。この歴史的な了解覚書は...

米国連邦取引委員会(FTC)が健康製品に関する新しい拡大コンプライアンスガイダンスを発行

   2022年12月20日、米国連邦取引委員会(以下、FTCという)は、以前の 1998年のガイダンスである栄養補助食品:業界向け広告ガイド(全32頁) を改定および置き換える 健康製品等コンプライアンスガイダンス の発行を 発表 した。 Libbie Canter氏 Laura Kim氏  筆者の手元に Covington & Burling LLPの解説記事 が届いた。筆者はLibbie Canter氏、Laura Kim氏他である。日頃、わが国の各種メディア、SNS、 チラシ等健康製品に関する広告があふれている一方で、わが国の広告規制は一体どうなっているかと疑うことが多い。  FTCの対応は、時宜を得たものであり、取り急ぎ補足を加え、 解説記事 を仮訳して紹介するものである。 1.改定健康製品コンプライアンスガイダンスの意義  FTCは、ガイドの基本的な内容はほとんど変更されていないと述べているが、このガイダンスは、以前のガイダンスの範囲につき栄養補助食品を超えて拡大し、食品、市販薬、デバイス、健康アプリ、診断テストなど、すべての健康関連製品に関する主張を広く含めている。今回改定されたガイダンスでは、1998年以降にFTCが提起した多数の法執行措置から引き出された「主要なコンプライアンス・ポイント」を強調し、① 広告側の主張の解釈、②立証 、 その他の広告問題 などのトピックに関連する関連する例について具体的に説明している。 (1) 広告側の主張の特定と広告の意味の解釈  改定されたガイダンスでは、まず、広告主の明示的主張と黙示的主張の違いを含め、主張の識別方法と解釈方法について説明する。改定ガイダンスでは、広告の言い回しとコンテキストが、製品が病気の治療に有益であることを暗示する可能性があることを強調しており、広告に病気への明示的な言及が含まれていない場合でも、広告主は有能で信頼できる科学的証拠で暗黙の主張を立証できる必要がある。  さらに、改定されたガイダンスでは、広告主が適格な情報を開示することが予想される場合の例が示されている(商品が人口のごく一部をターゲットにしている場合や、潜在的に深刻なリスクが含まれている場合など)。  欺瞞やだましを避けるために適格な情報が必要な場合、改定されたガイダンスには、その適格...

米ノースカロライナ州アッシュビルの被告男性(70歳)、2,200万ドルのポンジ・スキーム(いわゆる「ねずみ講」)等を画策、実施した罪で17.5年の拘禁刑や1,700万ドル以上の賠償金判決

被告 Hal H. Brown Jr. 7 月 10 日付けで米連邦司法省・ノースカロライナ西部地区連邦検事局の リリース   が筆者の手元に届いた。 その内容は「 ノースカロライナ州アッシュビル住の被告男性 (Hal H. Brown Jr., 70 歳 ) は、 2,200 万ドル ( 約 23 億 5,400 万円 ) のポンジ・スキーム (Ponzi scheme : いわゆる「ねずみ講」 ) 等を画策、実施した罪で 17.5 年の拘禁刑 や 1,700 万ドル ( 約 18 億 1,900 万円 ) 以上の賠償金 の判決 を受けた。被告は定年またはそれに近い人を含む 60 人以上の犠牲者から金をだまし取ったとする裁判結果」というものである。 筆者は同裁判の被害額の大きさだけでなく、 1) この裁判は本年 1 月 21 日に被告が有罪を認め判決が出ているのにかかわらず、今時点で再度判決が出された利用は如何、さらに、 2)Ponzi scheme や取引マネー・ローンダリング (Transactional Money Laundering) の適用条文や量刑の根拠は如何という点についても同時に調査した。 特に不正資金の洗浄運び屋犯罪 (Money Mules) の種類 ( 注 1) の相違点につき詳細などを検証した。 さらに裁判官の連邦量刑ガイドラインや具体的犯罪の適用条文等の判断根拠などについても必要な範囲で専門レポートも参照した。 これらについて詳細に解析したものは、米国のローファームの専門記事でも意外と少なく、連邦検事局のリリース自体も言及していなかった。 他方、わが国のねずみ講の規制・取締法は如何、「ネズミ講」と「マルチ商法」の差は如何についてもその根拠法も含め簡単に論じる。いうまでもないが、ネズミ講の手口構成は金融犯罪に欠くべからざるものである。高齢者を狙うのは振込詐欺だけでなく、詐欺師たちは組織的にかつ合法的な似非ビジネスを模倣して、投資をはじめ儲け話しや貴金属ビジネスなどあらゆる違法な手口を用いている。 ( 注 2) 取締強化の観点からも、わが国の法執行機関のさらなる研究と具体的取り組みを期待したい。なお、筆者は 9 年前の 2011.8.16 に...