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連邦議会独立補佐機関GAO(連邦議会行政監査局)による行政Watchdogの役割と機能

  

Last Updated: Febuary 25,2022

 本ブログでも過去に取り上げている米国連邦議会の独立補佐機関であるGAOについて、わが国ではWikipediaや一般medeia を含め正確に解説しているブログ等がない。(筆者注1)

 わが国の立法府のトップの交代劇の良し悪しは別として、議会(=国民)による行政プログラム・チェック機能は一体どうなっているのであろうか。果たして昨今の中央官庁や外郭団体の無責任ぶりも見るにつけ、米国と同様の「議会の委員会や独立機関による行政watchdog」の導入等による抜本的な改革なくして、わが国の憲法の理念に基づく本格的な議会と行政のチェック・アンド・バランスによる改革は実現されないであろう。単なる総選挙で主権者たる国民の真意を問うといった方式の改革論議の有効性自体も限界が見えている。

 この点に関し、米国では議員の個人的政策スタッフの身分制度改革等についてわが国とかなり異なる点が多いが、特に議員の活動を支える委員会スタッフやGAOやCBO(Congressional Budget Office:連邦議会予算局)やCRS(Congressional Research Service:連邦議会調査局)という議会の独立補佐機関の機能強化が重要であることはいうまでもなかろう。

 ところで“GAO”の訳語は一体何とすればよいのであろうか(筆者注2)。訳語の適否だけでなく、GAO本来の機能、権限や活動の実態についてより正確に紹介するのが今回のブログの目的である。
 なお、連邦政府に対する議会の委員会や委員会スタッフのかかえる課題については、筆者が個人的に親しい民主党のパトリック・リーヒー(Patrick Leahy)上院議員(上院司法委員会委員長)等に直接意見を聞く機会を持ちたいと考えている。

1.連邦会計検査院から連邦議会行政監査局への名称変更の背景と意義
 GAOはもともと1921年予算会計法(Budget and Accounting act of 1921)に基づき、連邦議会の要請を受けて行政部門から独立し連邦各省庁の施策や予算の執行状況を監査・調査する連邦議会の下部機関として設置された。各省庁の内部監査については1978年監察総監法「Inspector General Act of 1978」に基づき個々に設置されている監査総監(Inspector General)がおり、GAOの定める監査基準(Yellow book)に基づき年2回各省庁の長に報告することになっている。
 2004年7月に連邦議会は、GAOの人材活用の柔軟性を確保するため「2004年GAO人的資本改革法(GAO Human Capital Reform Act of 2004)」を制定し、その一環として名称変更を行っている。

2.GAOの人事・任命と基本的任務
 1921年法に基づき連邦議会行政監査局長(Controller General)や副局長は大統領が上院の助言と承認に基づき任命し、任期は15年である。2008年現在の局長は1998年11月に就任した7代目であるDavid Waker氏(2022年の現局長は2018年3月13日就任したGene L.Doraro氏である)。

Gene L.Doraro氏

 Waker局長は、議会との関係強化すなわち、①連邦政府の行政プログラムおよびその運用についての国民への説明責任(accountability)、②完全性(integrity)、③高信頼性(reliability)の3本の中核価値に基づき各種の改革を進めてきている。
 具体的内容としては、会計・財務監査(financial audits)、行政プログラムの査定(program review)・報告・証言(testimonies)、勧告(recommendations)、調査(investigations)、法的な決定・裁定(legal decisions)、行政政策の分析(Policy analyses)である。
 連邦議会の非党派的、非政治的補佐機関はGAOのほかに議会調査局(CRS)、議会予算局(CBO)がある。GAOの予算規模が約4.8億ドル、要員数が約3,300人であるのに対し、CRSは約8,100万ドル・694人、CBOは約3,600万ドル・約230人であり、規模の差は大きい。その共通性はスタッフにおいて高度に専門性が高く(筆者注3)、かつ議会スタッフとの間も自立性が高いといわれている。

3.GAOの2000年予算度組織改組
 Waker局長は、就任後2000年予算年度に従来の5部編成から3部門(総監査部門(General Counsel)、主要運用部門(Chief Operating)、主要管理部門(Chief Administrative)に改組した。特に主要運用部門は次の13チーム編成に改組した。
①教育・職場・所得保障、
②金融市場および地域向け投資
③健康管理
④国土安全および司法
⑤自然資源および環境
⑥物的インフラ
⑦買収および資金調達管理(Acquisition & sourcing Management)
⑧防衛能力および管理
⑨国際問題および国際取引
⑩応用調査およびその方法(Applied Research & Methods)
⑪財務管理および確実性、電子的監査証拠(Forebsic Audits)/特別調査
⑫情報技術(Information Technology)
⑬戦略的問題(Strategic Issues)

 以上見ても分かるとおり、その守備範囲は極めて広い。さらに最近時にGAOが行った連邦議会向け報告や証言の主要テーマをみてもさらにその範囲が広がる。
①基地の再編および閉鎖
②大規模災害への準備、対応および復興
③国土安全保障
④移民
⑤インフルエンザ
⑥イラク:戦争と復興
⑦軍人および退役軍人の健康管理と傷病手当
⑧テロリズム
⑨輸送問題と安全性
⑩連邦レベルの選挙

4.議会補佐機関としての課題
 筆者は米国政治の専門家ではないが、ここで述べたテーマは筆者が日頃GAOレポート等において読む個別テーマと重なる。確かにGAOレポートは個別行政機関からの直接聴聞や調査に基づくものが主たる内容を構成しており、民間シンクタンクのものと取組みのスタンスが異なる点も多い。
 最近時に読んだもので、重要な指摘と思えたものを最後にあげておく。
2007年8月GAO-07-1053 連邦議会向け報告「証券取引委員会(SEC)―よりリスクベースかつ透明性を高めたOCIE(Office of Compliance Inspections and Examinations)部検査ホットラインのありかたについて組織改編に向けた課題」
 OCIEはSECの法令遵守検査部門である。OCIEはワシントンD.C.ならびに全米11か所の地方事務所を有しており、自主規制機関、ブローカー兼ディーラー、証券代行、投資会社および投資顧問業等の証券登録者(registrant)の検査を行っている。GAOはOCIEの検査結果および証券登録者の意見等を集約した結果、受検査者向け苦情ホットラインについて、その独立性を確保するため現行のOCIEの一部署からオンブズマン機能局(筆者注4)またはOCIE外の外部機関に移転する等の勧告を行っている。これを受けてSECは総論賛成で本勧告の目的に沿った検討を行う旨回答している。
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(筆者注1)自動翻訳ソフトであろうが次のような笑ってしまう訳例もある。「GAO米国連邦会計検査員(General Accounting Office)は、連邦政府のプログラムに関する会計的請求の処理、議会の立方・監督機能の補助、叉、生産性向上に関する勧告等の機能を有する機関です」。
 またNTTデータが使用している「政府説明責任局」の訳語も「アルク」の訳語(その源は米国日本大使館サイトの訳語であろう)を無批判に引用しており、その機能や権限についての正確な訳語とはいえまい。NTTデータが「電子政府政策におけるGAOの役割」で説明している内容を理解したうえであれば正確で分かりやすいといえようが、2004年6月以前の会計検査院としての機能(financial audits)をも引き継いでおり、より正確な訳語としては「連邦政府施策の結果・説明責任を主たる任務とする議会行政監査局」といえよう。
また、「マルチメデイア・インターネット辞典」ではGAOが発表する主要な議会への報告について、2002年7月から2007年8月の間の情報を細かに紹介しているが、GAOについては「米国政府監査室(General Accounting Office)」という訳語で「政府関連調査レポートなどをフォローして、報告する政府機関の名称。毎日、膨大な調査報告書をPDFで公開している」と解説するのみである。同じGAOでも本文で述べたとおり原語は2004年7月に“General Accountability Office”に変わっている点も説明していない。

(筆者注2)GAOの訳語自体も「連邦会計検査院」とするものが圧倒的に多い。GAOについて、国立国会図書館レファレンス平成17年6月号で渡瀬義男氏が「GAO(会計検査院)の80年」と題して変革の歩みを詳細に解説されている。 また、日本銀行の「金融研究」2006年8月号「米国の連邦政府における内部統制について」の中でも森毅氏がGAOを「会計検査院」と訳されている。わが国の「会計検査院法(昭和22年法律第73号)」に基づく「会計検査院」の委員の身分や独立性および国会との関係との比較からみても、「会計検査院」という訳語は疑問に思う。また、GAOの2004年7月名称変更以後における活動内容および他の補佐機関との整合性から見ても、わが国で用いる訳語としては、筆者が推す「連邦議会行政監査局」という訳語の方が「政府説明責任局」よりは分かりやすいと思うがいかがであろうか。“Accountablity”は確かに説明責任、財政責任であるがGAOの任務は国民(=連邦議会)に対する説明責任(財政民主主義)が中心的任務なのである。
 なお、2008年11月14日付の朝日新聞ワシントン支局の記事「危険病原体、警備に不備」と題する囲み記事で出ている。この調査報告書は2008年9月に公表されたものであるが、原文は
“BIOSAFETY LABORATORIES :Perimeter Security Assessment of the Nation’s Five BSL-4 Laboratories ”である。筆者が注目したのは記者がGAOを「米議会の行政監査院」と訳している点である。米国ではごく常識的な情報に基づいて書いたのであろう。既存の不正確な訳語に頼るわが国のメディアの悪弊はやめて欲しい。

(筆者注3)GAOだけでなくCRSやCBOの採用サイトは給与、福利厚生や教育面など処遇について極めて詳細である。CRSの例でみても採用専用HP がある。

(筆者注4)米国連邦機関内のオンブズマン機能の例としては、筆者が知る限り連邦預金保険公社(FDIC)のオンブズマンがある。機関内のオンブズマンの独立性について関心があり、調べようとしていたところである。

〔参照URL〕
http://www.gao.gov/

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