スキップしてメイン コンテンツに移動

英国の情報保護委員が多国籍企業(GE)の従業員情報のEEA以外の国への移送につき新EUルールを初適用

  


 Last Updated: March 31,2021

 英国の個人情報保護委員(Information Commissioner)は、2005年12月15日付けで1998年個人情報保護法(Data Protection Act 1998)のスケジュール(注1)4条9項に基づきGEグループ(General Electric)に対し「Binding Corporate Rules Authorisation」を交付した。今回のGEの承認は、EUが検討を進めてきた「Binding Corporate Rules」の適用第1号である。(注2)多国籍企業が少ないわが国企業といえども、個人情報保護法は何とか施行したものの、行政から独立権限を持った保護監督機関がないわが国において国際的な意味で無関心ではいられないと思えるがいかがか。

 英国は欧州委員会の「適正水準」の保護提供第三国と言う厳格な運用政策に従い、EU加盟国の中でも国民の個人情報のEEA(欧州経済領域:EU加盟25カ国及びアイルランド、リヒテンシュタイン、ノルウェイを含む)以外の国への移送について厳格なルールを遵守している。その基本ルールとは、「1995年EU個人情報保護指令(Directive 95/46/EC )」を指すが、EUの企業は主にEEA以外の国への個人情報の移送や保管に当たり、EU加盟国と同等の規則や法執行手続きを有することが条件になっている。

 この解釈の厳格性を緩和すべく、EUとEU加盟国は次の3つの方策を策定した。(1)セーフ・ハーバー、(2)モデル契約条項、(3)「Binding Corporate Rules」である。

 (1)は、米国への移送については米国政府が企業の適正な取扱い(当然、セーフハーバー協定を締結する)を保証する方式であり、具体的な保証企業名や商務省への申込み手続きは商務省サイトで見られる。

 しかし、従来、承認されるのはセーフハーバー協定が受入国に存在している場合のみで、それ以外に例外的に情報の移送が認められるのは当該本人が同意している場合、または「契約」といった代替的な安全装置がある場合であった。

 多国籍企業の場合、最後の条件(契約)を満たすことは困難であり、このため2003年6月にEUの独立個人情報保護諮問機関である「EU情報保護指令第29条専門委員会(Art.29 Data Protection Working Party)」は、前記の既存の手順に加えて「拘束力を持った企業グループ内での「個人情報の移送適正化規則(Binding Corporate Rules)」を提案(注2-2)し、これを受けて同委員会は「モデル・チェックリスト(Model Checklist)(WP108)」(注3)を採択している。(同規則の詳細については英国保護委員の専門サイトが詳しく解説している)

 ”Binding Corporate Rules”によると、多国籍企業グループはEU加盟国の個人情報監督機関から承認を得ることで企業の適正な取扱いを保証するというものであるが、同委員会は企業グループが監督機関に説明すべき内容・手続き(Co-Operation Procedure)(注4)をも定めている。 (注5)

なお、多国籍企業によっての”Binding Corporate Rules”適用の具体的なバーの高さについての解説もある。
****************************************************************************************************
(注1)スケジュール(schedule)とは,英連邦の国の法律ではごく一般的なもので、法律の一部をなす。法本文の規定を受け,それをさらに細かく規定したものである。付属規定と訳されている例がある。

(注2)保護委員による正式承認通知のURL: http://complianceandprivacy.com/News-GE-BCR-1.asp

(注2-2)第29条専門委員会やその後のEUのGDPRに即した”Binding Corporate Rules(BCR)”解説を欧州委員会が行っている。2021.3.31 追加

(注3)”Model Cheklist”のURL http://www.ico.gov.uk/for_organisations/data_protection/overseas/binding_corporate_rules.aspx
 英国ICOはその後、EU離脱後の”Standard Contracutual Clauses(SCCs)や”Binding Corporate Rules”の取扱いに関する解説やcheck listを作成、公表している。

(注4)”Co-Operation Procedure”のURL http://www.ico.gov.uk/upload/documents/library/data_protection/detailed_specialist_guides/binding_corporate_rules_cooperation_procedure.pdf
なお、他国籍企業の取扱いについてローファーム”K&L Gates LLPが解説している。

(注5) 第29条専門調査委員会は、2008年6月22日に次の3つの”BCRs”のガイダンスを新たに策定して公表した。
Working Document setting up a table with the elements and principles to befound in Binding Corporate Rules(WP153)
Working Document Setting up a framework for the structure of Binding
Corporate Rules(WP154)

Working Document on Frequently Asked Questions (FAQs) related toBinding Corporate Rules(WP155 rev.04)


(注6)英国における国民の個人情報のEEA以外の国への移送問題全般について、以下の保護委員のサイトに詳しい。

https://ico.org.uk/for-organisations/guide-to-data-protection/guide-to-law-enforcement-processing/international-transfers/
https://ico.org.uk/for-organisations/data-protection-and-the-eu/data-protection-and-the-eu-in-detail/the-uk-gdpr/international-data-transfers/
**********************************************************

(今回のブログは2006年1月6日登録分の改訂版である)

Copyright © 2006-2010 芦田勝(Masaru Ashida ).All Rights Reserved.No reduction or republication without permission.

コメント

このブログの人気の投稿

ウクライナ共同捜査チームの国家当局が米国司法省との了解覚書(MoU)に署名:このMoU は、JIT 加盟国と米国の間のそれぞれの調査と起訴における調整を正式化、促進させる

  欧州司法協力機構(Eurojust) がウクライナを支援する共同捜査チーム (Ukraine joint investigation team : JIT) に参加している 7 か国の国家当局は、ウクライナで犯された疑いのある中核的な国際犯罪について、米国司法省との間で了解覚書 (以下、MoU) に署名した。この MoU は、ウクライナでの戦争に関連するそれぞれの調査において、JIT パートナー国と米国当局との間の調整を強化する。  このMoU は 3 月 3 日(金)に、7 つの JIT パートナー国の検察当局のハイレベル代表者と米国連邦司法長官メリック B. ガーランド(Merrick B. Garland)によって署名された。  筆者は 2022年9月23日のブログ 「ロシア連邦のウクライナ軍事進攻にかかる各国の制裁の内容、国際機関やEU機関の取組等から見た有効性を検証する!(その3完)」の中で国際刑事裁判所 (ICC)の主任検察官、Karim A.A. Khan QC氏 の声明内容等を紹介した。  以下で Eurojustのリリース文 を補足しながら仮訳する。 President Volodymyr Zelenskiy and ICC Prosecutor Karim A. A. Khan QC(ロイター通信から引用) 1.ウクライナでのJITメンバーと米国が覚書に署名  (ウクライナ)のICC検事総長室内の模様;MoU署名時   中央が米国ガーランド司法長官、右手がICCの主任検察官、Karim A.A. Khan QC氏  MoUの調印について、 Eurojust のラディスラフ・ハムラン(Ladislav Hamran)執行委員会・委員長 は次のように述べている。我々は野心のために団結する一方で、努力においても協調する必要がある。それこそまさに、この覚書が私たちの達成に役立つものである。JIT パートナー国と米国は、協力の恩恵を十分に享受するために、Eurojustの継続的な支援に頼ることができる。  米国司法長官のメリック B. ガーランド(Merrick B. Garland)氏は「米国が 7 つの JIT メンバー国全員と覚書に署名する最初の国になることを嬉しく思う。この歴史的な了解覚書は...

米国連邦取引委員会(FTC)が健康製品に関する新しい拡大コンプライアンスガイダンスを発行

   2022年12月20日、米国連邦取引委員会(以下、FTCという)は、以前の 1998年のガイダンスである栄養補助食品:業界向け広告ガイド(全32頁) を改定および置き換える 健康製品等コンプライアンスガイダンス の発行を 発表 した。 Libbie Canter氏 Laura Kim氏  筆者の手元に Covington & Burling LLPの解説記事 が届いた。筆者はLibbie Canter氏、Laura Kim氏他である。日頃、わが国の各種メディア、SNS、 チラシ等健康製品に関する広告があふれている一方で、わが国の広告規制は一体どうなっているかと疑うことが多い。  FTCの対応は、時宜を得たものであり、取り急ぎ補足を加え、 解説記事 を仮訳して紹介するものである。 1.改定健康製品コンプライアンスガイダンスの意義  FTCは、ガイドの基本的な内容はほとんど変更されていないと述べているが、このガイダンスは、以前のガイダンスの範囲につき栄養補助食品を超えて拡大し、食品、市販薬、デバイス、健康アプリ、診断テストなど、すべての健康関連製品に関する主張を広く含めている。今回改定されたガイダンスでは、1998年以降にFTCが提起した多数の法執行措置から引き出された「主要なコンプライアンス・ポイント」を強調し、① 広告側の主張の解釈、②立証 、 その他の広告問題 などのトピックに関連する関連する例について具体的に説明している。 (1) 広告側の主張の特定と広告の意味の解釈  改定されたガイダンスでは、まず、広告主の明示的主張と黙示的主張の違いを含め、主張の識別方法と解釈方法について説明する。改定ガイダンスでは、広告の言い回しとコンテキストが、製品が病気の治療に有益であることを暗示する可能性があることを強調しており、広告に病気への明示的な言及が含まれていない場合でも、広告主は有能で信頼できる科学的証拠で暗黙の主張を立証できる必要がある。  さらに、改定されたガイダンスでは、広告主が適格な情報を開示することが予想される場合の例が示されている(商品が人口のごく一部をターゲットにしている場合や、潜在的に深刻なリスクが含まれている場合など)。  欺瞞やだましを避けるために適格な情報が必要な場合、改定されたガイダンスには、その適格...

米ノースカロライナ州アッシュビルの被告男性(70歳)、2,200万ドルのポンジ・スキーム(いわゆる「ねずみ講」)等を画策、実施した罪で17.5年の拘禁刑や1,700万ドル以上の賠償金判決

被告 Hal H. Brown Jr. 7 月 10 日付けで米連邦司法省・ノースカロライナ西部地区連邦検事局の リリース   が筆者の手元に届いた。 その内容は「 ノースカロライナ州アッシュビル住の被告男性 (Hal H. Brown Jr., 70 歳 ) は、 2,200 万ドル ( 約 23 億 5,400 万円 ) のポンジ・スキーム (Ponzi scheme : いわゆる「ねずみ講」 ) 等を画策、実施した罪で 17.5 年の拘禁刑 や 1,700 万ドル ( 約 18 億 1,900 万円 ) 以上の賠償金 の判決 を受けた。被告は定年またはそれに近い人を含む 60 人以上の犠牲者から金をだまし取ったとする裁判結果」というものである。 筆者は同裁判の被害額の大きさだけでなく、 1) この裁判は本年 1 月 21 日に被告が有罪を認め判決が出ているのにかかわらず、今時点で再度判決が出された利用は如何、さらに、 2)Ponzi scheme や取引マネー・ローンダリング (Transactional Money Laundering) の適用条文や量刑の根拠は如何という点についても同時に調査した。 特に不正資金の洗浄運び屋犯罪 (Money Mules) の種類 ( 注 1) の相違点につき詳細などを検証した。 さらに裁判官の連邦量刑ガイドラインや具体的犯罪の適用条文等の判断根拠などについても必要な範囲で専門レポートも参照した。 これらについて詳細に解析したものは、米国のローファームの専門記事でも意外と少なく、連邦検事局のリリース自体も言及していなかった。 他方、わが国のねずみ講の規制・取締法は如何、「ネズミ講」と「マルチ商法」の差は如何についてもその根拠法も含め簡単に論じる。いうまでもないが、ネズミ講の手口構成は金融犯罪に欠くべからざるものである。高齢者を狙うのは振込詐欺だけでなく、詐欺師たちは組織的にかつ合法的な似非ビジネスを模倣して、投資をはじめ儲け話しや貴金属ビジネスなどあらゆる違法な手口を用いている。 ( 注 2) 取締強化の観点からも、わが国の法執行機関のさらなる研究と具体的取り組みを期待したい。なお、筆者は 9 年前の 2011.8.16 に...