スキップしてメイン コンテンツに移動

英国公正取引庁(OFT)が電子商取引のサービス提供事業者の消費者保護規則の法令遵守ガイドを公表

  

Last Updated:March 28.2021

 今般、OFT(注1)は、2005年4月6日に施行された「隔地者販売・サービス に係る消費者保護に関する改正規則(The Consumer Protection (Distance Selling )(Amendment)Regulations 2005)」を受けて、インターネットや電話を利用した隔地者間取引により情報機器・サービスを販売する時の契約内容の公平さを確保するための事業者向けガイダンスを策定、公表した。

 わが国でもインターネット、電話等を介したオンラインショッピングや最近ではネットオークション等の利用が急増する一方でトラブルも増えている。これらに関連する法律としては「書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための

関係法律の整備に関する法律(IT書面一括法)」(平成12年法律第126号)、「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律(電子契約法)」(平成13年法律第95号)(平成29年法律第45号による改正)、「不正アクセス行為の禁止等に関する法律(不正アクセス禁止法)」(平成11年法律第128号)、「特定商取引に関する法律(特定商取引法)」(昭和51年法律第57号)、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(平成13年法律第137号)、「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(迷惑メール防止法)」(平成14年法律第26号)等が挙げられる。
 さらに、これらの法律でもかならずしも明確でない電子商取引固有の法律問題の解釈例として経済産業省が取りまとめた「電子商取引等に関する準則」(平成16年3月:2019年12月改訂)等がある。

 一方、取扱事業者としては、これらの未知分野も含めベンダーとしての遵守内容を明確化して欲しいというのが本音であろう。

 英国では2002年12月に消費者のIT市場における100頁にわたるOFT勧告報告(隔地者間取引に関する法律の改正はガイダンスの遅延を意味した)を発し、その中で勧告の見直しを引き受けていた。今回のガイド(77頁)は、2005年4月の隔地者間販売の法律改正を受けて行われたものである(なお、本ガイダンスは2006年9月12日に改訂されており、2010年10月現在これが最新も内容である。制定・改正の経緯等はOFTのサイト(Distance Selling Regulations) に詳しい)。(注)

 本ガイドでは、事業者と消費者の契約上の公平性の観点からOFTが取り上げるべき可能性のある具体的な契約条件について個別課題を取り上げており、次のような項目が含まれている。

①劣悪商品の使用に基づき怪我を負った場合について、事業者の損害賠償責任について有限責任または責任の排除規定を認めてよいか。
②消費者が不完全な商品や誤った説明書内容を理由として 商品を返却する際の手数料負担(返送手数料など)を要求するような契約は認められるか。
③不完全なソフトウェアについて返品を認めないとする契約内容は許されるか。
④隔地間の商品の販売契約において消費者の取消権を阻害するような契約内容は認められるか。
⑤劣悪品につき代金の返金に替えて商品券のみで済ますような契約は認められるか。
⑥契約自体、消費者に商品に損傷がないかなど合理的な範囲で調べる機会を提供する内容になっているか。
⑦契約締結後、一方的に販売者が価格を引き上げることを認める条項に有効性があるか。

(注)1.英国の「2000年隔地者販売・サービスに係る消費者保護に関する規則(The Consumer Protection (Distance Selling )Regulations 2000)(No.2334)」 (一般的には「隔地者間販売に関する規則:DSRs」と呼ばれている。)のもとにおいて、消費者は公平な契約情報、取消期間、ならびに決済カードの使用についてさらに強固に保護されるという特別な権利が認められている。
2.DSRsにおいて、次のような適用例外規定がある。
BtoB間の契約、特定の金融サービス、オークションに基づく契約はその例外となっている。
また、食料品・飲料やその他の商品で毎日の御用聞きにより提供されるもの、また運送契約・宿泊契約など特定の期日や期間の間に提供する契約などについては、同規則の一部は適用されない。

***************************************************************

〔筆者補追〕2021.3.28

本文で述べた”Distance Selling Regulations”は、2014年6月13日からは英国のオンライン契約に関し

”Consumer Contracts Regulations”(The Consumer Contracts (Information, Cancellation and Additional Charges) Regulations 2013 (legislation.gov.uk)によることとなった。この、

The Consumer Protection (Distance Selling )(Amendment)Regulations 2005)との内容の比較については、

英国消費者保護団体”Which”(Expert testing, reviews and advice from Which?)(wikipedia 解説(Which? - Wikipedia))が詳しく解説(https://www.which.co.uk/consumer-rights/regulation/distance-selling-regulations-aAijb9Q8UT3V#the-consumer-contracts-regulations)している。

Consumer Contracts Regulationsのこれまでの改正経緯などについては、ローファーム”Fasken”が詳しく解説している。この点に関し、わが国では詳しい解説が皆無のようである。

************************************************

(注1)公正取引局 (OFT) は、1973 年公正取引法によって設立された英国の非省庁政府部門で、消費者保護と競争法の両方を施行し、英国の経済規制当局として機能していた。 OFT の目的は、公平な取引を行う企業間の活発な競争を確保し、不正取引、詐欺、カルテルなどの不公正な行為を禁止することで、市場が消費者にとって適切に機能するようにすることであったが、その役割は 「2002 年企業法」によって修正され、その権限も変更された。

ビジネス・イノベーション・技能省(BIS)は、消費者保護と競争制度の改革を発表した。 2013 年企業規制改革法の規定に基づき、2014 年 4 月 1 日に「競争・市場庁 (Competition & Markets Authority(CMA) 」が設立され、OFT と競争委員会の機能の多くを統合し、両方に取って代わった。

 また消費者信用部門の規制は、2014 年 4 月から OFT から新しい金融行動監視機構 (Financial Conduct Authority:

FCA)に移管された。(Wikipedia から引用、仮訳)

(注2)2018年「Department for Business, Energy & Industrial Strategy報告」が”Coonsumer Contracts Regulations 2013”の制定後、5年間の運用経緯を踏まえ詳細に報告”Research and Analysis:Statutory report on the implementation of the Consumer Contracts Reglations 2013"を行っている。

(今回のブログは2005年12月25日登録分の改訂版である)

*******************************************************************************:

Copyright © 2005-2010 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.No reduction or republication without permission.

コメント

このブログの人気の投稿

ウクライナ共同捜査チームの国家当局が米国司法省との了解覚書(MoU)に署名:このMoU は、JIT 加盟国と米国の間のそれぞれの調査と起訴における調整を正式化、促進させる

  欧州司法協力機構(Eurojust) がウクライナを支援する共同捜査チーム (Ukraine joint investigation team : JIT) に参加している 7 か国の国家当局は、ウクライナで犯された疑いのある中核的な国際犯罪について、米国司法省との間で了解覚書 (以下、MoU) に署名した。この MoU は、ウクライナでの戦争に関連するそれぞれの調査において、JIT パートナー国と米国当局との間の調整を強化する。  このMoU は 3 月 3 日(金)に、7 つの JIT パートナー国の検察当局のハイレベル代表者と米国連邦司法長官メリック B. ガーランド(Merrick B. Garland)によって署名された。  筆者は 2022年9月23日のブログ 「ロシア連邦のウクライナ軍事進攻にかかる各国の制裁の内容、国際機関やEU機関の取組等から見た有効性を検証する!(その3完)」の中で国際刑事裁判所 (ICC)の主任検察官、Karim A.A. Khan QC氏 の声明内容等を紹介した。  以下で Eurojustのリリース文 を補足しながら仮訳する。 President Volodymyr Zelenskiy and ICC Prosecutor Karim A. A. Khan QC(ロイター通信から引用) 1.ウクライナでのJITメンバーと米国が覚書に署名  (ウクライナ)のICC検事総長室内の模様;MoU署名時   中央が米国ガーランド司法長官、右手がICCの主任検察官、Karim A.A. Khan QC氏  MoUの調印について、 Eurojust のラディスラフ・ハムラン(Ladislav Hamran)執行委員会・委員長 は次のように述べている。我々は野心のために団結する一方で、努力においても協調する必要がある。それこそまさに、この覚書が私たちの達成に役立つものである。JIT パートナー国と米国は、協力の恩恵を十分に享受するために、Eurojustの継続的な支援に頼ることができる。  米国司法長官のメリック B. ガーランド(Merrick B. Garland)氏は「米国が 7 つの JIT メンバー国全員と覚書に署名する最初の国になることを嬉しく思う。この歴史的な了解覚書は...

米国連邦取引委員会(FTC)が健康製品に関する新しい拡大コンプライアンスガイダンスを発行

   2022年12月20日、米国連邦取引委員会(以下、FTCという)は、以前の 1998年のガイダンスである栄養補助食品:業界向け広告ガイド(全32頁) を改定および置き換える 健康製品等コンプライアンスガイダンス の発行を 発表 した。 Libbie Canter氏 Laura Kim氏  筆者の手元に Covington & Burling LLPの解説記事 が届いた。筆者はLibbie Canter氏、Laura Kim氏他である。日頃、わが国の各種メディア、SNS、 チラシ等健康製品に関する広告があふれている一方で、わが国の広告規制は一体どうなっているかと疑うことが多い。  FTCの対応は、時宜を得たものであり、取り急ぎ補足を加え、 解説記事 を仮訳して紹介するものである。 1.改定健康製品コンプライアンスガイダンスの意義  FTCは、ガイドの基本的な内容はほとんど変更されていないと述べているが、このガイダンスは、以前のガイダンスの範囲につき栄養補助食品を超えて拡大し、食品、市販薬、デバイス、健康アプリ、診断テストなど、すべての健康関連製品に関する主張を広く含めている。今回改定されたガイダンスでは、1998年以降にFTCが提起した多数の法執行措置から引き出された「主要なコンプライアンス・ポイント」を強調し、① 広告側の主張の解釈、②立証 、 その他の広告問題 などのトピックに関連する関連する例について具体的に説明している。 (1) 広告側の主張の特定と広告の意味の解釈  改定されたガイダンスでは、まず、広告主の明示的主張と黙示的主張の違いを含め、主張の識別方法と解釈方法について説明する。改定ガイダンスでは、広告の言い回しとコンテキストが、製品が病気の治療に有益であることを暗示する可能性があることを強調しており、広告に病気への明示的な言及が含まれていない場合でも、広告主は有能で信頼できる科学的証拠で暗黙の主張を立証できる必要がある。  さらに、改定されたガイダンスでは、広告主が適格な情報を開示することが予想される場合の例が示されている(商品が人口のごく一部をターゲットにしている場合や、潜在的に深刻なリスクが含まれている場合など)。  欺瞞やだましを避けるために適格な情報が必要な場合、改定されたガイダンスには、その適格...

米ノースカロライナ州アッシュビルの被告男性(70歳)、2,200万ドルのポンジ・スキーム(いわゆる「ねずみ講」)等を画策、実施した罪で17.5年の拘禁刑や1,700万ドル以上の賠償金判決

被告 Hal H. Brown Jr. 7 月 10 日付けで米連邦司法省・ノースカロライナ西部地区連邦検事局の リリース   が筆者の手元に届いた。 その内容は「 ノースカロライナ州アッシュビル住の被告男性 (Hal H. Brown Jr., 70 歳 ) は、 2,200 万ドル ( 約 23 億 5,400 万円 ) のポンジ・スキーム (Ponzi scheme : いわゆる「ねずみ講」 ) 等を画策、実施した罪で 17.5 年の拘禁刑 や 1,700 万ドル ( 約 18 億 1,900 万円 ) 以上の賠償金 の判決 を受けた。被告は定年またはそれに近い人を含む 60 人以上の犠牲者から金をだまし取ったとする裁判結果」というものである。 筆者は同裁判の被害額の大きさだけでなく、 1) この裁判は本年 1 月 21 日に被告が有罪を認め判決が出ているのにかかわらず、今時点で再度判決が出された利用は如何、さらに、 2)Ponzi scheme や取引マネー・ローンダリング (Transactional Money Laundering) の適用条文や量刑の根拠は如何という点についても同時に調査した。 特に不正資金の洗浄運び屋犯罪 (Money Mules) の種類 ( 注 1) の相違点につき詳細などを検証した。 さらに裁判官の連邦量刑ガイドラインや具体的犯罪の適用条文等の判断根拠などについても必要な範囲で専門レポートも参照した。 これらについて詳細に解析したものは、米国のローファームの専門記事でも意外と少なく、連邦検事局のリリース自体も言及していなかった。 他方、わが国のねずみ講の規制・取締法は如何、「ネズミ講」と「マルチ商法」の差は如何についてもその根拠法も含め簡単に論じる。いうまでもないが、ネズミ講の手口構成は金融犯罪に欠くべからざるものである。高齢者を狙うのは振込詐欺だけでなく、詐欺師たちは組織的にかつ合法的な似非ビジネスを模倣して、投資をはじめ儲け話しや貴金属ビジネスなどあらゆる違法な手口を用いている。 ( 注 2) 取締強化の観点からも、わが国の法執行機関のさらなる研究と具体的取り組みを期待したい。なお、筆者は 9 年前の 2011.8.16 に...