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英国議会上院「科学・技術特別委員会」が英国の長期的な核開発R&D能力につき警告的報告書を発表(その2完)

 

5.11月22日上院特別委員会「科学・技術委員会」のリリース文
 概略次のような内容である。原文に忠実に仮訳しておく。
・政府は英国のR&D能力につき過度に楽観的過ぎ(too complacent)、かつ政府のアプローチの基本的変更が行われないと失われてしまう程度の専門的技術といえる。ただし、今回公表した報告書「第3次報告書(Science and Technology Committee - Third Report)」の見解は本委員会の結論の1つである。

・本委員会の主要な勧奨内容は次のとおりである。
①2025年以降を展望した原子力エネルギーに関する長期的戦略の策定、すなわちR&Dのロードマップを介したR&Dの支援、原子力に関する英国の現時点での強さについて商業ベースでの営利的な開発の支援の重要性。
 この点は、英国が原子力エネルギーの選択肢の公開性を維持する上で重要なことである。
②R&Dロードマップの開発、適用および調査における脆弱的な分野の保護や能力面でのギャップを埋めるため、R&D活動の共同化の改善を補助すべく、産業界、アカデミック分野、政府のパートナーにより構成する「原子力R&D委員会(Nuclear R&D Board)」を設置する。

クレブス委員長(Committee Chairman Lord Krebs)のコメントは以下のとおり。
・原子力エネルギーのR&Dに関する専門家の多くが定年年齢に近づいている。英国の専門技術は過去の投資による研究により構築してきた。 最近の20年間の新規投資の欠如は、英国がこの専門技術を失うという危険性を意味する。その結果、我々自身が2050年までに安全かつ安全性を持ったエネルギー供給が保証できないといった危険性におかれることになる。
・政府は、将来原子力が電力供給において重要な役割を果たすと述べてきた。政府が、この取組が重要であるとするなら、R&Dとともに原子力産業分野、政府およぶ規制機関が依存できる若い専門家の存在が欠かせない。今、行動を起こさなければ、政府の原子力政策は真実性を欠くものというのが我々の意見である。

6.報告書の要旨
(1)序論
 本委員会の取上げた問題点の背景は、将来において安全、手頃かつ低炭素の電力供給が可能となる混合エネルギー源の提供にかかる政府の取組み方である。政府は、原子力がこれらの目標を達成する上で重要な役割を果たすと述べた。英国の現在の原子力エネルギーは、英国全体の電力(10-12ギガワット:GW)の16%を供給している。未来の電力発電量需給のシナリオでは、現在と2050年の間で原子力発電依存度は15%から49%に上昇する(英国全体の電力使用量は12GWから38GWを想定)。2050年までに1990年のレベルまで地球温暖化(温室効果)ガス放出量を削減するという法的な拘束目標を達成するには、原子力発電量は20GW~38GWが必要となろう。

(2)委員会が勧奨を行った中心事項
 我々の議論の目標は、原子力発電の議論や反対ではない。しかしながら、政府が言っている将来において英国のR&D能力が維持できるとする点に関しては反対の結論を下した。我々はR&Dのためには根本的な変革を行うべく行動開始を強く勧奨する。

(3)「原子力政策の立案、R&DのロードマップおよびR&D委員会」の設置提案として次の具体的項目をあげる。
①原子力エネルギーに関する長期的戦略の策定
 政府によると英国の原子力の今後の供給は市場により決定されるであろう。他の決定要因となる証拠としては、電力市場改革が2025年までに必要なインセンティブを与えるにもかかわらず、より長期的な視点にたてば必要な原子力のR&Dにかかる能力と関係する専門技術の維持が困難であることを示す。
 原子力業界、政府やエネルギー規制機関は核専門家の次世代要員の育成支援につき研究機関をあてにしているが、いったん失ったこれらのR&D能力の回復はきわめて困難である。さらに、長期戦略がなければ各企業は英国内での長期的な核投資に対するインセンティブを持たなくなろう。

②核の研究開発ロードマップの策定
 核の長期戦略のためには、特に次のような英国のR&Dにおけるギャップを埋めるための施策を織り込んだ「R&Dロードマップ」を策定すべきである。
・照射後物質(post-irradiated materials)、深層核廃棄物処理の研究(deep geological disposal)、余剰プルトニウム(Plutonium stockpile)の廃棄処分、先進的核燃料リサイクルや再処理および第4世代原子炉技術(Generation Ⅳ technologies) (筆者注15)を実行できる施設である。
 また、ロードマップは英国の国際協力にために信頼できるパートナーの設立、すなわち政府による第4世代国際フォーラム(Generation IV International Forum:GIF)への積極的参加体制や国立原子力研究所(National Nuclear Laboratory:NNL) (筆者注16)が取組んでいる国際的な重要なフェーズ3施設化を確保することにある。

③独立機関「原子力R&D委員会」創設の勧奨
④長期的に見た英国の原子力R&Dの資金源問題
⑤核R&D能力向上に向けたNDA、NNL等特定機関の責務

7.報告書の構成とその特徴的内容
 第3次報告書自体は116頁にわたる大部なものである。その言わんとする内容はこれまで述べてきたとおりである。最後にその検討の範囲や問題意識を理解するため、目次のみであるが列記する。

(1)構成
要旨
第1章 序論
○検討範囲
・2050年およびその後の問題
・本レポートの構成
・確認事項

第2章 英国の原子力R&D-過去と現在
○歴史的背景
囲み記事1:原子炉技術
図1:英国の公的部門の核分裂(fission)のR&D
図2:英国のR&Dの要員
○英国の核部門
○調査部門の支出
表1:政府出資によるエネルギー研究と核分裂研究の比較
○英国における原子力R&Dおよび協力専門機関の強さ
図3:民間核分裂研究の鳥瞰
図4:核分裂研究の鳥瞰:技術準備面レベルからの概観た
○原子力R&Dの資金面および実行を担う組織
・民間事業者
・研究会議(Research Councils)
表2:核分裂に関する研究の機関の年次支出
・大学
・その他公的研究機関
・国際的な研究共同活動

第3章 2050年および以降のエネルギー配分における原子力の役割
○適正配分アプローチ
・エネルギー適正配分において核はどのような貢献が可能か?
囲み記事2:未来のエネルギーシナリオにおけるエネルギー混合において原子力はいかなる貢献が可能か
・異なる原子力技術の役割と核燃料のサイクル
囲み記事3:核燃料サイクル

第4章 エネルギー政策
○背景
・低炭素技術開発に力を入れた長期的計画
・原子力R&Dや関係専門機関による商業化の機会(ビジネスチャンス)
・新建設計画におけるサプライチェーンの開発
・商業的開発の強化に向けた枠組みの構築
・エネルギーの安全性問題

第5章 現在の英国のR&D能力や関連専門能力は原子力エネルギーの選択肢を明らかにしているか?
現在の取組み内容の適合性:2050年およびそれ以降の12-16GW発電能力に向けた既存の原子力施設や新たな発電施設計画はR&D能力や関係専門能力のニーズに合致しているか
○労働力の高齢化
○研究労力における追加的なギャップ
・照射物質研究の研究施設
・核廃棄に関する遺産および現存するシステム
○核燃料のリサイクルと再処理
・国際的な人材採用機関(Skills Provision )12/1⑧の役割
 
第6章 原子力エネルギーの選択肢を維持するために
○異なる原子力の未来のかかるR&D能力や関係専門能力をいかに維持するか
・R&D計画とそのロードマップ
・全英べースのR&Dロードマップの必要性
・全英べースのR&Dロードマップの呼びかけに対する政府の反応
・全英ロードマップの策定
・研究のための資金源
○国際的な研究プログラムへの参画
(以下、略す)

8.英国のエネルギーや環境専門家や団体の議会報告に対する評価や見方
 明確な解説レポートは見出しえなかった。第3次報告の紹介記事を引用するにとどめる。
(1)EAEM「Government "lacks credibility" on nuclear policy, waste and safety」

(2)原子力推進派の「Nuclear Engineering International」の記事「UK's nuclear plans 'lack credibility' without greater R&D spend」
 11月22日記事で、第3次報告の要旨を詳しく取上げているが、特にコメントはない。

9.英国メディアに見る原発問題の裏交渉の実態
 わが国の業界新聞の記事で次のような記事を読んだ。
「英国の原子力新設計画が前進 年末までに暫定設計承認:
 英国の原子力規制機関(ONR)は2011年10月26日、政府の原子力新設計画の一環として実施している包括的設計審査(GDA)の進捗状況について9月末までの四半期報告書を公表し、ウェスチングハウス(EH)社のAP100、および仏電力(EDF)とアレバ社の欧州加圧水型炉(EPR)の両方について、年末までに少なくとも暫定的な承認を与えられる見通しだと発表した。」
 これだけをよめば、わが国の読者は政府とともに安全宣言が出されたと読むであろう。なお、ONRは正確にいうと「安全衛生庁(HSE)・原子力規制局」である。(筆者注17)

 一方、わが国のWatchdogであるブログ「もうひとつの暮し」で次のような英国メディア記事(抄訳)を読んだ。
「イギリス政府と原子力企業の共謀:
ガーディアン紙の電子版は2011年6月30日、イギリス政府関係者と原子力企業とのメールのやりとりを暴露した。
ガーディアン紙が入手した内部メールはネットで公開されている。
日本をおそった地震と津波の2日後に、イギリス政府は原子力企業に「原発の安全性」をアピールするPR作戦の協力を迫るメールを送っていた。
イギリスの経済省とエネルギー省が、フランス電力公社(EDF)、アレバ、ウエスチングハウスといった多国籍原子力企業と秘密裏に連絡をとっていたのがわかる。政府のこうした働きかけは、福島第一原発によってイギリスでの新世代原子炉建設計画が延期されるのを危惧したため。(以下略す)」

10.わが国の原子力問題は今行動すべきとき(私的メモ)
 本ブログの執筆にあたり、英国を中心とする関係機関の情報にあたった。しかし、いずれもその内容はまず核開発ありきという大前提に立ったもので、わが国が日々危機的状況とその対応に追われている現状からは当然承諾しがたい内容であった。
 専門外の筆者はこれ以上の客観的かつ専門的な解析は困難と考え、機会を改めてドイツやスイスの問題を取り上げたいと考える。なお、わが国の核問題を国際的な視野から取上げているNGO「アクション・グリーン(Action Green):代表はアイリーン・美緒子・スミス」のHPサイトを紹介しておく。このNGOは国際化がすすんでおり、多くの支援者がいることもうかがえる。
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(筆者注15) 第4世代原子炉(Generation IV:GEN-IV)とは、「第1世代」(初期の原型炉的な炉)、「第2世代」(現行の軽水炉等)、「第3世代」(改良型軽水炉、東電柏崎刈羽のABWR等)に続き、米国エネルギー省(DOE)が2030年頃の実用化を目指して2000年に提唱した次世代の原子炉概念で、燃料の効率的利用、核廃棄物の最小化、核拡散抵抗性の確保等エネルギー源としての持続可能性、炉心損傷頻度の飛躍的低減や敷地外の緊急時対応の必要性排除など安全性/信頼性の向上、及び他のエネルギー源とも競合できる高い経済性の目標を満足するものである。

2)第4世代原子炉及び国際短期導入炉概念の選択経緯
 このプログラムを国際的な枠組みで推進するため、米国、日本、英国、韓国、南アフリカ、フランス、カナダ、ブラジル、アルゼンチンの9か国が2001年7月に第4世代国際フォーラム(Generation IV International Forum:GIF)を結成し、その後スイスも参加して2002年9月には参加国は10か国となった。さらに2003年にはユーラトムが、2006年には中国とロシアがGIF憲章に署名している。憲章への署名は協力への関心を表明したものであり、実際の協力活動は枠組協定(Framework Agreement)への署名をもって行われる。2005年2月に、日本、米国、フランス、カナダ及び英国は、枠組協定(第4世代の原子力システムの研究及び開発に関する国際協力のための枠組協定)に署名し、締約国となった。その後、スイス、韓国及びユーラトムが加入、2007年12月に中国、2008年4月に南アフリカが加入書を寄託した。なお、英国は後に枠組協定から抜けている。枠組協定参加国は6つのGIF対象システムのうち、少なくとも1つの研究活動に参加する。
(高度情報科学技術研究機構(RIST)のATOMICA用語解説から抜粋)

(筆者注16) 原子力の利用・開発に不可欠な技術力を保存・利用・発展させるため、エネルギー・気候変動省(DECC:Department for Energy and Climate Change)の下に、国内外への技術提供事業に重点を置いた国立原子力研究所(NNL)が2009年に発足した。当所は、原子力廃止機関(NDA)、ウェスチングハウス社、英国健康安全省、防衛省、英国原子力公社(UKAEA)、燃料・材料研究や廃棄物処理研究を進める大学等が当面の主な顧客である(高度情報科学技術研究機構(RIST)のATOMICA用語解説から抜粋)。

(筆者注17)“ONR”については、本ブログでは詳しく説明しなかったが、英国における原子力政策と安全性問題を見る上で欠くことが出来ない規制機関である。原子力問題に関する「電子告示(Nuclear e-Bulletin)」については適時に出るので要注意である。


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