スキップしてメイン コンテンツに移動

米国連邦取引委員会がオンライン・プライバシー保護強化の“Do not Track Mechanism”の第2次提案(その2完)

 

2.“Do Not Track Mechanism”とは
 2010年9月20日付けの“Entropy” は“Do Not Track”(DNT)について決して簡単ではないが、次のような比較的分かりやすい説明を行っている。

(1)DNTは“Do Not Call registry”と類似しかつその考えは似ている。しかし、その実現方法は異なる。
 当初、DNTの提案は、「ユーザー登録(registry of users approach )」や「追跡のためのドメイン登録(domain-registry approach)」という内容であったが、両者ともその仕組みが次のとおり不必要に複雑であった。

A.「ユーザー登録」方式は各種の欠点があり、その1つは致命的である。すなわち、ウェブ上で使用される普遍的に認識されるユーザー識別子(user identifiers)はないということである。
 あるユーザーの追跡は、広告ネットワークが配備するクッキーを含む「その都度作成する識別メカニズム(ad-hoc identification mechanisms)」にもとづき行われる。また、世界的に共通かつ強固な識別子を強制することは、ある意味で問題解決をさらに困難にさせる。
 また、この方式はユーザーがサイトごとにDNTを設定する上での柔軟性が考慮されない。

B.「追跡のためのドメイン登録」方式は、権限中心機関(central authority)が追跡するために使用するドメインの登録を広告ネットワーク会社に強制するものである。ユーザーはこのドメイン・リストをダウンロードして、使用するブラウザ上でそのリスト先をブロックする設定する能力が与えられることとなる。

 しかし、この戦略には次のような複数の問題がある。
(ⅰ)要求される中央集権化はこの方式を移り気にさせる、(ⅱ)広告がホスト・サーバーとのコンタクトを要求した以降、広告全体をブロックせずに追跡ドメインのみをどのようにブロックするかについての方法が明確でない、また(ⅲ)この方法は消費者に一定のレベルの用心深さ-例えば、ウェブ上で入手可能なソフトウェアにもとづきドメイン・リストの更新を確実に行うことーが求められる。

(2)ヘッダー・アプローチ(header approach)
 今日、大方に意見は次のようなはるかに単純なDNTメカニズムの周辺で内容のイメージが持たれている。
 すなわち、“X-Do-Not-Track”というような特にHTTPヘッダー (筆者注6)情報でブラウザがユーザー側において、追跡につき“opt out”を欲している旨の信号をウェブサイトに送るというものである。
 ヘッダーはあらゆるウェブに対する要求内容を送るものであり、このことは広告や追跡者を含む当該ぺージに埋め込まれた目的や台本のそれぞれと同様、ユーザーが見たいと欲するページを含むのである。

 それは、ウェブブラウザにおける実行において極めて些細なことではあるが、事実、すでに“Firefox add-on” (筆者注7)等においてそのようなヘッダー・アプローチで対応した例はある。

 また、ヘッダー・ベースの取組みは中央集権化や固定が不要であるという利点がある。しかし、それが意味あるものであるためには、広告主は追跡されたくないという消費者の好みを尊重しなければならない。
 では、それをどのように強制すべきか。選択肢は、米国ネットワーク事業者自主規制団体「ネットワーク広告イニシアティブ(Network Advertising Initiative:NAI)」(筆者注8)による自主規制から「監督機関下での自主規制(supervised self-regulation)」、「官民共同規制(co-regulation)」(筆者注9)さらには「公的機関による直接規制」まで多様な分布がある。

 現行の一般的なクッキー・メカニズムに比べ“opt out”メカニズムおよびその意味の標準化によりユーザーにとってDNTヘッダー方式は大いに手続の簡素化が約束される。DNTヘッダー方式は、緊急性を要する場合でもユーザーの新たな行動を必要としない。

 最後の部分で“Entropy”は、DNTヘッダー方式についてDNTの実施時の事業者による「ひも付きウェブ化の危険性(danger of tiered web)」、「追跡の定義をどのように行うか」、「その違反行為の調査方法」および「ユーザーに権限を持たせるためのツール」の4点について技術的な問題を論じている。ただし、筆者のレベルを超える内容なので今回は省略する。

3.強化されるオンライン行動追跡広告ビジネス活動への懸念やプライバシー侵害問題
 EFFはウェブ でアドビ社の“Local Shared Objects” (筆者注10)やマイクロソフトの“User Data Persistence”等多くのウェブ技術企業が次々にオンライン行動追跡技術を導入し、インターネット接続サービス企業や「データウェアハウス」(筆者注11)との情報共有契約などの拡大、さらには広告主に膨大なユーザーの行動や個人情報へのアクセスを認めるソーシャルネットワークへの拡大などの動きを懸念している。

4.連邦議会の関係委員会での具体的な立法化論議の動向
 2009年6月18日、下院「エネルギー・商務委員会(Energy and Commerce Committee)」の下部にあたる「商業、貿易および消費者保護小委員会(Subcommittee on Commerce, Trade, and Consumer Protection)は関係者の証言に基づく公聴会を開催して「消費者の行動に基づく広告活動:産業界の実務内容と消費者の期待Behavioral Advertising: Industry Practices and Consumers' Expectations)」を論議した。

 また、2010年7月27日には上院商務委員会(Senate Commerce Committee)はConsumer Online Privacyで聴聞会を開いてApple、 Google、 AT&T および Facebookの役員から証言を求めた。そこでは、企業側の意見の多くは立法による規制は創造的なビジネスの足かせになり、あくまで業界の自主規制によるべきとするものが多かった。このような動きの中で上院委員会の考えは慎重ではあったが、民主党幹部のジョン・ケリー(John Kerry)議員等は2011年早期には法案提出の予定を明言した。また下院はさらに迅速な法案成立を求める意見が多かったとされている。

 12月2日に下院「エネルギー・商務委員会(Energy and Commerce Committee)」の下部にあたる「商業、貿易および消費者保護小委員会(Subcommittee on Commerce, Trade, and Consumer Protection)が予定されており、“Do Not Track”の法制化問題がその公聴会(“Do-Not-Track Legislation: Is Now the Right Time?”)で証人の意見に基づき徹底的に論議され、その結果がオバマ政権が力をいれているインターネットのプライバシー問題への対応として、今後予定の商務省報告にも反映されることを期待しているとEFFはコメントしている。

  *****************************************************************************************************************

(筆者注6) HTTP(HyperText Transfer Protocol)は、Webのサーバと、クライアント(ブラウザ)の間で、ウェブページを送受信するためのプロトコルであり、基本的にはテキストメッセージを交換することにより、実現される。HTTPは「HTTPリクエスト」と「HTTPレスポンス」に分けられ、ブラウザがサーバーに「このページを見たい」と頼む通信が「HTTPリクエスト」で、そのリクエストに応えてサーバーがブラウザに返す通信が「HTTPレスポンス」である。
 HTTPヘッダー情報(HTTPリクエスト)とは、具体的には次の内容である。
①ユーザーエージェント名(User-Agent)、②リファラ(Referer)、③更新されていたら(If-Modified-Since)/同じでなければ(If-None-Match)、④クッキー(Cookie)、⑤受け取り希望(Accept、Accept-Language、Accept-Encoding、Accept-Charset)

(筆者注7) “Entropy”の説明は“Firefox add-on”でその例があるとしか書かれていない。筆者なりに補足する。
 Mozilla の“Firefox アドオン”(日本語版)の画面上で拡張機能“Adblock Plus”をクリックすると広告のブロック方法が「バナーを右クリックして「Adblock」を選択すると、次回から読み込まれなくなります。配信されるフィルタセットを利用すれば、多くの広告を自動的にブロックできます。」のように説明されている。
 事前にブラウザ“Firefox”用に開発されたフリーウェア“Adblock Plus”をインストールすると、検索バーの右側に「ABPアイコン(ブロック機能を有効にしたときにのみ赤地色になる)」が表示される。例えば画面上の特定の広告動画を非表示にしたいときは、該当画像上で右クリック→ボックスの下にAdblock Plusが表示→クリック→フィルター追加画面となる→フィルター追加をクリック→該当画像が消えて空欄になる。
 さらに細かなフィルタリング・ルールの設定が可能である。「ABPアイコン」を右クリック→設定画面で、例えば「http://www.yahoo.co.jp/*」と登録する(最後に追加する“*”に意味がある)。次にGoogleで「yahoo.jp」の検索結果を表示してみよう。何も画面には表示されなくなる。

(筆者注8)「ネットワーク広告イニシアティブ」は、1999年にFTCが支援してオンライン広告のネットワーク業者とサービス業者で作る団体,ダブルクリック,24/7リアルメディアなどのウェブ広告技術企業8社で設立。プライバシー・サービスを提供する『トラストe』や,データ分析の米ウェブサイドストーリーなど,ほかにも25の企業が参加している。2000年夏,消費者の個人データの収集と共有に関して政府の介入を未然に防ぐため,業界自らが規制を定めるための団体として設立。NAI は自己規制のための業界団体を作る取り組みの先頭に立ち,米連邦取引委員会(FTC)は2000年7月,業界が自己規制を推進するという NAI の提案を受け入れた。 NAIは,オンラインにおける個人データ収集の基準となるルールを定め,消費者が NAI の会員企業による個人データ収集をやめてもらうよう選択できるウェブサイトを開設。
2002年11月26日,WebバグまたはWeb ビーコンを使用する際のガイドラインを発表。使用時期と目的を訪問者に通知することを義務付ける業界標準を定めた。また,消費者を特定できるデータの収集および共有技術を使用する場合は,あらかじめ消費者から許可を得なければならない。情報を得る側の業界が好むオプトアウトについて規定している。」(オンライン・コンピュー用語辞典から該当部分を引用。ただし内容が古いなど問題があり、筆者の責任で一部追加した。)
 なお、NAIの会員企業に対し消費者がopt out権を行使するための専門サイト(Opt Out of Behavioral Advertising)は業界自主規制の例として参考になる。

(筆者注9) 官民共同規制とは「公権力の実行目的―公権力と市民社会によって実行される共同活動―を達成するように設計された共同運用による規制の形式」をいう。FTCなど医療情報とプライバシー権問題を巡る論文(ウィンスコン大学)1177頁(注50)参照。

(筆者注10) “Local Shared Objects:LSO” とは、Adobe社のFlash Player がユーザーPCの内部に保存するデータ形式である。データは「Flashクッキー」とも呼ばれ、ブラウザのcookieのようにサイト毎の情報を保持する。LSOはcookieと違い有効期限がないため、情報が消えることが無いこともプライバシー上問題である。(Wikipediaから引用)

(筆者注11) 「データウェアハウス」とは、基幹系業務システム(オペレーショナル・システム)からトランザクション(取引)データなどを抽出・再構成して蓄積し、情報分析と意思決定を行うための大規模データベースのこと。(情報マネジメント用語辞典より引用)

*****************************************************************************************************************

今回のブログが2010年の最終回となる。この1年間筆者の執筆意欲を支えてくださった読者の皆さんに感謝申し上げるとともに、来る2011年の皆さんのご活躍とご健康を祈念して筆をおく。

*****************************************************************************************************************:

Copyright © 2006-2011 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.You may reproduce materials available at this site for your own personal use and for non-commercial distribution.

コメント

このブログの人気の投稿

米国CFTCがオハイオ州の男性とその所有企業をデジタル資産取引スキームにおける1200万ドル(約16億214万円)以上の不正勧誘と不正流用を理由に民事起訴

     米国の 商品先物取引委員会(CFTC) は8月12日、オハイオ州ニューオルバニー市住の ラスナキショア・ギリ(Rathnakishore Giri) と彼が所有するオハイオ州に本拠を置く NBD Eidetic Capital, LLC および SR Private Equity, LLC に対して、オハイオ州南部地区連邦地方裁判所に 民事法執行訴訟 を起こしたと 発表 した。   同訴状 は、ギリと彼の会社が150人以上の顧客から1200万ドル以上と少なくとも10ビットコインを不正に勧誘し、またギリと彼の会社がデジタル資産取引を目的とした顧客資金を不正に流用したと主張している。  さらに訴状は、ギリの両親であるギリ・スブラマニ(Giri Subramani)とロカ・パヴァニ・ギリ(Loka Pavani Giri)を、正当な利害関係のない資金を所有している 救済被告 (注1) として起訴している。  今回のブログは、(1)本起訴の詳細、(2)CFTC/SECの投資家アラート:ビットコイン先物における資金取引の注意喚起の概要について概観する。 1. 起訴の内容  CFTCは、その継続的な訴訟において、詐欺被害にあった顧客への補償(restitution)、不正に得た利益の返還(disgorgement of ill-gotten gains)、民事上の金銭的罰則(civil monetary penalties)、恒久的な取引および登録禁止(permanent trading and registration bans)、および 「商品取引法(Commodity Exchange Act :CEA)」 および 「CFTC規則(CFTC regulations)」 のさらなる違反に対する永久的差止命令(permanent injunction)を求めている。 2.本事件の背景  訴状は、2019年3月頃から現在まで、被告が運営しているとされるさまざまなデジタル資産投資ファンドに投資するために、少なくとも150人の顧客から1200万ドル以上と10ビットコイン以上を勧誘し、受け入れた詐欺的なスキームに関与したと訴えている。同訴状によると、被告は顧客への勧誘において、利益の保証やギリのデジタル資産トレーダーとしての成功話など、多数の虚偽で誤解を招くような声...

米大統領令(EO: Executive Order 14110)の具体的内容と意義およびそれに基づく責任の履行を支援するためNIST「情報提供依頼文書 」の具体的内容

   筆者は、12月6日の本ブログで2023年10月30日の大統領令(EO: Executive Order 14110)(以下、「EO」という)を受けたNISTの具体的行動につき 「 NISTからこのほど公開された「 NIST SP 800-226 草案」および「差分プライバシー保証を評価するためのガイドライン草案」に対するパブリックコメントの背景と意義」 を取り上げた。  しかし、執筆後もいまいち大統領令(EO)のファクトシートも含め真の目的や商務省の規則案のとりまとめ期限など疑問点が残されていた。その内容を補完する意味で今回のブログで補筆するとともに、後段でNISTが2024年2月2日を期限として発布した「情報提供依頼文書 (Request for Information (RFI) )」の概要について解説を試みる。  また、本ブログでは、わが国では詳しく論じられていない米国「国防生産法(Defense Production Act of 1950 :DPA)」の意義と最新動向にも言及した。  なお、今回のブログの内容は12月6日の筆者ブログと重複する部分が一部あるが、 Kilpatrick Townsend & Stockton LLPの和文解説 と併せ読まれたい。 Ⅰ.大統領令 (EO: 14110) の具体的内容の解析    JD Supra, LLCの 「The highly-anticipated US Executive Order on artificial intelligence: Setting the agenda for responsible AI innovation」 を要約しつつ仮訳する。  このEOは、多くの点で AI に関するこれまでのバイデン政権の行動を超えている。 この広範囲かつ堅牢な大統領令は、AI を規制するために既存の当局を利用することを想定して、米国の行政部門および政府機関 (機関) に、①標準、②フレームワーク、③ガイドライン、④最善実践内容を開発するよう指示した (また、独立機関にも同様に奨励する)。 また政府機関は、AI の責任ある使用に関係するほぼすべての連邦法、規則、政策に対して具体的な措置を講じる必要があるとする。  EOは、AI の使用から得られる利点を認識する一方で、国家...

DONATE(ご寄付)のお願い

  本ブログの継続維持のため読者各位のご協力をお願いいたします。特に寄付いただいた方で希望される方があれば、下記の筆者のメールアドレス宛にご連絡いただければ個別に対応することも検討中でございます。   ◆みずほ銀行 船橋支店(店番号 282) ◆普通預金 1631308 ◆アシダ マサル ◆E-メールアドレス:slutian165@gmail.com   【本ブログのブログとしての特性】 1.100%源データに基づく翻訳と内容に即した権威にこだわらない 正確な訳語づくり 。 2.本ブログで取り下げてきたテーマ、内容はすべて電子書籍も含め公表時から即内容の陳腐化が始まるものである。筆者は本ブログの閲覧されるテーマを毎日フォローしているが、10年以上前のブログの閲覧も毎日発生している。 このため、その内容のチェックを含め完全なリンクのチェック、確保に努めてきた。 3.上記2.のメンテナンス作業につき従来から約4人態勢で当たってきた。すなわち、海外の主要メディア、主要大学(ロースクールを含む)および関係機関、シンクタンク、主要国の国家機関(連邦、州など)、EU機関や加盟国の国家機関、情報保護監督機関、消費者保護機関、大手ローファーム、サイバーセキュリテイ機関、人権擁護団体等を毎日仕分け後、翻訳分担などを行い、最終的にアップ時に責任者が最終チェックする作業過程を毎日行ってきた。 このような経験を踏まえ、データの入手日から最短で1~2日以内にアップすることが可能となった。 なお、海外のメディアを読まれている読者は気がつかれていると思うが、特に米国メディアは大多数が有料読者以外に情報を出さず、それに依存するわが国メデイアの情報の内容の薄さが気になる。 本ブログは、上記のように公的機関等から 直接受信による取材 → 解析・補足作業 → リンク・翻訳作業 → ブログの公開(著作権問題もクリアー) が行える「 わが国の唯一の海外情報専門ブログ」 を目指す。 4.内外の閲覧者数の統計数(google blogger and WordPress) (1)2005.9~2017.8 全期間の国別閲覧数 (2) 2016.8~2020.8 WordPress 世界的な閲覧者数 4. 他にない本ブログの特性: すべて直接、登録先機関などからデータを受信し、その解析を...