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欧州委員会が「EU域内緊急セキュリティ強化行動戦略目標」等を採択(第1回目- その1)

 


 2010年11月22日、欧州委員会(域内人権担当委員:セシリア・マルムストロム(Cecilia Malmstrom))はEU市民の保護強化のためのEUが直面する緊急的なセキュリティ脅威に対処すべく長期的な「EU域内セキュリティ強化のための行動戦略目標(EU Internal Security Strategy in Action)」(全41項目)(以下「戦略目標」という)を採択した旨公表した。

 テロを含むサイバー・セキュリティ対策はこのところ世界的な傾向として強化されており、これに関するEUを中心とした取組みはこの戦略目標以外にも多くのEU機関の具体的な検討が始まっている。これら最新のEU機関の活動についてはわが国で具体的にかつ専門的に論じたものは極めて少ないことも事実であり、また、人権問題としての取組みについてのレポートも少ない。例えば、「乗客氏名等顧客記録(Passenger Name Records)」とわが国が2005年1月4日から米国、カナダ、豪州、ニュージーランド、メキシコと共に運用を開始した「事前旅客情報)システム(Advance Passenger Information System:APIS) 
(筆者注1)の具体的データ内容とプライバシー問題等への懸念等である。


 このため本ブログではこれらのキーワードをとらえつつシリーズで取上げることとした(あくまで暫定訳であり、訳語の不統一等は後日整理したい)。

 いずれにしても、EUの行動戦略目標はEUにおけるサイバー犯罪の中期的な取組み課題が網羅されており、米国等との協調関係を踏まえた今後の動きを予測する上で重要なキー情報といえる。

 このような状況の中でEUの人権擁護団体である“statewatch”等から最新情報が届いたのであわせて紹介する。また、EU委員会の担当委員セシリア・マルムストロム  (筆者注2)自身のブログ(スェーデン語)でWikiLeaksへのサイバー攻撃に対する強い懸念を提起している。
 また、欧州連合理事会のテロ対策調整・推進役(EU Counter-terrorism Coordinator)ジル・ドゥ・ケルコフ(Gilles de Kerchove)が欧州理事会に対し報告「EUテロ対策行動計画(EU Action Plan on combating terrorism)」を行っている。この“Coordinator”についてわが国ではほとんど言及されたものはない。この両者についてもあわせて連載の中で解説したい。

 一方、11月28日以降、“WikiLeaks”による米国外交文書 
(筆者注3)の段階的な公開を巡る国務省や国防総省の反論等も紹介するつもりもあるが、実際には関係機関によるDOS攻撃やISP等への情報規制も行われており、十分な事実関係にかかる情報は筆者の手元にはない。

 この点につきわが国メディアが独自にいかほどの正確な情報をもって解析しているかは知らないし、Wikileaksの運営理念は今一筆者には理解できない点が多い。断片的な機密情報である公電を取り出して、そこに現れた外交官や政府要人のコメントを網羅して米国政府の傲慢さをいくらたたいてもそこからどのような国際戦略的施策が出てくるのであろうか。それのみで国際法違反といえるような事実関係を明らかにし、国際平和に向けた協調のためのステップにつなげられるのか。 (筆者注4)

 国際的に見たイニシアティブをとるには常日頃から外交活動を地道に行い、そこで得られた外交成果を次の国際的な具体的活動に反映するのが外交のイロハであるはずである。その意味ではその取組み方や方針そのものの良し悪しは別にして、クリントン長官のこの数ヶ月のアジアへの精力的な外交努力を見ると年間のほとんどを国会や国内活動に当ててきたわが国の外務大臣とは大違いと考える。いずれにしても、この問題は改めてコメントするつもりである。

 今回は,2
回に分け掲載する。

1.行動戦略目標策定の目的

 欧州委員会の戦略目標策定には次のような背景がある。
 組織化、国際化されたテロやサイバー犯罪、危機、災害問題は、市民、企業やEU社会全体のセキュリティの強化のためにともに努力、行動すべき分野といえる。本戦略はそれら脅威を先取りし、それらと戦うために行うべき行動について概説ものである。
 自動車泥棒、強盗、麻薬取引、クレジットカード詐欺はしばしば国際化し、サイバー空間で組織的に活動する国際犯罪ネットワークの地域的現象といえる。犯罪者は軽犯罪や大規模な攻撃においてますますインターネットを使用している。EU域外との国境線は麻薬、模造品、兵器、および人間の取引に搾取されており、これら犯罪ネットワークは大規模なかたちで公的財政(public finances)から本来の収入を枯渇させている。国際通貨基金(IMF)は、金融犯罪が生み出した不法な利益は全世界のGNPの5%に上ると推定している。
 危機や災害はそれらが地震、洪水、人為ミスあるいは悪意ある意図をもって引き起こされたか否かを問わず、人々に悲惨な状況(human misery)ならびに経および環境面の損失をもたらす。同時にテロは過激な教義(extremist propaganda)でもって影響をうけやすい個人を狙い、われわれ社会を傷つける新たな方法を見つけ出す。
 欧州委員会は、これらの問題に向けた挑戦方法を提案するものである。
 その1つは犯罪から得られた資産の押収に関する法案であり、またEUは過激主義やシンパの募集に対する加盟国の権限強化を支援し、陸上交通など運輸手段をテロから保護すべきであると考える。
 また、サイバー犯罪の共同的調査の実行およびサイバー犯罪の阻止、国境管理におけるより的確な取組みのための一連の手段や基幹エネルギー・パイプラインの危機や災害からの備えと対処を目的とした「EUサイバー犯罪センター(EU cybercrime center)」構想をもっている。

2.2011年から2014年の間における5つの戦略目標およびその実現のための行動計画(Five Strategic Objectives and Specific Actions for 2011-2014)
 
第1目標:EU社会を脅かす国際犯罪ネットワークの分断(Disrupt international crime networks threatening our society)
行動1: 犯罪ネットワークを特定し、分断させる( Identify and dismantle criminal networks)
 犯罪のネットワークを特定して、分断させるために、彼らの行動やそれらの資金源に関する彼らのメンバーの手段を理解することは不可欠である。
 したがって、欧州委員会は2011年にEUの領土への航空機での入退出に関する「乗客氏名等顧客記録(Passenger Name Records)」 (筆者注5)の収集に関するEUの立法措置案を提案する予定である。 これらの乗客データは、テロ犯罪およびと重大犯罪を防ぐ目的で加盟国の当局によって分析されることになる。

 犯罪者の資金源やそれらの資金の動きを理解するためには、それら資金が通過する信頼関係と同様に会社の所有者に関する情報に依存する。実際、欧州委員会:不正対策局(d'Office européen de lutte antifraude:OLAF)等の法施行機関および司法機関さらに民間セキュリティ専門機関はそのような情報を得るのに大変苦労している。 したがって、EUは2013年までに金融活動作業部会の国際的なパートナーとの議論の観展から、法人と法的処置の透明性を高めるためにEU の反マネーローンダリングに関する立法内容を改定すべきであると考えている。犯罪にかかる資金の流れをたどるのを支援するために、いくつかの加盟国数は国による銀行口座の中央登録システムを準備した。 法施行目的のためにそのような登録システムの有用性を最大にするため、欧州委員会は、2012年に「ガイドライン」を策定する予定である。

 事実上犯罪にかかる金融取引を捜査するため、法施行機関や司法機関は、収集・分析し、適切と判断される場合は教育トレーニングがプログラムする犯罪の金融面の調査と国家による刑事犯罪捜査や欧州警察大学(CEPOL)の教育プログラムの完全利用により情報を共有するよう訓練すべきである。欧州委員会は、2012年にはこの領域での具体的戦略を提案する予定である。

 さらに、犯罪のネットワークの国際的な性格は欧州検察機構(Eurojust)、欧州警察機構(Europol)および欧州不正対策局(OLAF)と並んで働く異なる加盟国の警察、税関、国境警備機関および司法機関にかかわるより多くの合同捜査チーム(Joint Investigation Teams) (筆者注6)を必要とする。 合同捜査チームを含むそのような捜査活動は、必要であれば緊急通知に基づき関連する脅威分析(筆者注7)に基づいて欧州理事会が確立した優先順位、戦略目標および計画にそった形で欧州委員会の全面的支援を受けて作動すべきである。

 そのうえ、欧州委員会および加盟国は、基本的権利への効果をも含む「欧州逮捕令状(European Arrest Warrent)」 (筆者注8)に関するレポートについて有効的な実現を確実にし続けるべきである。

行動2: 犯罪の浸入から経済を守る。
 犯罪ネットワークは、合法的な経済におけるそれらの利益を投資するために腐食に依存し、かつ公的機関への信頼と経済体制への信頼を腐食させる。 腐食と戦うために政治的意思を維持することは重要なキーである。 したがって、EU全体としての行動と最も良い取組みを共有することが必要であり、欧州委員会は2011年中に「加盟国の反腐食の努力」をいかにモニターして、どう支援するかにつき具体案を提出する予定である。

 政府や規制監督により免許を与えたり、承認、調達契約または補助金を与える原因となりうる政策は、犯罪のネットワークによる腐食から経済を保護するために開発されるべきである('行政的アプローチ'という)。 欧州委員会は、2011年に最善の実践を開発するために国家間の接点のネットワークを設立して、かつ実際的な問題につきパイロット計画を支援することによって、実務的な後援を加盟国に提供する予定である。

 模倣品(counterfeit goods)は、組織化された犯罪グループのために大きな利益を生み出し、EUの単一市場の取引パターンを歪め、欧州産業をひそかに害するとともに、欧州市民の健康や安全衛生を危険な状態に導く。
 したがって、委員会は模造品と著作権侵害に対する今回の行動計画の文脈においてより効果的な知的所有権の行使を伸ばすべく、あらゆる適切なイニシアティブを取るであろう。一方で、インターネットによる模造品の違法販売と戦うため、加盟国の税関当局や欧州委員会は必要な法律を制定し、国家間の接触ポイントや最善の実務の交換制度を確立すべきである。

行動3: 犯罪活動から得られた資産の押収
 加盟国が犯罪ネットワークの金銭的誘因と戦うために、加盟国が犯罪活動から得られた資産の捕獲(seize)、凍結(freeze)、管理および押収できるようにし、また犯罪者の手に戻らないことを確実にしなければならない。

 このために、委員会は、2011年に押収でのEUの法的な枠組み (筆者注9)を強化するために「法案」を提案する予定である。とりわけより多くの第三者の押収(confiscation) (筆者注10)と拡張的な押収(confiscation) (筆者注11)を許容して、加盟国の間の非有罪の場合の基礎となる押収命令 (筆者注12)の相互承認を容易にする予定である。

 加盟国は2014年までに必要な資源、権限や教育機能ならびに関連情報の交換機能を備えた「犯罪資産回収局(Asset Recovery Offices)」 (筆者注13)を設置しなければならない。 欧州委員会は2013年までに共通的な指標を開発する予定であり、加盟国はこれらの回終局の実効性を評価するべきである。 さらに加盟国は2014年までに例えば、犯罪物がそれらが結局押収される前に、凍結資産がそれらの価値を失わないようことを保証するために資産管理局を創設することなど必要な制度上の整備を行うべきである。 平行して、欧州委員会は、2013年に犯人グループが押収された資産を再び獲得するのをいかに防ぐかに関する最も良い実践ガイダンスを提供する予定である。

第2目標: テロおよび急進主義やシンパ勧誘活動(recruitment)を阻止する
 テロの脅威は絶えず重大な課題のままであり、かつ増加している。 (筆者注14) テロ組織は、2008年のムンバイ攻撃(筆者15)で示されるように、適合して、革新されており、2009年クリスマスのアムステルダムからデトロイトまでの飛行に対する試みられた攻撃は、最近いくつかの加盟国に影響しながら発見された陰謀を起こしている。 もう1つの脅威は、組織化されたテロリストと過激派プロパガンダに基づいて彼らの過激思想を開発し、インターネットで訓練資料を見つけたかもしれないいわゆる'一匹おおかみから来る。テロと戦うための我々の努力は、予防活動 (筆者注15)を含む一貫性を持ったヨーロッパの取組みとともに脅威に有利な立場を保つために発展する必要がある。(筆者注16) さらにEUは、社会機能と経済 (筆者注17)に不可欠な輸送サービス、エネルギー発生および搬送を含む重要インフラを指定して、それらの資産を保護する計画を適所に置き続けるべきである。

 加盟国は、欧州委員会の全面的な支援ならびにEU テロ対策調整役により補強されたかたちでこの目的を実現する上で協調し、かつ効果的な努力で果たす上で第一義的役割を担う。

行動1: 地域共同体に急進主義者(radicalization)やシンパ勧誘を防ぐのに権限を与える。
 テロ行為につながる急進主義は、レベルが最も影響を受けやすい共同体社会で最も影響されやすい個人を最も緊密に包み込むことが最も効率的な方法である。 それは地方公共団体、市民社会、および脆弱性のある共同体社会の主要なグループとの厳密な協力を必要とする。 急進主義者やシンパ勧誘活動がそのコアであり、また全国レベルの課題として残る。

 いくつかの加盟国がこの領域に具体的な施策の流れを発生させている。そして、EUの特定の都市はローカルな地域密着型の取り組みと防止政策を開発した。 これらの率先的な活動はしばしば成功し、また欧州委員会はそのような成功体験.19の共有を容易にするのを支援し続けるであろう。 (筆者注18)

 まず第一に、2011年までに地域の委員会と協力して、欧州委員会はテロリストの成功談に挑戦すべく、急進派への認識と対話技術を高めるために経験、知識および良き実践例を蓄え、オンライン・フォーラムやEU全体会議によって支援されたEU 急進主義への認識強化ネットワークの創設を促進するであろう。 このネットワークは、政策立案者、法施行機関、セキュリティ担当官、検察官、地方公共団体、研究者、当該分野の専門家および犠牲者グループを含む市民社会団体から成るであろう。加盟国は、テロリストの成功談の代替手段を提供する公開討論において、確実な役割モデルとオピニオンリーダが積極的なメッセージを声にして出すよう奨励しながら、物理的またはバーチャルコミュニティ空間を創造するようネットワークを利用してアイデアを一般化すべきである。

 また、欧州委員会は市民社会団体がインターネット上での暴力的な過激派プロパガンダを曝露させ、その本来の意味を翻訳させ、それらに挑戦する仕事を支援するであろう。

 第二に、委員会は、2012年中に加盟国がうまくいっている行動の例を提示する機会を持っている急進派(radicalization)と新人募集の防止での閣僚会議が過激派イデオロギーを打ち返すのを構成するであろう。

 三番目に、欧州委員会はこれらへのイニシアチブと議論の観点から、どのように新人募集の阻止や離脱ならびにリハビリテーションを可能にするかにつき急進主義の源にさかのぼって加盟国の努力を支持するために行動と経験のハンドブックを策定する予定である。

行動2: 基金と武器等のテロリストのアクセス手段を断ち切り、かつそれらの相互作用を続けること。
 欧州委員会は、2011年中にテロや関連する活動を阻止するため資産の凍結に関するEU運用条約第75条の下での行政的手段の枠組みについて考え出すことを検討する予定である。 EUの行動計画は、2008年は爆薬物、また2009年は化学、生物学、放射性や原子力物質(CBRN)へのアクセスを阻止する計画につき優先的に実行するために必要な立法上および非法的措置を通して行うことが必要である。 これは2010年に委員会によって提案された一般的な爆薬を作るのに使用される原料となる化学物質に制限する規則案の採用を含む。 また、それは、加盟国がCBRN物質に関する事故の危険を国家計画を考慮に入れることを確実にするため欧州CBRN法施行専門部隊(European network of specialised CBRN law enforcement units)」の設立を意味し、また、その他の手段としてCBRNの物質に関係づけられた事故に関する欧州察機構の「早期警告システム(Early Warning System)」の法施行体制を確立することである。

 これらの行動は加盟国との綿密な調整を必要として、適切である場合は官民協力により実施すべきである。 爆発物と大量破壊兵器(生物、化学または核)につながる物質にアクセスする手段を得るテロ組織や国家の活動家の危険性を最小とすべく、EUは二重用途輸出管理規制制度とその実施をEU境界および国際的に強化すべきである。

 アメリカ合衆国とのTerrorist Financing Tracking Programme協定の署名に続いて、EUがおひざ元に保持された金融メッセージングデータを抜粋して、分析するよう欧州委員会は2011年に政策を立てるであろう。

行動3: 輸送体制の保護
 欧州委員会は、脅威やリスクについて継続的評価に基づき航空・海事のセキュリティのためにEU体制をさらに発展させるであろう。 それは欧州の地球観測の先導役であるガリレオ(Galileo)や全地球的環境・安全モニタリング (Global Monitoring for Environment and Security:GMES) (筆者注19)などのEU計画を利用することによってセキュリティ研究のテクニックと技術で進歩させるであろう。 それは、可能な限り高いレベルのセキュリティや旅行の安全性、コスト管理、プライバシーの保護の間のより良いバランスを求める大衆に保証すべく働くであろう。すなわち、それは貨物運用のモニタリングを含む検査と法執行体制について継続的な強化を強調するであろう。 国際協力は本質的なものであり、セキュリティの世界的な標準の改善を助け、一方で支資源の効率的な使用を確実にし、またセキュリティチェックの不要な二重化を制限する。

 ここに陸上交通のセキュリティのより広くかつ複雑な部門ならびに特に乗客輸送(筆者注20)の安全対策のより活発なヨーロッパの取組み範囲および正当化事由がある。欧州委員会は、関連するインフラストラクチャを含む、(a) ローカルおよび地方の鉄道、および(b) 高速鉄道をカバーするために都市交通セキュリティに対する既存の仕事を広げるつもりでいる。これまで、EUレベル活動は服従的な関心やヨーロッパが連帯してアプローチを必要とする「国際海事機関(International Maritime Organisation:IMO)」「国際民間航空機関(International Civil Aviation Organisation:ICAO)」に相当する国際機関の不在を反映して情報と最も良い習慣を交換することに制限されてきた。
 欧州委員会は、更なる行動に向けた第一歩として、輸送と法施行にかかる専門家を入れた委員会が議長となり、これまでの航空や海上運送にかかるセキュリティの経験を考慮に入れた「陸上交通セキュリティ常務委員会」および公的および個人的な利害関係者の意見交換を行う「フォーラム」の設立を探るのが役に立つと考えている。

 第三国からの輸送をモニターしている航空貨物のための手続に磨きをかけ、強化する現在進行中の仕事は最近時の出来事の見地から加速された。

 輸送安全保障問題は、2011年中に発行されるであろう「EU運輸安全政策(Transport Security Policy)」に関する欧州委員会の伝達(コミュニケーション)で詳細に記載される予定である。

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(筆者注1) 財務省、法務省および警察庁の3省庁が共同でAPI(事前旅客情報)システム(Advance Passenger Information System)を2005年1月4日から導入済である。

(筆者注2) セシリア・マルムストロム氏(Cecilia Malmstrom)については筆者のブログでもしばしば紹介してきた。最近では2010年7月15日「欧州議会がSWIFTを介したテロ資金追跡プログラムにかかる暫定合意の改定協定を承認 」で取上げている。なお、欧州の多くのメディアが取り上げているマルムストロム氏の個人ブログを読みたいと考え、ブログそのものは見つけたが「スェーデン語」であり、googleの翻訳機能を使って仮訳で読んでみた。

(筆者注3) 「外交文書」とは正確に言うと「外交公電(diplomatic cables)」を指す。

(筆者注4)本ブログでしばしば登場するドイツ連邦個人情報・情報自由化委員(BfDI)のペーター・シャール氏(Peter Schaar)は“Wkikileaks ”を例に取上げ、膨大な個人情報が野放図に収集される点に注目し、人権擁護やセキュリティの視点から極めて批判的なスタンスを取っている。この点は他のEU加盟国の保護委員も同様の見方をしていると考えて間違いなかろう。シャール氏が2009年7月13日に自身のブログでまとめた意見を公表している。標題は「膨大な個人データが自身を食い物にする危険性(Die Datenkraken fressen sich selbst)」である。

(筆者注5) EU は、米国から「航空・運輸保安法」に基づく旅客名記録(Passenger Name Record:PNR) の提供を要請されているが、PNR はクレジットカード情報や機内食の選択などの情報も含んでおり、プライバシー保護の観点から懸念が寄せられた。欧州委員会はこの情報提供がEU の「データ保護指令」に違反するとして米国とデータ保護措置に関する交渉を要求し、2004年5月に米国との間で合意が成立したが、欧州議会はこの合意に反対し、欧州裁判所に合意の無効について提訴(100頁以下)した。

 2004年10月30日、EUのルクセンブ ルグにある欧州司法裁判所(European Court of Justice)は2004年10月30日に、EUと米国の間で航空乗客の情報を交換する「EU-USA PNR(passenger name record)」を拒絶する判決を下したと報告した。判決文はフランス語のPDFでURL(http://www.statewatch.org/news/2004/oct/ecj-pnr-orders.pdf)にある。また、Statewatchが公開しているEUとPNRの流れはURL(http://www.statewatch.org/pnrobservatory.htm)で知ることができる。

(筆者注6)特にテロと越境犯罪と戦うための越境的な共同活動の強化に関する「EU運営条約(TFEU)」の第88条(2)(b)および2008年6月理事会決定(Council Decision2008/615/JHA)に基づく。

(筆者注7) 「組織化かつ重大な国際犯罪についてのEU政策立案サイクルの創設と実現に関する欧州連合理事会結語文書(Conclusions15358/10)」参照。

(筆者注8) 「欧州逮捕令状(European Arrest Warrant)」は、全加盟国が2003年12月末までに批准することに合意し、2004年1月1日から全面施行された。今回のWikileaksの代表アサンジ氏逮捕もこのロンドン警視庁に対するスェーデン検察当局からの同令状により行われたものである。

(筆者注9) 「マネーローンダリング、手段の発見、追跡、凍結、押収および没収ならびに犯罪収益に関するEU枠組み決定(2001/500/JHA)(2001年6 月26日)。なお、決定の原本参照。

(筆者注10) 「第三者押収」には捜査を受けたり有罪となった人から第三者に移送された資産の押収を含む。

(筆者注11) 「拡張された資産押収権限」とは、犯罪容疑にかかる資産と特定の犯罪行為の間に関係を証明する必要が全くないように犯罪捜査手続の範囲を直接超えて資産を押収する権限をいう。

(筆者注12) 刑事裁判において所有者の前科にかかわらず非有罪手続は刑事裁判所で資産の凍結および押収を許容する。

(筆者注13) 欧州連合理事会決定(Decision2007/845/JHA)、各加盟国が自国領土内に少なくとも1つの犯罪資産回復局を設置することを必要と定める。同決定の正式名は”Council Decision 2007/845/JHA of 6 December 2007 concerning cooperation between Asset Recovery Offices of the Member States in the field of tracing and identification of proceeds from, or other property related to, crime”である。

(筆者注14)最新調査結果については、欧州警察機構の「2010年テロ状況および傾向に関する調査報告(2010 Terrorism Situation and Trend (TE-SAT 2010) Report)」を参照。

(筆者注15) 「ムンバイテロ攻撃」は、2008年11月26日夜から11月29日朝にかけて、インドのムンバイで外国人向けのホテルや鉄道駅など複数の場所が、イスラム過激派と見られる勢力に銃撃、爆破され多数の人質がとられまた殺害されたテロ事件である。(Wikipediaから引用)

(筆者注16) 2005年11月30日に欧州理事会で採択された「EUのテロ対策戦略(Doc.14469/4/05)」は、「阻止(prevent)」、「保護(protect)」、「追跡(persue)」、「対応(respond)」の4つの取組みを設定した。なお、さらに詳細は「EU テロ対策政策:主要な成果および今後の挑戦課題(The EU Counter-Terrorism Policy: main achievements and future challenges' - COM(2010) 386)」を参照。

(筆者注16-2)EUのテロ対策戦略の専用サイトがあり、最近時の具体的取組みをフォローするうえで参照すべきである。また、EUの行政、立法機関である「欧州連合理事会」、「欧州委員会」、「欧州議会」はそれぞれテロ対策専門サイトを用意している。
その内容を比較すると基本的な項目は共通するものの、個別テーマの内容となると理事会や委員会が最新動向をフォローしている点は言わずもがなである。

(訳者注17) EUの重要インフラの定義指令(COUNCIL DIRECTIVE 2008/114/EC of 8 December 2008 on the identification and designation of European critical infrastructures and the assessment of the need to improve their protection)は、テロの脅威によりその範囲は広がっている。

(訳者注18) EUにおける急進主義やシンパ勧誘と戦う戦略(the EU strategy for combating radicalisation and recruitment to terrorism (CS/2008/15175) )の一部として、欧州委員会はその調査を支援しまた加盟国における急進主義や勧誘活動の研究のため「欧州急進主義専門家ネットワーク(the European Network of Experts on Radicalisation)」:英国ロンドンに本部(the change insitute)」を設置した。例えば地域社会社会の政策、対話や刑務所内での急進派対策等加盟国主導型のプロジェクトであり、同プロジェクトは約5百万ユーロ(約5億5千万円)をテロ被害者の協力化ネットワークに提供している。

(筆者注19) “GMES”は”Global Monitoring for Environment and Security:GMES”をいう。

(筆者注20) 欧州理事会の「2004年3月25日テロと戦うための宣言(Declarration on Combating Terrorism)」参照。


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   2022年12月20日、米国連邦取引委員会(以下、FTCという)は、以前の 1998年のガイダンスである栄養補助食品:業界向け広告ガイド(全32頁) を改定および置き換える 健康製品等コンプライアンスガイダンス の発行を 発表 した。 Libbie Canter氏 Laura Kim氏  筆者の手元に Covington & Burling LLPの解説記事 が届いた。筆者はLibbie Canter氏、Laura Kim氏他である。日頃、わが国の各種メディア、SNS、 チラシ等健康製品に関する広告があふれている一方で、わが国の広告規制は一体どうなっているかと疑うことが多い。  FTCの対応は、時宜を得たものであり、取り急ぎ補足を加え、 解説記事 を仮訳して紹介するものである。 1.改定健康製品コンプライアンスガイダンスの意義  FTCは、ガイドの基本的な内容はほとんど変更されていないと述べているが、このガイダンスは、以前のガイダンスの範囲につき栄養補助食品を超えて拡大し、食品、市販薬、デバイス、健康アプリ、診断テストなど、すべての健康関連製品に関する主張を広く含めている。今回改定されたガイダンスでは、1998年以降にFTCが提起した多数の法執行措置から引き出された「主要なコンプライアンス・ポイント」を強調し、① 広告側の主張の解釈、②立証 、 その他の広告問題 などのトピックに関連する関連する例について具体的に説明している。 (1) 広告側の主張の特定と広告の意味の解釈  改定されたガイダンスでは、まず、広告主の明示的主張と黙示的主張の違いを含め、主張の識別方法と解釈方法について説明する。改定ガイダンスでは、広告の言い回しとコンテキストが、製品が病気の治療に有益であることを暗示する可能性があることを強調しており、広告に病気への明示的な言及が含まれていない場合でも、広告主は有能で信頼できる科学的証拠で暗黙の主張を立証できる必要がある。  さらに、改定されたガイダンスでは、広告主が適格な情報を開示することが予想される場合の例が示されている(商品が人口のごく一部をターゲットにしている場合や、潜在的に深刻なリスクが含まれている場合など)。  欺瞞やだましを避けるために適格な情報が必要な場合、改定されたガイダンスには、その適格...

米ノースカロライナ州アッシュビルの被告男性(70歳)、2,200万ドルのポンジ・スキーム(いわゆる「ねずみ講」)等を画策、実施した罪で17.5年の拘禁刑や1,700万ドル以上の賠償金判決

被告 Hal H. Brown Jr. 7 月 10 日付けで米連邦司法省・ノースカロライナ西部地区連邦検事局の リリース   が筆者の手元に届いた。 その内容は「 ノースカロライナ州アッシュビル住の被告男性 (Hal H. Brown Jr., 70 歳 ) は、 2,200 万ドル ( 約 23 億 5,400 万円 ) のポンジ・スキーム (Ponzi scheme : いわゆる「ねずみ講」 ) 等を画策、実施した罪で 17.5 年の拘禁刑 や 1,700 万ドル ( 約 18 億 1,900 万円 ) 以上の賠償金 の判決 を受けた。被告は定年またはそれに近い人を含む 60 人以上の犠牲者から金をだまし取ったとする裁判結果」というものである。 筆者は同裁判の被害額の大きさだけでなく、 1) この裁判は本年 1 月 21 日に被告が有罪を認め判決が出ているのにかかわらず、今時点で再度判決が出された利用は如何、さらに、 2)Ponzi scheme や取引マネー・ローンダリング (Transactional Money Laundering) の適用条文や量刑の根拠は如何という点についても同時に調査した。 特に不正資金の洗浄運び屋犯罪 (Money Mules) の種類 ( 注 1) の相違点につき詳細などを検証した。 さらに裁判官の連邦量刑ガイドラインや具体的犯罪の適用条文等の判断根拠などについても必要な範囲で専門レポートも参照した。 これらについて詳細に解析したものは、米国のローファームの専門記事でも意外と少なく、連邦検事局のリリース自体も言及していなかった。 他方、わが国のねずみ講の規制・取締法は如何、「ネズミ講」と「マルチ商法」の差は如何についてもその根拠法も含め簡単に論じる。いうまでもないが、ネズミ講の手口構成は金融犯罪に欠くべからざるものである。高齢者を狙うのは振込詐欺だけでなく、詐欺師たちは組織的にかつ合法的な似非ビジネスを模倣して、投資をはじめ儲け話しや貴金属ビジネスなどあらゆる違法な手口を用いている。 ( 注 2) 取締強化の観点からも、わが国の法執行機関のさらなる研究と具体的取り組みを期待したい。なお、筆者は 9 年前の 2011.8.16 に...