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米国FBI等がソーシャルメディアを悪用したギャング・グループによる少女売春を厳しく訴追した事案

 


 米国だけでなく世界中の国で子供からソーシャル・ネットワーク・サイトを介した被害の防止が最大の課題となっていることはいうまでもない。
 今回のブログはこのほどFBIが中心となって実施した女子高校生を標的として潜在的売春被害者を漁るべくヴァージニア州のストリート・ギャング・グループが行った性犯罪行為の取締りの実態を紹介する。
(筆者注1)

 筆者がこの問題にこだわるのは、わが国も含めソーシャル・ネットワークのあり方に関する十分な啓蒙活動が行われていない現実を改めて考える機会を提供したいと考えた結果である。

 したがって、今回のブロでは連邦司法省ヴァージニア東部地区連邦検事局(Eastern District of Virginia )および9月14日にFBIのリリース内容の概要を紹介するとともに、そこで指摘されている両親等保護者が子供のSNS利用に関する日常的な監視のあり方等留意すべき点をFBIの資料をもとに整理する。


1.事件の概要とFBIの対処内容
(1) 連邦司法省ヴァージニア東部地区連邦検事局が2012年3月29日にリリースした 犯罪手口の概要は次のとおりである。

○ヴァージニア州フェアファックス郡(Fairfax County)の本拠地を置く“Underground Gangster Crips”(筆者注1)の5人が女子高校生をソーシャル・ネットワークや学校を通じて募り、暴力で恐喝し買春ビジネスを経営していたとして逮捕、起訴された。また、今回を含め2011年以来現在進行中の捜査の一部として未成年の性売買に関し地域のギャング11人を告発した。
 この犯罪の捜査の中心的役割を担ったヴァージニア州東部地区担当連邦検事ニール・H.マクブライド(Neil H.Macbride)は、「若い少女の性売買は言うに耐えないトラウマを引き起こす不道徳な犯罪である。これらギャングのメンバーは多くのエリアで女子高校生は堕落した買春の世界に釣り込み、契約書により性的奴隷として拘束するため暴力や脅迫を行った。」と述べている。

○刑事告訴の宣誓供述書(Criminal Complaint Affidavit) (筆者注2)によると、今回の犯罪の主犯はUnderground Gangster Cripsのリーダーであるジャステイン・ストルム(Justin Strom:26歳)通称“Jae”または“J-Dirt”である。被告等は売春婦として働かせるため10代の少女を誘い込んだ。被告等は、学校やフェイスブック、無料の出会い系サイト“DatHoolUp.com”その他ソーシャルネットワーキング・サイトを通じて被害者たる少女の美貌を利用して、買春を介した金儲けを勧誘した。さらに共謀メンバーは、バス停や駅等で少女に近づき買春ビジネスの勧誘を行った。

 本捜査が2011年に始まって以来、16歳から18歳の少なくとも10人の女子高校生が潜在的被害者として特定され、彼女等は売春婦として働き出す前に「適性検査(try out)」や「手ほどき(initiation)」と称して共謀メンバーとセックスを強制させられた。その際、違法薬物やアルコールが提供された。

○同供述書によるとストロムと他の共謀者は「クレイグス・リスト(craigslist.org)」(筆者注3)や買春系ウェブサイト“Backpage.com” (筆者注4)に広告を出した。ストロムは顧客の「In-callサービス(買い手がService Provider(つまり売春婦のこと)の元に出向いてサービスを受けるもの)」を担当していた。すなわち、ストロムはクライアントがセックスを行うことに関し、自身の家の使用を許した。アパートやタウンハウスの顧客を集めてドアツードアで顧客を勧誘する方法をとり、ストロムや仲間はその近隣の車の中で監視していた。
 仮に少女等が言うことを聞かなかった場合、多くの犠牲者は暴力で脅迫された。この中にはストロムによりレイプされ、その後見知らぬ14人の男と性交渉させられた1人の被害者が含まれる。ストロムはクライアントから約1,000ドル(約77,000円)を受け取っていた。

 ストロムと3人の共犯は共謀して年少者を搬送し商業性行為を行わせたとして、有罪となる場合、最高刑では終身刑となる。

○共犯者は次の3人である。
・マイケル・タヴォン・ジェフリーズ(Michael Tavon Jefferies)は、ヴァージニア州のウッドブリッジ住で21歳である(通称Loc)。事業の資金管理を担当するとともにボディガードと運転手を担当していた。ビジネス中は武器を搬送も行っていた。2012年3月27日の夜に逮捕された。
・ドニエル・ドーヴ(Donyel Dove)は、同州アレキサンドリア住で27歳である(通称Bleek)。少女等の売春時のボディガードと搬送を担当していた。2012年3月28日の早朝に逮捕された。3月24日より前にウォレン郡で別事件で逮捕され現在は州刑務所に収監されている。
・ヘノック・ギール(Henock Ghile)は同州スプリングフィールド住で23歳である(通称Knocks)で顧客の予約場所に少女らを搬送していた。2012年3月28日の早朝にストロムとともに逮捕された。

(2)事件は2012年3月までの3年間、ヴァージニア州の町のギャング(Underground Gangster Crips(筆者注1):UGC)の違法行為に関する両親等による厳しい監視の結果に基づくものである。州や連邦の複数の捜査機関による捜査の後、全部で5人の被告が性的人身売買の共謀(sex trafficking conspiracy)に関する連邦法違反を理由とする告発につき有罪答弁(pleaded guilty)を行った。
 この結果、この町のギャングのリーダーであるジャステイン・ストローム(Justin Strom:27歳)は9月14日の判決では40年の拘禁刑を、また残りの4人については合計で53年の拘禁刑が言い渡された。

2.ソーシャルネットワークサイトから子供を保護するには
 FBIのアドバイスは次のような内容である。
①オンラインやオフラインで食い物にされる危険性について子供と話し合う。
②あなたの子供のプライバシー保護設定が確実なようにすること、さらに子供が現住所、電話番号や社会保障番号等の機微情報の提示に十分注意すべき点に留意させる。
③あなたの子供のオンライン友達が誰であるかを確認すること。個人的に良く知っている友達からの要請のみ受けいれるようにアドバイスする。
④10代の子供がオンラインで行っていることは常に正直であるというわけでないことを正しく理解する。例えば、ある者につき両親には「友達」というが、別のオンラインでは両親に隠すスペースを確立させる場合がある。
⑤両親が近くにいると子供は次のようなインターネット・スラング(internet language)を使う。例えば、“ PAWor PRW”(Parents are watchingの略)、“PIR”(Parents in roomの略)、“POS”(Parent over shoulder「肩越しに見ている」の略)、“LMRL”(Let’s meet in real life:「実際に会いましょう」の略)

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(筆者注1) 調査報告「海外風俗事情~アメリカ合衆国編~」by ヘンケン・ベッケナー氏
の記事
を見つけた。かなりストレートな説明内容であるが本ブログを読むのには参考になる。特に、「エスコート・サービス(Agencyによる派遣):一番無難とされているのがエスコート・サービス(我が国でいうところのデリヘルサービスであるが本番がデフォルト)のこと。なんらかのAgencyが関与する形態をいいます。IncallとOutcallの2種類のタイプがあり、Incallは買い手がService Provider(つまり売春婦のこと。略してSPという。)の元に赴いてサービスを受け、OutcallとはSPが客の家や宿泊先に来てくれるというもの」の部分を参照されたい。

(筆者注2) “Crips” とは簡単に言うと、1960年代後半にロスアンゼルスで若いアフリカ系アメリカ人が中心となって組織化された“street gang”の別語で最も暴力的でかつ違法性の強い活動を行っていたのであるが、その後、他の民族が加わりさらに対抗する“Blood”が組織化されるなど、これらは日本人は理解できまい。多様な人種からなる米国のアンダーグラウンドの世界を一言で言い表すことは難しい。ここでの詳しい説明は省略するが、米国の“gang”に関する体系的解説としてはFBIがまとめた「2011年全米ギャングにかかる脅威調査―最新動向(2011 National Gang Threat Assessment – Emerging Trends)」が最も体系的かつ新しい内容と思う。また、スタンフォード大学がまとめた解説「Los Angeles Crips and Bloods: Past and Present」も参考になる。

(筆者注3) 「宣誓供述書」とは、通常は、法律により宣誓(oath)を行わせる権限を与えられた者の前で宣誓の上作成した陳述書をいう。より正確に言うと、「逮捕する相当な理由にかかる宣誓供述書とは、裁判官がなぜ逮捕や家宅捜索令状に承諾すべきであるか、または進行中の犯罪の間にされた逮捕が、いかに検挙者が犯罪を犯しそうだった人であるという確実な証拠に基づいたかという事実上の正当化について説明する司法警察官によって通常作られる書面をいう(An affidavit of probable cause is a sworn statement, typically made by a police officer, that outlines the factual justification for why a judge should consent to an arrest or search warrant or why an arrest made during a crime-in-progress was based on solid evidence that the person in custody is the person who is likely to have committed the crime. )」。

(筆者注4) クレイグス・リスト(craigslist.org)は、米国、カナダや欧州で行われている各種の個人売買やら取引などを掲載している巨大オンライン掲示板である。

(筆者注5) 2012年5月22日の米国メディア「スーパーテレグラフ」が報じたニュースでアメリカで売春の囮捜査をやっていた警察の網に、よりによって49歳の新聞社の役員(トッド・R・コイテ:Todd R. Keute,)が引っかかってしまい、逮捕された。裁判となり、執行猶予刑の判決が下されました。ザ・レイク・スペリオール・麻薬ギャング対策班は11月8日に、次のような広告をwww.backpage.comという売春系ウェブサイトに載せました。「セクシーな22歳のブロンド娘を味わってみませんか」(“Put me ur TO DO list, sexy blonde, 22.”)。そこに引っかかったのがコイテ被告とのことである。


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