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米国史上最大規模の原油流出事故を巡る連邦規制・監督機関やEU関係機関等の対応(第6回)(その1)

  


 6月29日付けの本ブログで、本年4月20日に発生した歴史的海洋汚事故である米国メキシコ湾「ディープウォーター・ホライズン(Deepwater Horizon)」 の半潜水型海洋掘削装置(rig)爆発事故とその後の「MC252鉱区」の大規模な原油流失について連邦監督機関の対応を中心にとりあげた。

 その際、連邦商務省・海洋大気保全庁(National Ocean and Atmospheric Administaration: NOAA)の取組状況や連邦内務省(DOI)による鉱物資源管理局(Minerals Management Service:MMS)」の機能の抜本的機構改革とトップ人事について説明した。

 一方、わが国のメディアでも報じられたとおり、オバマ大統領は8月4日、NOAAが発表した政府および独立系専門家の25人の科学者の報告「ディープウォーター・ホライズンの結末:原油流失事故で結果的に原油に何が起きているか( BP Deepwater Horizon Oil Budget: What Happened To the Oil?)」を引用し、NOAAやDOIが8月4日付けで発表した流失原油の74%が回収または自然分解・蒸発により海中に残った原油は26%と推定する調査結果を述べた。
 また、泥等を油井に注入するMC252鉱区Macondo 海底油田におけるBP社の封鎖作業につき「完全封鎖(static kill)」工法(static kill技法とは海上から泥を詰め、その後セメントで固める。目標は全ての 原油を海底数マイル下の溜め池(reservoir)に戻し、油井を完全封鎖するというもの)
(筆者注1)につき8時間にわたり行われた同作業は望ましい結果が得られたと述べた。(筆者注2)

 これと時期を合わせ8月2日、連邦保健福祉省・食品医薬品局(FDA)は漁業が認められる海域の海産物につきフロリダ州ミシシッピー州の「安全宣言」
(筆者注3)を行った。

 ここまでであれば、今回のブログをあえて書く意味は極めて薄い。筆者は「安全宣言」に関しNOAA等の資料を改めてこれまでの経緯を含め整理し、同時にNOAA・DOIがまとめた科学者報告の内容につき原資料の内容を検証してみた。

 専門外の筆者にとってこのような作業に意味はごく限られた科学的意味しかないことは十分承知しているが、内外のメディアが正確に分析していない2009年12月に欧州委員会が行った米国からの貝類(molluscan shellfish)および一定の水性無脊椎動物(marine invertebrates)等の本年7月1日以降の全面的輸入禁止措置決定や、米国の食品の安全性問題の専門家の意見についても正確に反映しなければ「真実」は永久に見えてこないし、消費者の健康は誰も保証できないと考えあえて本ブログをまとめた(オバマ大統領がミシシッピーを訪問した際、現地でシーフードを食したというAP通信やBP社の幹部がメキシコ湾産の魚介類を家族にサービスするというコメントを鵜呑みしてはいけない)。

 また、これらの作業を通じて筆者は連邦機関と州機関によるメキシコ湾沿岸の商業漁業の再開に向けた連携の内容と、そこから見える今回の安全宣言は決して十分な科学的根拠に基づく手法といえるのか、BP社の被用者が本当の被害の訴えを出来るのか、さらにわが国の海底開発や食品安全関係者による専門的検討やその公開が重要であるという確信が得られた。
 その意味で本文で紹介する全米科学アカデミー医学研究所(Institute of Medicine of the National Academies)が7月22日、23日に主催した研究会「メキシコ湾原油流失による人の健康被害に関する科学的評価」の各アジェンダは網羅的かつ専門的であり、その内容は極めて興味がある。

 さらに補足すると「スペイン・ガリシア海岸沖のタンカー流失原油清浄作業者の長引く呼吸器系疾患(Prolonged Respiratory Symptoms in Clean-up Workers of the Prestige Oil Spill)」は2002年11月19日、スペインのガリシア海岸沖で発生した老朽タンカー「プレステージ号」の海洋汚染事故によるスペインやフランス等近隣国の清浄作業員や地元住民の健康や自然環境への影響の分析は数少ない研究成果として貴重なものであるが、米国行政・研究機関がどれほど重要視しているかは定かではない。

 今回は、4回に分けて掲載する。


1.NOAA・DOIが発表した「ディープウォーター・ホライズンの結末:原油流失事故で結果的に原油に何が起きているか( BP Deepwater Horizon Oil Budget: What Happened To the Oil?)」の内容と意義
(1)本報告(全5頁)の要旨
 ここで報告書の内容についてあえて詳しく紹介する意義を述べて置く。
本報告のポイントは2点であり、4月20日のrig爆発から流失の封じ込めが成功したとされる7月15日の間の原油流質量は490万バレル(約78万キロリットル)と推計したこと、油膜など流失原油の海中に残っているのはそのうち約26%であるというものである。
わが国のメディアも報じているとおり、74%の内訳はBP社等による直接回収(17%)、海上での燃焼処理(5%)、手作業等によるすくいとり(3%)、処理剤による分散(8%)である。
また、バクテリアによる自然分解や気化で41%が消失したという内容である。
関係機関による今後のモニタリングや調査活動の重要性は継続するとともに連邦機関専属科学者によるメキシコ湾の生態系への重大な懸念は依然残されているという表現も残している。
筆者は報告書から次のような米国の大規模災害時の全米非常時指令官(National Incident Command:NIC)(筆者注4)を中心とする関係機関による具体的な活動内容に注目した。長くなるが、メディア報告以上にダイナミックに理解するため、以下のとおり仮訳する(専門外の訳文作業なので誤訳等があればコメントいただきたい)。

「全米非常時指令官(National Incident Command:NIC)は、BP 社のデープウォーター・ホライズンの原油が油井から流失した際、原油とその最終結果を見積るために多くの省庁の専門家による科学者チームを組成した。 これらのチームのメンバーとなる連邦機関専属科学者の専門的技術は、流失量の推定計算と流失結末を見直す民間および政府の専門家によって補完された。
 第一のチームは、原油の流速と総流失量を推定計算した。 連邦エネルギー長官スティーブン・チュウ(Steven Chu)連邦地質調査局(USGS)局長のマーシャ・マクナット(Marcia McNutt)によって指揮されたこのチームは、2010年8月2日に合計490万バレルの石油がBP Deepwater Horizon掘削パイプから流失したと見積もったと発表した。
 2番目の省庁チームは、連邦商務省・海洋大気保全庁(NOAA)と連邦内務省(DOI)によってリードされ、最終的に何が流出原油に起こったかを確定するために「流失原油の最終結末(Oil Budget Calculator)」と呼ばれる推計計算ツールを開発した。同ツールにより何が流失原油に起っているかを決定するとともに490万バレルの流失量の見積りを行った。 以下の関係省庁共同科学報告書は、同計算結果に基づき、これまでの原油の状況をまとめたものである。

 結論を要約すると、油源から流失されて、海上燃焼処理 (burning)、海面でのすくいとり(skimming)、および原油の直接回収により源由井からの流失源油の四分の一(25%)を取り除いたと見積もられた。 総油の四分の一(25%)が、自然に気化(evaporated)したか、または溶けた(dissolved)。そして、自然または清浄部隊の作業の結果、ちょうど四分の一(24%)未満は顕微鏡大の小滴としてメキシコ湾の水域に分散した。 残りの量とちょうど四分の一(26%)以上は 海面の上または海面のすぐ下で軽い輝く物(light sheen)として残り、乾燥タールの塊(weathered tar balls)となったり、岸に漂着するか、岸で集められるか砂と沈殿物の中に埋れた。 残余物や分散化カテゴリーに含まれる原油は分解された。 以下でのレポートは、それぞれのこれらのカテゴリーとその計算根拠について説明する。 これらの推定見積りは、追加情報が利用可能になるかぎり精査され続ける。
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(筆者注1) 7月15日に油井にキャップを取り付け、ラムを閉めて原油流出を止めた以降、噴出につながる漏れがないか確認するため油井の圧力や周辺の海底を調査しているが、漏れは見つかっていない。作業は2段階で行われる。まず8月3日から、キャップの下部から泥を流し込んで油井を封じる「Static Kill」(静的封じ込め)と呼ばれる作業を実施する。
 1ガロン当たり30ポンドの泥を低速、低圧力で井戸に流し込み、原油を油層に押し戻す。
その5~7日後にリリーフ井戸の完成を待ち、リリーフ井戸からセメントを流し、油井を下から密封する。(7月29日現在で、流出油井から数フィートの位置まで掘削が進んでいる)
 BPは前回、同様に油井に泥やセメントを流し込む「Top Kill」を試み、失敗したが、この時は原油が流出している場面で実施した。
今回はキャップで流出は止まっており、成功の可能性は強いという。(8月2日付「化学業界の話題」から引用。)
 なお、連邦関係機関は直ちにセメントによる油井の完全封鎖を行うか、8月中旬までのリリーフ井の調査結果の基づき行うかを決定しなくてはならない。これには「リリーフ井(Relief Well)」(リリーフ井は現在原油流出が続く油井(本油井)から離れた場所(今回の場合は800m離れている)から斜めに井戸を掘り進み、本油井と交差する場所まで堀り、そこへセメント等を流し込み原油流出を遮断する方法である。この方法は原油フローを遮断する方法としては一番確実な方法とされている。― 2010 年 6 月10 日JPEC 海外石油情報(ミニレポート)より一部抜粋引用。)に漏れがないかどうかの調査が必要である。

(筆者注2) BP社のメキシコ湾原油流で事故専門ウェブサイト“gulf of Mexico Response”は8月5日付けで「BP Completes Cementing Procedure on MC252 Well 」と題してセメント注入作業は完全に遂行できたと報じている。また、BP社の探査・生産担当COOのデューク・シュトル氏(Doug Suttles)はMC252鉱区の今後について「BP社はメキシコ湾の流失完全停止が現下の最大の課題であり、reservoirの将来の活用については考えていない。またセメント注入がうまく行った元々掘削した穴(wellbore)や2つのリリーフ井については今後の油田開発の一部として使用することはない」と強調している。
 なお、BP社は流失封じ込め作業手順についての動画解説サイトで解説している。

(筆者注3) 確かにフロリダ州の商業的漁業海域の再開時のFDAのハンブルグ局長の声明は確かに「安全宣言」といえる内容である。しかし、本文で紹介したNOAA・DOIが発表した「ディープウォーター・ホライズンの結末:原油流失事故で結果的に原油に何が起きているか」の原文を再度読んでほしい。ここでは原油や分散剤の気化や処理がすすんでいる証拠は記載されているが魚介類等の安全性について直接は言及していない。

 また、8月5日付け朝日新聞夕刊は「FDAは2日、漁業が認められる海域の海産物について「安全宣言」を出した。」と報じているが本文で説明したとおり、商業的漁業許可海域は連邦管理海域と州の管理海域があり、またすべての漁業が再開されたわけではない(8月2日にFDA局長であるMargaret A. Hamburg氏が安全宣言したのはルイジアナ、ミシシッピー、フロリダの3州のみであり、7月30日時点でフロリダ州漁業・野生動物保護委員会宛送った通知でも漁業・またカニ(crab)やエビ( shrimp)についての検査結果は出ていない旨明記している)。朝日新聞が米国のどのメディア報道を元に書いたのかは不明であるが、このようなミスリードを招く報道は言うまでもなく「No」ある。

(筆者注4) NICは、地方自治体から州政府、連邦政府までの各行政レベルに散在する各種の資源を有機的に動員するため平時は別々の組織であっても、緊急時には相互が連携して統制のとれた活動ができるよう、あらかじめ災害対応手順、指揮命令系統、さらには用語を統一させておくといったもの。その管理システムを”National Incident Management System (NIMS)”という。


[参照URL]

・FDAのフロリダ州沖の海産物の安全宣言
https://www.fda.gov/food/food-safety-during-emergencies/gulf-mexico-oil-spill
・FDAのミシシピー州沖の海産物の安全宣言
https://www.gulflive.com/mississippi-press-news/2010/08/mississippi_oysters_are_safe_t.html
・全米科学アカデミー医学研究所(IOM)が7月22日、23日に主催した研究会「メキシコ湾原油流失による人の健康被害に関する科学的評価」

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK209920/

・欧州委員会の輸入品目規制のうち「第三国リスト」に関する決定
http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2009:328:0070:0075:EN:PDF
・2002年スペインのガリシア海岸沖で発生した老朽タンカー「プレステージ号」の海洋汚染事故の人体への影響検査報告
http://www.jpmac.or.jp/img/research/pdf/A201640.pdf

http://www.fda.gov/NewsEvents/Newsroom/PressAnnouncements/ucm220841.htm
・全米科学アカデミー医学研究所(IOM)が7月22日、23日に主催した研究会「メキシコ湾原油流失による人の健康被害に関する科学的評価」
http://www.iom.edu/Activities/PublicHealth/OilSpillHealth/2010-JUN-22.aspx
・欧州委員会の輸入品目規制のうち「第三国リスト」に関する決定
http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2009:328:0070:0075:EN:PDF
・2002年スペインのガリシア海岸沖で発生した老朽タンカー「プレステージ号」の海洋汚染事故の人体への影響検査報告
http://ajrccm.atsjournals.org/cgi/reprint/176/6/610

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