スキップしてメイン コンテンツに移動

オランダで急速に広がるウィルスや寄生虫を媒介するヒトスジシマカ問題

 


 中国の「鳥インフルエンザH7N9型」問題が騒がれる一方で、筆者の手元にオランダの主要都市で急速に拡大する東南アジアで収穫した竹(bamboo plant)や車のタイヤを介してオランダに移ってきたといわれる「タイガー・モスキート(ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)」がオランダのアムステルダム、ロッテルダムやユトレヒト等で見つかった。ただし、コロニー(筆者注1)は見つかっていないとのニュースが届いた。

 この問題は米国やヨーロッパだけでなく、起源をたどるとわが国とのかかわりが深い問題でもある。筆者はこの分野ではまったくの門外漢であるにもかかわらず、あえてレポートするのは生態学と感染症問題に対する理解を改めて訴えることが目的である。

 さらに、この問題はわが国でも従来から国立感染症研究所感染症情報センター等が取り上げ、警告を鳴らしている問題であることも再認識した。今回のブログはオランダのメディア記事(Dutch News .nl)をもとに、欧州感染症研究センター(ECDC)の解説やわが国の国立感染症研究所感染症情報センター(IDSC)のレポート等を適宜引用、補足説明を加えながら、ここでまとめて紹介するものである。

 なお、門外漢ついでに引用すると筆者は、本ブログで2009年4月30日から同年11月24日まで計16回にわたり「海外における新型インフルエンザ感染拡大の最新動向と新たな研究・開発への取組み」を書いた。自分なりに独学で勉強したり、海外の主要疫学専門サイト等をつぶさに読んだことは現在でも意義のあることと考える。誤解や正確性を欠く点については専門家の指摘を期待する。


1.オランダのメディアの記事概要
 ECDCによれば、この攻撃的かつ日中に刺す蚊は約20のウィルスや寄生虫(parasites)を運ぶ「ヒトスジシマカ」がオランダでも居を構えた(筆者注2)。タイガー・モスキートは東南アジア固有のもので中国の観賞竹材や中古タイヤ(筆者注2)等を介してオランダに到達し、その範囲が拡大している。すなわち、アムステルダム南北部、ロッテルダム近くのウェストランドやさらにユトレヒト州、北ブラバント州の一部やリンブルグ州で検出されているが、コロニーはまだ特定されていない。

 RTL Nethrtland(筆者注3)ニュースの取材に対し、ECDCのスポークスマンであるウィルフリード・ラインホルド(Wilfried Reinhold) (筆者注4)は、「オランダの保健・福祉・スポーツ相であるエディス・スヒッペルス(Edith Schippers)は中国からの輸入品でのヒトスジシマカの自由な浸入はなく、スポット検査で十分であるとしたが、その取組みは失敗に終わった」と述べた。

2.ECDCのヒトスジシマカ(Aedes albopictus)解説部分の仮訳 (筆者注5)

Aedes albopictus:

 蚊の一種である「ヒトスジシマカ」 は東南アジアを起源とし、 北アメリカ・中央アメリカ・南アメリカ、アフリカの一部、北オーストラリア、その他ヨーロッパの数ヵ国で 継続して30~40 年の間に広がった。1979 年の アルバニア、また 1990 年の イタリア での 初めての出現以来、ヒトスジシマカ は15ヵ国以上のヨーロッパ諸国で報告されている 。それは侵略的外来種専門家グループ(Invasive Species Specialist Group:ISSG、2009)によると、トップ100の侵入性の高い種の1つと指定され、世界で最も侵入性の高い蚊の一種であると考えられている。
 
 ヨーロッパ 諸国への 浸入 は、域内の道路車両網の 更なる分散により「万年竹・開運竹(Lucky Bamboo)」の流行や 使い古した タイヤ 取引 と 輸入 を通して 主に 起こった。異なる気候 にも適応出来る能力 のため、ヒトスジシマカは新しい地理的な位置 であるより 北の 緯度 でも 寒い冬 を通して 生き残ることが できることから 、この蚊の変種は、冷さに抵抗力を持つ 卵 を生みだした。ヨーロッパに侵入する 蚊 種 の 多くと同様に 、タイヤ のような 容器の生息場所と家屋周辺での 花瓶等の 選択拡大は人間 との 接触が 高まる可能性をもたらした 。

 ヒトスジシマカ は、チクングンヤ熱 ウイルス の重要な 既知の 媒介生物である。それ は、2005~2007年 のフランスのレユニオン島(La Reunion)、 2007年の イタリア と 2010 年の フランス の 「チクングンヤ熱(Chikungunya)」の 媒介生物であった 。

 ヒトスジシマカ は、レユニオン島R1977~1978年 (2009 年6月 の モーリシャスも同様 )の大発生をもたらしたものとして 、 「デング熱」の媒介生物 で も ありえる。それ は、2010年のフランスやクロアチアの デング熱 ウイルスの媒介生物でもある。

  ********************************************************************************************

(筆者注1)「コロニー」とは、生態学にて同一種の生物が形成する集団。繁殖のための群れである。

(筆者注2) 「国立感染症研究所感染症情報センター(IDSC)レポート(Vol. 32 p. 167-168: 2011年6月号) 「ヒトスジシマカの生態と東北地方における分布域の拡大」から一部抜粋「ヒトスジシマカの生態と東北地方における分布域の拡大」からの一部抜粋。「この蚊は古タイヤの国際的な流通で、オーストラリア、北米、中南米、ヨーロッパの国々へ輸出され、イタリアのヒトスジシマカは、米国から輸入された古タイ ヤによって運び込まれたことが確認されている。米国の系統は日本から古タイヤによって輸出されたことから、ヨーロッパと日本のヒトスジシマカは同じ系統で あることが強く示唆される。」

(筆者注3) RTL NederlandはRTLグループの子会社の商業放送で、ルクセンブルグに本拠を有し、4系統のチャンネル(RTL4,RTL5,RTL7,RTL8)を保有し、オランダ市場を視聴目標としている。

(筆者注4) ウィルフリード・ラインホルド氏は 、オランダNPOで異国からの動植物の生物種の侵略阻止活動団体である「Platform Stop invasive exoten」 (Dutch organisation to stop the introduction and spread of invasive alien species)の議長である。

(筆者注5) “Aedes albopictus”に関する解説としては、(1)米国疾病対策センター(CDC):Information on Aedes albopictus 、(2) 欧州感染症研究センター(ECDC)2012年作成 Technical Report「Guidelines for the surveillance of invasive mosquitoes in Europe」(PDF 全100頁)、 (3)ECDC:2009年5月公表「Technical Report:Development of Aedes albopictus risk maps」(ECDCサイトからリンク可) 、(4)厚生労働省検疫所最新ニュース2012.11.20 「チェコでヒトスジシマカが発見されました2012年10月25日日付けEurosurveillanceの訳文」等を参照されたい。

*********************************************************************************************

Copyright © 2006-2013芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.You may reproduce materials available at this site for your own personal use and for non-commercial distribution.

コメント

このブログの人気の投稿

ウクライナ共同捜査チームの国家当局が米国司法省との了解覚書(MoU)に署名:このMoU は、JIT 加盟国と米国の間のそれぞれの調査と起訴における調整を正式化、促進させる

  欧州司法協力機構(Eurojust) がウクライナを支援する共同捜査チーム (Ukraine joint investigation team : JIT) に参加している 7 か国の国家当局は、ウクライナで犯された疑いのある中核的な国際犯罪について、米国司法省との間で了解覚書 (以下、MoU) に署名した。この MoU は、ウクライナでの戦争に関連するそれぞれの調査において、JIT パートナー国と米国当局との間の調整を強化する。  このMoU は 3 月 3 日(金)に、7 つの JIT パートナー国の検察当局のハイレベル代表者と米国連邦司法長官メリック B. ガーランド(Merrick B. Garland)によって署名された。  筆者は 2022年9月23日のブログ 「ロシア連邦のウクライナ軍事進攻にかかる各国の制裁の内容、国際機関やEU機関の取組等から見た有効性を検証する!(その3完)」の中で国際刑事裁判所 (ICC)の主任検察官、Karim A.A. Khan QC氏 の声明内容等を紹介した。  以下で Eurojustのリリース文 を補足しながら仮訳する。 President Volodymyr Zelenskiy and ICC Prosecutor Karim A. A. Khan QC(ロイター通信から引用) 1.ウクライナでのJITメンバーと米国が覚書に署名  (ウクライナ)のICC検事総長室内の模様;MoU署名時   中央が米国ガーランド司法長官、右手がICCの主任検察官、Karim A.A. Khan QC氏  MoUの調印について、 Eurojust のラディスラフ・ハムラン(Ladislav Hamran)執行委員会・委員長 は次のように述べている。我々は野心のために団結する一方で、努力においても協調する必要がある。それこそまさに、この覚書が私たちの達成に役立つものである。JIT パートナー国と米国は、協力の恩恵を十分に享受するために、Eurojustの継続的な支援に頼ることができる。  米国司法長官のメリック B. ガーランド(Merrick B. Garland)氏は「米国が 7 つの JIT メンバー国全員と覚書に署名する最初の国になることを嬉しく思う。この歴史的な了解覚書は...

米国連邦取引委員会(FTC)が健康製品に関する新しい拡大コンプライアンスガイダンスを発行

   2022年12月20日、米国連邦取引委員会(以下、FTCという)は、以前の 1998年のガイダンスである栄養補助食品:業界向け広告ガイド(全32頁) を改定および置き換える 健康製品等コンプライアンスガイダンス の発行を 発表 した。 Libbie Canter氏 Laura Kim氏  筆者の手元に Covington & Burling LLPの解説記事 が届いた。筆者はLibbie Canter氏、Laura Kim氏他である。日頃、わが国の各種メディア、SNS、 チラシ等健康製品に関する広告があふれている一方で、わが国の広告規制は一体どうなっているかと疑うことが多い。  FTCの対応は、時宜を得たものであり、取り急ぎ補足を加え、 解説記事 を仮訳して紹介するものである。 1.改定健康製品コンプライアンスガイダンスの意義  FTCは、ガイドの基本的な内容はほとんど変更されていないと述べているが、このガイダンスは、以前のガイダンスの範囲につき栄養補助食品を超えて拡大し、食品、市販薬、デバイス、健康アプリ、診断テストなど、すべての健康関連製品に関する主張を広く含めている。今回改定されたガイダンスでは、1998年以降にFTCが提起した多数の法執行措置から引き出された「主要なコンプライアンス・ポイント」を強調し、① 広告側の主張の解釈、②立証 、 その他の広告問題 などのトピックに関連する関連する例について具体的に説明している。 (1) 広告側の主張の特定と広告の意味の解釈  改定されたガイダンスでは、まず、広告主の明示的主張と黙示的主張の違いを含め、主張の識別方法と解釈方法について説明する。改定ガイダンスでは、広告の言い回しとコンテキストが、製品が病気の治療に有益であることを暗示する可能性があることを強調しており、広告に病気への明示的な言及が含まれていない場合でも、広告主は有能で信頼できる科学的証拠で暗黙の主張を立証できる必要がある。  さらに、改定されたガイダンスでは、広告主が適格な情報を開示することが予想される場合の例が示されている(商品が人口のごく一部をターゲットにしている場合や、潜在的に深刻なリスクが含まれている場合など)。  欺瞞やだましを避けるために適格な情報が必要な場合、改定されたガイダンスには、その適格...

米ノースカロライナ州アッシュビルの被告男性(70歳)、2,200万ドルのポンジ・スキーム(いわゆる「ねずみ講」)等を画策、実施した罪で17.5年の拘禁刑や1,700万ドル以上の賠償金判決

被告 Hal H. Brown Jr. 7 月 10 日付けで米連邦司法省・ノースカロライナ西部地区連邦検事局の リリース   が筆者の手元に届いた。 その内容は「 ノースカロライナ州アッシュビル住の被告男性 (Hal H. Brown Jr., 70 歳 ) は、 2,200 万ドル ( 約 23 億 5,400 万円 ) のポンジ・スキーム (Ponzi scheme : いわゆる「ねずみ講」 ) 等を画策、実施した罪で 17.5 年の拘禁刑 や 1,700 万ドル ( 約 18 億 1,900 万円 ) 以上の賠償金 の判決 を受けた。被告は定年またはそれに近い人を含む 60 人以上の犠牲者から金をだまし取ったとする裁判結果」というものである。 筆者は同裁判の被害額の大きさだけでなく、 1) この裁判は本年 1 月 21 日に被告が有罪を認め判決が出ているのにかかわらず、今時点で再度判決が出された利用は如何、さらに、 2)Ponzi scheme や取引マネー・ローンダリング (Transactional Money Laundering) の適用条文や量刑の根拠は如何という点についても同時に調査した。 特に不正資金の洗浄運び屋犯罪 (Money Mules) の種類 ( 注 1) の相違点につき詳細などを検証した。 さらに裁判官の連邦量刑ガイドラインや具体的犯罪の適用条文等の判断根拠などについても必要な範囲で専門レポートも参照した。 これらについて詳細に解析したものは、米国のローファームの専門記事でも意外と少なく、連邦検事局のリリース自体も言及していなかった。 他方、わが国のねずみ講の規制・取締法は如何、「ネズミ講」と「マルチ商法」の差は如何についてもその根拠法も含め簡単に論じる。いうまでもないが、ネズミ講の手口構成は金融犯罪に欠くべからざるものである。高齢者を狙うのは振込詐欺だけでなく、詐欺師たちは組織的にかつ合法的な似非ビジネスを模倣して、投資をはじめ儲け話しや貴金属ビジネスなどあらゆる違法な手口を用いている。 ( 注 2) 取締強化の観点からも、わが国の法執行機関のさらなる研究と具体的取り組みを期待したい。なお、筆者は 9 年前の 2011.8.16 に...