スキップしてメイン コンテンツに移動

フィンランド政府のモバイル国民証明制度(開発責任者に聞く)

 

 Last Updated: March 16,021

 筆者は2005年8月31日(2010年10月8日更新済)付のブログでモバイル国民証明制度について紹介し、その中で4桁のデジタル数字のみの本人認証では「なりすまし問題」のリスク、さらにモバイルとセットして使用するIC(SIM)カード中の個人情報の盗難・漏洩などにつき「政府が保証する」ことの意味について同システムのプロジェクト責任者のElisa(大手携帯電話会社)のMikko Saarela部長に紹介したところ、すぐに詳しい返事が届いた。同国の国民登録センターなどのウェブサイトにも記載されていない点もあり、念のため、ブログでの公開にあたり同氏に再度了解を取っていたため、紹介が遅くなった。

 今回はとりあえず、同氏からの回答内容を紹介しておくが、実はフィンランドは1999年EUの電子署名指令に基づきに同年にICカード式の国民電子IDカードシステムを稼動している。このカードの保有者数は2005年8月31日現在で73,300人(現時点の同国の人口は5,250,740人)である。多いと見るか少ないと見るか、いずれにしてもその目的は国民管理カードではない、EU加盟国を中心とする29カ国への旅行パスポートであり、インターネットバンキング、社会保険・教育その他公共サービス、民間の各種サービスを受けるためのアクセス・カードである。警察がカードを発行していたり、発行手数料(大人と未成年で金額は異なる)の設定、カードの有効期限、公開鍵・私有秘密鍵(RSA)によるセキュリティ管理(PKI:デジタル署名)と本人のPINコードのセキュリティ対策など工夫がなされている。


 フィンランド政府は1999年に公開鍵・私有秘密鍵(PKIデジタル署名)方式を採用した国民IDカードの発行を始めた。同カードに記録されるデータは本人の写真が貼付されており、バーチャル以外の利用も可能である(筆者注:カード見本は次のとおり。

 また、EUを中心とする29カ国(注1)に渡航する際の公的な旅券として利用できる。強固な本人認証に基づき公的・民間サービスが受けられ、電子署名における「否認防止(Non Repudiation)」(注2)など安全性に特徴があるものの、一方では特定のデジタルサービスに限られていた。つまり、利用時にカードリーダーへの挿入や都度PIN入力など手間がかかり、複雑であった。これが政府がモバイル運用型のSIMカードの採用を始めた理由である。モバイル自体がカードを不要とした公開鍵読み取り機の役目を持ち、パソコンの利用認証、ウェブへのアクセス、デジタルTVサービスなどいわゆるecommerceサービスが簡単に受けられることになる。

************************************************************************************

(注1) 1985年シェンゲン協定の加盟国である。同協定は全EU加盟国のほか、近隣国も含まれており、その目的は人の自由な移動を認める地域を設定し、域内の加盟国間の検閲を廃止し、一方で国境を越えた犯罪対策では緊密な関係を強化するというもの。

(注2)デジタル署名において、私有鍵で署名したものは署名者以外はなしえないということ。否認を防止するためには署名鍵のバックアップは取らないなどの策が必要である。

 サービスは1999年の電子署名に関するEU指令やフィンランドの国内法に基づくもので、SIMカードはこれら政府の求めに応じて製造されたものである。

 この電子認証を得ようとする利用者はまず証明条件が整ったPKI(公開鍵インフラストラクチャ)(注3)対応SIMカードを入手し、次に警察に出向きモバイル証明を受ける手続きを行う。警察はデジタル証明について本人であることの確認手続きを厳格に行う責任を負う。このときに政府機関である「人口登録センター」に登録され証明機関(Certification Authority)としての全責任は同センターが負う。

(注3)「文書への電子署名」と「PKI認証」のセキュリティ面の違いを正確に理解しておくことが必要である。後者の場合、認証する側が送付する乱数(チャレンジ)を認証される側がその乱数に署名することで認証側はチャレンジ署名を検証し、その検証後当該デジタル署名は破棄される。前者は永続的なものであり、検証後も保存されるものである。

 モバイル国民証明は政府によるデジタル認証(署名)により保証される。すなわち、認証を要する電子サービスや電子署名が必要なときに、国民はSIMカード記録された秘密の私有鍵を使用する。認証のために4桁のPINコード、電子署名のために6桁のPINが使用される。私有秘密鍵は決して同カードから出されることはなく、本人のみが知り得るし、その変更は本人のみ可能である。

 国民証明用のモバイルが紛失・盗難にあった場合、国民は政府の証明取消サービスを受けられる。その取消方法はクレジットカード発行業者に対する場合と同様であるが、365日毎日24時間可能である。国民登録センターの方針では、各種のサービス提供者は利用の都度顧客の認証の有効性チェックが義務付けられ、モバイル証明の場合も同様である。

 SIMカードの利用時の責任について要約すると次のとおりとなる。あらゆる証明発行者の責任(正当な本人以外の者に証明書を発行したり登録を取り消すべきでない場合に取り消した場合などの「補償」を含む)は、前記のEU指令やフィンランドの国内法(電子署名法)に定められている。また、カード発行者として活動する者は証明機関(CA)、国民登録センターが定める要件を満たすことになる。責任内容はサービス提供者のポリシーに記述しなければならないし、国身登録センターの取消者リストとの照合チェック義務が求められる。

 PKI認証は、本人認証の最も強固な手段であり、電子取引における否認防止対策としても有効であり、商業ベースで展開されている。なお、同方式は現在フィンランドの銀行がオンラインバンキングで使用している「ワンタイムパスワード」(注4)に比べ、より使い勝手が良く、安全性が高い。

(注4)ワンタイムパスワードは簡易な機器(トークン)を使って取引の都度暗証を組成して、使用後、暗証自体を抹消するものであり、欧米の大手銀行等(バンカメ、バークレーズ銀行、e*Trade等)で使われている。

***********************************************************

(今回のブログは2005年9月8日登録分の改訂版である)
                            
Copyright © 2005-2010 芦田勝()Masaru Ashda).All Rights Reserved.No reduction or republication without permission.

コメント

このブログの人気の投稿

米国CFTCがオハイオ州の男性とその所有企業をデジタル資産取引スキームにおける1200万ドル(約16億214万円)以上の不正勧誘と不正流用を理由に民事起訴

     米国の 商品先物取引委員会(CFTC) は8月12日、オハイオ州ニューオルバニー市住の ラスナキショア・ギリ(Rathnakishore Giri) と彼が所有するオハイオ州に本拠を置く NBD Eidetic Capital, LLC および SR Private Equity, LLC に対して、オハイオ州南部地区連邦地方裁判所に 民事法執行訴訟 を起こしたと 発表 した。   同訴状 は、ギリと彼の会社が150人以上の顧客から1200万ドル以上と少なくとも10ビットコインを不正に勧誘し、またギリと彼の会社がデジタル資産取引を目的とした顧客資金を不正に流用したと主張している。  さらに訴状は、ギリの両親であるギリ・スブラマニ(Giri Subramani)とロカ・パヴァニ・ギリ(Loka Pavani Giri)を、正当な利害関係のない資金を所有している 救済被告 (注1) として起訴している。  今回のブログは、(1)本起訴の詳細、(2)CFTC/SECの投資家アラート:ビットコイン先物における資金取引の注意喚起の概要について概観する。 1. 起訴の内容  CFTCは、その継続的な訴訟において、詐欺被害にあった顧客への補償(restitution)、不正に得た利益の返還(disgorgement of ill-gotten gains)、民事上の金銭的罰則(civil monetary penalties)、恒久的な取引および登録禁止(permanent trading and registration bans)、および 「商品取引法(Commodity Exchange Act :CEA)」 および 「CFTC規則(CFTC regulations)」 のさらなる違反に対する永久的差止命令(permanent injunction)を求めている。 2.本事件の背景  訴状は、2019年3月頃から現在まで、被告が運営しているとされるさまざまなデジタル資産投資ファンドに投資するために、少なくとも150人の顧客から1200万ドル以上と10ビットコイン以上を勧誘し、受け入れた詐欺的なスキームに関与したと訴えている。同訴状によると、被告は顧客への勧誘において、利益の保証やギリのデジタル資産トレーダーとしての成功話など、多数の虚偽で誤解を招くような声...

米大統領令(EO: Executive Order 14110)の具体的内容と意義およびそれに基づく責任の履行を支援するためNIST「情報提供依頼文書 」の具体的内容

   筆者は、12月6日の本ブログで2023年10月30日の大統領令(EO: Executive Order 14110)(以下、「EO」という)を受けたNISTの具体的行動につき 「 NISTからこのほど公開された「 NIST SP 800-226 草案」および「差分プライバシー保証を評価するためのガイドライン草案」に対するパブリックコメントの背景と意義」 を取り上げた。  しかし、執筆後もいまいち大統領令(EO)のファクトシートも含め真の目的や商務省の規則案のとりまとめ期限など疑問点が残されていた。その内容を補完する意味で今回のブログで補筆するとともに、後段でNISTが2024年2月2日を期限として発布した「情報提供依頼文書 (Request for Information (RFI) )」の概要について解説を試みる。  また、本ブログでは、わが国では詳しく論じられていない米国「国防生産法(Defense Production Act of 1950 :DPA)」の意義と最新動向にも言及した。  なお、今回のブログの内容は12月6日の筆者ブログと重複する部分が一部あるが、 Kilpatrick Townsend & Stockton LLPの和文解説 と併せ読まれたい。 Ⅰ.大統領令 (EO: 14110) の具体的内容の解析    JD Supra, LLCの 「The highly-anticipated US Executive Order on artificial intelligence: Setting the agenda for responsible AI innovation」 を要約しつつ仮訳する。  このEOは、多くの点で AI に関するこれまでのバイデン政権の行動を超えている。 この広範囲かつ堅牢な大統領令は、AI を規制するために既存の当局を利用することを想定して、米国の行政部門および政府機関 (機関) に、①標準、②フレームワーク、③ガイドライン、④最善実践内容を開発するよう指示した (また、独立機関にも同様に奨励する)。 また政府機関は、AI の責任ある使用に関係するほぼすべての連邦法、規則、政策に対して具体的な措置を講じる必要があるとする。  EOは、AI の使用から得られる利点を認識する一方で、国家...

DONATE(ご寄付)のお願い

  本ブログの継続維持のため読者各位のご協力をお願いいたします。特に寄付いただいた方で希望される方があれば、下記の筆者のメールアドレス宛にご連絡いただければ個別に対応することも検討中でございます。   ◆みずほ銀行 船橋支店(店番号 282) ◆普通預金 1631308 ◆アシダ マサル ◆E-メールアドレス:slutian165@gmail.com   【本ブログのブログとしての特性】 1.100%源データに基づく翻訳と内容に即した権威にこだわらない 正確な訳語づくり 。 2.本ブログで取り下げてきたテーマ、内容はすべて電子書籍も含め公表時から即内容の陳腐化が始まるものである。筆者は本ブログの閲覧されるテーマを毎日フォローしているが、10年以上前のブログの閲覧も毎日発生している。 このため、その内容のチェックを含め完全なリンクのチェック、確保に努めてきた。 3.上記2.のメンテナンス作業につき従来から約4人態勢で当たってきた。すなわち、海外の主要メディア、主要大学(ロースクールを含む)および関係機関、シンクタンク、主要国の国家機関(連邦、州など)、EU機関や加盟国の国家機関、情報保護監督機関、消費者保護機関、大手ローファーム、サイバーセキュリテイ機関、人権擁護団体等を毎日仕分け後、翻訳分担などを行い、最終的にアップ時に責任者が最終チェックする作業過程を毎日行ってきた。 このような経験を踏まえ、データの入手日から最短で1~2日以内にアップすることが可能となった。 なお、海外のメディアを読まれている読者は気がつかれていると思うが、特に米国メディアは大多数が有料読者以外に情報を出さず、それに依存するわが国メデイアの情報の内容の薄さが気になる。 本ブログは、上記のように公的機関等から 直接受信による取材 → 解析・補足作業 → リンク・翻訳作業 → ブログの公開(著作権問題もクリアー) が行える「 わが国の唯一の海外情報専門ブログ」 を目指す。 4.内外の閲覧者数の統計数(google blogger and WordPress) (1)2005.9~2017.8 全期間の国別閲覧数 (2) 2016.8~2020.8 WordPress 世界的な閲覧者数 4. 他にない本ブログの特性: すべて直接、登録先機関などからデータを受信し、その解析を...