スキップしてメイン コンテンツに移動

英国金融サービス庁が銀行のオンラインバンキングに対する消費者の信頼維持のための留意事項を奨励

 

Last Updated: March 31,2021

 英国の金融機関の監督機関である「金融サービス庁(FSA)」は、2006年1月23日に「2006年金融サービスリスクに関する見通し(FSA’s Financial Risk Outlook 2006)」を公表した。本OutLookは今後18か月の金融サービスを関係法令の目標に合致させまた戦略的な目的から監督機関としていかなる対応を進めるべきかについて、各種の調査をもとにリスク面の先行的な取組み課題を提示するものである。
 今回は、FSAがオンライン・バンキングのリスク問題を取り上げた章の概要を紹介する。

 一方、今まさにわが国で話題になっている「ライブドア違法株式取引問題」について金融監督機関である金融庁(証券取引等監視委員会の機能の見直し等も含め)、証券取引所、監査法人、弁護士等が本来果たすべきである違法な株式取引の阻止や株式市場の安全性確保についてそれぞれの立場から的確に対応すべきといった論議が期待される中、事後的な行政処分・司法処分依存型でない消費者の実態を踏まえた金融監督機関における先行的な課題の提起の必要性が増すことは間違いなかろう。 

 さらに、この問題は先延ばしになったオンライン詐欺の損失補てん問題とも関連する金融界にとって重要な問題といえよう。


1.オンライン・バンキングにおける消費者の信頼の脆弱性
 積極的なオンライン・バンキングのユーザーの半分は、オンライン取引における潜在的なリスクは「極めて」あるいは「大変な」懸念材料であるとしている。実際、彼らは取引に伴い生じるリスクから自らを守るために、PCにセキュリティソフトをインストールしているが、一方で、4分の1の人はいつ更新(アップデート)したか記憶していないし、また頻繁に更新していない。

 英国のAPACs(英国におけるカード決済の共同機関。Association for Payment Clearing Servicesの略。2009年7月6日に新設された”UK Payments Administration Ltd (UKPA)”に引き継がれた)によると、2005年6月までの半年間のカード詐欺被害額は1,450万ポンド(約29億2,900万円)であった(注1)。この額は比較的低いがそれでも2004年の同時期に比べ約3倍である。FSAの調査によると、仮にこの損害額をすべて消費者に向けたとするとオンラインバンキングのユーザーの77%はオンライン取引を解約することになる。回答があったユーザー(95%)のうち45%の人は銀行が唯一責任を負うべきであると信じているのである。

 FSAの金融犯罪部門の責任者であるフィリップ・ロビンソンは次のように述べている。
「ユーザーは、オンライン詐欺について自らの責任を問われるようなことになればサービスの利用をやめるであろう。彼らはセキュリティ問題についてのある程度の自己責任については理解しているもののその結果としての経済的な責任まで負うことは考えていない。詐欺に伴う損失について銀行はセキュリティ対策を徹底的に追求すべきである。つまり消費者に対しわが身の守り方の教育を徹底すべきである。この点について、FSAは銀行がすでに手を打っていることは承知しており、また官民が協力した「Get Safe Online’ campaign」(注2)のような先行的取組みが始まっていることも知っている。しかし、銀行はこれらの取組みが消費者の信頼を維持する上での有効性については注意深く見守る必要がある。インターネットバンキングの更なるセキュリティ対策としては2要素認証(筆者注:トークン型ワンタイムパスワード等のこと)がある。」

 消費者調査の結果で明らかとなったその他の点は以下の通りである。
①オンライン取引ユーザーの5%はまったくセキュリティ・ソフトをインストールしていない。その最大の理由は高価であること(注3)またその必要性についてまったく理解していない。
②ユーザーの59%は、第三者が誰でもオンライン口座にアクセスでき、またログインに関する機密データが無くても詐欺が行えると信じている。21%の人のみがそれはありえないと考えている。
③世代により問題意識に差がある。15歳~17歳の場合、ほとんどセキュリティ詐欺について問題意識はないが、45歳~54歳では最も不安に感じている。
****************************************************************************************
(注1)わが国の場合、警察庁の統計では平成16年中(91頁以下)のカードを使用した窃盗事件は4,477件(クレジットカード:568件(被害総額2億540万円、キャッシュカード:3,448件(被害総額24億250万円)、消費者金融カード:461件(被害総額1億7,700万円))である。

(注2)同キャンペーンは、2005年10月に英国政府、関係会社の支援により立ち上げたコンピュータ・セキュリティやインターネット・プライバシー問題の国民向け啓蒙キャンペーンである。2013.9.5 同キャンペーンは、Get SafeOnlineの「SwitchedOn」キャンペーンが開始した旨報じた。これは、親や子供を担当するその他の大人がインターネット上で料金を安全に保つのを支援することを目的としている。 子供の保護に関する情報とアドバイスについては、ここをクリックしてください。 親が子供よりもインターネットに自信がない場合、オンラインリスクを管理することが難しくなり、オンラインで安全を保つ方法について親が自信を持って話すことができるというものである。

(注3)例えば、英国の大手銀行である「ロイズTSB銀行」のサイトではセキュリティ対策として銀行のお勧めセキュリティソフトについて1か月の試用期間を置き、購入時10ポンドの割引が受けられるといったサービスが行われている。FSAも当然知っているであろうが。また、欧米の啓発サイトでは無料のセキュリティソフトを具体名を挙げてユーザーが自らインストールできるような配慮が一般的であり、FSAの見解の背景については別途確認してみたい。これも年代によってかなり差があるのであろうか。

************************************************************

(今回のブログは2006年1月26日登録分の改訂版である)

Copyright © 2006-2010 芦田勝(Masaru Ashida ).All Rights Reserved.No reduction or republication without permission.

コメント

このブログの人気の投稿

ウクライナ共同捜査チームの国家当局が米国司法省との了解覚書(MoU)に署名:このMoU は、JIT 加盟国と米国の間のそれぞれの調査と起訴における調整を正式化、促進させる

  欧州司法協力機構(Eurojust) がウクライナを支援する共同捜査チーム (Ukraine joint investigation team : JIT) に参加している 7 か国の国家当局は、ウクライナで犯された疑いのある中核的な国際犯罪について、米国司法省との間で了解覚書 (以下、MoU) に署名した。この MoU は、ウクライナでの戦争に関連するそれぞれの調査において、JIT パートナー国と米国当局との間の調整を強化する。  このMoU は 3 月 3 日(金)に、7 つの JIT パートナー国の検察当局のハイレベル代表者と米国連邦司法長官メリック B. ガーランド(Merrick B. Garland)によって署名された。  筆者は 2022年9月23日のブログ 「ロシア連邦のウクライナ軍事進攻にかかる各国の制裁の内容、国際機関やEU機関の取組等から見た有効性を検証する!(その3完)」の中で国際刑事裁判所 (ICC)の主任検察官、Karim A.A. Khan QC氏 の声明内容等を紹介した。  以下で Eurojustのリリース文 を補足しながら仮訳する。 President Volodymyr Zelenskiy and ICC Prosecutor Karim A. A. Khan QC(ロイター通信から引用) 1.ウクライナでのJITメンバーと米国が覚書に署名  (ウクライナ)のICC検事総長室内の模様;MoU署名時   中央が米国ガーランド司法長官、右手がICCの主任検察官、Karim A.A. Khan QC氏  MoUの調印について、 Eurojust のラディスラフ・ハムラン(Ladislav Hamran)執行委員会・委員長 は次のように述べている。我々は野心のために団結する一方で、努力においても協調する必要がある。それこそまさに、この覚書が私たちの達成に役立つものである。JIT パートナー国と米国は、協力の恩恵を十分に享受するために、Eurojustの継続的な支援に頼ることができる。  米国司法長官のメリック B. ガーランド(Merrick B. Garland)氏は「米国が 7 つの JIT メンバー国全員と覚書に署名する最初の国になることを嬉しく思う。この歴史的な了解覚書は...

米国連邦取引委員会(FTC)が健康製品に関する新しい拡大コンプライアンスガイダンスを発行

   2022年12月20日、米国連邦取引委員会(以下、FTCという)は、以前の 1998年のガイダンスである栄養補助食品:業界向け広告ガイド(全32頁) を改定および置き換える 健康製品等コンプライアンスガイダンス の発行を 発表 した。 Libbie Canter氏 Laura Kim氏  筆者の手元に Covington & Burling LLPの解説記事 が届いた。筆者はLibbie Canter氏、Laura Kim氏他である。日頃、わが国の各種メディア、SNS、 チラシ等健康製品に関する広告があふれている一方で、わが国の広告規制は一体どうなっているかと疑うことが多い。  FTCの対応は、時宜を得たものであり、取り急ぎ補足を加え、 解説記事 を仮訳して紹介するものである。 1.改定健康製品コンプライアンスガイダンスの意義  FTCは、ガイドの基本的な内容はほとんど変更されていないと述べているが、このガイダンスは、以前のガイダンスの範囲につき栄養補助食品を超えて拡大し、食品、市販薬、デバイス、健康アプリ、診断テストなど、すべての健康関連製品に関する主張を広く含めている。今回改定されたガイダンスでは、1998年以降にFTCが提起した多数の法執行措置から引き出された「主要なコンプライアンス・ポイント」を強調し、① 広告側の主張の解釈、②立証 、 その他の広告問題 などのトピックに関連する関連する例について具体的に説明している。 (1) 広告側の主張の特定と広告の意味の解釈  改定されたガイダンスでは、まず、広告主の明示的主張と黙示的主張の違いを含め、主張の識別方法と解釈方法について説明する。改定ガイダンスでは、広告の言い回しとコンテキストが、製品が病気の治療に有益であることを暗示する可能性があることを強調しており、広告に病気への明示的な言及が含まれていない場合でも、広告主は有能で信頼できる科学的証拠で暗黙の主張を立証できる必要がある。  さらに、改定されたガイダンスでは、広告主が適格な情報を開示することが予想される場合の例が示されている(商品が人口のごく一部をターゲットにしている場合や、潜在的に深刻なリスクが含まれている場合など)。  欺瞞やだましを避けるために適格な情報が必要な場合、改定されたガイダンスには、その適格...

米ノースカロライナ州アッシュビルの被告男性(70歳)、2,200万ドルのポンジ・スキーム(いわゆる「ねずみ講」)等を画策、実施した罪で17.5年の拘禁刑や1,700万ドル以上の賠償金判決

被告 Hal H. Brown Jr. 7 月 10 日付けで米連邦司法省・ノースカロライナ西部地区連邦検事局の リリース   が筆者の手元に届いた。 その内容は「 ノースカロライナ州アッシュビル住の被告男性 (Hal H. Brown Jr., 70 歳 ) は、 2,200 万ドル ( 約 23 億 5,400 万円 ) のポンジ・スキーム (Ponzi scheme : いわゆる「ねずみ講」 ) 等を画策、実施した罪で 17.5 年の拘禁刑 や 1,700 万ドル ( 約 18 億 1,900 万円 ) 以上の賠償金 の判決 を受けた。被告は定年またはそれに近い人を含む 60 人以上の犠牲者から金をだまし取ったとする裁判結果」というものである。 筆者は同裁判の被害額の大きさだけでなく、 1) この裁判は本年 1 月 21 日に被告が有罪を認め判決が出ているのにかかわらず、今時点で再度判決が出された利用は如何、さらに、 2)Ponzi scheme や取引マネー・ローンダリング (Transactional Money Laundering) の適用条文や量刑の根拠は如何という点についても同時に調査した。 特に不正資金の洗浄運び屋犯罪 (Money Mules) の種類 ( 注 1) の相違点につき詳細などを検証した。 さらに裁判官の連邦量刑ガイドラインや具体的犯罪の適用条文等の判断根拠などについても必要な範囲で専門レポートも参照した。 これらについて詳細に解析したものは、米国のローファームの専門記事でも意外と少なく、連邦検事局のリリース自体も言及していなかった。 他方、わが国のねずみ講の規制・取締法は如何、「ネズミ講」と「マルチ商法」の差は如何についてもその根拠法も含め簡単に論じる。いうまでもないが、ネズミ講の手口構成は金融犯罪に欠くべからざるものである。高齢者を狙うのは振込詐欺だけでなく、詐欺師たちは組織的にかつ合法的な似非ビジネスを模倣して、投資をはじめ儲け話しや貴金属ビジネスなどあらゆる違法な手口を用いている。 ( 注 2) 取締強化の観点からも、わが国の法執行機関のさらなる研究と具体的取り組みを期待したい。なお、筆者は 9 年前の 2011.8.16 に...