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電子の眼(Electronic Eye:Video Surveillance)網は英国でさらに広がる

 


 2010年10月25日のNHKの番組「クローズアップ現代」で監視カメラ社会とプライバシー問題が取り上げられた。(注1)

 英国(最も世界でビデオ監視システムの導入が進んだ国)では、2006年6月からほとんどの主要幹線道路で動く車を自動的に追跡するシステム(Automatic Number Plate Recognition System:ANPRシステム)が稼動する (注1-2)

 警察によると、①運転免許のナンバー・プレートの読み取り監視カメラ台数を急増させること、②同システムの設計者は、数秒で当該車両について保険の有無、盗難車であるか、犯罪現場の近くで写っているか否かなどを判断できるデータ・ベースを構築中であるとしている。

 当該技術は、すでにロンドンの環状線道路で英国で最も混雑する高速道路であるM25で試行されている。2006年6月までに作動を始めるシステムは、イングランドとウェールズにおいて①数千台の固定式監視カメラ、または②主要高速度道路や裏道で監視する警察専用バン(注2)を使用する。公共の場所での監視カメラにはなれている英国民も、一般人の旅行先や居場所についての政府がデータ・ベースを構築することには抵抗感を持つ人も少なくない(本記事は2006年1月7日付ワシントンポスト紙の記事から引用した)。

【筆者加筆】2021.3.31

NPIAは2011年11月 「NATIONAL ACPO ANPR STANDARDS (NAAS)Version 4.12」(全27頁)を情報公開法に基づき公表した。その作成責任者がジョン・ディーン(John Dean)氏である。


 ANPRの幹部による具体的な例で説明しよう。
 同システムの調整役のジョン・ディーン(John Dean, ACPO national ANPR co-ordinator)によると、監視カメラはコンピュータ・システムと連動していり、1時間当たり3,600枚のナンバー・プレートのモニタリングが可能で、直ちに法律違反の容疑者のプレートのデータ・ベースと照合できる。またエセックス警察の警視正(police inspector)のポール・ムーア氏によると実際次のような教科書的な作動例が記録されている。

①監視カメラを装置した警察バン車がロンドンの東20マイルのA13高速道路肩に駐車していたところ、1998年型のボルボステーションワゴンが通過した2秒後に警察の警告システムが作動し、「注意(Attention):保険未加入車」表示がなされた。英国では保険未加入は犯罪行為であり、バン内から警察に無線通信が行われた。
②6台のパトカーが集合し、車内を調べたところ18万ドル相当のヘロイン袋を発見した。
このほかにも子供の誘拐現場にあったナンバー・プレートの記録を元に翌日ANPRカメラが犯人の車を検出した例もある。

 一方、人権保護団体はまったく犯罪を犯していない人々が日常生活のプロファイルを記録されることは1日中追跡されているのと同じであると指摘している。英国内には400万台の有線式カメラやCCTVカメラが設置されている。つまり典型的なロンドン市民は1日に300回モニタリングされていることになる。 英国のセキュリティ産業協会(British Security Industry Association)によると有線式カメラ業界の生産規模はこの10年間で4倍になり年間10億ドルを稼ぐのである。

 英国の警察は、ANPRシステムは北アイルランドのIRAの爆撃犯の動きを察知するための警察の発案であると述べ、現在2年間の車の走行記録を保管しており、まもなく5年間のデータの保管が可能になると述べている。同システムに関してはFBI、カナダ、豪州、EU加盟国からの照会が来ている。

 ディーン氏は、「公共性のある場所での有線式の監視カメラは、米国やその他の国では容易に受け入れないであろう。このようなわが国の現状を評論家はオーウェル風プライバシー侵害と呼ぶことは知っている。しかし、人々はセキュリティの権利も持っているのである。」と述べている。
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(注1)NHKの番組自体、筆者は見ていないが、サイトで内容は確認出来る。

(注1-2) 2006.4.6 ””Police Prpfessional(Police Professional is the monthly printed and online journal for UK law enforcement)が詳しく解説している。

監視カメラを装置した警察バン車

(注2)世界的なセキュリティ・アナリスト(米国)のブルース・シュナイアー(Bruce Schneier)氏は自身のブログで英国のヘリコプターを使ったANPRのことを2005年4月15日付けで紹介している。

Bruce Schneier 氏

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(今回のブログは2006年1月9日登録分の改訂版である)

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