スキップしてメイン コンテンツに移動

米国連邦預金保険公社が一部預金保険対象預金の保障額を25万ドルとする恒久措置通達を出状

  


 5月3日付けの本ブログで、米国金融監督機関でありかつ預金保険保障機関である連邦預金保険公社(FDIC)の預金保護限度額の引上げ措置および暫定措置の延長にかかる経緯等について次のとおり詳しく解説した。

 「米国では2008年10月3日 「緊急経済安定化法(Emergency Economic Stabilization Act of 2008(EESA):H.R.1424)」が成立し、同年10月8日にFDICは、EESAに基づき、預金保護限度額を 10万ドル(約850万円)から25万ドル(約2,125万円)に引き上げたと発表した。また非金利の当座預金等についてはFDICによる「暫定流動性保護プログラム(temporary Transaction Account Guarantee Program:TTAGP)」として金額無制限に保護すると発表した。施行は同年10月3日からであり、何れも2009年12月末までの暫定的措置であった。

 しかし、銀行の経営破たんの状況は引続いており、預金者の信用不安を回避するため2009年5月20日に成立した前記“Helping Families Save Their Homes Act of 2009”により、オバマ政権は、借入枠の拡大(2010年までは5,000億ドル)と、預金保護拡大措置の延長とを決めた。すなわち2008年10月に成立した金融安定化法で導入された保護上限の拡大措置(10万ドルを25万ドル)を2013年12月31日まで延長するとした。」

 実はこのようなTTAGPに基づく暫定延長措置はその後も続いており、FDICは2009年8月26日に2010年6月30日まで金額無制限の適用範囲の拡大を行い、さらに2010年4月13日には、同措置の2010年12月31日までの暫定期間の再々延長(更なるFDIC規則の改正措置なしに12か月の再延長の可能性も明記)通知を行うとともに、TTAGPの延長措置の脱退を希望する加盟金融機関については4月30日までに「オプト・アウト」する権利を留保した(同権利は2010年7月1日から有効となる)。

 今回のブログは金融規制監督や銀行経営の抜本的改革を目指して本年7月21日に成立した「ドッド・フランク・ウォールストリート金融街改革および消費者保護法(Dodd–Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act:H.R.4173)」(ドッド・フランク法)
 (筆者注1)の包括的な解説作業をまとめる中で出てきた問題ではあるが、実は米国金融改革の更なる大きな課題を提供する預金保険制度の課題を正確に見据える意味で取り上げた。

1.FDICによるTTAGPに基づく保障金額や対象預金に関する暫定措期間の延長
(1)FDICは2009年8月26日に2010年6月30日までTTAGPに基づくFDIC加盟金融機関において金額無制限の適用範囲を「非金利(無利子)預金(要求払い預金(Demand Deposit Account:DDA))、0.5%以上の金利を得られない「低金利の普通預金(low-interest NOW account)」、「銀行振出小切手(cashier or bank checks)」および「弁護士預り金信託勘定(Lawyer Trust Accounts)」(筆者注2)まで拡大することを通知した。

(2)2010年4月13日には、同措置の2010年12月31日までの暫定期間の再延長(更なるFDIC規則の改正措置なしに12か月の再延長の可能性も明記)通知を行うとともに、TTAGPの延長措置の脱退を希望する加盟金融機関については4月30日までに「オプト・アウト」する権利を留保した(同権利は2010年7月1日から有効となる)。

2.「ドッド・フランク・ウォールストリート金融街改革および消費者保護法」の可決・成立と一部預金につきFDIC標準保証金額25万ドルの恒久措置
(1)2010年7月21日「ドッド・フランク法」の大統領署名と成立
 第Ⅲ編副編C FDIC 第335条「銀行や信用組合の預金保障額の恒久的増額( PERMANENT INCREASE IN DEPOSIT AND SHARE INSURANCE):165頁」に定める内容に従い、従来の預金保険法(12 U.S.C.1821(a)(1)(E))で定める10万ドルから暫定措置により引上げられていた25万ドルに恒久的に引上げられた。
(7月21日付、FDIC通達参照。)

(2)FDICの最終規則
 これを受けて、FDICは8月10日開催の理事会において「FDICの標準保障限度額(standard maximum deposit insurance amount:SMDIA)の10万ドルから25万ドルへの恒久的引上げおよびその店頭ロゴ広告の改正規則最終案)(Final Rule to Conform Deposit Insurance and Advertising (Logo) Regulations to Permanent SMDIA of $250,000 )」を採択した。この結果、連邦預金保険規則の第12編パート330および同編パート328が改正され、SMDIAは7月22日から施行されることとなった。
 なお、FDIC保障額の公式署名ロゴは即日25万ドルに改正されており、加盟金融機関は2011年1月3日までにロゴ等の差し替えを行うことが義務付けられている。
(8月12日付、FDIC通達参照)

(3)FDICのその他関連措置
 FDICの「保障保険料計算の専用ウェブ“Electronic Deposit Insurance Estimator:EDIE”」の内容も即日限度額は25万ドルに更新された。
*************************************************************************************************:

(筆者注1)「ドッド・フランク・ウォールストリート金融街改革および消費者保護法(ドッド・フランク法)」に関する連邦議会での審議経緯の概略は次のとおりである。
「2009年12月11日、連邦議会下院で「ウォールストリート金融街改革および消費者保護強化法案( Wall Street Reform and Consumer Protection Act of 2009:H.R.4173)(以下“H.R.4173”という)」が可決された(提案者(sponsor)は下院「金融サービス委員会」委員長バーニー・フランク(Barney Frank:民主党、マサチューセッツ州選出)および連邦財務省)。本法案はオバマ政権も強くその成立を希望しており、今後はより規制強化の内容をもつ別法案「2009年米国金融安定復元法(Restoring American Financial Stability Act of 2009)」(提案者はクリス・J・ドッド上院「銀行・住宅・都市委員会」委員長)を擁している上院で審議が行われた。
 また、フランク委員長が同時に提案した「2009年金融安定化改善法(Financial Stability Improvement Act of 2009:H.R.3996)(以下“H.R.3996”という)」も11月18日、金融サービス小委員会で修正のうえ同委員会を通過している。

 参考までに2009年12月、H.R.4173が下院に上程されたときの主旨説明のキーワードを紹介しておく。
①「消費者金融保護庁( Consumer Financial Protection Agency:CFPA)」の創設
②財務省内に「金融安定化協議会(Financial Stability Oversight Council:FSOC)」の創設
③財務省内に「金融調査局(Office of Financial Research:OFR)」の創設
④銀行事業体に対する自己勘定取引の原則禁止、ヘッジファンド等への投資の一般的禁止(ボルカー・ルール)
⑤巨大な金融機関の解体権限と「破綻させられないくらい大きすぎる金融機関」の存在を終結させる(Dissolution Authority and Ending “Too Big to Fail”)
⑥役員報酬やゴールデンパラシュートに対する株主の勧告的投票権(Executive Compensation)付与:
⑦SECの権限強化など投資家保護(Investor Protection)
⑧金融派生化商品の規制強化(Regulation of Derivatives)
⑨不動産担保制度改革と略奪的融資禁止(Mortgage Reform and Anti-Predatory Lending)
⑩信用格付け機関の改革(Reform of Credit Rating Agencies)
⑪ヘッジファンド、未公開株式および私募資本プール登録制度(Hedge Fund, Private Equity and Private Pools of Capital Registration)
⑫連邦財務省内に保険局の創設(Office of Insurance)

 同改革法案は上院で2010年5月20日可決、6月30日に下院で上院との調整修正案が可決、H.R.4173は7月15日に上院で最終可決された。
  この間、上院と下院は内容の調整協議(House and Senate conferees)を行い、6月29日に下院委員会は「ドッド・フランク・ウォールストリート改革および消費者保護法(Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act)」の最終調整案の要旨を公表した。

(筆者注2) “Interest on Lawyers Trust Accounts (IOLTA)”とは、弁護士が依頼者から受け取っている預り金を、小口のまま銀行に預けていたのでは手数料等差し引かれ実質的な利子が付かないので、1つの口座にまとめてその利子を貧困者への法的サービス提供の資金して利用する効率的口座管理制度である。


[参照URL]
[FDICの関係通達]
http://www.fdic.gov/news/news/press/2010/pr10161.html
http://www.fdic.gov/news/news/financial/2010/fil10049.html

[ドッド・フランク・ウォールストリート改革および消費者保護法(ドッド・フランク法)の原文]
http://frwebgate.access.gpo.gov/cgi-bin/getdoc.cgi?dbname=111_cong_bills&docid=f:h4173enr.txt.pdf

[連邦議会下院金融サービス委員会のH.R.4173専用サイト]
http://financialservices.house.gov/Default.aspx

********************************************************************

Copyright © 2006-2010 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.No reduction or republication without permission

 


コメント

このブログの人気の投稿

ウクライナ共同捜査チームの国家当局が米国司法省との了解覚書(MoU)に署名:このMoU は、JIT 加盟国と米国の間のそれぞれの調査と起訴における調整を正式化、促進させる

  欧州司法協力機構(Eurojust) がウクライナを支援する共同捜査チーム (Ukraine joint investigation team : JIT) に参加している 7 か国の国家当局は、ウクライナで犯された疑いのある中核的な国際犯罪について、米国司法省との間で了解覚書 (以下、MoU) に署名した。この MoU は、ウクライナでの戦争に関連するそれぞれの調査において、JIT パートナー国と米国当局との間の調整を強化する。  このMoU は 3 月 3 日(金)に、7 つの JIT パートナー国の検察当局のハイレベル代表者と米国連邦司法長官メリック B. ガーランド(Merrick B. Garland)によって署名された。  筆者は 2022年9月23日のブログ 「ロシア連邦のウクライナ軍事進攻にかかる各国の制裁の内容、国際機関やEU機関の取組等から見た有効性を検証する!(その3完)」の中で国際刑事裁判所 (ICC)の主任検察官、Karim A.A. Khan QC氏 の声明内容等を紹介した。  以下で Eurojustのリリース文 を補足しながら仮訳する。 President Volodymyr Zelenskiy and ICC Prosecutor Karim A. A. Khan QC(ロイター通信から引用) 1.ウクライナでのJITメンバーと米国が覚書に署名  (ウクライナ)のICC検事総長室内の模様;MoU署名時   中央が米国ガーランド司法長官、右手がICCの主任検察官、Karim A.A. Khan QC氏  MoUの調印について、 Eurojust のラディスラフ・ハムラン(Ladislav Hamran)執行委員会・委員長 は次のように述べている。我々は野心のために団結する一方で、努力においても協調する必要がある。それこそまさに、この覚書が私たちの達成に役立つものである。JIT パートナー国と米国は、協力の恩恵を十分に享受するために、Eurojustの継続的な支援に頼ることができる。  米国司法長官のメリック B. ガーランド(Merrick B. Garland)氏は「米国が 7 つの JIT メンバー国全員と覚書に署名する最初の国になることを嬉しく思う。この歴史的な了解覚書は...

米国連邦取引委員会(FTC)が健康製品に関する新しい拡大コンプライアンスガイダンスを発行

   2022年12月20日、米国連邦取引委員会(以下、FTCという)は、以前の 1998年のガイダンスである栄養補助食品:業界向け広告ガイド(全32頁) を改定および置き換える 健康製品等コンプライアンスガイダンス の発行を 発表 した。 Libbie Canter氏 Laura Kim氏  筆者の手元に Covington & Burling LLPの解説記事 が届いた。筆者はLibbie Canter氏、Laura Kim氏他である。日頃、わが国の各種メディア、SNS、 チラシ等健康製品に関する広告があふれている一方で、わが国の広告規制は一体どうなっているかと疑うことが多い。  FTCの対応は、時宜を得たものであり、取り急ぎ補足を加え、 解説記事 を仮訳して紹介するものである。 1.改定健康製品コンプライアンスガイダンスの意義  FTCは、ガイドの基本的な内容はほとんど変更されていないと述べているが、このガイダンスは、以前のガイダンスの範囲につき栄養補助食品を超えて拡大し、食品、市販薬、デバイス、健康アプリ、診断テストなど、すべての健康関連製品に関する主張を広く含めている。今回改定されたガイダンスでは、1998年以降にFTCが提起した多数の法執行措置から引き出された「主要なコンプライアンス・ポイント」を強調し、① 広告側の主張の解釈、②立証 、 その他の広告問題 などのトピックに関連する関連する例について具体的に説明している。 (1) 広告側の主張の特定と広告の意味の解釈  改定されたガイダンスでは、まず、広告主の明示的主張と黙示的主張の違いを含め、主張の識別方法と解釈方法について説明する。改定ガイダンスでは、広告の言い回しとコンテキストが、製品が病気の治療に有益であることを暗示する可能性があることを強調しており、広告に病気への明示的な言及が含まれていない場合でも、広告主は有能で信頼できる科学的証拠で暗黙の主張を立証できる必要がある。  さらに、改定されたガイダンスでは、広告主が適格な情報を開示することが予想される場合の例が示されている(商品が人口のごく一部をターゲットにしている場合や、潜在的に深刻なリスクが含まれている場合など)。  欺瞞やだましを避けるために適格な情報が必要な場合、改定されたガイダンスには、その適格...

英国の Identity Cards Bill(国民ID カード法案)が可決成立、玉虫色の決着

  2005年5月に英国議会に上程され、英国やEU加盟国内の人権保護団体やロンドン大学等において議論を呼んでいた標記法案 (筆者注1) が上院(貴族院)、下院(庶民院) で3月29日に承認され、国王の裁可(Royal Assent)により成立した。  2010年1月以前は国民IDカードの購入は義務化されないものの、英国のパスポートの申込者は自動的に指紋や虹彩など生体認証情報 (筆者注2) を含む国民ID登録が義務化されるという玉虫色の内容で、かつ法律としての明確性を欠く面やロンドン大学等が指摘した開発・運用コストが不明確等という点もあり、今後も多くの論評が寄せられると思われるが、速報的に紹介する。 (筆者注3) 1.IDカード購入の「オプト・アウト権」  上院・下院での修正意見に基づき盛り込まれたものである。上院では5回の修正が行われ、その1つの妥協点がこのオプショナルなカード購入義務である。すなわち、法案第11編にあるとおりIDカードとパスポートの情報の連携を通じた「国民報管理方式」はすでに定められているのであるが、修正案では17歳以上の国民において2010年1月(英国の総選挙で労働党政権の存続確定時)まではパスポートの申込み時のIDカードの同時購入は任意となった。 2.2010年1月以降のカード購入の義務化  約93ポンド (筆者注4) でIDカードの購入が義務化される。また、2008年からは、オプト・アウト権の行使の有無にかかわりなく、パスポートのIC Chip (筆者注5) に格納され生体認証情報は政府の登録情報データベース (筆者注6) にも登録されることになる。 ******************************************************: (筆者注1) 最終法案の内容は、次のURLを参照。 http://www.publications.parliament.uk/pa/ld200506/ldbills/071/2006071.pdf (筆者注2) 生体認証の指紋や虹彩については、法案のスケジュール(scheduleとは,英連邦の国の法律ではごく一般的なもので、法律の一部をなす。法本文の規定を受け,それをさらに細かく規定したものである。付属規定と訳されている例がある。わが国の法案で言う「別表」的なもの)...