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米国連邦金監督機関CFPBが違法なクレジットカード取引慣行の被害につき最高8,500万ドルの全額返還命令

 

Last Updated:November 17,2016

 米国連邦議会が制定した金融監督制度改革法「ドッド・フランク・ウォールストリート金融街改革および消費者保護法(the Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act:Dodd-Frank Act) (注1)に基づき設置された連邦準備制度理事会(FRB)内の独立機関である消費者金融保護局(Consumer Financial Protection Bureau:CFBP)は、連邦準備制度内部の独立した法人であり、消費者金融商品・サービスの提供等に関する規制・監督による透明性と消費者の選択を促進し、かつ濫用的で詐欺的な取引慣行を防ぐという任務を負っている。

 CFPBの局長は大統領が指名し、上院が承認する(任期5年)。CFPBには予算の独立性、規則制定権の独立性を付与する。

 預金取扱金融機関については、総資産100億ドル超の銀行及び信用組合に対しては、CFPBが消費者金融保護法(Consumer Financial Protection Act of 2010
)(注2)に関する第一次的な執行権限を有する。総資産100億ドル以下の銀行及び信用組合に対しては当該機関の監督当局が執行権限を持つこととする。ただし、CFPBはこれらの監督当局に対して適切な行動をとるよう勧告することができる。

 自動車の売買やリースに主として従事している自動車ディーラーについては、CFPBの規則制定権、監督・執行権限の対象から除外する。

 州法が連邦法よりも消費者保護をより広く定めている場合には州法が優先する。
(注3)(注4)

 以上が、CFPBの概要であるが、連邦の他の金融監督機関と同様の固有の任務や権限を持つものであるが、その設置の経緯、根拠法や既存の関連機関との連携等その期待度はまさにこれからという点も多い。

 今回のブログは、CFPBがFDIC等と連携した大規模な金融不正犯罪を告訴した最近時の複数の事案をCFPB等の公式情報等を元に紹介する。
 特にCFPBの活動に関しユニークさを感じたのは、連邦金監督機関との法執行の連携活動のみならず民間法律事務所(“Ballard Spahr LLP”)のCFPB専門サイト内容との連携にも配意している点等である。

 なお、今回のCFPB等の告訴も含め、CFPBに関する法執行にかかるわが国のメディアの記事は皆無と思われる。


1.アメリカン・エキスプレスおよびその子会社に対する法執行と同意命令
CFPBの発表要旨は次のとおりである。


(1)10月1日、CFPBはアメリカン・エキスプレスの子会社3社に対する違法なカードのマーケティング販売行為や債権回収等において消費者保護法に違反したとして、その全額(8,500万ドル(約66億3,000万円)~約25万ドル(約1,950万円))に関し、約25万人の顧客への通知や返金ならびに商慣習の特別な見直しを行うよう命じた。

○調査の経緯
 この違反行為は、もともとはFDICがウタ州金融監督規制局(Utah Department of Financial Institutions)と合同して行ったアメリカン・エキスプレスの子会社「American Express Centurion Bank(以下、AECB)」通常検査の間に発見された。FDICはCFPBが2011年稼動を開始したときに、調査機能の一部をCFPBに移管し、この2つの連邦機関は合同して訴追活動を進めた。その後、CFPBは.American Express Centurion Bankが行っていたのと同様の違法行為の多くが子会社である「America Express Travel Related Services Company,Inc(以下、AETRSC)」および「American Express Bank(以下、FSB;AEBFSB)」が行っていたとの結論に至った。

 これらの一連の調査により違法行為は2003年から2012年春までの間に消費者によるカードの申込みやカードでの買物、さらに債務返済等取引の各段階で行われた。

 調査の結果からみて、具体的な違法行為および該当する法律の内容は次のとおりである。なお、子会社3社に対する命令および同意約定の概要は「Factsheets」を参照されたい。

①アメリカン・エキスプレスのサービス「Blue Sky」クレジットカード・プログラムに申込み署名した消費者が欺かれた。
 消費者は、しばしばAmerican Express Centurion Bankで同プログラムを申し込むとボーナス・ポイントに加え300ドル(約23,000円)を受け取ると信じるよう誘導された。しかし、実際はこの資格を満たす消費者は300ドルを受け取ることはなかった。これは、詐欺的商法に関する連邦法に違反する行為に当たる。

②年齢に応じたアカウント応募者に対する違法な差別
 American Express Centurion Bankは、年齢に応じたクレジットカードの応募者に対し、異なるスコアリングを使用した。一定期間、同銀行は35歳以上の応募者のシステムを完全に導入しなかった。適切に設計し実行される年齢を考慮するクレジット・スコアリング・システムを要求することは、「信用機会均等法(Equal Credit Opportunity Act)」に違反する。

③消費者信用報告機関に対する消費者との紛議に関する報告の欠落
 American Express Centurion BankとAmerican Express Bankは、信用報告機関に関する紛議の存在を報告しなかった。これは、「公正信用報告法(Fair Credit Reporting Act)」違反である。

④債務返済に関する消費者の判断を誤らせた
 古い債務を返済することで確実な利益があると信じさせ、子会社3社は消費者を騙した。消費者は古い債務を返済するとその支払いが報告されて消費者の信用度が改善されるとの誤った説明を受けた。実際、アメリカン・エキスプレスは支払いにつき報告されず、また債務は報告しようにも古すぎたので多くの支払いは消費者の報告に現れず、あるいはクレジットスコアに影響しなかった。
 また、アメリカン・エキスプレスは消費者が和解案を受け入れるなら負債が一部放棄されるか、または免除されると消費者に説明した。しかし、新たにアメリカン・エキスプレスのカードを申し込んだ顧客に対し、同社は本当に負債を放棄や免除を行わなかった。

(2)法執行行為(Enforcement Actions)
 本日出された同意命令によると、アメリカン・エキスプレスの子会社は違法な商慣行により被害を加えられたその慣行の修正と消費者への返金につき次の通り同意した。
 なお、同意命令は被告等に会計監査人を雇い消費者保護法に対する法令遵守にかかる「年次監査」を行うことを命じた。

①違法な商慣行の終了
 American Express Centurion Bankは、今後“Blue Sky credit card”やその他のカードにつき詐欺的な説明に基づき、割戻しや今後得るであろうポイントを約して消費者を騙すことはなくなろう。
 また、これら銀行子会社は違法な延滞金を請求することはなくなろう。これら子会社は適切に紛争を信用報告機関に報告しカード保有者がそのような紛争にかかる彼らの権利につき説明を受けるよう確実にするであろう。

 また、CFPBサイトの10月1日付けの説明および10月4日付け“CFPB Monitor”によると、本命令に基づき被告は次の行為の実施が義務付けられる。

○10月1日の命令の結果、アメリカン・エキスプレ等は、概算で8500万~約25万ドルを消費者に賠償金として返還しなければならない。アメリカン・エキスプレスは直接被害を蒙った消費者の口座に資金を返還することとし、 消費者がすでにアメリカン・エキスプレス・カードを持っていないときは、アメリカン・エキスプレス等は小切手または「未払い残高通知(credit any outstanding balance)クレジット」を郵送する。

○“Blue Sky Credit Card”の申し込みを行い、300ドルの受け取りが約束された消費者は、その300ドルを受け取る。
○不法な延滞料を支払った顧客は、利息付で全額を還付される。
○支払いを信用調査所に対し報告するという偽の約束に対応して古い債務を返済した消費者には、利息を支払った金額プラス金利が還付される。
○被害者は彼らの負債が免除されると約束したが、負債が本当に免除されなかったとして、新しいアメリカン・エキスプレスカードの交付が拒否された消費者については、CFPBとFDICによって受け入れられる条件で、100ドルと新しいカードのためのあらかじめ承認された申し出を受け取ることになる。 消費者が新しいカードを手に入れるために既に放棄されたか免除された額を支払っていたなら、その当該金額および利息が還付される。

○消費者は、彼らのクレジットカードや小切手を受けるためにどんな行動も取る必要はない。あなたが本命令で影響を受ける消費者の1人であれば、アメリカン・エキスプレスは直接あなたに通知する。

2.FFPB等連邦監督機関による民事罰則金処分

CFPB等は前記3行に加え、親会社たるアメリカン・エキスプレス本体、持ち株会社に対する総額2,750万ドルの民事罰則金(civil monetary penalties)」を課すことを求めた
 CFPBの積極的な法執行の対象は、さらに親会社たるアメリカン・エキスプレスやその持株会社に対し、本来の監督機関であるOCC(連邦通貨監督局)、FRB(連邦準備制度理事会)およびFDIC(連邦預金保険公社)に対し、合計2,750万ドル(約21億4,500万円)の民事罰則金(civil monetary penalties)」を課すことを求めた。

 

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(注1) 筆者ブログ2011年2月11日「米国FRBがドッド・フランク法のボルカー・ルール遵守期間に関する「レギュレーションY」の最終規則を公布」参照。

(注2) 2010年消費者金融保護法はDodd-Frank Actの第Ⅹ編である。

(注3) 大和総研 吉川 満「適用が開始されたドッド・ フランク法」大和総研調査季報 2011 年 新春号 Vol.1 および財団法人 国際金融情報センターのトピックスレポート「金融規制改革法(ドッド・フランク法)の成立(2010年8月25日号)」から一部抜粋した。

(注4) CFPBの法的根拠、主要任務、組織概要については、コーネル大学ロースクールの解説、CFPBのHPのAbout Bureau および現局長リチャード・コードレイ(Richard Cordray )のプロファイルを参照されたい。

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