スキップしてメイン コンテンツに移動

フィンランドのモバイル国民証明システムへの基本的疑問

  

 Last Updated:March 16,2021

 2005年7月28日に公表されたところによると、フィンランド政府はE-Government (注1)の一環としてSIM(Subscription Identity Module)カード(注2)を含む政府保証による「電子証明システム」、すなわち「モバイル国民証明制度」を2005年末までに全面稼動する。

 同国の人口登録センター(Population Register Centre)が最初のモバイル証明を採用する機関となり、同センターは8月に①住所変更通知、②人口情報システムにおける既存の情報のチェックという2つの業務を開始する。このサービスはフィンランドの第2の携帯電話会社である「Elisa」と共同開発している。その他全国ベースの電子手帳(Sähköinen Reissuvihko)でも利用できるとされている。

 8月以降はさらにm-Governmentサービスの範囲を、①社会保険取扱機関(KELA)、②税徴収当局、③労働省に拡大する予定である。また、ICチップのIDカード、visaの支払いカード、OKO銀行グループによるモバイルバンキングやその他の会社によるモバイル・サービスも予定されている。

 Elisaの国民証明システム計画の責任者であるミッコ・サレーラ氏は、フィンランドでは銀行などに続いてリテールサービス業者や行政機関がこれらのサービスに参入すると述べている。すなわちモバイル証明制度は安全性、使いやすさや価格面で割安であり、多目的な利用方法にかかわらず、単に4桁のデジタルPINのログインのみが必要とされ、従来使用されているユーザーIDやパスワード(ワンタイムパスワードを含む)、銀行コードに替わるものであると述べている。

 しかし、この記事を読んで抱いた疑問は、①多目的本人証明デバイスであるなら当然「ななりすまし(Identity Theft)」対策が重要であろう。今世界のサイバー犯罪、e-Governmentの担当者やIT技術者の最大の課題であり、生体認証技術を含めた各種の技術が試行、実用化されている。フィンランド自身がこの問題を無視しているとは思えない点、②政府の保証付ということは、セキュリティ技術面のことかあるいは損害補償の問題なのか、などである。政府のサイト(e-finland)に「Further info」があり、個別質問に応じている。早速質問メールを出すこととした。

**********************************************************

(注1)フィンランドのSIMカードによる電子認証(メーカーはelisa)に関する詳しい解説「Digital signatures via SIM cards and mobile phones take off in Finland」

がある。また、フィンランドのe-Governmentにおける電子認証すなわち、IDlカードや銀行取引IDについての解説例やeID in Finland : new card design for 2017を参照されたい。

(注2)同カードには顧客の電話番号、ユーザーID、通話料金情報等を記録する。NOKIA(GSM規格)が販売している携帯電話で使用されている。この仕様のメリットは携帯電話本体のメーカーや機種、国にかかわらずカードを交換することで移動しながら、複数の携帯電話利用が可能となる点である。

 

(今回のブログは2005年8月31日登録分の改訂版である)
                            
Copyright © 2005-2010 芦田勝(Masaru Ashida ).All Rights Reserved.No reduction or republication without permission.

コメント

このブログの人気の投稿

ウクライナ共同捜査チームの国家当局が米国司法省との了解覚書(MoU)に署名:このMoU は、JIT 加盟国と米国の間のそれぞれの調査と起訴における調整を正式化、促進させる

  欧州司法協力機構(Eurojust) がウクライナを支援する共同捜査チーム (Ukraine joint investigation team : JIT) に参加している 7 か国の国家当局は、ウクライナで犯された疑いのある中核的な国際犯罪について、米国司法省との間で了解覚書 (以下、MoU) に署名した。この MoU は、ウクライナでの戦争に関連するそれぞれの調査において、JIT パートナー国と米国当局との間の調整を強化する。  このMoU は 3 月 3 日(金)に、7 つの JIT パートナー国の検察当局のハイレベル代表者と米国連邦司法長官メリック B. ガーランド(Merrick B. Garland)によって署名された。  筆者は 2022年9月23日のブログ 「ロシア連邦のウクライナ軍事進攻にかかる各国の制裁の内容、国際機関やEU機関の取組等から見た有効性を検証する!(その3完)」の中で国際刑事裁判所 (ICC)の主任検察官、Karim A.A. Khan QC氏 の声明内容等を紹介した。  以下で Eurojustのリリース文 を補足しながら仮訳する。 President Volodymyr Zelenskiy and ICC Prosecutor Karim A. A. Khan QC(ロイター通信から引用) 1.ウクライナでのJITメンバーと米国が覚書に署名  (ウクライナ)のICC検事総長室内の模様;MoU署名時   中央が米国ガーランド司法長官、右手がICCの主任検察官、Karim A.A. Khan QC氏  MoUの調印について、 Eurojust のラディスラフ・ハムラン(Ladislav Hamran)執行委員会・委員長 は次のように述べている。我々は野心のために団結する一方で、努力においても協調する必要がある。それこそまさに、この覚書が私たちの達成に役立つものである。JIT パートナー国と米国は、協力の恩恵を十分に享受するために、Eurojustの継続的な支援に頼ることができる。  米国司法長官のメリック B. ガーランド(Merrick B. Garland)氏は「米国が 7 つの JIT メンバー国全員と覚書に署名する最初の国になることを嬉しく思う。この歴史的な了解覚書は...

米国連邦取引委員会(FTC)が健康製品に関する新しい拡大コンプライアンスガイダンスを発行

   2022年12月20日、米国連邦取引委員会(以下、FTCという)は、以前の 1998年のガイダンスである栄養補助食品:業界向け広告ガイド(全32頁) を改定および置き換える 健康製品等コンプライアンスガイダンス の発行を 発表 した。 Libbie Canter氏 Laura Kim氏  筆者の手元に Covington & Burling LLPの解説記事 が届いた。筆者はLibbie Canter氏、Laura Kim氏他である。日頃、わが国の各種メディア、SNS、 チラシ等健康製品に関する広告があふれている一方で、わが国の広告規制は一体どうなっているかと疑うことが多い。  FTCの対応は、時宜を得たものであり、取り急ぎ補足を加え、 解説記事 を仮訳して紹介するものである。 1.改定健康製品コンプライアンスガイダンスの意義  FTCは、ガイドの基本的な内容はほとんど変更されていないと述べているが、このガイダンスは、以前のガイダンスの範囲につき栄養補助食品を超えて拡大し、食品、市販薬、デバイス、健康アプリ、診断テストなど、すべての健康関連製品に関する主張を広く含めている。今回改定されたガイダンスでは、1998年以降にFTCが提起した多数の法執行措置から引き出された「主要なコンプライアンス・ポイント」を強調し、① 広告側の主張の解釈、②立証 、 その他の広告問題 などのトピックに関連する関連する例について具体的に説明している。 (1) 広告側の主張の特定と広告の意味の解釈  改定されたガイダンスでは、まず、広告主の明示的主張と黙示的主張の違いを含め、主張の識別方法と解釈方法について説明する。改定ガイダンスでは、広告の言い回しとコンテキストが、製品が病気の治療に有益であることを暗示する可能性があることを強調しており、広告に病気への明示的な言及が含まれていない場合でも、広告主は有能で信頼できる科学的証拠で暗黙の主張を立証できる必要がある。  さらに、改定されたガイダンスでは、広告主が適格な情報を開示することが予想される場合の例が示されている(商品が人口のごく一部をターゲットにしている場合や、潜在的に深刻なリスクが含まれている場合など)。  欺瞞やだましを避けるために適格な情報が必要な場合、改定されたガイダンスには、その適格...

英国のデータ保護法案:提案された改正案の概要(その2完)

   [Part Ⅱ]  英国データ保護法案:主要条項の検討 この記事 では、パートⅠにもとづき、法案の特定の重要な条項をさらに深く掘り下げる。 (1) 匿名化と「個人データ」:範囲の確認  この法案は、情報が「識別可能な生存する個人」に関連しているため、主に2つのケースで「個人データ」を構成することを提案している。 (A)生存する個人が処理時に合理的な手段によって管理者または処理者によって識別可能である場合。 (B)管理者または処理者が、(a)処理の結果として他の人が情報を取得する、または取得する可能性が高いことを知っている、または知るべきである場合。 (b)生きている個人は、処理時に合理的な手段によってその人によって識別可能であるか、またはその可能性が高い。  特に、この法案は、処理時にデータが個人データであるかどうかの合理性と評価を非常に重視しており、特にデータを匿名化しようとする際に、組織・事業体にとって有用であることが証明される可能性がある。EU GDPRは、注目度の高いケースを通じて開発された識別可能性と匿名化のための高い「しきい値」を設定している(詳細については、2016年CJEUのBreyerの決定に関するこのレイサム・アンド・ワトキンス法律事務所の ブログ記事“Anonymous or Not: Court of Justice Issues Ruling on IP Addresses” (筆者注7) を参照されたい)。法案の提案は、英国政府が専門家諮問結果「データ:新しい方向」(諮問書)で取った立場、すなわち政府が「匿名化のために信じられないほど高い基準を設定することを避けるつもりである」という立場と一致している。(専門家への諮問の詳細については、このレイサム・アンド・ワトキンス法律事務所の ブログ記事“UK Data Protection Reform: Examining the Road Ahead” を参照されたい。 【筆者補足説明】 1.わが国では本格的に論じられていない問題として匿名化、仮名化などとプライバシー強化にかかる技術面からの検証である。2021.11.17  BRISTOWS法律事務所「データの匿名化:ICOの改訂ガイダンスに関する考慮事項」 が簡潔にまとめているので、主要部を抜粋、仮訳する。 ...