スキップしてメイン コンテンツに移動

米大学が基幹インフラのコントロールシステムへのサイバー攻撃の検出・隔離アルゴリズム開発を発表

 


 Last Updated:April 30.2024

 わが国のサイバー攻撃などの関する関係者は、米国のサイバー攻撃に対する国を挙げての取組みについて本年2月12日に公布された「重要インフラのサイバー・セキュリティの改善にかかるオバマ大統領令(Executive Order -- Improving Critical Infrastructure Cybersecurity)」を必ず目を通していよう。

 このような中で、去る5月16日、ノースカロライナ州立大学の研究グループが標記の研究報告をまとめた旨緊急リリースした。この論文の標題は「D-NC(distributed network control)システムのための安全な分散制御技術方法の集合と回復方法の分析(Convergence and Recovery Analysis of the Secure Distributed Control Methodology for D-NCS)」である。
 この研究成果の発表は、きたる5月28日~31日、台湾の台北で開催されるIEEE(米国電子電力学会)国際シンポジューム(2013 IEEE International Symposium on Industrial Electronics (ISIE 2013))
の5月30日の13:00-14:50のセッション
(筆者注1)で行われる。

 筆者はこの分野の専門家ではないため、同大学のリリース文の概要のみ紹介し、必要と思われる範囲で補足する。
 なお、今回のシンポジュームの参加国や発表者一覧を良く見ておいてほしい。IT分野でも急速に発展している国とりわけ中国の大学や中国の海外への進出研究者が多いことも注目すべきであろう。


1.ノースカロライナ州立大学の研究グループ研究報告リリース概要
 同大学のサイトで閲覧可能な論文は6頁ものである。

(1)同大学の研究者は、輸送、電力やガス他の重要インフラの調整のため米国中をつなぐネットワーク制御システムに対するサイバー攻撃を防御、隔離のためのソフトウェア・アルゴリズムを開発した。
 これらネットワーク化された制御システムは、本質的にコンピュータと物質である端末の間を接続し、コントロールするものである。例えば、近代的な建物では温度センサー、暖房システムやユーザーコントロールシステムがネットワークで繋がれている。これら以上に、大きなスケールのシステムが全米ベースでの輸送や、電力などエネルギー制御システムが極めて重要になっている。しかし、これらの多くがワイヤレスやインターネット接続に依存するため、これらシステムはサイバー攻撃の被害を被りやすい。
近年問題となった“Flame”や“Stuxnet” (筆者注2)(筆者注3)による攻撃被害は 高額でかつ注目を浴びた攻撃の例である。ネットワークで繋がれた制御システムがますます複雑化するのに対応してシステムの設計者はシングルまたは集中化したハブまたはブレインを介した端末制御や「エージェント」から離れ、その代わりに設計者はシステム・エージェントをミツバチ等の脳の集合(bunch of mini-brains) (筆者注4)のように同時に働かせる分配されたネットワーク・コントロール・システム(D-NCSs)の開発に取り組んだ。これによりシステムはより効率化に運用できるようになり、今日この分散システムは安全に運用されている。

(2)ノースカロライナ大学の研究者はサイバー攻撃に対し、D-NCSsの個々のエージェントがいつ感染されたかにつき検出できるソフトウェア・アルゴリズムを開発した。さらに、同アルゴリズムは感染したエージェントを隔離し、感染されていないシステムの残りの部分を保護し正常な機能を継続させるのである。

 このことが集中化した設計において中央のコンピュータがハッキングされるとシステム全体が感染することに比較して、中央コンピュータハブに依存するシステム上でD-NCSsに耐性とセキュリティ上の優位性をあたえる。

(3)本報告書の作成者であるMo-Yuen Chaw博士は「これに加えて、我々がわれの開発した安全性をもつアルゴリズムは、小さな修正のみで直接既存の分散制御システムを運用するコードに組み込むことが可能であり、既存のシステムの完全なオーバーホールを必要としない」と述べ、また、もう1人の作成者である同大の博士課程学生Wentye Zengは「我々はこのシステムにつきデモを行い、現在さらにアルゴリズムの検出率とシステムの最適化に関するさまざまなサイバー攻撃シナリオの下での追加的テストを進めている」と述べている。

2.この研究と米国の国立科学財団(National Science Foundation:NSA)の関係

 NSAにより研究支援(NSF-ECS-0823952“Impaired Driver Electronic Assistant (IDEA)” project.)が行われたものである。

  ******************************************************
(筆者注1) SS11 1 - Control and Filtering for Networked Systems
Hour: Thursday May 30, 2013:13:00-14:50のセッション
Title: Convergence and Recovery Analysis of the Secure Distributed Control Methodology for D-NCS
Authors:Mr. Wente Zeng , North Carolina State University, USA
Prof. Mo-Yuen Chow , North Carolina State University, USA

(筆者注2) 今回取り上げたレポートの記事は“Homeland Security News Wire”の記事で知った。なお、同メディアの記事は“Flame”や“Stuxnet”のリンク先は同大学のリンク先をそのまま引用していることや本文が同大学のリリース文を転用している。そこまでやるなら、“Flame”については、カスパルスキー・ラボのレポート「Kaspersky Lab and ITU Research Reveals New Advanced Cyber Threat(2012年5月)」、また“Stuxnet”についてはシマンテックのレポート「W32.Stuxnet Dossier」等を引用すべきと考える。“Homeland Security News Wire”自体、独自の取材網にもとづき幅広く関連テーマをタイムリーに取材しているだけに今回の記事内容は残念である。
 なお、ドイツのジーメンスが2010年に“stuxnet”攻撃等ハッカーに耐性を持つ工場など施設のハッカー対策の当面の課題「Building a Cyber Secure Plant」をまとめている。一部参考になろう。

(筆者注3) 筆者も2012年9月23日のブログ「米国大手銀行等に対するイランが後ろ盾のサイバー攻撃やイスラエルの銀行等に対する攻撃とその対応問題」において“Flame”や“Stuxnet”につき簡単に解説している。

(筆者注4) わが国では” mini-brains”といってもその訳語はオンライン辞書にはない。昆虫研究者では常識であるのであるが、筆者はまったくの門外漢である。米国の関係サイトを調べていたら連邦保健福祉省・国立衛生研究所・バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のサイトがいくつかの論文を取り上げていた。“Costs of memory: lessons from ‘mini’ brains”“Searching for the memory trace in a mini-brain, the honeybee」”である。 また、山田養蜂場ミツバチ研究支援サイトからも一部抜粋しておく。
「昆虫の研究者たちは、昆虫の脳を微小脳(micro-brain あるいは mini-brain)と呼んでいるが、ショウジョウバエとともに、ミツバチをも材料とする匂いや味処理系の研究も、そうした微小脳研究において重要な位置を占めるようになってきている。社会性昆虫の知能を研究テーマにする研究者たちは、ミツバチ単独というよりは、複数の昆虫を研究材料にしている。だが、ショウジョウバエは単独で生活しているから、集団で生活しているミツバチは社会行動学研究の優れたモデル動物だと言えよう。」

********************************************************
Copyright © 2006-2013 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.You may reproduce materials available at this site for your own personal use and for non-commercial distribution.

コメント

このブログの人気の投稿

米大統領令(EO: Executive Order 14110)の具体的内容と意義およびそれに基づく責任の履行を支援するためNIST「情報提供依頼文書 」の具体的内容

   筆者は、12月6日の本ブログで2023年10月30日の大統領令(EO: Executive Order 14110)(以下、「EO」という)を受けたNISTの具体的行動につき 「 NISTからこのほど公開された「 NIST SP 800-226 草案」および「差分プライバシー保証を評価するためのガイドライン草案」に対するパブリックコメントの背景と意義」 を取り上げた。  しかし、執筆後もいまいち大統領令(EO)のファクトシートも含め真の目的や商務省の規則案のとりまとめ期限など疑問点が残されていた。その内容を補完する意味で今回のブログで補筆するとともに、後段でNISTが2024年2月2日を期限として発布した「情報提供依頼文書 (Request for Information (RFI) )」の概要について解説を試みる。  また、本ブログでは、わが国では詳しく論じられていない米国「国防生産法(Defense Production Act of 1950 :DPA)」の意義と最新動向にも言及した。  なお、今回のブログの内容は12月6日の筆者ブログと重複する部分が一部あるが、 Kilpatrick Townsend & Stockton LLPの和文解説 と併せ読まれたい。 Ⅰ.大統領令 (EO: 14110) の具体的内容の解析    JD Supra, LLCの 「The highly-anticipated US Executive Order on artificial intelligence: Setting the agenda for responsible AI innovation」 を要約しつつ仮訳する。  このEOは、多くの点で AI に関するこれまでのバイデン政権の行動を超えている。 この広範囲かつ堅牢な大統領令は、AI を規制するために既存の当局を利用することを想定して、米国の行政部門および政府機関 (機関) に、①標準、②フレームワーク、③ガイドライン、④最善実践内容を開発するよう指示した (また、独立機関にも同様に奨励する)。 また政府機関は、AI の責任ある使用に関係するほぼすべての連邦法、規則、政策に対して具体的な措置を講じる必要があるとする。  EOは、AI の使用から得られる利点を認識する一方で、国家...

英国の Identity Cards Bill(国民ID カード法案)が可決成立、玉虫色の決着

  2005年5月に英国議会に上程され、英国やEU加盟国内の人権保護団体やロンドン大学等において議論を呼んでいた標記法案 (筆者注1) が上院(貴族院)、下院(庶民院) で3月29日に承認され、国王の裁可(Royal Assent)により成立した。  2010年1月以前は国民IDカードの購入は義務化されないものの、英国のパスポートの申込者は自動的に指紋や虹彩など生体認証情報 (筆者注2) を含む国民ID登録が義務化されるという玉虫色の内容で、かつ法律としての明確性を欠く面やロンドン大学等が指摘した開発・運用コストが不明確等という点もあり、今後も多くの論評が寄せられると思われるが、速報的に紹介する。 (筆者注3) 1.IDカード購入の「オプト・アウト権」  上院・下院での修正意見に基づき盛り込まれたものである。上院では5回の修正が行われ、その1つの妥協点がこのオプショナルなカード購入義務である。すなわち、法案第11編にあるとおりIDカードとパスポートの情報の連携を通じた「国民報管理方式」はすでに定められているのであるが、修正案では17歳以上の国民において2010年1月(英国の総選挙で労働党政権の存続確定時)まではパスポートの申込み時のIDカードの同時購入は任意となった。 2.2010年1月以降のカード購入の義務化  約93ポンド (筆者注4) でIDカードの購入が義務化される。また、2008年からは、オプト・アウト権の行使の有無にかかわりなく、パスポートのIC Chip (筆者注5) に格納され生体認証情報は政府の登録情報データベース (筆者注6) にも登録されることになる。 ******************************************************: (筆者注1) 最終法案の内容は、次のURLを参照。 http://www.publications.parliament.uk/pa/ld200506/ldbills/071/2006071.pdf (筆者注2) 生体認証の指紋や虹彩については、法案のスケジュール(scheduleとは,英連邦の国の法律ではごく一般的なもので、法律の一部をなす。法本文の規定を受け,それをさらに細かく規定したものである。付属規定と訳されている例がある。わが国の法案で言う「別表」的なもの)...

米国CFTCがオハイオ州の男性とその所有企業をデジタル資産取引スキームにおける1200万ドル(約16億214万円)以上の不正勧誘と不正流用を理由に民事起訴

     米国の 商品先物取引委員会(CFTC) は8月12日、オハイオ州ニューオルバニー市住の ラスナキショア・ギリ(Rathnakishore Giri) と彼が所有するオハイオ州に本拠を置く NBD Eidetic Capital, LLC および SR Private Equity, LLC に対して、オハイオ州南部地区連邦地方裁判所に 民事法執行訴訟 を起こしたと 発表 した。   同訴状 は、ギリと彼の会社が150人以上の顧客から1200万ドル以上と少なくとも10ビットコインを不正に勧誘し、またギリと彼の会社がデジタル資産取引を目的とした顧客資金を不正に流用したと主張している。  さらに訴状は、ギリの両親であるギリ・スブラマニ(Giri Subramani)とロカ・パヴァニ・ギリ(Loka Pavani Giri)を、正当な利害関係のない資金を所有している 救済被告 (注1) として起訴している。  今回のブログは、(1)本起訴の詳細、(2)CFTC/SECの投資家アラート:ビットコイン先物における資金取引の注意喚起の概要について概観する。 1. 起訴の内容  CFTCは、その継続的な訴訟において、詐欺被害にあった顧客への補償(restitution)、不正に得た利益の返還(disgorgement of ill-gotten gains)、民事上の金銭的罰則(civil monetary penalties)、恒久的な取引および登録禁止(permanent trading and registration bans)、および 「商品取引法(Commodity Exchange Act :CEA)」 および 「CFTC規則(CFTC regulations)」 のさらなる違反に対する永久的差止命令(permanent injunction)を求めている。 2.本事件の背景  訴状は、2019年3月頃から現在まで、被告が運営しているとされるさまざまなデジタル資産投資ファンドに投資するために、少なくとも150人の顧客から1200万ドル以上と10ビットコイン以上を勧誘し、受け入れた詐欺的なスキームに関与したと訴えている。同訴状によると、被告は顧客への勧誘において、利益の保証やギリのデジタル資産トレーダーとしての成功話など、多数の虚偽で誤解を招くような声...