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英国の銀行等のこの10年間の店舗数の減少推移と新たな支店戦略

 


 わが国と同様に、顧客の大部分が支店利用を希望しているにもかかわらず、英国の銀行や住宅金融会社(注1)はこの10年間で店舗数が5分の1に減少している。特に減少が目立つ(約24%減)のはあまり裕福でない都心部と工業地区で、逆に高所得者層を顧客に持つ多くのハイ・ストリート・バンクでは新たな支店サービス(direct banking services)概念の構築に向け新たな投資を行っている。

 以前に英国のフォレスター調査会社が行った調査結果では、英国の顧客の半分以上が1人あたり1カ月に1回支店を利用し、利用顧客2千人の55%は小切手の預入れや現金の引出しという通常のサービスであった。このようなためか、イギリスの支店の混雑程度はスペインの5倍以上とされている。

 このようなカウンターサービスを減少させるため、たとえば英国の大手金融グループであるAlliance & Leicesterは、煩雑な入金窓口処理のATM化に取り組んでいる。 (注2) その結果、1回のATM処理で60枚の紙幣の預金口への入金が可能となった。今後の課題は、イメージ処理による小切手の入金処理が計画されているとのことである。

 なお、英国のATMによる出金サービスに関しては、その有料化問題が消費者保護・教育団体を統括している全国消費者協議会(National Consumer Council)等から持ち上がっている。英国は現在、引出時に無料のATMと有料のATMがあるが、後者が急増している。これまで、現金引出し手数料が無料のATMが主流だったが、すでに台数の約4割が有料になったため、銀行側の見込みでは、2006年中の手数料総収入は2億5千万ポンド(約497億5,000万円)となっている。反面、無料のATMの台数は2004年9月の20,685台に比べ2005年9月末には23,931台となっている。
消費者団体などからは、「家計を圧迫する」と批判の声が上がっており、政府自体も改善へ動き出している。

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(注1)英国の協同組織金融機関としては、信用組合(credit union)と相互会社形態の住宅金融会社がある。もともと英国では住宅金融会社については銀行の住宅ローン業務への本格参入により競争が激化し、資本強化のため1986年住宅金融会社法により株式会社への転換手続きが制定された。このため1980年代から1990年代にかけて転換が進み、この10年間で機関数は約2割減少し、総資産シェアも15.8%から4.8%に大きく減少している(日本銀行信用機構局 2004年10月「海外における協同組織金融機関の現状」より引用)。

(注2) 「direct banking services」はインターネットやテレフォン・バンキングを中心としたフル金融サービスを指すが、平行して窓口業務の効率化策として現在研究されているのは現行の小切手や現金での入金手続きの「ATM処理化」である。具体的な手続きについては英国金融サービス庁(FSA)のサイト(消費者向け情報)の「入金手続き」で説明されているので、熟読して欲しい。カードによるATM処理に慣れ親しんでいる日本人から見るとなんとも・・という感じである。

〔参照URL〕
http://www.finextra.com/fullstory.asp?id=14960
http://www.finextra.com/fullstory.asp?id=14771

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(今回のブログは2006年2月27日登録分の改訂版である)

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