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米国史上最大規模の原油流出事故を巡る連邦規制・監督機関やEU関係機関等の対応(第2回―その3完)

  Ⅲ.連邦商務省・海洋大気保全庁(National Ocean and Atmospheric Administaration: NOAA)機能と役割の取組み  わが国では一般的に知られていない“NOAA”の役割とはいかなるものであろうか。「大型タンカーなどからの油流出事故は深刻な海洋環境汚染を引き起こし、漁業や観光産業、海上交通などに大きな被害を及ぼす。大規模な油流出事故が発生した場合、被害を最小限に食い止めるには、初期の段階での適切な漂流予測に基づいた防除活動が重要である。(中略) 海上保安庁水路部海洋調査課は本分野に長年の経験を有する米国(NOAA)の危険物流出対応室(HAZMAT)を訪問して、災害発生時の漂流予測及びその精度向上について情報収集及び意見交換を実施して、今後の漂流予測体制の強化を図る。(以下略)(平成11年 「漂流予測の高度化に関する交流育成」 海上保安庁水路部海洋調査課の報告) より引用。  実際、その提供するメキシコ湾の図は分かりやすく、ディープウォーター・ホライゾンの連邦政府専門サイト“Deepwater Horizon Response”でもNOAAの解析図等を多用している。  では、今回の原油流失に関しNOAAの対応はいかなる内容であろうか。 専用サイト の解説内容を見ておく。 (1)NOAAとニューハンプシャー大学の海岸線対応調査センター(the Coastal Response Research Center)が共同開発した“Environmental Response management Application”によるウェブベースの“Geographic Information System (GIS) tool”プラットフォームである “GeoPlatform.gov/gulfresponse”  は、リアルタイムで原油流失やBPや関係機関の対応状況を把握できる。 (2)毎日の更新情報(6月22日現在) ①連邦政府の指示で、BP社は封じ込めドームの技術(containment dome technique)を利用した原油の捕獲と水面上のガスの燃焼を継続している。 ②トランス・オーシャン社が保有する大型海洋深海油田掘削船 「ディスカバラー・エンタープライズ(Discoverer Enterprise )」 ...

米国史上最大規模の原油流出事故を巡る連邦規制・監督機関やEU関係機関等の対応(第2回―その2)

  (2) 内務省の「MMS改革プログラム10原則」の内容 ①新しい倫理基準の設置 Salazar長官は2009年1月、MMS役職員のための新倫理ガイドラインを発布した。MMSの全従業員は倫理教育を受け、また2009年3月に倫理綱領の遵守が要求される。  なお、MMSは極めて莫大な石油利権に関わるため、原油掘削企業等からの収賄・賄賂等不正行為が横行し、 2009年8月連邦議会行政監査局(GAO)報告 やIGの指摘の概要を理解するために米国の主要メディア(New York Times、Bloomberg)を読んでみた。わが国では正確に紹介されていないこの問題につき記事等で補足する。   ブルームバーグ は、サラザール長官の連邦議会下院「天然資源委員会(Committee on Natural Resources)」での証言中でGAO報告 (筆者注5) 等を引用し、米国のPIKプログラムの監査、会計、および従業員のモラルの低下等失敗を認めたと述べている。筆者は特に前述した倫理観の欠如がなぜここで出てきたのか、初めは理解できなかったが、IGの報告すなわち、MMSの従業員の「薬物乱用と乱交の文化」石油会社からの賄賂、セックス、コカインやメタフェタミン(ヒロポン)の乱用に事実が報告されたとある。議会もこの問題は放置せずに従来からこの問題に取組んでいる Nick J.Rahall委員長(ウェスト・バージニア州選出:民主党)等による 改正法案の動き を紹介している。なお、ブルームバーグの記事は石油会社の対応等にも言及しており、参考になる。 (3)MMS業務執行プログラムの改革 ①原油・ガスという現物による掘削権利用料支払方式(Royalty –in-Kind(PIK) Program)の廃止 1982年以来が行ってきた戦略的石油備蓄(Strategic Petroleum Reserve:SPR)を含む“Royalty –in-Kind Program”とはいかなるものか、上記のとおりわかりやすい訳語も含めこの言葉だけでは理解できないし、米国メディアも丁寧に解説していない。  MMSに “Royalty –in-Kind Program”専門サイト がある。サラザール長官の改革基本原則の優先課題である。その冒頭にGAOの勧告で指摘され議論を呼んだ “Royalty –in...

米国史上最大規模の原油流出事故を巡る連邦規制・監督機関やEU関係機関等の対応(第2回―その1)

    Last Updated:February 25,2021   6月24日付けの本ブログ で、世界的に注目されている歴史的海洋汚染事故である米国「ディープウォーター・ホライズン(Deepwater Horizon)」 の半潜水型海洋掘削装置(rig )爆発事故とその後の大規模な原油流失についてとりあえず第1回目の報告を行った。  今回は、6月20日記載時に時間の関係で十分言及できなかった、(1)連邦内務省の下部機関で石油やガス施設の掘削認可・監督機関である「海洋エネルギー管理、規制、執行局(Bureau of Ocean Energy Management, Regulation,and Enforcement:BOE)(同局は6月17日即日施行で従来の「鉱物資源管理局(Minerals Management Service:MMS)」から職員等の倫理面強化や権限の細分・明確化による監督強化のため改組・改革・改称し、連邦内務省長官ケン・サラザール(Ken Salazar)  (筆者注1) は元連邦司法省監察官(former Justice Department Inspector General)のミシェル・ブロムウィッチ(Michael Bromwich)を局長に任命するといった取組みの背景、(2)連邦商務省・海洋大気保全庁(National Ocean and Atmospheric Administaration: NOAA)の取組状況について解説する。  特に、今回、ディープウォーター・ホライズンの司法省、内務省(BOE)、エネルギー省を除く環境、保健、食品連邦関係機関や関係州の取組みについて網羅したサイトが、連邦保健福祉省・国立衛生研究所(The National Institutes of Health :NIH)) NIH・国立医学図書館(The National Library of Medicine :NLM)の「大規模災害情報管理センター(the Disaster Information Management Research Center)」サイトであることが分かった。 (筆者注2)  次回以降、USCG、 FDA  といった連邦環境調査や沿岸安全保持機関、食品安全保障機関や漁業規制機関等の取組状況について解...

米国史上最大規模の原油流出事故を巡る連邦政府、関係州政府や連邦規制・監督機関等の対応(第1回-3完)

  7.環境保護団体の取組み事例紹介  米国に本拠を持つ環境保護NPO団体 “Food & Water Watch” の代表(executive director)である ウエノア・ハウター氏(Wenonah Hauter) は6月8日、英国エネルギー・気候変動省(DECC)のクリス・ハフニー(Secretary of State for Energy and Climate Change)閣内大臣がディープウォーター・ホライゾンの大惨事を受けてオイル検査者を増員した件を取り上げている。 Wenonah Hauter 氏 8.オバマ政権とカール・ヘンリック・スバンベリBP会長等との合意内容  6月16日の ホワイトハウスの声明   (筆者注6) によると、BP社は今年を含めた4年間で計200億ドル(年50億ドル)を政府やBP社がコントロールするのではなく補償専用口座(エスクロー勘定(escrow account):この用語は「プロジェクト・ファイナンスの返済原資となるキャッシュフローをプロジェクトの破綻等の非常事態に備え、プロジェクト事業体から隔離しておくための口座。返済の確実性を高める。」という意味である)に拠出する。同口座は原油流出で被害を受けた個人や企業への補償を目的とし、弁護士のケネス・ファインバーグ(Kenneth Feinberg)氏の監視下に置かれる。  同氏は、2001年の「9.11米同時多発テロ」の犠牲者向け補償基金を管理して名をはせ、その後、不良資産救済プログラム(TARP)の適用を受けている企業の役員や高報酬従業員の報酬規制に関する報酬基準およびコーポレート・ガバナンスの暫定最終規則の制定および連邦財務省のTARP担当特別報酬監督官(Special Master)として任命され、さらに今回BP補償基金の管財人となったのである。 (筆者注7)  ホワイトハウスの声明では、次のような点を強調している。 ①200億ドルの補償金額は上限キャップではない。メキシコ湾岸で生活や仕事を行う人々や企業等に対しBP社は彼らの請求を遵守することを公に明言した。今回のオバマ政権がBPとの間で合意した内容は金銭面および法的な枠組みの確立することにある。 ②200億ドルの補償基金は原油流失のより住民自身や漁業等事業において経済的損失が生じたとき...

米国史上最大規模の原油流出事故を巡る連邦政府、関係州政府や連邦規制・監督機関等の対応(第1回-2・完)

  4.連邦エネルギー省の対応  連邦エネルギー省の チュウ長官(Steven Chu) は「Deepwater Horizon」専用サイトの冒頭で、「透明性原則は公益面だけでなく科学的な対応過程の一部である。我々は独立性をもった科学者、技術者およびその他の専門家が、この事故情報につき見直しかつ自らの結論を下すべくあらゆる機会を確認すべきである。」と述べている。  また、同省は「オバマ政権のBP社時原油流失に関する透明性をもった現下の取組機関として、現地原油流失の図解(schematics)へのオンラインアクセス、加圧試験(pressure test)、診断結果および誤作動している噴出防止装置(blowout preventer)やその他のデータを提供している」と説明している。  同省のサイトでは、全面的にBP社の直接的提供データに基づき極めて専門的な図解解説を行っている。しかし、皮肉にもBP社は、司法省の言明を待つまでもなく環境保護面だけでなく労務管理なども含め適切な対応を取ってこなかった「地球を壊す穴掘り企業」の代表になった。この点につきエネルギー政策全体の監督庁であるエネルギー省長官や連邦内務省の下部機関で石油やガス施設の掘削認可・監督機関である「海洋エネルギー管理、規制・執行局(Bureau of Ocean Energy Management, Regulation,and Enforcement:BOE)(同局は6月17日即日施行で従来の「鉱物資源管理局(Minerals Management Service)」の責任者である内務省長官ケン・サラザール(Ken Salazar)氏は、6月16日のBP社との協議の場には出席していない(筆者にはその辺の背景までは推測できない)。これらの対応のアンバランスさはオバマ政権の 「エネルギー政策の脆弱性のあらわれ(energy vulnerability )」 といえるかもしれない。 5.連邦環境保護庁の対応  連邦環境保護庁(U.S.Environmental Protection Agency:EPA)は 「メキシコ湾原油流失に対するEPA対応」サイト を立ち上げている。同サイトでは、まず「BP社による分散化剤(dispesants)の安全性、環境面から見た解説」に重点が置かれている。  ここでは6月14...

米国史上最大規模の原油流出事故を巡る連邦政府、関係州政府や連邦規制・監督機関等の対応(第1回-1)

      4月17日付けの本ブログ で、3月30日にフランスのパリ控訴院(Cour d’appel de Paris)は1999年12月12日に発生した老朽タンカー「エリカ号(Erika)」の沈没とそれに伴うフランス史上最悪というブルターニュ海岸の重油汚染問題につき、2008年1月16日に出された第一審のパリ大審裁判所(Tribunal de grande instance)刑事法廷の判決を支持し、エリカの依頼主である「トタル(Total.S.A.)および航行性・安全性認定につき十分な検査義務懈怠につきイタリア国際船級認定協会会員会社リナ(RINA)に各37万5,000ユーロ(約4,613万円)の過失・注意義務違反による「罰金刑」を言い渡した旨の情報を紹介した。  皮肉にも、その約1か月半後に米国いや世界史上最大の原油流失事故が発生した。  米国ルイジアナ州沖のメキシコ湾(Gulf Coast)で国際石油資本である 英国BP社(旧社名: British Petrolerum ) が操業する(掘削作業自体は トランスオーシャン(Transocean) が受託)石油掘削基地「ディープウォーター・ホライズン(Deepwater Horizon)」 の半潜水型海洋掘削装置(rig) (筆者注1) で4月20日夜に大爆発が発生、作業員126名中11人が行方不明、17名が負傷したと報じられた。 (筆者注2)  正確な原油流出量が把握できないまま、4月30日までにメキシコ湾に隣接する4州(ルイジアナ、ミシシッピー、アラバマ、フロリダ)が非常事態宣言を公布している。なお、BPは当初1日あたり流失量が1,000バレル(16万リットル)と公表したが、4月28日 国土安全保障省合衆国沿岸警備隊(USCG) は1日5,000バレル(80万リットル)と公式に公表した。しかし、6月13日現在の フロリダ州環境保護省 によると1日当り12,000~40,000バレル(192万リットル~640万リットル)とされ、その後6月17日時点では連邦政府の公表(6月15日)とおり35,000~60,000バレル(560万リットル~960万キロリットル)に修正されている。  今回のブログは関係州、連邦政府機関である連邦環境保護庁、エネルギー省、司法省、環境保護団体さらに「1990年油濁法につき沖合原...

偽のスパム架電による正当な金融機関の確認電話を阻止する電話利用型DOS攻撃の最新動向

    Last Updated:February 25,021   筆者は手元に届くFBIからの情報で、 2010年5 月11日リリース で変わったサイバー犯罪(ホワイトカラー犯罪にも該当)の情報を読んでいた。  わが国でこのような犯罪は考えられるのか良く分からない点もあり、そのままにしていたが約1ヶ月半後の6月21日にも FBIサイト で再度取り上げられていた。  IT詐欺の多様化はとどまることを知らないのであり、犯罪手口を提供するというマイナス面は承知しつつもあえて正確な情報提供し、あわせて捜査関係機関の認識をあらたにしたいとの目的からまとめた。  なお、FBIが述べている通り、このような犯罪行為が行われる背景にはまさにSNSの安易な利用と個人情報(とりわけ口座情報等)の提供があることは間違いない。また、わが国では自動ダイアリング・プログラムによるマーケティング活動といった迷惑電話の規制法制がないこともあり (筆者注1) 、一方、振り込め詐欺もそうであるが「電話番号の非開示」も重要な安全対策の対象であり、またこれらを扱う事業者の認識も変えなくてはならない時代になったといえる。 1.犯罪の手口  この手口は電話型DOS攻撃(telephony denial-of-service:TDOS)として知られており、この数週間FBIと協同調査を行った電話会社によると、これらのDOS攻撃の急増が見られた。  加害者は、自動ダイアリング・プログラムと複数の口座を対象として、被害者に向け数千回の電話により固定電話や携帯電話の利用を遮断、通話不可とする  被害者が電話口に出ると、通話の中断(dead air:無言電話 )あったり無害な録音メッセージ(innocuous recorded message)や広告さらにはテレフォン・セックス・メニュー等多様である。このスパム電話の呼出し時間は通常短いが非常に頻繁であり、被害者はこの妨害電話に対処するため電話番号の変更を行わざるを得なかった。  FBIは、この違法な呼出しが牽制的な機能を持つと判断した。すなわち、TDOSを行っている間、加害者は銀行とのオンライン取引や他の取引口座につき同口座から資金を引き出すためアクセスしているのである。  加害者は何らかの方法で犠牲者の金融取引情報を入手すると、次にEメールアドレス、電話番号...

米国疾病対策センターの職場等での完全禁煙法実施州の最新情報発表と副流煙に関するIOM等報告書

    Last Updated:February 25,2021    2009年12月30日、米国疾病対策センター(CDC)はノース・カロライナ州が南部の州で初めてとなる2010年1月2日からレストランと酒場(bar)における完全喫煙禁止法を施行する旨 発表 した。  ノース・カロライナ州の場合、個人的な職場での喫煙を禁止していないためCDCの「禁煙やタバコの使用のコントロールに関する州レベルでの最新データおよび過去のデータを含むデータベース(State Tobacco Activities Tracking and Evaluating(STATE)System)」 (筆者注1) の定義に該当する22州(ワシントンD.C.を含む)とは異なるものの前向きの取組みを評価している。  今回は、わが国でもやっと最近その健康被害問題が強く叫ばれてきた「副流煙(secondhand smoke)」対策の米国の最新動向を紹介する。  本文で述べるとおり、米国の保健に関する研究機関の健康リスク問題の取り上げ方はかなりセンセーショナルであり、時として医療専門家から非科学的であると反発を招くことが多いが (筆者注2) 、この副流煙問題は間違いなく二次喫煙者への重大な健康被害を招く問題であり、迅速かつ的確な規制を行うべき重要課題であることは間違いない。  なお、わが国の職場における受動喫煙防止対策については、厚生労働省は2009年7月より有識者による「職場における受動喫煙防止対策に関する検討会」(座長:相澤 好治 北里大学医学部長)を8回にわたって開催し、その結果を 報告書 としてまとめ2010年5月26日に公表した。     1.副流煙の健康リスク  副流煙は米国では毎年46,000人の心臓発作死(heart attacks)や3,400人の肺癌死(lung cancer deaths)を引き起こす原因とされているが、さらに米国では1億2,600万人の非喫煙者がその危険にさらされている。  2006年、公衆衛生総監(Surgeon General)  (筆者注3) は非喫煙者が被るこれら副流煙リスクから考えて、すべての室内での禁煙の徹底が必要であるとの 結論  (筆者注4) づけている。すなわち、非喫煙者と喫煙者の完全切り離し(分煙)や空気清浄やビル換...