スキップしてメイン コンテンツに移動

米国連邦金融監督機関が外部監査人の金融機関に対する責任制限条項付契約書について勧告通達を発布

 


 Last Updated: March 31,2021

わが国でも監査法人の責任をめぐる問題は最近でも折に触れて大きな社会的問題となるが、米国では、金融監督機関である「連邦預金保険公社(FDIC)」等が2005年5月10日、連名で外部監査の客観性を弱めるような監査人の責任制限規定を盛り込んだ監査契約書を問題視し、警告書草案を起草のうえ2005年6月9日を期限としたコメント聴取を行った。その要旨は次のような内容であるが、各種コメント内容を受けて見直しのうえ2006年2月3日付けでFDIC等連邦監督機関が連名で最終的な警告通達を発した。わが国の今後の論議の参考になろう。

2005年5月10日の勧告草案の要旨〕
1.今回提案する省庁間(interagency)勧告書草案は、金融機関の取締役会、監査委員会、外部監査人等に対し、財務報告書において外部監査人の責任を制限する規定自体の適用をいかに安全かつ健全なものに変えるかという観点からとりまとめたものである。

2.草案は、すべての金融機関について、①規模、②公的金融機関であるか否か、また③外部監査が求められた場合か自発的なものか否かを問わず適用されるものである。

3.責任制限条項自体は、外部監査の客観性、公平性、実効性を弱めることにつながり、その結果、金融監督機関の外部監査依存能力をも弱めることになる。

4.責任制限条項そのものは、米国証券取引委員会(SEC)や公開企業会計監視委員会(PCAOB) (注1)、公認会計士協会が定める「監査人の独立性に関する基準」に適合しないものである。

〔2006年2月3日の最終勧告書の要旨〕
1.勧告書(正式名は「監査契約書における外部監査人の責任制限条項の非安全性・非健全性に対する勧告書について:The Interagency Advisory on the Unsafe and Unsound Use of Limitation of Liability Provisions of Liability Provision in External Audit Engagement Letters 」)

2.責任制限条項の具体的な内容は以下の通りである。
①金融機関が外部監査人に対して行われた第三者による請求行為(懲罰的損害賠償(筆者注2)を含む)を金融機関が補償(indemnify)する条項。
②監査人の顧客である金融機関にとてって可能である請求や潜在的な請求権を免除するという条項。
③顧客である金融機関が援用可能な法的救済(賠償)(remedies)を制限する条項。

本勧告は、まもなく行われる「連邦官報」公布後に締結された監査契約書について適用される。したがって、公布以前に施行された契約書については適用されない。しかしながら、なお、金融監督機関は複数年度にわたる監査契約書を締結していた場合でも2007年以降を含む場合は安全性や健全性を欠く責任制限条項についてはその修正を勧告するとともに、適切な監督的行動をとる。

*******************************************************************************************:

(注1)米国「Sarbanes-Oxley Act(サーベインズ・オクスレー法)」(企業改革法、SOX法)(2002年7月末に成立)では、公開会社を監査する会計事務所の監査業務の品質を監視する機関として、公開企業会計監視委員会(PCAOB: Public Company Accounting Oversight Board)を新たに設置した。
 このPCAOBは、米国政府機関ではなく非営利のD.C.会社(District of Columbia Nonprofit Corporation Act)であり、運営財源は主に、米国公開会社によって賄われています。PCAOBを構成する常勤の5人のメンバーは米国SEC(Securities and Exchange Commission)により任命(任期は5年間)され、この5人のメンバーのうち2人は公認会計士であることが要求されていル。(KPMGサイトの解説から引用)

(注2) 主に不法行為に基づく損害賠償請求訴訟において、加害者の行為が強い非難に値すると認められる場合に、裁判所または陪審の裁量により、加害者に制裁を加えて将来の同様の行為を抑止する目的で、実際の損害の補填としての賠償に加えて上乗せして支払うことを命じられる賠償のことをいう。英米法系諸国を中心に認められている制度である。(Wikipediaから引用)
なお、最近のタンカー沈没による汚染問題の筆者ブログ(筆者注3)でもわが国での消費者庁の関係検討委員会での検討状況が伝えられている。

〔参照URL〕
1.2005年5月10日の勧告草案通達(FDICの通達)
”External Audit Engagement Letters Unsafe and Unsound Use of Limitation of Liability Provisions and Certain Alternative Dispute Resolution Provisions FIL-41-2005 May 10, 2005 ”
本通達はあくまで草案のためFDIC通達では”inactive”(機能停止)扱いとなっている。

2.2006年2月3日の連邦準備準備制度理事会等最終勧告通達(連名)
”Federal Financial Regulatory Agencies Issue Interagency Advisory On External Auditor Limitation of Liability Provisions ”

**********************************************************************

(今回のブログは2006年2月5日登録分の改訂版である)

Copyright © 2006-2010 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.No reduction or republication without permission.

コメント

このブログの人気の投稿

米大統領令(EO: Executive Order 14110)の具体的内容と意義およびそれに基づく責任の履行を支援するためNIST「情報提供依頼文書 」の具体的内容

   筆者は、12月6日の本ブログで2023年10月30日の大統領令(EO: Executive Order 14110)(以下、「EO」という)を受けたNISTの具体的行動につき 「 NISTからこのほど公開された「 NIST SP 800-226 草案」および「差分プライバシー保証を評価するためのガイドライン草案」に対するパブリックコメントの背景と意義」 を取り上げた。  しかし、執筆後もいまいち大統領令(EO)のファクトシートも含め真の目的や商務省の規則案のとりまとめ期限など疑問点が残されていた。その内容を補完する意味で今回のブログで補筆するとともに、後段でNISTが2024年2月2日を期限として発布した「情報提供依頼文書 (Request for Information (RFI) )」の概要について解説を試みる。  また、本ブログでは、わが国では詳しく論じられていない米国「国防生産法(Defense Production Act of 1950 :DPA)」の意義と最新動向にも言及した。  なお、今回のブログの内容は12月6日の筆者ブログと重複する部分が一部あるが、 Kilpatrick Townsend & Stockton LLPの和文解説 と併せ読まれたい。 Ⅰ.大統領令 (EO: 14110) の具体的内容の解析    JD Supra, LLCの 「The highly-anticipated US Executive Order on artificial intelligence: Setting the agenda for responsible AI innovation」 を要約しつつ仮訳する。  このEOは、多くの点で AI に関するこれまでのバイデン政権の行動を超えている。 この広範囲かつ堅牢な大統領令は、AI を規制するために既存の当局を利用することを想定して、米国の行政部門および政府機関 (機関) に、①標準、②フレームワーク、③ガイドライン、④最善実践内容を開発するよう指示した (また、独立機関にも同様に奨励する)。 また政府機関は、AI の責任ある使用に関係するほぼすべての連邦法、規則、政策に対して具体的な措置を講じる必要があるとする。  EOは、AI の使用から得られる利点を認識する一方で、国家...

米国CFTCがオハイオ州の男性とその所有企業をデジタル資産取引スキームにおける1200万ドル(約16億214万円)以上の不正勧誘と不正流用を理由に民事起訴

     米国の 商品先物取引委員会(CFTC) は8月12日、オハイオ州ニューオルバニー市住の ラスナキショア・ギリ(Rathnakishore Giri) と彼が所有するオハイオ州に本拠を置く NBD Eidetic Capital, LLC および SR Private Equity, LLC に対して、オハイオ州南部地区連邦地方裁判所に 民事法執行訴訟 を起こしたと 発表 した。   同訴状 は、ギリと彼の会社が150人以上の顧客から1200万ドル以上と少なくとも10ビットコインを不正に勧誘し、またギリと彼の会社がデジタル資産取引を目的とした顧客資金を不正に流用したと主張している。  さらに訴状は、ギリの両親であるギリ・スブラマニ(Giri Subramani)とロカ・パヴァニ・ギリ(Loka Pavani Giri)を、正当な利害関係のない資金を所有している 救済被告 (注1) として起訴している。  今回のブログは、(1)本起訴の詳細、(2)CFTC/SECの投資家アラート:ビットコイン先物における資金取引の注意喚起の概要について概観する。 1. 起訴の内容  CFTCは、その継続的な訴訟において、詐欺被害にあった顧客への補償(restitution)、不正に得た利益の返還(disgorgement of ill-gotten gains)、民事上の金銭的罰則(civil monetary penalties)、恒久的な取引および登録禁止(permanent trading and registration bans)、および 「商品取引法(Commodity Exchange Act :CEA)」 および 「CFTC規則(CFTC regulations)」 のさらなる違反に対する永久的差止命令(permanent injunction)を求めている。 2.本事件の背景  訴状は、2019年3月頃から現在まで、被告が運営しているとされるさまざまなデジタル資産投資ファンドに投資するために、少なくとも150人の顧客から1200万ドル以上と10ビットコイン以上を勧誘し、受け入れた詐欺的なスキームに関与したと訴えている。同訴状によると、被告は顧客への勧誘において、利益の保証やギリのデジタル資産トレーダーとしての成功話など、多数の虚偽で誤解を招くような声...

英国の Identity Cards Bill(国民ID カード法案)が可決成立、玉虫色の決着

  2005年5月に英国議会に上程され、英国やEU加盟国内の人権保護団体やロンドン大学等において議論を呼んでいた標記法案 (筆者注1) が上院(貴族院)、下院(庶民院) で3月29日に承認され、国王の裁可(Royal Assent)により成立した。  2010年1月以前は国民IDカードの購入は義務化されないものの、英国のパスポートの申込者は自動的に指紋や虹彩など生体認証情報 (筆者注2) を含む国民ID登録が義務化されるという玉虫色の内容で、かつ法律としての明確性を欠く面やロンドン大学等が指摘した開発・運用コストが不明確等という点もあり、今後も多くの論評が寄せられると思われるが、速報的に紹介する。 (筆者注3) 1.IDカード購入の「オプト・アウト権」  上院・下院での修正意見に基づき盛り込まれたものである。上院では5回の修正が行われ、その1つの妥協点がこのオプショナルなカード購入義務である。すなわち、法案第11編にあるとおりIDカードとパスポートの情報の連携を通じた「国民報管理方式」はすでに定められているのであるが、修正案では17歳以上の国民において2010年1月(英国の総選挙で労働党政権の存続確定時)まではパスポートの申込み時のIDカードの同時購入は任意となった。 2.2010年1月以降のカード購入の義務化  約93ポンド (筆者注4) でIDカードの購入が義務化される。また、2008年からは、オプト・アウト権の行使の有無にかかわりなく、パスポートのIC Chip (筆者注5) に格納され生体認証情報は政府の登録情報データベース (筆者注6) にも登録されることになる。 ******************************************************: (筆者注1) 最終法案の内容は、次のURLを参照。 http://www.publications.parliament.uk/pa/ld200506/ldbills/071/2006071.pdf (筆者注2) 生体認証の指紋や虹彩については、法案のスケジュール(scheduleとは,英連邦の国の法律ではごく一般的なもので、法律の一部をなす。法本文の規定を受け,それをさらに細かく規定したものである。付属規定と訳されている例がある。わが国の法案で言う「別表」的なもの)...