スキップしてメイン コンテンツに移動

オーストラリア連邦通信メデイア庁が携帯電話等のプレミアム・サービスに関する一層の規則強化に着手

 


 最近時、本ブログでもしばしば取上げてきた連邦通信メデイア庁(ACMA)がベータ版“engage”サイトを立ち上げた。従来から説明しているとおり、ACMA自体の重要な機能の1つが消費者保護強化にあることは間違いない。
 ところで、今回ACMAが問題視した点は携帯電話やタブレット端末を介したSMSやMMSのプレミアム・サービスにかかる一層の事業者の規制強化である。

 この問題は従来から通信分野の監督機関であるACMA、ACCC等ならびに携帯通信事業者団体等による永年の具体的な取組みにもかかわらず、消費者保護面からなお多くの課題が残るこのサービスにつき根本的な規制強化を図ることとなったものである。

 その第一弾としてACMAは関係者から広く意見を公募を開始した(提出期限は2011年12月22日)。今回のブログは、これまでの経緯の概要と今回ACMAが投げかけた質問項目の内容を概観する。


1.現行のプレミアム・サービスの内容とその問題点
 サービス概要の理解のため、ACMAのプレミアム・サービスに関する日本語解説サイトからの一部関係部を抜粋のうえ、仮訳、引用する。
「 ・プレミアムSMSまたは(MMS)とも呼ばれるモバイル・プレミアム・サービスは、カスタマーが本サービス利用のために追加料金(プレミアム)を支払うことからプレミアムと呼ばれます。つまり標準的なSMS(テキストメッセージ)MMS (マルチメディアメッセージ)より料金がかかるということです。

・ モバイル・プレミアム・サービスへは、あなたの携帯電話からSMSを通じて'191'、'193’-’197'、および’199’で始まる番号からアクセスすることができ、呼び出し音、ウォールペーパー、ゲーム、ミュージック・トラックやビデオ、ホロスコープ、ニュースやチャットグループを含む情報やエンターテイメントのサービスを提供します。
 
・ゲームやビデオなど、インターネットからコンテンツをダウンロードする必要のあるサービスにアクセスする場合は、ご利用の電話会社がプレミアムSMS料金の他にさらにデータ・ダウンロード費として料金を請求する可能性があります。データ・ダウンロード料金についてはご利用の電話会社の約款をご確認ください。

・プレミアム・サービスの中には、継続的または一定期間のサービス提供を受けることに合意しSMSやダウンロードを定期的に受けるための料金を支払う、契約(サブスクリプション)式のサービスのものがあります。自分が購入するサービスが契約(サブスクリプション)式のものか否か、必ずチェックしましょう。
コンテンツの供給者は、オーストラリアン・コミュニケーションズ・アンド・メディア・オーソリティ(ACMA)により監督および施行される「モバイル・プレミアム・サービス規約: C637(2009年制定)(C637:2009 Mobile Premium Services Code)」に従わなくてはなりません。

・モバイル・プレミアム・サービスを停止するには:
モバイル・プレミアム・サービスは、サービスを配信する番号もしくは確認メッセージの番号に『STOP』をテキストで送るか返信することにより、いつでも停止することができます。

・SMS とMMSを停止する
 2010年7月から、携帯電話のユーザーは、電話会社に連絡を取り、すべてのSMSまたは MMSのプレミアム・サービスを停止するよう要求することができます。これは、皆さんが、もはや現在加入しているプレミアムSMSまたはMMSサービスを受けない、または課金されないということ、また自分の携帯電話からもはやプレミアムSMSまたは MMSに送ることはできないということを意味します。」

2.より正確な解説に基づく理解
 前記1.を読んで概括的なイメージは把握できるであろう。しかし、今回ACMA等が取組んだ本質的な問題点を正確に理解するには十分とは言えない。
 そこで、まず“C637:2009”を策定した“Communications Alliance Ltd” の解説サイトから補足説明部分が詳しく経緯などを説明している。
・モバイル・プレミアム・サービス(MPS)に関する業界専門サイト:19 SMS Website は包括的な消費者向けガイドである。

(1)2009年5月に制定した「プレミアム・サービス規約:C637」の改正等モバイル・プレミアム・サービス規制に関するこれまでの改定経緯
・モバイル・プレミアム・サービス規約は「1997年電気通信法(Telecommunication Act 1997)」の下でACMAにより2009年5月14日登録され、同年7月1日施行した。ACMAはその遵守状況を監視している。
 C637は「2005年電気通信を利用したサービス・プロバイダー(モバイル・プレミアム・サービス)に関する行政決定(Telecommunications Service Provider (Mobile Premium services )Determination )」とともに、従来の業界規約であったMPSI Scheme(Mobile Premium Services Industry Scheme )を置き換えたものである。
 このC637は、キャレッジ・プロバイダー、アグリゲーターおよびコンテンツ・プロバイダーに適用され、またその制定目的は利用者やベンダーにとっての適切な安全装置と顧客サービス要件を確立することにある。

(2)MPS業者の登録
 C637の下では、全てのMSPの提供事業者はオーストラリア内でサービスの準備に取組む前に“Communications Alliance”が管理するMPSI登録に際し、会社としての詳細情報の提出が求められる。

 また、C637は供給事業者間のいかなる契約合意条件についても「所定の様式」に基づき登録をなすべきことを定める。

(3) プレミアム・サービス規約:C637の全文を参照されたい。また、C637の解説も参照されたい。

(4) ACMAによる規約等遵守状況の監視
 2009年、ACMAはこれまでの監視結果において規約(C637)の遵守違反の事例が14件あったと報じた。違反が明らかとなった供給事業者には遵守命令が下され、その命令に従わなかった業者に対しては、最高25万豪ドル(約1,825万円)の刑事罰と原状回復命令に関する連邦裁判所での手続が行われる。

3.ACMAによるモバイル・プレミアム・サービスに関する規則の強化見直しに関する公開意見聴取開始のリリース
 2011年11月10日、ACMAは、なお自主規制規則等の不遵守が続く業界の現状に鑑みて行政決定等の見直しを行うべく、広く関係者に対し意見を求める手続に入った。なお、ACMAのリリース文自体は説明がほとんどないため、前述した“engage”サイトの説明から基本部分を抜粋、仮訳する。

(1)2010年に施行されたサービス・プロバイダーに関する次の2つの行政決定( Determinations)がある。
「顧客によるSMSおよびMMSプレミアムの停止オプションの提供および不当に高額な費用請求禁止に関する行政決定(Barring Determination)」
②「請求拒否/契約拒否に関する行政決定(Do Not Bill/Do Not Contract Determination)」はキャレッジ・プロバイダーの業界登録していないコンテンツ・プロバイダーとの契約禁止、およびACMAにモバイルサービス・プロバイダーに対し、顧客に重大な金銭的な危害を加える要因となりうる請求を禁止する命令権を与える。
 この見直し質問・意見公募に関する詳しい情報は“Premium messaging services”
すなわち「2010年電気通信・サービス・プロバイダー(モバイル・プレミアム・サービス)に関する行政決定の見直しNo.1およびNo.2(Review of the Telecommunications Service Provider(mobile Premium services Determinations 2010(No.1)and( No.2))」を参照されたい。
 筆者によるACMAの質問内容の仮訳は(2)および(3)のとおりである。

(2)禁止行政命令(Barring Determination)に関する質問項目
①プレミアム・メッセージング・サービスを顧客の要求に基づき禁止することは、顧客がこれらのサービスにかかる費用をコントロールするうえで有効な手段といえるか?
②顧客が現在利用可能なプレミアム・メッセージング・サービスを禁止する方法は適切かつ利便性があるか?
③プレミアム・メッセージング・サービスに対する課金の発生に時間的な枠組みを設けることは適切な方法か?
④準備の頻度を含む現行の情報要求要件は適切か?
⑤顧客がいつプレミアム・メッセージング・サービスを停止すべきかにつき理解するため追加的な情報はあるか?
⑥顧客とコミュニケーションを図る現行の手段は効果的か?
⑦この情報を顧客に伝えるためこの他にどのような方法が可能となるか?

(3) 「請求拒否/契約拒否に関する行政決定」に関する質問項目
①契約拒否に関する規定は、MPS規約による登録要求要件を遵守させるうえで機能向上が見られたか?
②これらの規定が、事業者に意図しないインパクトを与えたという証拠があるか?
③契約拒否規定の適用に関し金銭的なコストが発生したか?
④MPS規約のもとで登録要求要件の遵守を強化するため、ほかに良い手段はあるか?
⑤請求拒否規定は、重大な金銭的損失を顧客に引き起こすプレミアム・メッセージング・サービスの運営者に抑止力が働いたと思うか?
⑥これらの請求拒否規定が、事業者に金銭的またはその他の意図せざるインパクトを与えたという証拠があるか?
⑦請求拒否規定の適用に関し金銭的なコストが発生したか?
⑧顧客に重大な損失を引き起こすプレミアム・メッセージング・サービスを思いとどまらせる、またはその損失を緩和させるためより効果的なその他の方法があるか?

********************************************************
Copyright © 2006-2011 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.You may reproduce materials available at this site for your own personal use and for non-commercial distribution.

コメント

このブログの人気の投稿

ウクライナ共同捜査チームの国家当局が米国司法省との了解覚書(MoU)に署名:このMoU は、JIT 加盟国と米国の間のそれぞれの調査と起訴における調整を正式化、促進させる

  欧州司法協力機構(Eurojust) がウクライナを支援する共同捜査チーム (Ukraine joint investigation team : JIT) に参加している 7 か国の国家当局は、ウクライナで犯された疑いのある中核的な国際犯罪について、米国司法省との間で了解覚書 (以下、MoU) に署名した。この MoU は、ウクライナでの戦争に関連するそれぞれの調査において、JIT パートナー国と米国当局との間の調整を強化する。  このMoU は 3 月 3 日(金)に、7 つの JIT パートナー国の検察当局のハイレベル代表者と米国連邦司法長官メリック B. ガーランド(Merrick B. Garland)によって署名された。  筆者は 2022年9月23日のブログ 「ロシア連邦のウクライナ軍事進攻にかかる各国の制裁の内容、国際機関やEU機関の取組等から見た有効性を検証する!(その3完)」の中で国際刑事裁判所 (ICC)の主任検察官、Karim A.A. Khan QC氏 の声明内容等を紹介した。  以下で Eurojustのリリース文 を補足しながら仮訳する。 President Volodymyr Zelenskiy and ICC Prosecutor Karim A. A. Khan QC(ロイター通信から引用) 1.ウクライナでのJITメンバーと米国が覚書に署名  (ウクライナ)のICC検事総長室内の模様;MoU署名時   中央が米国ガーランド司法長官、右手がICCの主任検察官、Karim A.A. Khan QC氏  MoUの調印について、 Eurojust のラディスラフ・ハムラン(Ladislav Hamran)執行委員会・委員長 は次のように述べている。我々は野心のために団結する一方で、努力においても協調する必要がある。それこそまさに、この覚書が私たちの達成に役立つものである。JIT パートナー国と米国は、協力の恩恵を十分に享受するために、Eurojustの継続的な支援に頼ることができる。  米国司法長官のメリック B. ガーランド(Merrick B. Garland)氏は「米国が 7 つの JIT メンバー国全員と覚書に署名する最初の国になることを嬉しく思う。この歴史的な了解覚書は...

米国連邦取引委員会(FTC)が健康製品に関する新しい拡大コンプライアンスガイダンスを発行

   2022年12月20日、米国連邦取引委員会(以下、FTCという)は、以前の 1998年のガイダンスである栄養補助食品:業界向け広告ガイド(全32頁) を改定および置き換える 健康製品等コンプライアンスガイダンス の発行を 発表 した。 Libbie Canter氏 Laura Kim氏  筆者の手元に Covington & Burling LLPの解説記事 が届いた。筆者はLibbie Canter氏、Laura Kim氏他である。日頃、わが国の各種メディア、SNS、 チラシ等健康製品に関する広告があふれている一方で、わが国の広告規制は一体どうなっているかと疑うことが多い。  FTCの対応は、時宜を得たものであり、取り急ぎ補足を加え、 解説記事 を仮訳して紹介するものである。 1.改定健康製品コンプライアンスガイダンスの意義  FTCは、ガイドの基本的な内容はほとんど変更されていないと述べているが、このガイダンスは、以前のガイダンスの範囲につき栄養補助食品を超えて拡大し、食品、市販薬、デバイス、健康アプリ、診断テストなど、すべての健康関連製品に関する主張を広く含めている。今回改定されたガイダンスでは、1998年以降にFTCが提起した多数の法執行措置から引き出された「主要なコンプライアンス・ポイント」を強調し、① 広告側の主張の解釈、②立証 、 その他の広告問題 などのトピックに関連する関連する例について具体的に説明している。 (1) 広告側の主張の特定と広告の意味の解釈  改定されたガイダンスでは、まず、広告主の明示的主張と黙示的主張の違いを含め、主張の識別方法と解釈方法について説明する。改定ガイダンスでは、広告の言い回しとコンテキストが、製品が病気の治療に有益であることを暗示する可能性があることを強調しており、広告に病気への明示的な言及が含まれていない場合でも、広告主は有能で信頼できる科学的証拠で暗黙の主張を立証できる必要がある。  さらに、改定されたガイダンスでは、広告主が適格な情報を開示することが予想される場合の例が示されている(商品が人口のごく一部をターゲットにしている場合や、潜在的に深刻なリスクが含まれている場合など)。  欺瞞やだましを避けるために適格な情報が必要な場合、改定されたガイダンスには、その適格...

米ノースカロライナ州アッシュビルの被告男性(70歳)、2,200万ドルのポンジ・スキーム(いわゆる「ねずみ講」)等を画策、実施した罪で17.5年の拘禁刑や1,700万ドル以上の賠償金判決

被告 Hal H. Brown Jr. 7 月 10 日付けで米連邦司法省・ノースカロライナ西部地区連邦検事局の リリース   が筆者の手元に届いた。 その内容は「 ノースカロライナ州アッシュビル住の被告男性 (Hal H. Brown Jr., 70 歳 ) は、 2,200 万ドル ( 約 23 億 5,400 万円 ) のポンジ・スキーム (Ponzi scheme : いわゆる「ねずみ講」 ) 等を画策、実施した罪で 17.5 年の拘禁刑 や 1,700 万ドル ( 約 18 億 1,900 万円 ) 以上の賠償金 の判決 を受けた。被告は定年またはそれに近い人を含む 60 人以上の犠牲者から金をだまし取ったとする裁判結果」というものである。 筆者は同裁判の被害額の大きさだけでなく、 1) この裁判は本年 1 月 21 日に被告が有罪を認め判決が出ているのにかかわらず、今時点で再度判決が出された利用は如何、さらに、 2)Ponzi scheme や取引マネー・ローンダリング (Transactional Money Laundering) の適用条文や量刑の根拠は如何という点についても同時に調査した。 特に不正資金の洗浄運び屋犯罪 (Money Mules) の種類 ( 注 1) の相違点につき詳細などを検証した。 さらに裁判官の連邦量刑ガイドラインや具体的犯罪の適用条文等の判断根拠などについても必要な範囲で専門レポートも参照した。 これらについて詳細に解析したものは、米国のローファームの専門記事でも意外と少なく、連邦検事局のリリース自体も言及していなかった。 他方、わが国のねずみ講の規制・取締法は如何、「ネズミ講」と「マルチ商法」の差は如何についてもその根拠法も含め簡単に論じる。いうまでもないが、ネズミ講の手口構成は金融犯罪に欠くべからざるものである。高齢者を狙うのは振込詐欺だけでなく、詐欺師たちは組織的にかつ合法的な似非ビジネスを模倣して、投資をはじめ儲け話しや貴金属ビジネスなどあらゆる違法な手口を用いている。 ( 注 2) 取締強化の観点からも、わが国の法執行機関のさらなる研究と具体的取り組みを期待したい。なお、筆者は 9 年前の 2011.8.16 に...