2006年1月に「スイス・米国商工会議所(Swiss-American Camber of Commerce:SACC)」とボストン・コンサルティングは「スイスにおける外国企業:その存在は忘れられたままで良いのか?(Foreign Companies in Switzerland:The Forgotten Sector)」と題した共同研究(全36頁)(注1)をチューリッヒで公表した。外国企業のスイスにおける企業活動について税制面等恵まれた経営環境下にはあるが、当局はそれを当然とするのではなく、欧州における競争力強化に向けた改善を行い、スイス経済・社会にとって外国企業の存在の重要性を正しく理解するとともに、長期的な観点からさらに恵まれた環境作りづくに挑戦すべきであると述べている。
この報告書の 要旨(1枚もの)は2月に公表されている(注2)が、その内容も織り込みながらSACCの経営者のコメントなどを紹介する。わが国企業の海外進出問題また外国企業の受入れ問題等について経済・社会全体として客観的に分析すべき時期に来ていることは間違いなかろう。
SACCのCEOであるマーチン・ナビル氏(Martin Naville)は「自分はスイス人の外国企業は邪魔者であり、彼らは単に節税対策としてスイスに進出しているという意見を聞くと外国企業は忘れられた存在であると信じる。このような理解は的外れであり、正しい実態を表していない。」と述べている。
Martin Naville氏
報告書ではより具体的に外国企業に「よいしょ?(私見)」を行っている。表題が「外国企業はスイスの豊かさにおいて驚くべき貢献を行っている」である。以下、内容に則して紹介する。
外国企業はまったく雇用創造を行わない「課税回避会社(letterbox companies):税金回避地で設立されて、郵送先住所を除いて、物理的な存在がない企業のこと」であり、大部分が匿名性のビジネス企業で、スイスの社会には溶け込んでいないのであろうか。
外国企業は、スイス経済の強さ並びのスイスの豊かさ(福祉)にとって重要な貢献を行っている。
①スイスの国民総生産(400億スイスフラン(約3兆6,400億円))の1割は直接・間接の外国企業の寄与分である。
②外国企業のスイス人雇用者数は21万人(スイスの全人口740万人)である。スイスの全雇用人口の第8位である。
③スイスの全経済成長の4分の1近くが最近8年間外国企業によっている。
④この期間、スイスの事業総数は停滞したが、一方、外国企業の事業数は年間6%である。この成長率のほとんどは新規の事業構築(ジュネーブのP&G欧州本社など)によるものである。
スイスは欧州の中央に位置し、地理的に優位な位置にあることから欧州の企業は再度スイスに本拠地をおきたいという意向がある。
①税制面の優遇は本質的な関心ではある。しかし、「欧州のビジネスセンター(オランダやアイルランド)」の代替競争地というだけではない。
②政治的な安定性、恵まれた労働力、自由な雇用法制、経済的な中立性、-スイスに本社をおくことは主要な欧州市場で受け入れられることである。
スイスの経済発展において、外国企業を受け入れる意味でさらに留意すべき点は「合法的利益(legitimate interests)」である。スイスでビジネスを行う楽しさは当たり前ではないが、他国と継続的な競争的の推進は進めねばならない。たとえば、労働の許可やビザ発行において「改善の余地(definite room for improvement)」がある。付加価値税(VAT)の簡素化、国際航空便数の増加は考慮すべき点である。事実、スイスをビジネスの地として調査した外国企業の90%はこの数年間改善が見られたと見ていないし、むしろ沈滞していると見ている。
なお、本報告は2007年、2008年に欧州内でのスイスの競争力立場ならびに外国企業に打ち勝つための追加的な報告を行い、特定の改善テーマについて報告するプロジェクトの一部である。
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(注1) http://www.amcham.ch/publications/downloads/20060101_bcg_amcham_study.pdf
(注2) 2010年10月30日現在、要旨のURLは不明である。
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(今回のブログは2006年2月11日登録分の改訂版である)
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